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みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の時々VTuber彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、宇宙にある大量の“行方不明”の物質を、X線と電波の2つの目でそれぞれ観測したというお話だよ。これは「消えたバリオン問題 (Missing baryon problem)」と呼ばれて、見えるはずの普通の物質が3分の1も見えないという、宇宙物理学の大問題なんだよね!
今回解説する研究は、方法も研究チームも全く独立しているんだけど、結論が完全一致とは言えずとも結構被っているのでまとめて紹介したよ。また、文字通り異なる視点で同じような結論が出たということは、それぞれの研究結果がたぶん正しいだろう、と言い換えることもできるんだよね。
CONTENTS
私たちの宇宙は何でできているのか?これには古今東西様々な考え方があったけど、現代宇宙論ではその“原材料表記”は「暗黒エネルギー68% / 暗黒物質27% / 普通の物質5%」と書かれているはずだよ。なんと、正体が解明されている、水素やヘリウムなどの普通の物質は、全体の20分の1しか含まれていないと考えられているよ!
全体の27%を占める暗黒物質は、自分から光ることも光を反射することもなく、重力でのみその存在を知ることができる正体不明の謎の物質。そして全体の68%を占める暗黒エネルギーは、どうやら宇宙を膨張させているらしい、ということ以外の情報がほとんど分かってない、そもそもエネルギーなのかすら不明な存在だよ!

普通の物質は水素やヘリウムなんだから、どこにあるのか全部知っているのかと思いきや、実はそうでもないんだよね。33%の物質は中々観測されていないことから、これは「消えたバリオン問題」と呼ばれているよ。 (画像引用元番号②)
まぁそんな感じで、宇宙には正体がよくわかってないものが全体の95%を占めているとして、じゃあ残り5%を占める普通の物質について完璧に分かっているのかというと、実はそうでもないんだよね。なんでかというと、これは私たちが普通の物質をどのように見ているのか、という点と関係してくるよ。
宇宙にある普通の物質のほとんどは水素でできており、太陽のような恒星もやはり水素の大きな塊であり、核融合反応で輝いているよ。そして恒星が集まれば星団や銀河が作られるよね。一方で地球のような惑星を作る重い元素は、全体から見ればごくわずかな割合しかないので、宇宙スケールの議論では無視して構わなくなるよ。
そういうわけなので、もし (ほぼ) 全ての普通の物質が恒星であるならば、その輝きを観測することで全て見つけることができるわけだね。ところが実際には、恒星として観測できる普通の物質は全体の約7%しかないと言われているよ!つまり9割以上の物質は、恒星として輝いていないことになるんだよね。
じゃあ残りはどこにあるのかと言えば、恒星のような塊になっていないガスと言うことになるんだよね。その詳しい内訳は図を見てほしいんだけど、特に重要なのは、普通の物質全体の約76%という膨大な量を占めていると推定されている「銀河間物質 (IGM; Intergalactic Medium)」になってくるよ。
銀河間物質は文字通り銀河の間の空間を“霧”のように満たしている物質だけど、実際は一辺1mの立方体に1個の原子しかないくらいメチャクチャ薄いガスになるよ。“霧”と言ってもこの薄さのために見つけるのがメチャクチャ大変だったんだけど、どうにか工夫することで銀河間物質が見えるようになってきたんだよね。
今のところ、温度が10万℃未満の「冷たい銀河間物質」が約28%、10万℃から200万℃の「温かい銀河間物質」が約15%であることが分かっているんだよね。これらはそれぞれ特定の波長の光を吸収する性質を利用して見つけることができるよ。 (銀河間物質の温度の意味[注1]や見つけ方の詳細[注2]は注釈で)
しかし、残り約33%を占める200万℃以上の「熱い銀河間物質」、これが中々見つからなかったんだよね。これより低い温度の銀河間物質と違い、熱い銀河間物質は、特定の波長の光を吸収するという方法では見つけることができないんだよね。
そこにあるはずなのに見えない普通の物質と言うことで、この問題は「消えたバリオン問題 (Missing baryon problem)」[注3]と呼ばれているんだよね。これでもかつては銀河間物質全部が見つかってなかったので、その頃と比べれば全然マシなんだけど、それでも残り3分の1を詰め切れずにいた、という感じだったんだよね。
今回紹介する研究の1つ目は、ライデン大学のKonstantinos Migkas氏らの研究チームによるものだよ。Migkas氏らの研究では、消えたバリオン候補なものの、観測が難しかった熱い銀河間物質からのX線放射を直接捉えるというものだよ!なぜ難しいのかというと、X線放射自体が極めて弱く、宇宙の他のX線源に紛れるからなんだよね。
熱い銀河間物質はX線を放射しているんだけど、ものすごく希薄なので放射量がとても小さいんだよね。これだと活動が活発な恒星やブラックホールを抱える銀河など、強いX線放射源に紛れてしまうんだよね。ホタルの光を見ようとしているのに、近くに車のヘッドライトがあったら観察ができないのと同じような感じよ。
そこでMigkas氏らの研究チームは、ESA (欧州宇宙機関) の「XMM-Newton」と、JAXA (宇宙航空研究開発機構) の「すざく」という2つのX線望遠鏡を使った研究を行ったよ。対象となったのは、地球から約6億5000万光年離れた位置にあり、約8000個の銀河からなる「シャプレー超銀河団」の一部になるよ。
この場所には4つの銀河団を結び、長さ約2300万光年にも及ぶ「銀河フィラメント」というガスの“架け橋”があるよ。これは銀河系 (天の川銀河) の10倍もの重さがある、温度1000万℃以上の熱い銀河間物質であると疑われていたものの、これまではきちんとX線放射をしている様子が観測されたことが無かったんだよね。
XMM-Newtonとすざくの観測結果をそれぞれ比較することで、すざくのデータからは銀河フィラメントからの直接のX線放射を見つけることができたよ!またXMM-Newtonのデータは、銀河フィラメントとは無関係のX線放射天体を除去し、純粋に銀河フィラメントのみのX線放射だけに絞り込むことに貢献したんだよね。
この手法により、余計なノイズを除去し、銀河フィラメントからのX線放射、つまりは消えたバリオンである熱い銀河間物質からのX線放射を、そのエネルギーの強さ別に詳しく測定することができたんだよね!銀河フィラメントからのX線放射をこれほどの精度で測定できたのは世界で初めてだよ!
そして、X線放射から明らかにされた銀河フィラメントの姿は、これまでに理論でしか予測されていなかった姿とよく一致したんだよね。これにより、消えたバリオン問題の大元となっている理論には大きな間違いが無い事、および消えたバリオンである熱い銀河間物質をX線で測定することに成功した、と言えるんだよね!
ただし先ほどの研究は、あくまで消えたバリオンのごく一部だけを測定したに過ぎないよね。消えたバリオン問題が本当に存在する謎ならば、銀河間物質が見える物質全体の約76%を占めていることをきちんと証明しないといけないわけだけど、先ほどの研究の通り、これまでは直接的に証明するのが難しかったんだよね。
ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのLiam Connor氏などの研究チームはこの課題に挑戦したよ。カギとなるのは「高速電波バースト」という現象だよ。これは1秒未満という一瞬だけ強い電波が放出される現象で、発生原理はよく分かってないんだけど、大半は数十億光年という遠い宇宙で発生していると考えられているよ。
電波が数十億光年という距離を通過するために、1m3に原子1個という薄さとはいえ、銀河間物質という“霧”の影響を受けるようになるんだよね。それはまるで、水滴の影響で光が波長ごとに分かれて虹が発生するように、電波を波長ごとに分割する作用を持つんだよね。
厳密には、電波を虹のように見ることはできないので、実際の観測では波長ごとの到達時間の差で観ているんだけど、原理は一緒だよ。そしてこの波長ごとの分割度合いは、銀河間物質の密度によって異なるため、たくさんの高速電波バーストを測定すれば、宇宙に広がる銀河間物質の密度、そして密度から量を計算できるようになるね。
Connor氏らは、約1174万光年から約91億光年まで、様々な距離から到達した高速電波バースト69個を分析したよ。高速電波バーストの発生距離が分かっているのは100個程度しかないので、分析で使えるものをほとんど使ったんだよね。過去にも似たような研究があったけど、その時には8個での計測だったので、とても精度が上がったよ!
その結果、宇宙に存在する普通の物質は全体の5.1% (4.5-5.7%) であると計算したよ。また、普通の物質のうち、銀河間物質が占めるのは76% (65-86%) であるとも計算したんだよね。これは他の方法で検証された値ときちんと一致しており、かつ銀河間物質の正確な推計値も出しているんだよね。
Connor氏らの方法では、銀河間物質の内訳までは分からないけど、これ以前の研究で示唆されていた熱い銀河間物質を含んでいるのは確実なんだよね。今回の測定結果は、消えたバリオンを含めた銀河間物質全体のの正確な量を測定できたという点で重要だよ。
X線と電波、2つの異なる方法で熱い銀河間物質の存在が見えたということで、消えたバリオン問題はほぼ解決したと言えるよ。もちろん、まだ値が正確ではないとか、X線で見えた消えたバリオンは全体の一部でしかないという問題はあるけど、それでも全く謎だった状況と比べたら大きな進歩と言えるよ。
もちろん、今回の研究結果を改善することで、今回示された穴についても解決の道筋があるよ。例えばMigkas氏らによるX線での研究では、X線望遠鏡の特性や弱点を把握することに繋がったので[注4]、今後のX線観測による銀河間物質の研究にも生かされるものがあるよ。
また、今回はシャプレー超銀河団の一部を結ぶ銀河フィラメントを観察したけど、ESAの新しい宇宙望遠鏡「ユークリッド」によって、まだよく見えていないものを含めた銀河フィラメントの正確な“地図”が作られる予定なんだよね。これは熱い銀河間物質の量をさらに正確に把握することに繋がるはずだよ。
Connor氏らによる電波の研究も、更なる改善の余地があるよ。現在アメリカ・ネバダ州に建設中の電波望遠鏡「DSA-2000」は、高速電波バーストを1年に1万回ほど計測できると見込まれているんだよね!これだけのデータがあれば、電波が銀河間物質の“霧”の影響を受ける度合いをさらに精密に測定できることになるよ。
そしてこれらのデータが増えることで、普通の物質の5倍もの量がある暗黒物質についても、何か手掛かりが得られるかもしれないよ。今回の研究でも相対的な暗黒物質の量が分かったわけだし、あるいは暗黒物質の正体について、電波観測によって何か手掛かりがつかめるかもしれないからね[注5]。
私たちはこの宇宙について、よく知る普通の物質についてすらよく知らなかったんだけど、今後はますます謎を狭めていけるんだよね。そしてそれは、未だに正体すらよく分かっていない暗黒物質や暗黒エネルギーについても、一定のヒントを与えることになるかもしれないよ。
[注1] 銀河間物質の温度の意味
銀河間物質の温度は、直観的な温度とは意味が異なります。また銀河間物質の近くには、恒星のように直観的に分かる熱源はありません。しかし、遠方の宇宙でも届くクェーサーやコンパクト星からの相対論的ジェット、超新星爆発や銀河同士の衝突のような激しい衝撃波が銀河間物質に当たれば、そのエネルギーが銀河間物質を構成する原子の持つエネルギーに変換されます。これを分かりやすく言い換えたものが温度という表現になります。 本文に戻る
[注2] 銀河間物質の見つけ方
冷たい銀河間物質と暖かい銀河間物質の場合、特定の波長がどれくらい吸収されるのか、喩えるなら“影”によって測定できます。冷たい銀河間物質の場合、特定の波長の紫外線 (ライマンα線として知られる) が吸収される度合いで計測できます。暖かい銀河間物質の場合、特定の波長の軟X線が吸収される度合いで計測できます。 本文に戻る
[注3] 消えたバリオン問題
クォーク3個で構成される複合粒子のことを「バリオン」と呼びます。原子核を構成する陽子と中性子はバリオンの代表格であるため、この謎は消えたバリオン問題と呼称されます。 本文に戻る
[注4] X線望遠鏡の特性や弱点
これ以前の研究として、ドイツとロシアのX線望遠鏡「eROSITA」の観測データを分析した研究もありますが、この研究では熱い銀河間物質の量が、理論と比べて過大に見積もられるという問題がありました。今回のすざくとXMM-Newtonの観測データの分析により、銀河周辺にある熱いガスがノイズとして混入していることが明らかにされました。 本文に戻る
[注5] 電波観測による暗黒物質の正体の手がかり
暗黒物質は電磁相互作用をしないことから“暗黒” (見ることができない) と呼ばれていますが、暗黒物質に関する理論の中には、かなり弱いながらも電磁相互作用がゼロではない指摘されています。電磁相互作用をするかしないか次第で、電波観測によって暗黒物質の量や正体について、部分的であっても理解が得られる可能性があります。 本文に戻る
<原著論文>
<参考文献>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)