聖獣レヴィアタンのリアル生物学的考察とレンタル博士の可能性について

2022.08.04 By 澤井悦郎

この連載テーマについて

  • このコーナーでは、海とくらしの史料館の「特任マンボウ研究員」である牛マンボウ博士が、エッセイ混じりに、論文や研究などを紹介します。
  • 活動場所まとめ https://profcard.info/u/3kUPXjT4VGRa9GexNI1tGALs1RY2

マンボウ研究者に舞い込んだ不思議な依頼

 私はマンボウ研究者である。レンタル彼女、レンタルおっさんなど、最近流行の個人レンタルサービスに便乗し、私は2年前から「レンタル博士」をやっている。私の場合、1人あたり2万円(飲食・交通費別)で、私が15年間培ったマンボウの知識を丸一日レンタルして何でも聞けるという超格安のサービスを行っている。2万円は日給8000円と仮定して自分で働くなら3日分の知識であるが、レンタル博士なら報酬と対価に15年分の知識から自分の欲する答えを引き出せると考えるとお得ではないだろうか。

 しかし、今回のレンタル博士の依頼は「旧約聖書に登場する聖獣レヴィアタン(リヴァイアサン・レビヤタン)についてできるだけ現実味のある生態を一緒に考えて欲しい(あと、ついでにマンボウの話も)」という私の想定を覆すものだった。念のため、依頼者(日の坂さん)に本当に私でいいのかと問い返し、私でいいとの返事をもらったので依頼を受けた。私はレヴィアタンについてはゲームやアニメに時折出てくるドラゴンぽいキャラクター程度の知識しかない。そのため、依頼主の方が博識であり、依頼主に詳しい話を聞きながらリアル生物ならこうではないかと一緒に考察し……結果としてレンタル博士の新たな可能性を見出したので、ここで紹介したい。なお、先に断っておくが、レヴィアタンは情報が少ないため様々な説が提唱・解釈されており、現状ではこれ!という決定打がない。私達の議論も所詮妄想に過ぎないということは予めご了承頂きたい。

 

 聖獣レヴィアタンとは

 そもそも聖獣レヴィアタンとは何ぞや?と思った方もいるだろう。レヴィアタンをGoogle検索すると約1930000件、別の読み方リヴァイアサンで検索したところ約2830000件、レビヤタンで検索したところ約12200件。日本ではリヴァイアサンという名が最も一般的なようだ(依頼主の希望で本記事ではレヴィアタンで一貫する)。文献、ネット検索、依頼主から得た知識を簡単にまとめると、レヴィアタンは旧約聖書に複数回登場する、神が天地創造の5日目に水域の生物(魚など)と空域の生物(鳥など)を造る際に一緒に造った巨大生物で、海域最強の生物として紹介されている。レヴィアタンは雌雄のつがいで造られたが、あまりにも凶暴なため繁殖されては困るという神の一方的な都合によって無慈悲にも片割れが殺されてしまう(殺されたのは雌という説と雄という説がある)。実は天地創造の5日目に水域の巨大生物としてベヒモスも造られたが、海が溢れてしまうという理由から、ベヒモスは陸にあげられてしまう。このベヒモス(陸の巨獣)とレヴィアタン(海の巨獣)は対を成す存在とされ、世界の終末が訪れた時には、この二匹の巨獣は死ぬまで戦わされた挙句、生き残っても善人の食料とされることが運命付けられている……結構可哀そうな生物なのだ。

 中世以降は悪魔学の影響を受けて、レヴィアタンは七つの大罪の一つ「嫉妬」を司る悪魔とされた。依頼主はあるアニメ作品で好きになったキャラクターが、アプリゲームで「レヴィアタン」をモチーフにした衣装を着たことがあり、それがきっかけで調べ始め、気付いたら元ネタである「レヴィアタン」にはまっており、もっと色んな情報が欲しくなって、一応海洋生物学者でもある私に今回依頼してきたという、そんな理由!?と思わず言いたくなるような経緯だった。

 レヴィアタンは旧約聖書の中でも作られた時代によって記述や解釈が異なるため、依頼主が指定してきた考察材料は、旧約聖書の『ヨブ記』第41章で、Wikipediaにある口語訳からだった。第41章を簡単にまとめると、人間のヨブに対して神がすごい獣を造ったと全知全能性を示す一場面で、ベヒモスとレヴィアタンに関する詳しい記述がある。Wikipediaのレヴィアタンに関する記述を以下に引用する。

『だれがその上着をはぐことができるか。だれがその二重のよろいの間にはいることができるか。だれがその顔の戸を開くことができるか。そのまわりの歯は恐ろしい。その背は盾の列でできていて、その堅く閉じたさまは密封したように相互に密接して、風もその間に、はいることができず、互に相連なり、固く着いて離すことができない。これが、くしゃみすれば光を発し、その目はあけぼののまぶたに似ている。その口からは、たいまつが燃えいで、火花をいだす。その鼻の穴からは煙が出てきて、さながら煮え立つなべの水煙のごとく、燃える葦の煙のようだ。その息は炭火をおこし、その口からは炎が出る。その首には力が宿っていて、恐ろしさが、その前に踊っている。その肉片は密接に相連なり、固く身に着いて動かすことができない。その心臓は石のように堅く、うすの下石のように堅い。その身を起すときは勇士も恐れ、その衝撃によってあわて惑う。つるぎがこれを撃っても、きかない、やりも、矢も、もりも用をなさない。これは鉄を見ること、わらのように、青銅を見ること朽ち木のようである。弓矢もこれを逃がすことができない。石投げの石もこれには、わらくずとなる。こん棒もわらくずのようにみなされ、投げやりの響きを、これはあざ笑う。その下腹は鋭いかわらのかけらのようで、麦こき板のようにその身を泥の上に伸ばす。これは淵をかなえのように沸きかえらせ、海を香油のなべのようにする。これは自分のあとに光る道を残し、淵をしらがのように思わせる。地の上にはこれと並ぶものなく、これは恐れのない者に造られた。これはすべての高き者をさげすみ、すべての誇り高ぶる者の王である』

 この口語訳から読み取れるレヴィアタンの特徴をピックアップすると、

  • 体は硬く密接した鎧のような鱗で覆われている(特に背側)
  • 歯は鋭い
  • 眼には朝日のような色(黄色?)の目蓋がある
  • 息を吐くことで口から火が出る
  • 鼻から熱い煙を出す
  • 首は力強い
  • 肉は硬い
  • 心臓も石のように硬い
  • 上体を起こすことがある
  • 下腹にも鋭い鱗がある
  • 陸地に出ることもあるが海にいる
  • 体温は高い

 

 先行研究では、レヴィアタンのモデルは現存する生物でいう「ワニ」、「ヘビ・ウミヘビ(爬虫類)」、「クジラ=巨大魚」の3タイプが考察されており、研究者によっても解釈が異なっていた。なので、逆説的に捉えれば、レヴィアタンの姿や生態は自由に妄想できるということである。

レヴィアタンのリアル生物学的考察

 それでは、レヴィアタンのリアル生物学的考察に入ろう。『ヨブ記』は紀元前5世紀~紀元前3世紀頃にパレスチナで成立した文献と推定されており、レヴィアタンは地中海から追い出された伝説もあることから、生息地は地中海と考えられる。レヴィアタンのサイズは第41章には書かれていないが、依頼主によると15004000kmといくつかの本に書かれていたとのことなので、このサイズが地中海に入るか検討した。地中海の水面積は2500000km2だったので、全身は問題なく地中海に入るものと考えられる。しかし、地中海の平均水深は1500mしかないため、この中を泳ぐとなると、必然的に体は細長くなければならない。体が鱗に覆われていること、目蓋(目を覆うもの)があること、鋭い歯があることも合わせれば、ウミヘビ(爬虫類)のような形態をしていたものと推測された。何故なら、第41章にレヴィアタンの手足や爪に関する記述が無く、もし四肢があれば、何かしらの記述が書かれていそうである。

 ウミヘビは一般的に体温を周囲の環境に依存していることを考慮すると、レヴィアタンの高体温と矛盾するが、レヴィアタンは巨大であることから巨体恒温性があり、大きな熱慣性によって一度体が温まるとなかなか冷めにくい性質を持っている可能性が考えられた。また、鼻から高熱の煙を出すことから、体内に大きな熱を発生させる特殊な器官があることも想定される。例えば、発火性のガスを発生させる細菌を共生させ、ボンバルディア・ビートルのようにそのガスを溜める臓器があり、ガスを勢いよく噴出できる腺が口や鼻に繋がっていたら、高温の煙を出したり、火を噴くことは可能と思われる。火は口の中から直接吐くのではなく、発火性のガスを噴いた瞬間に、例えば発火しやすい素材でできた歯を噛んで飛び散った火花に着火させれば、口から前方方向に火炎放射することは可能だろう。硬い鱗で覆われているため、自分が火傷する心配もなかったと思われる。硫化鉄の鱗を持つスケーリーフットがリアルにいることから、レヴィアタンも別の共生細菌を使うなどして、宝石のようなより硬度の高い鱗を作り出していた可能性がある。ウミヘビのようだと考えると、眼も体と同じような硬さでより透明度の高い鱗のようなもの(=目蓋)で覆われていたと思われる。くしゃみをすると光を発するのは、硬い鱗が太陽光に反射する様子を表していたのではないだろうか。

 ウミヘビは昼夜どちらでも活動できるが、基本的には夜行性であり、昼は岩陰などで休んでいるとされている。レヴィアタンも似たような生態をしていると考えれば、日中は動かないので人間と接触する機会は少ないと思われ、聖書に人間と争った描写がないことにも合点がいく。凶暴な性格とされているがそれは捕食時の話で、肉も心臓も硬いとされているので、体を動かすエネルギー消費を抑えるために、普段は人目に付かないところでひっそりと過ごしていたのではないだろうか。陸地に上がる描写はあるが、全身が上がっていたら絶対に目立つため、体の一部であったと思われる。

 天地創造の5日目に魚やクジラなどの水域の生物は神によって創造されていることから、それらを捕食していたものと思われる。また、ウミヘビのようなものと仮定すれば、レヴィアタンも脱皮をするはずで、脱皮する際に自分の皮を食べてお腹を満たしていたと考えれば、地中海の海洋生物が根絶やしにならなかった理由にもなるだろう。毒の描写はないことから、歯に毒はなかったと考えられる。海を煮え滾らせる描写や海を分かつ描写があることから、捕食時は体を震わすなどして体温を上げた際の熱を利用して餌を捕まえたり、移動した際の水位の落差で動けなくなった生物を捕食していたのかもしれない。最もこれだけ巨大であれば、水中で口を開けただけでも餌を丸のみできそうである。世界の終末が訪れるその時まで、レヴィアタンは今もひっそりと地中海で暮らしているのかもしれない。

 以上のように、私達の議論では、レヴィアタンはウミヘビのような形態をしていて、意外に大人しい性格だったのではないかという結論になった。これをあり得そうと思うか、そうじゃないと思うかは読者次第である。今回、最近の文献も参考にしたのだが、改めてリアルで明らかにされた生物の情報が多くなれば多くなるほど、空想生物の考察もよりリアリティが増して面白くなると感じた。マンボウ以外の依頼は今回が初めてだったのだが……一人でするよりいろいろな妄想ができて楽しかったと依頼者にも満足して頂けた(余った時間はいつものようにマンボウについていろいろお話ししたが)。分野外の話でもあっても、この人の意見が聞きたいと思ってレンタル博士を依頼するのも、案外ありなのではないかと、今回のレンタル博士を通して感じた。レンタル博士の可能性の広がりを実感した。私にできそうなことなら、マンボウ以外の依頼も待っているぞ!

 

 

参考論文

グレヴィッチ ダニエル. 2014.聖書のレビヤタンのシンボリズムとファンタジー―アビスの怪物から預言者たちの救済者まで―.一神教学際研究,(10): 40-58.

木下千尋.2022.海棲爬虫類、特にウミガメ類に見られる内温性 -体サイズと代謝速度に着目して-.日本生態学会誌,72(1): 63-71.

この連載はマンボウ類だけを研究し続けていつまで生きられるかを問うた2次元~18禁まで鳥スキーな男の、マンボウへの愛を綴る科学エッセイである。