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日本では、2020年2月、横浜港でのダイヤモンド・プリンセス号船内で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が大勢確認されたことで大々的にマスコミ報道がされ、日本でのコロナ禍が始まったのではないでしょうか。それから1年が経った今、新型コロナウイルスの検出にPCR検査が広く知られるよういなりましたが、このPCR検査はたった1年で驚くべき進化を遂げていることについてここで振り返ってみたいと思います。これから新規にPCR検査を立ち上げる方々にも役立てていただけたら幸いです。
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新型コロナウイルスは2019年後半には中国で発見されていました。ダイヤモンド・プリンセス号騒動の際にはすでに国立感染症研究所(感染研)ではPCR検査の方法も確立しており、即座にそのプロトコールが一般に公開されました。
PCR法は、現在ではウイルスの核酸の配列情報がわかれば感染研のウイルス専門家にとっては即座に研究的手法であるPCR法を駆使してその検査法を作ることができます。ウイルスの配列情報は2019年に中国で発見された際、次世代シークエンス技術を用いて核酸配列情報が得られ、一般に公開されている遺伝子情報データベースに登録されていましたので、この武漢タイプのウイルスの遺伝子情報を用いてPCR検査が作られています。
PCR検査法が公開されたにも関わらず、マスコミでも指摘されているように日本ではPCR検査数が伸び悩んでいました。これにはいろいろな理由があったと推察されますが、その理由のひとつ(後述)があることで、日本で独自のPCR検査キットの進化に繋がりました。
コロナ禍が始まった2020年1月、日本でPCR検査ができなかった、というわけではありません。日本では従来よりPCR検査は癌疾患やコンパニオン診断、遺伝病、感染症の診断などで広く利用されており、小さなクリニックなどでさえPCR検査は行われます。ただ、一般的には患者さんから採取した検体を検査センターに送って受託検査を行う、という形式が多いのが実情です。海外に比べて日本の検査センターは迅速で安価、信頼性も高く、検体輸送のシステムも整っています。日本ではコロナ禍以前はこの形式でPCR検査は十分事足りていました。
コロナ禍での新型コロナPCR検査はこのPCR検査形式でのキャパシティを越えてしまったため、PCR検査の数を増やさなければならない状況となったわけです。かと言って、どこの病院でもPCR検査を実施していたわけではないので、急にPCR検査が必要になってもPCR検査の経験・技術を持つ検査技師が足りない、というのが検査数が伸び悩んだ理由の一つだったのかもしれません。
感染研から公開された新型コロナPCR検査法は研究的手法が採用されていたため、多くの検査技師には馴染みのない①検体からのウイルスRNA抽出・精製、②RNAの逆転写反応によるcDNA合成、③ハイスループット(96ウェルタイプ)のPCR、④リアルタイムPCRの増幅曲線解析あるいはアガロースゲル電気泳動などの研究的な手法が用いられており、どれも一般的な検査技師には馴染みの薄い技術ばかりでした。
それに加え、感染の危険のあるウイルスを扱うための安全キャビネットの扱い、PCR検査はとても高感度なためコンタミネーション(偽陽性の危険)を避けるなど、多くの検査技師にとっては目新しいことを通常業務に加えて行う必要が予想され、当時はPCR検査はとても敷居が高い検査と捉えられていました。
そこで目覚ましい進化を遂げたのが新型コロナウイルスPCR検査キットです。PCR検査の進化とは、①RNA抽出・精製作業が省略できるダイレクトPCR法の採用と②逆転写反応と③PCRを1チューブで行える1ステップPCR試薬の採用です。このキットが出てきたことで2つのステップを省略することができるようになりました。
これによってRNA抽出・精製作業に必要な機材、手間が不要になっただけでなく大幅な迅速性能も得たのです。また、2021年1月から発売されている最新の新型コロナ検出キット✳では、加熱前処理すら不要で、もはやサンプルを反応液に加えるだけ、という迅速で簡便なキットが発売され、検査技師のPCR検査に対する敷居を格段に下げることができるようになりました。
上述のPCR検査キットの進化と同時に自動化も進化しています。サンプルをカートリッジに添加するだけ、といった全自動化タイプの新型コロナウイルスPCR検査機器が出てきて、これもPCR検査の敷居をさげることに一役かっています。このタイプの全自動機器は簡単便利な一方、スループットが悪い、またコストパフォーマンスが悪いという問題点があります。
新型コロナウイルス感染の院内クラスターが発生し、10名の陽性者が見つかった、などというニュースはよく聞きますが、クラスター発生時ですので、検査数に対する陽性率が20%だったとすると50名の検査が実施されていたことになります。
上述のPCR検査キットの進化では一般的に研究用ととして広く利用されている96ウェルタイプのPCR機器の利用が可能であり、1回の検査、時間にすると1時間30分程度で50件の検体の処理が可能です。全自動タイプでは1検体から数検体で1時間程度を要するとすると何度も検査を実施するか、複数台の自動化機器が必要となってしまうケースもあります。状況に合わせて進化した試薬を利用できるハイスループット(96ウェル)タイプのリアルタイムPCRシステムを選択するか、スループットやコストパフォーマンスは悪いが手軽に行える全自動タイプを選択するか、それぞれのメリット、デメリットをPCR検査を立ち上げる前に考えておくと安心です。
アズワンでは、新型コロナウイルスPCR検査にも対応した96ウェルタイプのハイスループットタイプリアルタイムPCRシステム(アジレント社製AriaMx)や上述の2021年1月から発売されている加熱前処理すら不要で最も簡便な最新の新型コロナPCR検出キット(キュービクス社製)の販売を取り扱っています。