研究オフィス片付けを成功に導くカギ|【ラボ整理コラム】

2024.11.14

 

オフィスの中には書類や雑誌がバラバラに山積み、ソファやデスクの上は常に何かで埋まっており人間の座る場所がない。そんな教授室の前を通りながら「うちの先生はあれが快適なのか」と誤解していませんか。あるいは、自分でも諦めて、この部屋がすっきり片づく日がくるなんてあり得ない、と思っていませんか。
今回は、研究時間が足りないとお嘆きの皆様にむけて、研究オフィス片づけのコツを紹介いたします。

忙しすぎる大学教員

自然科学系の大学教員の8割が、「研究時間が足りない」と回答したアンケート結果があります(※)。なぜそんなに時間が足りないのか、何が時間を食っているのか。当事者の先生方には一番よくわかっていると思います。

ただ、アンケートには書かれていない「部屋の散らかり」も時間を食う原因になっている現場を見てきましたので、整理収納アドバイザーとしてどうしたらいいかをお伝えしていきたいと思います。

 

PI(研究室主宰者)はマネージメント職としての大事な役割があり、ラボメンバーには研究成果を出してもらわなければいけない。そのため、「他人のお世話」の優先順位が高く、自分の部屋のメンテナンスは後回しになりがちです。

郵便が電子メール、論文投稿がオンラインで済まされるようになったために、紙ものは減っているというものの、まだまだ紙の文化は健在です。専門書は電子ではなく紙の本。学位論文審査は紙にプリントされたものが回ってきます。

書類だけでなく文房具から未開封の冊子、本棚やロッカーという大物そして卒業生や留学生からのプレゼントである自筆の掛け軸や色紙、コミックスなど、さまざまなモノが先生の部屋にあります。

散らかった部屋で困っている方は、一人では管理しきれない物量のモノをオフィスに置いており、誰かに手伝いを頼むあてもなく、日々仕事に忙殺されています。探し物時間が増え、それが研究時間を食う原因の1つになっているというまさに悪循環です。

手伝いを頼むとき

もはや一人ではどうにもならないと感じていても、手伝いを頼むこと=散らかっている部屋を誰かに見せること。「片づけ苦手」意識がある方にとっては、助けを求めることは恥ずかしく、不安であり、勇気を振り絞って高いハードルを越えないといけないことだと思います。
しかし「手伝いを頼むときのコツ」を知っていれば、そのハードルがちょっとだけ低くなるかもしれません。

ある医学部教授のオフィスで整理収納サポートをやらせていただいたとき、準教授(教授と同じく医師)が真顔でこんなことを言いました。「副作用が心配だ」

片づけの副作用?え、なんのこと?
「(教授は)モノのありかがわからなくなっているんじゃないか」。片づけの副作用とは、位置を記憶していたのに、それを変更したら探す時間が長くなってしまう、もしくは探し出せなくなってしまうのではないか、ということです。

たしかに、他人が勝手に動かしたらそういうことが起きるでしょうし、心配ですよね。ですから、部屋の片づけの手伝いを(片づけのプロではない人に)頼むときはこうした「副作用」が起こらないように片づけの目的とルールを伝えるといいでしょう。目的は人それぞれで、「仕事に集中できるように」や「来客対応がこの部屋でできるようにしたい」「学生とのディスカッションに部屋を使いたい」などさまざまですが、目的があれば、片付けでやるべきことが決まってきます。

ルールについては、たとえばこんなことを伝えます。

「不要なものはここに置くので、ここにおいたものだけまとめて廊下に出してください」

「この冊子を種類別に分けて、そのあと発行順に並べてください」

「移動する必要があるものは、どこに移したか教えてください」

「この場所においたものは動かさないでください」

といったことです。片づけのリーダーは部屋主自身です。ルールを伝えることでトラブルなく望む方向での片づけを進めていけるでしょう。

手伝う人に知っておいてほしいこと

片づけの目的は「スッキリ」させることではなく、部屋主が快適に研究できる環境にすることです。”キレイ”基準の高い人が見た目にこだわった整理整頓を勝手に進めてしまうと先生はついてこられません。

なにがその人にとって快適で、どう言う状態をめざしているのかは、まず話をよく聞き、一緒にやってみないとわかりません。「こんなに汚い部屋に平気でいられたのだから、なにもこだわりなんてないだろう」、と思うのは大きな間違いです。片付いた状態を維持するだけの十分な時間がとれない、どうしたらいいかわからない、誰に助けを求めたらいいかわからない、その結果こうなった、ということではないかと思います。むしろこだわりがあるから、人に手伝ってもらうことへの不安があるのです。

 

実際問題として、モノが多ければ多いほど片づけに時間がかかります。疲れると気力が続きません。部屋主の先生がなるべく楽な姿勢で要不要の判断ができるよう、座って作業してもらえるスペース(なるべく広いテーブル)をまず確保しましょう。ときどき、よくわからないモノをとってあるのを見かけますが、研究オフィス片づけの手伝いとは、手伝う側にとって理解不能のものを“捨てる”・“捨てさせる”ことではありません。判断が進むような準備をすることが一番の手伝いになります。

 

そういえば整理収納サポートをしていた時に、気をつけなければ、と思った経験がありました。教授が席をはずしているとき、部屋に訪ねてきた他の先生から「そんなことしていいの?」と見咎められました。教授が戻ってきた時に要不要の判断をしてもらいやすいよう、書類の仕分けをしていたのですが、どういう進め方をしているかご存じない方には勝手に捨てていると思われたようです。不審者と誤解されないよう(トイレ清掃中の看板みたいに)「書類仕分け中」と書いてドアの外に貼っておいた方がいいかもしれないですね。

片づけトラブルを回避しよう

まとめ
研究オフィス片づけを成功に導くカギは4つ。
・片づけの目的を明確にしてから始める。
・手伝いを頼む際は、目的とルールを伝える。
・片づけは疲れにくい姿勢でやれるように工夫を。
・要不要の判断をしやすくするのが片づけの手伝い。

研究時間を食う研究オフィスで日々お過ごしのみなさま。悪循環を断ち切って整理に着手していきましょう。

 

(※)「科学技術の状況に係る総合的意識調査(NISTEP定点調査2023)報告書」, NISTEP REPORT, No. 201, 文部科学省科学技術・学術政策研究所. DOI:https://doi.org/10.15108/nr201

【著者紹介】ショウボ

筑波大学卒業後、製薬会社の研究所に30年以上研究者として勤務。博士(医学)
医学部の大学院研究室を経て現在は国立研究機関で研究業務員。
2017年よりラボ専門整理収納アドバイザーとしても活動中。
ラボ整理研究室を主宰。

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