2024年ノーベル化学賞について分かりやすく解説!『計算によるタンパク質設計』と『タンパク質の構造予測』

2024.10.10

2024年ノーベル化学賞サムネイル

(Credit: The Royal Swedish Academy of Sciences / Illustration: Johan Jarnestad / 画像引用元)

 

みなさんこんにちは!サイエンス妖精の彩恵りりだよ!

今回はみんな大注目!2024年ノーベル化学賞の解説だよ!

まず、今回の受賞者と授賞理由は以下の通りだよ!

 


2023年10月9日、スウェーデン王立科学アカデミーは、本日、2024年のノーベル化学賞を以下の者に授与する事を決定しました。

 

半分を、

デイヴィッド・ベイカー (David Baker)
ワシントン大学、ワシントン州シアトル、アメリカ合衆国

「計算によるタンパク質設計」に対して。

 

残り半分を共同で、

デミス・ハサビス (Demis Hassabis)
Google DeepMind社、ロンドン、イギリス

ジョン・M・ジャンパー (John M. Jumper) 
Google DeepMind社、ロンドン、イギリス

「タンパク質の構造予測」に対して。

 

【彼らはタンパク質の素晴らしい構造の暗号を解読した】
2024年のノーベル化学賞は、生命の巧妙な化学的ツールであるタンパク質がテーマである。デイヴィッド・ベイカーは、全く新しい種類のタンパク質を作るという、ほとんど不可能な偉業に成功した。デミス・ハサビスとジョン・ジャンパーは、タンパク質の複雑な構造を予測するという、50年来の課題を解決するAIモデルを開発した。これらの発見には大きな可能性が秘められている。

 

賞金額: 1100万スウェーデンクローナ、半分はデイヴィッド・ベイカー、残り半分はデミス・ハサビスとジョン・M・ジャンパーとで分配。

 


David Baker

(Illustration: Niklas Elmehed / Credit: Nobel Prize Outreach / 画像引用元)

David Baker (デイヴィッド・ベイカー)
アメリカ合衆国、ワシントン州、シアトル出身
1962年生まれ (61-62歳)
ワシントン大学 (アメリカ合衆国) およびハワード・ヒューズ医学研究所 (アメリカ合衆国) 所属
賞への貢献度: 1/2

 

Demis Hassabis

(Illustration: Niklas Elmehed / Credit: Nobel Prize Outreach / 画像引用元)

Sir Demis Hassabis (サー・デミス・ハサビス)
グレートブリテン及び北アイルランド連合王国、ロンドン出身
1976年7月27日生まれ (48歳)
Google DeepMind社 (グレートブリテン及び北アイルランド連合王国) 所属
賞への貢献度: 1/4

 

John M. Jumper

(Illustration: Niklas Elmehed / Credit: Nobel Prize Outreach / 画像引用元)

John Michael Jumper (ジョン・マイケル・ジャンパー)
アメリカ合衆国、アーカンソー州、リトルロック出身
1985年生まれ (38-39歳)
Google DeepMind社 (グレートブリテン及び北アイルランド連合王国) 所属
賞への貢献度: 1/4

 


 

「タンパク質」の立体構造は数十年続く天然のパズル

2024年ノーベル化学賞図1

タンパク質は20種類ほどのアミノ酸が繋がり、立体構造を作ることで機能しているよ。この立体構造をどのようにして知ればいいのか、というのが長年の課題だったんだよね。 (Credit: The Royal Swedish Academy of Sciences / Illustration: Johan Jarnestad / 日本語訳は筆者 (彩恵りり) による / 画像引用元)

 

「タンパク質」は、全ての生物の基本となる物質だよ。タンパク質は身体を構成し、化学反応を手助けする触媒「酵素こうそ」であり、物質を輸送や貯蔵し、遺伝子の働きを調節し、免疫機能での直接の武器となり……など、どれをとっても生存に必須なんだよね。「生命とは蛋白体の存在様式である」[注1]とはよく言ったものだね。

 

では、このタンパク質はどのようにできているのかというと、ヒトの場合は20種類、その他の生物を含めても22種類のアミノ酸の組み合わせでできているんだよね![注2]そんなタンパク質は、知られているだけで2億種類以上もあるんだけど、タンパク質は単にアミノ酸の組み合わせだけでその種類が成立しているわけじゃないんだよね。

 

タンパク質の図を見ると、なんだか紐が絡まったような複雑な構造になっているのを見ると思うんだけど、あれはその形自体に意味があるんだよ!タンパク質は単にアミノ酸が繋がっているわけではなく、お互いがどのような立体的な構造 (3次元構造) をしているのか?というのも機能においてとても重要なんだよね。

 

この、タンパク質の立体構造を知るというのが、タンパク質を研究する上での長年の課題だったよ。タンパク質が生物にとって必須なのは19世紀には理解されていたものの、立体構造を具体的に知ることができたのは結構最近で、1958年に「ミオグロビン」の構造を求めたジョン・コウデリー・ケンドリュー氏に遡るんだよね。

 

1960年にはマックス・フェルディナント・ペルーツ氏により「ヘモグロビン」の構造解析もされたことで、タンパク質の構造解析の手法が確立し、ケンドリュー氏とペルーツ氏は1962年にノーベル化学賞が授与されたよ。当時は、構造解析でノーベル賞が贈られるくらいには難題だった、と言えるわけだね。

 

構造を解析するためにはタンパク質の結晶を合成する必要があるんだけど、高分子で生モノであるタンパク質を結晶化させるのはとんでもなく難しい、問題があるんだよね。結晶化せずに解析する方法はかなり最近になるまで現れず、しかも高価な機器を使わないといけなかったことも、タンパク質の構造解析が課題となる理由なんだよね。

 

では、構造解析ではなく構造を予測することはできないのか?という考えももちろんあって、最初に重大なヒントを与えたのはクリスチャン・ベーマー・アンフィンセン・ジュニア氏だよ。アンフィンセン氏は1961年、タンパク質の構造はアミノ酸の配列 (ポリペプチド鎖) によって決定する、という重要な発見をしたよ。

 

アンフィンセン氏が1972年にノーベル化学賞を授与されるきっかけとなったこの発見は、タンパク質の立体構造がアミノ酸の配列で決まるならば、逆にアミノ酸の配列を読み取れば、タンパク質の折り畳み方向などの立体構造が予測できるであろう、という機運が高まったんだよね。

 

ただ、2009年にノーベル化学賞を受賞したヴェンカトラマン・ラマクリシュナン氏が、この問題を「生物学における50年来の大きな課題」と表現したように、これがメチャクチャ難しいんだよね。それは、2億種類以上あるタンパク質の内、立体構造のデータベースには20万種類しか登録されていないことからも分かるよ。

 

タンパク質はアミノ酸というブロックを、どのように折りたたむのかという立体パズルと言えるものだけど、このパズルは自由度が高すぎることが問題で、予測される構造は天文学的な数値になることが問題になるよ。1969年にサイラス・レヴィンタール氏は、まさにこの点がタンパク質の構造予測で問題になることを指摘したよ。

 

例えば100個のアミノ酸でできているタンパク質の場合、理論的に可能な立体構造の種類数は3100通り、つまり5153載さい7752正せい0732澗かん0113溝こう3103穣じょう6461秭し1297垓がい6562京1272兆7021億0752万2001通りにもなってしまうよ!宇宙の恒星の数よりはるかに多いこれらを全て試すには、いくら時間があっても足らないよね!?

 

ところが、天然のタンパク質は数ミリ秒で立体構造を決定するよ。どうやって?というのが、今日では「レヴィンタールのパラドックス」と呼ばれている指摘なんだよね。タンパク質はどうやって構造を決定しているのか?原理面を解かなければ、力技で正面からタンパク質の立体構造を予測するのは事実上不可能ということになるよ。

 

しかも、例として100個のアミノ酸でできたタンパク質とはい言ったけど、典型的なタンパク質のアミノ酸数は数百個から数千個であり、100個というのはかなり小さなタンパク質の話なんだよね。つまり典型的なタンパク質の立体構造は、ますます正面突破は不可能ということになってしまうよ。

 

2024年ノーベル化学賞図2

タンパク質の立体構造は、アミノ酸の配列である「一次構造」。コアとなる構造の「二次構造」、コアの配列の繰り返しである「三次構造」で成り立つよ。さらに、三次構造のタンパク質の配列で表される「四次構造」もあるよ。 (画像引用元)

 

タンパク質の立体構造については、ライナス・カール・ポーリング氏らによって1951年に最初の基本的な点が予測されたよ。ポーリング氏らは、アミノ酸の配列である「一次構造」から、αヘリックスやβシートなどの「二次構造」が作られ、この二次構造の繰り返しから立体構造である「三次構造」ができる、と予測したんだよね。[注3]

 

1958年から実際にタンパク質の立体構造が知られることでこの予測が正しいことが分かり、1974年にはピーター・チョウ氏とジェラルド・ファスマン氏によって、αヘリックスやβシートといった二次構造から、折り畳みなどの三次構造を確率的に予測するモデルが作られたんだよね。

 

ところが、どうもこのモデルはイマイチ精度が悪かったよ。その理由は、二次構造は一次構造からだけでなく、三次構造の影響も受けて決定されることが徐々に分かってきたんだよね。三次構造を知りたいのに三次構造を知らないと決定できない、となれば精度が悪くなるのも無理はないんだよね。

 

一応この先の研究で、4本のαヘリックスで構成された束は、多くのタンパク質で観られる基本的な構造であると分かるなど、進展はあったんだけど、それでも千差万別のタンパク質の構造を知るには、色んな部分が足りていない状態が続いたんだよね。

 

2024年ノーベル化学賞図3

タンパク質の立体構造のデータベースの登録数。1990年代に入るまで、その数は数百を超えていないことが分かるよね。 (画像引用元)

 

このため、構造が実験的に判明したタンパク質の種類数は、1970年代から1990年代までは数百種類で停滞していたんだよね。それほどまでに、タンパク質の立体構造は実験的に決定することも、計算によって予測することも困難なものなんだよね。ましてや、新たなタンパク質をイチから作ると言うのはかなり大変な作業だったよ。

 

全く新しいタンパク質を作る方法を開発!

こういった背景がある中で、計算によって新たなタンパク質の構造を設計したのは1997年にバシル・ダヒヤット氏とスティーブン・メイヨー氏であると言われているんだよね。2人は「ジンクフィンガー」と呼ばれる、亜鉛イオンを構造に持つタンパク質の構造を、計算科学的に決定したよ。

 

ダヒヤット氏とメイヨー氏が設計した「FSD-1 (フルシーケンスデザイン-1)」というタンパク質は、既に知られていたどの天然のタンパク質とも似ていない構造をしているので、計算によってイチから設計したde novoデ・ノヴォなタンパク質の初めての事例としても知られているよ。

 

ただ、この成果そのものはすごいけれども、ジンクフィンガーという一定の構造を基盤としており、かつ比較的小さなタンパク質しか設計できないという点で、あくまで限定的なものなんだよね。多種多様なタンパク質を設計する意味では、まだまだ手に届かない部分があったよ。

 

2024年ノーベル化学賞図4

計算によって初めて設計された、天然に類似する構造のない人工タンパク質「Top7」の予測された構造 (左) と実際に分析された構造。 (右) 。 (画像引用元)

 

だからこそ、今回の1人目のノーベル化学賞受賞者であるデイヴィッド・ベイカー氏の成果はものすごかったんだよね。2003年にベイカー氏と同僚が設計した「Top7」というタンパク質は、その大きさと構造、なにより計算でイチから設計したという点でとんでもないんだよね。

 

Top7タンパク質は93個のアミノ酸から成り、2個のαヘリックスと5個のβストランドから成るβシートを持つかなり大きなタンパク質だよ。さっき書いたFSD-1は1個のαヘリックスと2個のβシートを基本にしていることを考えれば、ずっと大きいことはすぐにわかるよね?

 

しかも、この構造は事前に計算で予測されただけでなく、Top7を合成する遺伝子を組み込んだ細菌が合成したTop7は、事前の予測とよく一致していた点がすごいんだよね。そして、タンパク質の折り畳み方向や全体の構造は、既に知られているどの天然タンパク質とも似ていない、という点もすごいよ。

 

つまりベイカー氏と同僚は、天然には存在せず、類似品も存在しない人工タンパク質を、計算のみでイチから設計したんだよね!Top7はde novoな人工タンパク質の歴史において、非常に重要な立ち位置にあるんだよね!では、ベイカー氏はどのようにしてTop7を設計したんだろうね?

 

ベイカー氏は1999年に「Rosettaロゼッタ」と呼ばれるプログラムを作ったんだよね。これはタンパク質を構成するアミノ酸やその他の構成要素の (ファンデルワールス力や水素結合のような) 化学結合を予測するもので、純粋に計算だけで (ab initioアブ・イニシオな方法で) タンパク質の構造を予測できるという強みがあるよ。

 

計算方法を工夫することで (モンテカルロ法による最適化) 、正面突破では計算自体がムリだという長年の課題を解決したRosettaだけど、タンパク質構造の予測だけでなく、設計もできるという汎用性も、これまでのタンパク質の構造予想プログラムにはなかった強みになっているんだよね!

 

2003年にTop7を発表した当時、ベイカー氏が作ったプログラムではタンパク質の構造予測や設計のみができたけど、ベイカー氏はそこで止まらず、さらにはタンパク質の機能も計算によって予測することに着手したんだよね!これは構造予測や設計よりもさらに難題な話だよ。

 

2008年にベイカー氏と同僚は、完全にde novoな人工酵素を設計したよ。酵素は化学反応を促進するタンパク質だけど、ベイカー氏らが設計した酵素は天然に類似品が存在しないのに機能するという特徴があるんだよね。これはタンパク質をイチから作るより、さらに数段上の成果だよ!

 

合成された人工酵素は、天然の酵素と比べれば性能は低いものの、それでも化学反応を早める機能を持つことが明らかになっているよ。天然に存在しない酵素を設計できるということは、天然の酵素では決して達成しえない機能を持たせた、望みの酵素をカスタマイズができる可能性を秘めていることになるんだよね!

 

ベイカー氏はde novoな人工酵素の設計をこう例えているよ。「もし飛行機を作りたい場合、鳥を改造することから始めるのではなく、空気力学の基本原理を理解し、その原理に基づいて飛行機を作る」。天然に存在しない酵素をイチから作り出すと言うのは、鳥に頼らず飛行機を作るのに匹敵する成果なんだよね!

 

また、今のところ人工酵素は性能が低いとは言ったけど、その改善策は見えているよ。例えばフランシス・ハミルトン・アーノルド氏は、「指向性進化」と呼ばれる手法を開発して2018年にノーベル化学賞が贈られたけど、これはまさに人工酵素の設計と改善に生かせる成果だからね。

 

ベイカー氏によるタンパク質の設計は、さらにさまざまな応用分野が期待されているよ。例えば特定の物質とのみ結合する「リガンド結合タンパク質」は、体内で生じる分子や薬として送り込んだ物質がどこにどの程度の濃度で存在するのかを調べるのに便利なので、医療分野における応用が期待されているよ。

 

また、タンパク質をまるでスイッチやセンサーのように使う「タンパク質スイッチ」や「タンパク質センサー」、ウイルスほど大きなタンパク質の集合体を作る技術もあり、これは分子マシンやナノマシンなど、非常に小さな設計のロボットに使える可能性を秘めているんだよね。

 

ベイカー氏が編み出した、タンパク質の構造を予測するだけでなく、タンパク質をイチから設計するという技術によって、タンパク質をツールとして自在に使うという、これまで考えついても手が届かなかったことができるようになったんだよね。だからこそのノーベル化学賞だと言えるよ!

 

また、Rosettaはプログラムが公開されたことで、世界中の誰もが検証し、使えるツールとなっている点も大きいよ。これにより、誰でも素晴らしい機能を持つタンパク質を作るチャンスが生まれたのよね。この点も評価ポイントの1つなのかもしれないね。

 

ボードゲームAIからタンパク質構造解析AIを開発!

ところで先述のベイカー氏の成果は、どちらかと言えば新しいタンパク質の設計という点で発展したんだよね。一方で構造予測については、ベイカー氏ももちろん絡んでいるとはいえ、もっと重大な結果を与えた成果があるんだよね。ただ、ちょっと本題に入る前に脱線があるよ。

 

タンパク質の立体構造の予測では、1994年より始まった「CASP (タンパク質構造予測精密評価)」という世界的なタンパク質構造予測の取り組みがあったよ。2年ごとに行われる、実験というかチャレンジに近いこれは、未知のタンパク質の構造を予測し、実際と予測との違いを点数化する試みだよ。

 

CASPには様々なカテゴリがあるけど、最も難しいのは、今まで知られているどのタンパク質とも関連性がなさそうだと予測されるタンパク質の立体構造を予測する分野で、完全に計算で予測することに頼ることからab initioとも呼ばれていたよ。

 

タンパク質の立体構造予測が難関なことは誰もが知る所なので、CASPが開始された当初より、様々な方法でタンパク質の構造を予測する試みがあったよ。現在では著名な手法である遺伝的アルゴリズムやモンテカルロ法が既に登場し、中にはノーベル物理学賞にもなった人工ニューラルネットワークもここに参戦していたんだよね!

 

2024年ノーベル物理学賞について分かりやすく解説!『人工ニューラルネットワークによる機械学習を可能にする基礎的発見と発明』

 

中でも目覚ましかったのは、分子動力学と呼ばれる分野のシミュレーションで、タンパク質がどのように動くのかというのを計算で予測し、その応用としてタンパク質の折り畳み方向を予測していたんだよね。これはこれでスゴい成果なんだけど、問題はこの手法は「力任せ (Brute-force)」であることだよ。

 

要は、正解に辿り着くまで計算を続ければいつかは正解を引き当てる、というのがこの手法なので、シンプルだし確実な答えを出せるんだけど、その代わり時間がかかるんだよね。タンパク質の大きさを考えれば、いつかはこのシミュレーションは計算量の膨大さで頭打ちになる、ということは誰の目にも明らかだったよ。

 

状況が大きく変わったのは、2018年に行われたCASP13だよ。2人目の受賞者であるデミス・ハサビス氏は、自らの会社であるDeepMindディープマインド社が開発したAI (人工知能) 「AlphaFoldアルファフォールド (現在ではAlphaFold1)」を使い、これまでにない精度のタンパク質構造予測を行って話題をかっさらったんだよね!

 

DeepMind社は元々、2010年にハサビス氏によって設立され、2014年にGoogle社によって買収されたよ。専門はAIの開発な訳だけど、ハサビス氏は元々13歳でチェスのマスターレベルの成績を収めるほどの人物であり、DeepMind社が開発したAIも、元々はボードゲーム向けのものだったんだよね。

 

DeepMind社のAIが注目されるきっかけになったのは、2016年に開発された囲碁プログラム「AlphaGoアルファ碁」だよね。科学者の誰もが聖杯と考え、同時に人間のプロを打ち負かすには10年かかるだろうと考えられていた当時において、AlphaGoは李世乭イ・セドル氏に勝ち越したことで大きな話題となったよ。

 

AlphaFold1の開発にはAlphaGoでも用いられてきた、CNN (折り畳みニューラルネットワーク) を用いた深層学習 (ディープラーニング) があるんだよね。これによりこれまでのどのプログラムと比較しても、高い精度でタンパク質の立体構造を予測できるようになったよ。

 

当時のタンパク質予測精度は、どんなに高くても40%未満だったところ、AlphaFold1は60%近い精度を叩き出したんだよね!これは当然ながら世界最高精度であり、ハサビス氏とDeepMind社はボードゲーム業界だけでなく、タンパク質を専門にしている人々の間でも一気に注目を集めることになったよ。

 

ただし、本当の意味でのタンパク質構造予測の成功と言えるには、スコアが90%を超えないといけなかったんだよね。90%という数値は、事実上の構造予測の完全な成功と言えるんだけど、ここまで伸ばすには根本的なAIの設計変更が必要で、ハサビス氏とDeepMind社の開発チームはここで行き詰まっていたんだよね。

 

極めて高精度なタンパク質構造解析AIへと改良!

2024年ノーベル化学賞図5

AlphaFold2の仕組みは大雑把にはこんな感じで、計算速度と予測精度を両立しているよ。 (Credit: The Royal Swedish Academy of Sciences / Illustration: Johan Jarnestad / 日本語訳は筆者 (彩恵りり) による / 画像引用元)

 

しかしここで、3人目の受賞者であるジョン・マイケル・ジャンパー氏が加わったことで状況が変わったよ。ジャンパー氏は元々物理学と数学を専門としていて、宇宙に興味があったんだけど、2008年にスーパーコンピューターによるタンパク質構造予測を見てからタンパク質に興味が移ったよ。

 

2011年より理論物理学の博士課程に進んだジャンパー氏はタンパク質に興味を持ち続け、2017年に博士号を取得したんだけど、その時に「DeepMind社は、極秘裏にタンパク質構造の予測を開始したらしい」という噂話を耳にしたんだよね。

 

そこでジャンパー氏は、自分のアイデアがタンパク質構造予測のAIの改善に使えると、自らを売り込んでDeepMind社のAI開発に参加し、AlphaFold1とは全く別のAI開発に取り組んだんだよね。そして2020年のCASP14で登場した「AlphaFold2」は、その完成物としてまた世界を驚かせたよ。

 

AlphaFold2は、名前こそAlphaFold1の次に来ているけど、実際には全く別物だと言えるほど中身を根本的に変えたんだよね。これはジャンパー氏が作成に参加したのが大きいよ。そしてAlphaFold2は、前人未到の約90%というタンパク質構造予測精度を達成したんだよね!

 

これは、タンパク質の立体構造を誤差1Å以内 (0.1nm以内) に収めたということであり、スコアの計算方法や、実際に実験で測定可能な誤差を考えると、これはもはやAlphaFold2はタンパク質の立体構造をピッタリ言い当てていると言い換えることができるんだよね。

 

ノーベル財団の公式解説資料が「真のブレイクスルー」と表現するAlphaFold2は、Rosettaと同じくプログラムが全世界に公開されており、やはり世界中の研究者が使用や検証を行えているんだよね。Rosettaと同じく、AlphaFold2も分生物学のゲームチェンジャーとなったんだよね。

 

天然に存在する2億以上のタンパク質のうち、構造が決定されているのは20万種類とは言ったけど、RosettaやAlphaFold2は構造の決定による登録数の増加にも貢献しているんだよね。そのスピードも速いため、全ての構造が解明されるのは時間の問題だと考えられているよ。

 

タンパク質の構造解析と新規作成は新しい時代へのツール

2024年ノーベル化学賞図6

ベイカー氏によって作成されたRpsettaによって決定されたタンパク質構造の一例。 (Credit: The Royal Swedish Academy of Sciences / Illustration: Johan Jarnestad / 日本語訳は筆者 (彩恵りり) による / 画像引用元)

2024年ノーベル化学賞図7

ハサビス氏やジャンパー氏によって作成されたAlphaFold2によって決定されたタンパク質構造の一例。  (Credit: The Royal Swedish Academy of Sciences / Illustration: Johan Jarnestad / 日本語訳は筆者 (彩恵りり) による / 画像引用元)

 

ベイカー氏によって作り出されたタンパク質の新設計プログラムや、ハサビス氏やジャンパー氏による高速で正確なタンパク質の立体構造予測AIは、タンパク質を基本的なツールとして扱っている全ての生物にとって重要であり、その応用分野は果てしなく広がっているよ。

 

既に未来を見据えたものとして、例えば不安定な物質を包み込む殻や、特定のタンパク質に結合して機能を阻害する阻害剤が作り出されているよ。これは例えば、安定性に課題のあるmRNAワクチンの安定化や、さらには全く新しいタイプのワクチンとして、COVID-19 (新型コロナウイルス) などの感染症対策に生かされるかもしれないよ!

 

あるいは、天然に存在しているタンパク質であっても、あまりにも巨大であるためにその全体の構造や機能が不明なタンパク質もたくさんあるよ。これらの情報を知る手段ができることで、生物学や医学における応用を考える上で基礎的だけど得難い情報となりうるんだよね。

 

もちろん、今回ノーベル化学賞を受賞した3人がスゴいことをしたのは確かだけど、その背景には無数の科学者が、タンパク質の構造を予測しようとスゴい努力を重ねてきたことがあるんだよね。ノーベル賞がいくつも生まれていることからも、何十年もの努力が今回のノーベル化学賞の背景にあるよ。

 

そして、今回の3人の受賞は、かつて言われたような「生物学における50年来の大きな課題」について、ほぼ解決の糸口が見えてきたとも言えるんだよね。これからのタンパク質の分野は、素晴らしい構造に由来する、全く新しい機能を持つタンパク質をいかに見つけるのかが主要な課題になるのかもしれないね!

脚注

[注1] 「生命とは蛋白体の存在様式である」
プロイセン王国の思想家フリードリヒ・エンゲルスが1878年に記した『反デューリング論』にて述べられた言葉。オイゲン・デューリングの思想に反論する形で述べられた言葉であり、必ずしも自然科学に根差した意見とは言えないものの、図らずも生命におけるタンパク質の本質を突いていると言える言葉でもあります。  本文に戻る

[注2] タンパク質を構成するアミノ酸
タンパク質を構成するアミノ酸は、通常はヒトで観られる20種類として挙げられます。一方で一部の生物では「セレノシステイン」や「ピロリシン」もあるため、タンパク質を構成するアミノ酸は21種類や22種類と数えられることもあります。  本文に戻る

[注3] タンパク質の構造
タンパク質の構造では一次構造、二次構造、三次構造の他に、三次構造が複数組み合わさって成立する四次構造もあります。  本文に戻る

 

文献情報

<ノーベル財団の公式資料>

 

<受賞理由に関わる主要な論文>

  • Kim T. Simons, Rich Bonneau, Ingo Ruczinski & David Baker.“Ab initio protein structure prediction of CASP III targets using ROSETTA”. Proteins, 1999; 37 (S3) 171-176. DOI: 10.1002/(SICI)1097-0134(1999)37:3+<171::AID-PROT21>3.0.CO;2-Z
  • Brian Kuhlman, Gautam Dantas, Gregory C. Ireton, Gabriele Varani, Barry L. Stoddard & David Baker.“Design of a Novel Globular Protein Fold with Atomic-Level Accuracy”. Science, 2003; 302 (5649) 1364-1368. DOI: 10.1126/science.1089427
  • Lin Jiang, Eric A. Althoff, Fernando R. Clemente, Lindsey Doyle, Daniela Röthlisberger, Alexandre Zanghellini, Jasmine L. Gallaher, Jamie L. Betker, Fujie Tanaka, Carlos F. Barbas, III, Donald Hilvert, Kendall N. Houk, Barry L. Stoddard & David Baker.“De Novo Computational Design of Retro-Aldol Enzymes”. Science, 2008; 319 (5868) 1387-1391. DOI: 10.1126/science.1152692
  • Daniela Röthlisberger, Olga Khersonsky, Andrew M. Wollacott, Lin Jiang, Jason DeChancie, Jamie Betker, Jasmine L. Gallaher, Eric A. Althoff, Alexandre Zanghellini, Orly Dym, Shira Albeck, Kendall N. Houk, Dan S. Tawfik & David Baker.“Kemp elimination catalysts by computational enzyme design”. Nature, 2008; 453, 190-195. DOI: 10.1038/nature06879
  • Andrew W. Senior, Richard Evans, John Jumper, James Kirkpatrick, Laurent Sifre, Tim Green, Chongli Qin, Augustin Žídek, Alexander W. R. Nelson, Alex Bridgland, Hugo Penedones, Stig Petersen, Karen Simonyan, Steve Crossan, Pushmeet Kohli, David T. Jones, David Silver, Koray Kavukcuoglu & Demis Hassabis.“Improved protein structure prediction using potentials from deep learning”. Nature, 2020; 577, 706-710. DOI: 10.1038/s41586-019-1923-7
  • John Jumper, Richard Evans, Alexander Pritzel, Tim Green, Michael Figurnov, Olaf Ronneberger, Kathryn Tunyasuvunakool, Russ Bates, Augustin Žídek, Anna Potapenko, Alex Bridgland, Clemens Meyer, Simon A. A. Kohl, Andrew J. Ballard, Andrew Cowie, Bernardino Romera-Paredes, Stanislav Nikolov, Rishub Jain, Jonas Adler, Trevor Back, Stig Petersen, David Reiman, Ellen Clancy, Michal Zielinski, Martin Steinegger, Michalina Pacholska, Tamas Berghammer, Sebastian Bodenstein, David Silver, Oriol Vinyals, Andrew W. Senior, Koray Kavukcuoglu, Pushmeet Kohli & Demis Hassabis.“Highly accurate protein structure prediction with AlphaFold”. Nature, 2021; 596, 583-589. DOI: 10.1038/s41586-021-03819-2

 

<授賞理由と関わりの深い研究論文>

  • Linus Pauling, Robert B. Corey & H. R. Branson.“The structure of proteins: Two hydrogen-bonded helical configurations of the polypeptide chain”. Proceedings of the National Academy of Sciences, 1951; 37 (4) 205-211. DOI: 10.1073/pnas.37.4.205
  • J. C. Kendrew, G. Bodo, H. M. Dintzis, R. G. Parrish, H. Wyckoff & D. C. Phillips.“A Three-Dimensional Model of the Myoglobin Molecule Obtained by X-Ray Analysis”. Nature, 1958; 181, 662-666. DOI: 10.1038/181662a0
  • M. F. Peruts, M. G. Rossmann, Ann F. Cullis, Hilary Muirhead, Georg Will & A. C. T. North.“Structure of Hæmoglobin: A Three-Dimensional Fourier Synthesis at 5.5-Å. Resolution, Obtained by X-Ray Analysis”. Nature, 1960; 185, 416-422. DOI: 10.1038/185416a0
  • Cyrus Levinthal. “How to fold graciously”. Mössbauer Spectroscopy in Biological Systems Proceedings, 1969; 67 (41) 22-26.
  • Christian B. Anfinsen.“Principles that Govern the Folding of Protein Chains”. Science, 1973; 181 (4096) 223-230 DOI: 10.1126/science.181.4096.223
  • Peter Y. Chou & Gerald D. Fasman.“Prediction of protein conformation”. Biochemistry, 1974; 13 (2)  222-245. DOI: 10.1021/bi00699a002
  • Lynne Regan & William F. DeGrado.“Characterization of a Helical Protein Designed from First Principles”. Science, 1988; 241 (4868) 976-978. DOI: 10.1126/science.3043666
  • R. Zwanzig, A. Szabo, and B. Bagchi.“Levinthal's paradox”. Proceedings of the National Academy of Sciences, 1992; 89 (1) 20-22. DOI: 10.1073/pnas.89.1.20
  • Bassil I. Dahiyat & Stephen L. Mayo.“De Novo Protein Design: Fully Automated Sequence Selection”.  Science, 1997; 278 (5335) 82-87. DOI: 10.1126/science.278.5335.82
  • Christine E. Tinberg, Sagar D. Khare, Jiayi Dou, Lindsey Doyle, Jorgen W. Nelson, Alberto Schena, Wojciech Jankowski, Charalampos G. Kalodimos, Kai Johnsson, Barry L. Stoddard & David Baker.“Computational design of ligand-binding proteins with high affinity and selectivity”. Nature, 2013; 501, 212-216. DOI: 10.1038/nature12443
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彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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