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みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、「マイクロプラスチック (ナノプラスチック)」の回収に「疎水性深共晶溶媒」という特殊な“油”のような物質を使う方法を試してみた、という研究だよ!
なんだか難しい字が並んでいるけど、これって単にマイクロプラスチックが溶けた水に混ぜるだけという簡単さなのに、平均回収率が98.4%というスゴい方法だよ!
他にもいくつもの利点があるんだけど、そこんところは本文で詳しく解説するね!
CONTENTS
私たちは生活の様々な分野でプラスチックを使っているけど、プラスチックは環境中でほとんど分解されないことが大問題となっている、というのは皆さんも知ってるかな?
従来、プラスチックによる環境問題は、目に見える大きさのプラスチック片に注目が集まっていたよ。間違えて食べることによる消化器官の閉塞や、身体に絡みついて取れないことによる問題、はよく知られているよね?
ところが最近になって、大きいプラスチックだけでなく、目に見えないほど小さなプラスチックも別の悪さをしていることが分かってきたよ。これらは「マイクロプラスチック」[注1]と呼ばれているよ。
マイクロプラスチックの問題点は、あまりに小さいことなんだよね。小さいゆえに生物が取り込んでも全く気付かないし、最初はそんなに悪さをしているように見えないから見過ごされてしまうよ。
ところが、小さな生物だと消化器官が、大きな生物だと血管などの循環器系に入ってしまうと、細い部分で直接の閉塞をもたらしたり、内臓での蓄積などのダメージを与えるんだよね。
また、マイクロプラスチックの表面には有害な物質が付着していたり、分解によって有害な物質が生じたりすることで、マイクロプラスチックは生体にとって有害であることが分かりつつあるんだよね。
既に循環器系の疾患や呼吸器系の疾患とマイクロプラスチックの関連が示されている関係上、自然界の一員である私たちにも影響することだから、マイクロプラスチックの除去は早期に解決すべき課題となるよ。
ただ、マイクロプラスチックは小さく、そして数が多いことが問題となるよ。環境への主要な放出源である下水を処理する過程で大半は除去されるけど、それでも数が多いために排出量に換算すると多いままなんだよね。
例えば、50万人の生活排水を処理する下水処理施設の場合、99%以上が除去されたとしても、1日に10億個ものマイクロプラスチックが環境中に放出される、と推定されているよ。
ここまで除去されると、濃度が薄まってしまい、これ以上の回収率の改善が難しくなることが、従来の方法によるマイクロプラスチックの除去の限界でもあるんだよね。
また、マイクロプラスチックの大きさや形、そして組成は多種多様なので、何か1つのフィルターを通したとして、引っかかるものと引っかからないものが続々と出てくるのは何の不思議もないんだよね。
しかも、マイクロプラスチックを除去する方法が環境負荷の高い方法じゃあ意味がないよね?ということで、マイクロプラスチックを回収する改善策は世界中で模索されている、というのが現状と言えるんだよね。
ミズーリ大学コロンビア校のPiyuni Ishtaweera氏などの研究チームは、そんな中で結構面白い改善策を考案したよ。非常に簡単に言うとこれは、水に溶けたマイクロプラスチックを、油に溶かして水から分離する方法なんだよね。
ミカンの汁に含まれる油が発泡スチロールを溶かすように、プラスチックを大雑把に説明すれば、多かれ少なかれ油に溶ける、という性質を持っているんだよね。
マイクロプラスチックと一口に言うけど、その組成は多種多様なので、油に溶かすことでマイクロプラスチックを除去する、というのはそこまで悪くないアイデアだよね?
もちろん、油なら何でも良いとは言えないよ。当然ながら水処理の過程で容易に回収できなきゃならないし、万が一漏洩した時に環境汚染がひどくなるものでは本末転倒だからね。また、製造の環境負荷も考えないといけないよ。
そこでIshtaweera氏らは、「疎水性深共晶溶媒」と呼ばれる物質に着目した研究を行ったよ。なんだか難しい用語が並んでいるけど、とりあえず思い出してほしいのはプラスチックは油に馴染む、という点だよ。
疎水性深共晶溶媒の詳しい説明は注釈に譲るけど[注2]、一番知っておいてほしいのは、深共晶溶媒は混合物であり、混ぜる前の物質は室温では固体である、という点なんだよね。
融雪剤を撒くと雪が融けるように、物質を混ぜると固体であった物質が液体になる凝固点降下が起こることはよく知られているけど、深共晶溶媒の場合はもっとスゴく温度が下がるという特徴があるよ。
これは混ぜる物質を工夫することで起こるんだよね。今回は疎水性の深共晶溶媒なので、水をはじく物質、大雑把に言えば油っぽい物質が対象になる、というわけ。
Ishtaweera氏らは、疎水性深共晶溶媒の関係となる物質をいくつかピックアップし、室温でも液体になるように2種類を混ぜ合わせることで、最終的には10種類の候補を作ったよ。
そして、疎水性深共晶溶媒がマイクロプラスチックを除去できるかどうかのテストをするために、小さなポリスチレンの球を水に溶かしたものを用意したよ。これが水に溶けたマイクロプラスチックの模倣となるわけだね。
ポリスチレンの球は、最も大きいものは1.0µm (1000分の1mm) 、最も小さいものは0.1µm (1万分の1mm) とし、5段階の直径のものを用意したよ。
あとは簡単。疎水性深共晶溶媒と、ポリスチレン球が溶けた水を混ぜ合わせればいいよ。最初はドレッシングのように混ざり合うけど、お互いに“水と油”なので、時間が経てばお互いが分離するよ。
そして、水に溶けていたポリスチレン球が疎水性深共晶溶媒へと移動し、結果的にどれくらいの割合で除去されているか、を調べればいいわけだね。
その結果、全部で3種類の組み合わせが、平均回収率98.4%という優秀な成績を収めたことが分かったよ!3種類の組み合わせには全部で5種類の物質が登場するけど、分子の数での混合比率は以下の通りだよ。
メントールはギリギリ聞いたことあるけど後は知らぬ、って物質が多いかもだけど、どれも有機化学においてよく登場する物質であり、安全性が高いことでも知られているんだよね。
特にTBABとデカン酸の疎水性深共晶溶媒は、17.2%濃度のポリスチレン球も高い効率で回収できることから、低濃度での除去という課題をクリアしているという点で優秀と言えるよ!
また、ポリスチレン球の直径は実験の前後で変化していなかったよ。これは疎水性深共晶溶媒がポリスチレン球を破壊していないこと、つまり新たなマイクロプラスチックの発生源になっていないことを示しているよ。
何より、単に混ぜるだけというのはとても簡単だよね。また、分離した後は自然に浮くので回収は楽だし、万が一環境に漏洩しても深刻な汚染を引き起こさないというのは利点となるよね。
しかも今回の方法は、淡水と海水の両方で使えるというのが特徴的だよ。海水の塩分が回収するフィルターに悪さをするのはよくある話なので、ここに問題点が見つからないというのは大きな利点になるんだよね。
もちろん、今は初期段階の研究と言えるので、今回示された3種類の疎水性深共晶溶媒が実際のマイクロプラスチック回収で使われるかどうかはまだまだ分からないよ。
Ishtaweera氏らは、今回の疎水性深共晶溶媒が他のマイクロプラスチックでも適用できるのか、疎水性深共晶溶媒がどのくらいマイクロプラスチックを含めるかなど、未知の部分があることを課題にあげているよ。
一方で、利点の1つとして挙げられる「淡水でも海水でも除去可能」というのは結構重要だよ。既に環境に流出したマイクロプラスチックについて、安全性の高い方法で回収が可能かもしれないということを示唆しているからね。
Ishtaweera氏らは、今回の研究では解決しなかった課題について検証し、問題点や未解明の点を解決しながら、少しずつスケールアップを図っていくことを当面の目標としているよ。
[注1] マイクロプラスチックの定義
今回の研究論文やプレスリリースでは「ナノプラスチック (Nanoplastics)」という用語が使われていますが、マイクロプラスチックという用語の方が有名であることから、本記事ではマイクロプラスチックと表現しました。 本文に戻る
[注2] 疎水性深共晶溶媒
水素結合供与体 (ドナー) と水素結合受容体 (アクセプター) の性質を持つ物質を混合すると得られる液体です。今回は疎水性の疎水性深共晶溶媒であることから、大雑把に言えば特殊な“油”であることになります。深共晶溶媒は混ぜ合わせる前の物質が融点の高い固体であっても、混合後は室温で液体となる性質を持ち、その理由は水素結合を伴う相互作用であると考えられています。毒性が低く、熱安定性が高く、様々な物質を溶かし、性質をカスタマイズ可能であるなどの特徴を持ちます。 本文に戻る
<原著論文>
<参考文献>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)