#2 医薬品開発におけるiPS細胞由来心筋細胞の活用

2021.09.01

LabBRAINS読者の方にも、創薬支援や再生医療での実用化に向けて、細胞を使った研究をされている方は多くいらっしゃるかと思います。
今回ご紹介する株式会社マイオリッジは、細胞を使った創薬支援の分野でも特に注目を浴びる、iPS細胞由来心筋細胞の開発、製造、販売を行っているベンチャー企業です。
マイオリッジは分化誘導法を使って心筋細胞を非常に低コストで製造しており、その技術ノウハウを使って新たに心筋以外の細胞向け培地開発も手掛けています。培地開発の話題は、2回目の掲載記事で紹介します。

1回目の記事では、創薬分野、つまり医薬品の毒性評価や有効性評価のためのiPS細胞由来心筋細胞の利用可能性について、紹介していきます。

 

医薬品の心毒性に係る課題とは?

抗がん剤、抗菌薬、鎮痛薬などの薬剤は、心臓への副作用(心毒性)により使用が制限されることがあり、心毒性を含む副作用評価にかかる費用と時間が問題になっています。
評価試験自体にかかる費用だけでなく、場合によっては開発が臨床段階に入った後に、動物試験で心毒性がみられなかった薬剤でもヒトで心毒性が検出されてしまう…ということもあります。

 

臨床段階で医薬品パイプラインがドロップアウトすると、数十億円以上の開発費が無駄になってしまいます。そのため、医薬品開発のできるだけ早い段階で、ヒトでの心毒性を事前に予測することが求められています。

 

創薬支援で細胞を使うメリットは?

これらの課題に対して、iPS細胞から作製した心筋細胞を使用することによって、創薬を効率化し、成功確率を向上させることが期待されています。具体的には、以下の2つがメリットとして考えられます。

 

1つ目は、もし動物実験の代わりにiPS細胞由来心筋細胞で心毒性が評価できれば、動物の犠牲をなくす又は減らすことができるようになります。試験費用も動物実験と比較して安く、短い期間で結果を出すことができます。

2つ目として、臨床試験の前に、ヒトへの外挿性に課題がある動物ではなく、実際の臨床と同じヒトの細胞を用いて非臨床段階で評価ができる点があげられます。臨床前にヒト細胞を用いて評価することで、種差の問題によって生じる臨床段階での開発ドロップアウトを防ぐことができれば、本来なら必要のなかった開発費用をかけなくて済みます。

 

これまで心毒性を予測する、つまり安全性の評価について述べてきましたが、iPS細胞から作製された様々な細胞は、有効性の評価でも使えるのではないかと期待もされています。
例えば心筋の場合、心不全モデルのiPS細胞由来心筋細胞を作製することで、心筋障害に対して機能を改善するような効果の高い薬をスクリーニングできる...という有効性の観点での応用が考えられます。

 

まとめますと、iPS細胞由来心筋細胞の実用化が進めば、安全性評価に関連する費用・時間の削減だけでなく、今までにない新しい医薬品開発の可能性を広げることもできるのではないか、とマイオリッジでは考えています。

 

Fig 1. iPS細胞

 

マイオリッジが提供するiPS細胞由来心筋細胞「CarmyA」について

さて、医薬品開発でiPS細胞由来心筋細胞を使用することのメリットについては、ご理解いただけたのではないかと思います。ではなぜ思うように実用化が進んでいないのか?その理由は、高品質の細胞を安定供給して、研究が再現性をもって得られるツールに仕上がっていることが求められるためです。

 

iPS細胞は、必要なヒト細胞を理論的には無限に供給することを可能にした革新的技術です。しかしiPS細胞から何週間もかけて分化誘導して心筋細胞を作製し、再現性のよいデータがとれる高品質な細胞を安定供給するには、また新しい技術が必要とされます。そして薬剤開発のアッセイでは、ハイスループット性は重要な要素です。マイオリッジのiPS細胞由来心筋細胞が実用化に至ったのは、この2点に関して大きな強みがあるからです。

マイオリッジはiPS細胞から心筋細胞「CarmyA」を分化誘導で作製し、セレクションなしで、cTnT陽性率90%以上と非常に高い心筋純度でありながら筋繊維やミトコンドリアの発達した高品質な心筋細胞を安定的にユーザーに供給できます。

 

次にハイスループット性の向上ですが、カルシウム(Ca)をセンスして蛍光輝度を変化させる「GCaMP」発現心筋細胞を開発、販売しています。心筋細胞では拍動に対応して細胞質内のカルシウム濃度が増減しますが、このカルシウムの増減を測定してハイスループットに薬理応答を評価可能です。

 

Fig 2. 心筋サルコメア構造

 

低分子化合物を用いた心筋分化誘導法

なぜこのような特徴をもった心筋細胞を作製できるのか?
その理由は、特徴的な分化誘導法にあります。

マイオリッジでは、iPS細胞からの心筋分化誘導工程において、培養液に含まれるタンパク質をすべて低分子化合物に置き換えることで、従来の組換えタンパクをなどを用いた際のタンパクの不安定性や細胞への取り込みやすさを改善し、心筋細胞の高効率、高品質な細胞の安定生産を可能にしています。CarmyAはこの技術を使って製造されています。

 

このプロテインフリー技術(タンパク質を使わない方法)は、iPS細胞や心筋細胞といった特定の細胞種に限らず、他の再生医療等製品への開発にも応用できる技術であると、マイオリッジは考えています。

 

 

新しい機能を持った心筋細胞、その他の細胞への展開

マイオリッジでは、Ca応答で緑色蛍光が観察できるGCaMP発現心筋細胞以外にも、更に新しい機能を持った心筋細胞の開発も進めています。
例を一つ上げますと、ミトコンドリアから作られるATPをモニターできる心筋細胞の開発です。

 

ミトコンドリアはATPをつくる細胞内のエネルギー合成工場ですので、心筋細胞のようなエネルギーを多く必要とする分化細胞において心疾患などに関わる重要な器官であることは想像に難くありません。ミトコンドリアからATPがどのくらい生産されているか分かれば、疾患メカニズム研究にも有用と考えられます。新規プロジェクトは、実際に医薬品評価に細胞を使用する製薬企業様と共同で開発していることが多く、必要に応じて、大学等で開発された新技術も取り入れて進めています。

 

もともとiPS細胞の心筋細胞分化で始まった研究と事業ですが、マイオリッジでは、これからもユーザー様に価値を感じて、使ってもらえる新しい創薬ツールとしての細胞開発を行っていきます。

 

今回は、iPS細胞由来心筋細胞の活用について、マイオリッジにお話を伺いました。
iPS細胞由来心筋細胞のご要望や、創薬研究で細胞を使いたいという方は、いつでもお問い合わせください。