てんかん発作を患者さんの対話を通して正確に検出するアプリ開発(10月13日 Nature Medicine オンライン掲載論文)

2026.10.28

AI、GPT-4mini、脳波解析を組み合わせた新しいてんかん診断システムとは。患者との対話で発作情報を収集し、リアルタイム管理やニューロフィードバックへの応用可能性を紹介。

 

心房細動発作等の不整脈を検出するために24時間身体に装着して心電図をモニターするホルター心電図はよく知られているが、てんかんでも脳波とてんかん発作を正確に連結させるための検査システムがあり、epilepsy monitoring unit (ENU) と呼ばれている。具体的には患者さんに1週間ほど入院して貰い、ビデオで行動を、脳波計で脳波を監視して、てんかん発作の正確な診断を行い、治療方針を決めるのに使われる。

 

本日紹介する論文

EMUでは患者さんが発作を感じたとき、あるいは発作を観察した医師がボタンを押すことで、脳波と発作をリンクさせ、脳波による発作の検出感度を上げるが、今日紹介するペンシルバニア大学からの論文は、このボタンによるフィードバックを、LLMを用いた対話型のアプリに変えて、患者さんと対話しながら発作につながる脳波を正確に特定する方法の開発で、10月13日 Nature Medicine にオンライン掲載された。

 

タイトルは「Human–artificial intelligence collaboration for comanaging epilepsy in real time(てんかん発作をリアルタイムにマネージする人間とAIの共同)」だ。

 

解説と考察

最初正確にてんかん発作を診断するAI化と思ったが、読んでみるとEMUのボタンを、患者さんも使いやすい対話型スマフォアプリで置き換えるために、EMUで用いられている発作検出ニューラルネットに、大規模言語モデル (GPT-4mini) を統合する試みだ。

 

具体的には通常のEMUと同じで脳波を学習して発作を検出するニューラルネットが用いられている。ただ脳波に自覚的、あるいは医師による他覚的発作の印を付けるボタンの代わりに、発作の記録を患者さんに、「先ほど発作を感知しましたが感じましたか」と言った会話に変えるためのLLMが用いられている。また、患者さんだけでなく医師もこのループに参加することができる。即ち発作の予兆でボタンを押すのではなく、発作の後、あるいは定期的に脳波上の発作について患者さんが感じたかどうかをスマフォで質問し、発作かどうかをニューラルネットにフィードバックして、診断率を上げる。

 

もちろん患者さんからも質問ができるようになっていて、同時に記録している睡眠の様子や、あるいは実際の脳波パターンを画面上に示したりも出来る。そのおかげで、患者さんからの質問に利用される時間は全体の3割近くに達している。また多くの患者さんが、アプリが役立つと評価している。従来のボタンを押す方法で誤警報を減らす率は77.8%に対して、新しい方法では80.9%と、ニューラルネットの学習という意味では大きな改善はない。しかし、LLMを介することで患者さんと対話し、親しみやすい対話形式で自覚症状をフィードバック出来る点では、重要な進歩だと思う。

例えばホルター心電図で発作を感じたかどうかをフィードバックしたり、血糖モニタリングで低血糖発作を感じたかどうかなど、同じ方法は様々な場面で使える可能性がある。さらに個人的な印象だが、自分の頭の中の活動を見ることができることで、いわゆる neurofeedback という、自分で反応をコントロールする治療法まで発展できる可能性がある。LLMを用いて、客観的データネットワークに主観を介入させると言うおもしろい研究だと思う。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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