窒素の正六角形「ヘキサジン」を初合成!低圧でも比較的安定

2022.05.16

みなさんこんにちは!サイエンス妖精の彩恵りりだよ!

今回のお話は、ヘキサジンの初合成に関するお話だよ!

窒素はエネルギー密度の高い物質としての応用が期待されている元素だけど、そのためには様々な課題をクリアしないといけないよ。

今回合成されたK2N6 (ヘキサジンジカリウム) は、その課題に挑戦したものだよ!

ヘキサジンジカリウムを合成!

安定と爆発、窒素の二面性

窒素と言えば、空気の約8割を占める気体だよ。最大の特徴は化学反応をしにくいことで、食品の袋に詰めて酸化防止としたり、消火器の圧力ガスに使われたりするよ。

窒素が化学反応をしにくいのは、通常取る形態が二窒素 (N2) という二原子分子の形態を取るからだよ。この化学結合はとても強く、引きはがすのに大量のエネルギーが必要だよ!

裏を返せば、二窒素以外の形態を持つ窒素化合物は、安定な二窒素に戻ろうとする過程で大量のエネルギーを放出するという事だよ。

火薬や燃料には、窒素を含む硝酸塩やニトロ基を含む化合物が使われているのは、これが理由の1つだよ。

もっと窒素を繋げると…?

この性質は、窒素原子が2個より多く繋がると更に強化されるよ。窒素原子にとっては二原子分子であるのが一番安定なので、それ以上連結すると一気に不安定さが増して、差分となるエネルギーの量が増えるからだよ!

例えば、窒素原子が3個繋がったアジ化物 (N3-) は、ちょっとした衝撃や熱で爆発してしまうものが多数存在するよ。もしそれ以上に連結すれば、更なる不安定さと高エネルギーが期待できるよ。

ただ、アジ化物は1890年に初めて合成されたけど、それ以上の物質は、しばらく発見報告がなかったよ。

窒素原子が4個以上繋がった化合物の合成は、安定なものからむりやり不安定なものを作るということで、これはかなり難しいよ。

では、なぜそんな研究をしているのかと言えば、ロケットなどの航空宇宙分野での潜在的な用途が期待されるからだよ。

現代のロケットで最も効率が良い燃料は、液体水素を液体酸素と共に燃焼させる方法だよ。これは水素の重量当たりの燃焼エネルギーがとても高いからだよ。

窒素の多原子分子がもし使えれば、水素を上回る重量当たりのエネルギーを得られるかもしれない、という期待があるんだよ!

更に、こういった物質は低温にしなくても固体である可能性があるよ。これは、液体水素の維持に極端な低温が必要で、維持に苦労している事を考えればこれも大きな利点だよ。

4個、5個、8個…あれ6個は?

多原子窒素分子

今回のヘキサジンより前には、こんな窒素の多原子分子が報告されていたよ。

こういった背景事情があるので、窒素をたくさん連結する研究は結構長く続けられてきて、難しいながらもいくつかの工夫が考案されたよ。

それは、低温下での化学反応で熱による分解を防ぐか、もしくは高圧をかけて安定状態を保つかのどちらかの手法だよ。

特に、得られる高圧の上限が年々上がっていることから、高圧で合成を試みる高圧化学が最近ではホットだよ!

とはいっても、それでも必要な圧力が高すぎるせいか、これまでの研究では窒素の多原子分子は中々成功しなかったよ。

これまでの高圧下の窒素で二窒素を基本としないものは、立方ゴーシュ型と正六角形シートが積み重なった六方晶系の2種類の結晶構造が知られているよ。

ただ、これらはポリ窒素と呼ばれる、非常に多数の窒素原子が結合した固体結晶であり、分子化合物とは言えないよ。また、極めて高い圧力が必要だよ。

一方で、二窒素やアジ化物の延長と言える、窒素の多原子分子は、これまでに以下の4個、5個、8個の分子が合成されているよ。

  • 分子の激しい衝突で一瞬だけ生成される四窒素イオン (N4+)
  • 低温下での化学反応で生成されるペンタジゼニウム (N5+) およびペンタゾレート (N5-)
  • 低温高圧下でのアジ化ヒドラジニウムの分解で生成される八窒素 (N8)

ただ、これらの多原子分子に関しては、寿命が極端に短かったり、不安定だったり複雑な化合物を経由する化学反応に頼る合成法だから、実用化を阻む壁となっていたよ。

窒素の正六角形、ヘキサジン!

K2N6 & K3(N2)4

ダイヤモンドアンビルセルの内部の写真だよ。左がK2N6、右がK3(N2)4で、どちらも中心部の茶色っぽい部分だよ。一番外側は周りを包むレニウムと金、その内側にある青色から白色は原料であるアジ化カリウム、中央部の明るいオレンジ色はレーザーで加熱された部分だよ。 (画像引用元: Сколковский институт науки и технологий)

今回、中国科学院合肥物質科学研究院などの研究チームが発表したのは、6個の窒素原子が結合したヘキサジン (N62-) の初合成に関する報告だよ!

元々、ヘキサジンそのものは窒素の多原子分子において初期から存在が予言されてきたよ。その形は正六角形で、ちょうどベンゼンと同じように比較的安定な分子として存在できるんじゃないか、と言われてきたからだよ。

ただ、それでも二窒素の元々の安定差が障壁となり、必要となる圧力が高すぎて到達ができなかったよ。

今回の研究でヘキサジンの合成に成功したのは、過去の研究により、アルカリ金属を含む窒素化合物は、ヘキサジンの生成に必要な圧力が低下するかもしれないと分かったからだよ!

というわけで、ヘキサジンの合成の出発点となったのは、アルカリ金属を含む窒素化合物ということでアジ化カリウム (KN3) を用意したよ。

これをレニウムと金の膜で囲った後、ダイヤモンドアンビルセルで挟み込み、レーザーで加熱しながら高圧をかけたよ。

ヘキサジンジカリウムは低圧でも安定

45GPaでK2N6が、30GPaでK3(N2)4が生成されたよ!

すると、45GPa (45万気圧) 以上の圧力の下では、アジ化カリウムが重合してヘキサジンが生成、金属光沢を持つK2N6 (ヘキサジンジカリウム) が生成したよ!

このヘキサジン化合物は、高圧化合物としては比較的安定性が高く、20GPaまで圧力を下げても安定して存在できる事が分かったよ!

一方で、30GPa (30万気圧) の圧力で合成を行うと、これとは異なる化合物であるK3(N2)4が生成したよ。これもかなりユニークだよ。

組成式にN2がある通り、一見するとこの化合物は二窒素分子を含んでいるように見えるよね。

ところが調べてみると、中性である通常の窒素分子とは異なり、この化合物ではN20.75-の価数を持つよ。このためにユニークな組成式が生まれたわけ!

今後の発展が見込めるよ!

これらの研究成果は、確かにすごいものである一方で、実用化という観点からすると、必要な圧力が高すぎることから、まだまだともいえるよ。

実用を想定する場合、20GPaという分解圧力でも高すぎて、実際のところは最高でも10GPa (10万気圧) 以下で安定する化合物が必要になるよ。

とはいえ、今回の研究結果はとても重要だよ。まず、アルカリ金属を含む化合物は合成に必要な圧力が低下するという理論的な予測が確かめられたよ。

また、アジ化カリウムという、窒素の部分がほぼ直線に並んだ化合物を出発点とする事で、質的に均一で純度の高い合成物ができたという、実用化の利点となる性質も観られたよ!

更に、今回は20GPaという高めの値ではあるけれど、合成に必要な圧力よりもかなり低い圧力まで安定に存在できたという点も、これからの研究に生かせる成果だよ!

今回の安定性がヘキサジンの形そのものに由来するかどうかはこれからの研究次第だけど、もしそうならば、重量当たりのエネルギー密度が高い物質としての実用化に大きな期待ができるよ!

今回の成果は、ヘキサジンという得られた化合物自体が世界初であると共に、実用化への重要な一歩にもなるという、とても重要な研究だよ!

参考文献

[原著論文]

  • Yu Wang, Maxim Bykov, Ilya Chepkasov, Artem Samtsevich, Elena Bykova, Xiao Zhang, Shu-qing Jiang, Eran Greenberg, Stella Chariton, Vitali B. Prakapenka, Artem R. Oganov & Alexander F. Goncharov. "Stabilization of hexazine rings in potassium polynitride at high pressure". Nature Chemistry, 2022. DOI: 10.1038/s41557-022-00925-0

[参考文献]

彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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