海鳥の糞DNA解析で判明した捕食されていたクサビフグ

2026.03.23

DNA解析により、クサビフグが海鳥に食べられていたことが判明

科学技術の進歩により、昔はできなかったことができるようになると、研究の可能性も大きく広がっていく。DNA解析は近年大きく可能性を広げた研究手法・ツールだろう。肉眼的に何か分からない状態であっても、DNAさえ残っていればそれが元々どういう生物だったのかが分かるということは、食性研究においても重要である。今回、海鳥の糞をDNA解析した結果、クサビフグが食べられていたという論文を発見した。まさか海鳥の論文の中にクサビフグが出てくるとは……海を越えて生態系は実に複雑に繋がっていることを思い知らされた。この論文は海鳥の糞をDNA解析して海鳥の食性を探ることがメインであるが、今回取り上げたいと思う。

 

海鳥は食物網の最上位の捕食者であるため、その個体数は海洋生態系の指標としてよく使用されてきた。外洋性海鳥の食性に関する多くの研究は育雛期間中にのみ実施されている。これは雛を育てていない期間、海鳥はあちこち飛び回っていて捕獲が難しいからだ。そのため、育雛期前の食性はよく分かっていない。海鳥の食性研究は、海鳥を捕獲し吐き戻しさせて、その胃内容物を調べるという話を私は聞いたことがあったが、その方法だと海鳥の胃に負担を与えてしまうし、胃で溶けた餌の形態調査は大変である。そこで、Komura et al. (2018)は海鳥の糞サンプルのDNAメタバーコーディングから食性を調べることにした。この方法だと、海鳥を直接捕獲する必要が無く、胃内容物の形態調査より労力がかからずに餌生物をある程度特定できる。

 

具体的な調査方法

Komura et al. (2018)の研究対象は、小笠原諸島の南島で繁殖するオナガミズナギドリArdenna pacificaの個体群。本種は6月から7月に卵を産み、約50日間で孵化させ、その後約50日間雛を育てる。2015年の5月(育雛期前)と2015年9月(育雛期中)の早朝、親鳥がいないうちに本種のコロニーがある岩(73サンプル)と草(96サンプル)の上から糞サンプルを採取した。先行研究による胃内容物調査で本種は主に魚類と軟体動物を食べていることが分かっていたので、ミトコンドリアDNAの12S領域(魚類用)と16S領域(軟体動物用)を増幅し、DNA バーコーディング(種不明な生物のDNAを既にデータベース化されている種のDNAと照合すること)を行ってできるだけ詳細な分類群(近縁種が複数ヒットした場合、種までの同定は困難)を特定した。

その結果、餌として検出された魚類は31分類群(25属、4科、1目、1上目)、軟体動物は9分類群(3属、3科、2目、1上目)であった。育雛期前の食性に絞ると、ソコハダカ属Benthosema、デメエソ科Scopelarchoides、クサビフグ属Ranzania、イダテントビウオ属Exocoetusの順に検出された魚類の占める割合が多く、特にソコハダカ属とデメエソ科は深海魚であることが注目される。一方、軟体動物はアカイカ属Ommastrephesがほぼ全体を占めていた。育雛中の食性に絞ると、ツクシトビウオ属 Cheilopogon、ソコハダカ属Benthosema、アカヒメジ属Mulloidichthys、マグロ属Thunnusの順に検出された魚類の占める割合が多かった。一方、軟体動物はトビイカ属Sthenoteuthisがほぼ全体を占めていた。育雛期前の食性と育雛中の食性には統計的にも有意な差があることが示された。

 

DNAから深海魚が多く検出された理由の仮説

オナガミズナギドリの糞DNAから深海魚が多く検出された理由はいくつかの仮説が考えられる。

1.海面に浮かぶ深海魚の卵や仔魚を食べた可能性(=食性の季節変化があったのは、魚種の生活史が異なったからと言えそう)。

2.深海魚は一日のうち夜間に海面付近に浮上する性質があり、本種が夜間に摂餌を行った可能性(本種が夜間に摂餌を行った先行研究例があり、超音波魚群探知機による小笠原近海のネクトン現存量を調査した先行研究では、昼より夜間の方が密度が高かったと報告されている)。

3.水中の捕食者(マグロ類やカジキ類など)から水面に逃げてきた深海魚を捕食した可能性(本種の摂餌行動はキハダやカツオなどの水面下の捕食者の分布と関連があることが知られており、小笠原近海のマグロ・カジキ類の消化管から中深海魚類が見付かっている)。

4.漁船が捨てた魚類を食べた可能性もあるが、小笠原近海では底引き網漁は行われていないため、この可能性は低い。育雛期前・育雛中ともに多く検出されたこれらの深海魚は本種にとって安定した重要な餌生物であることが示された。

オナガミズナギドリの餌生物として検出したアカイカ属とトビイカ属は同じアカイカ科に属する。一方、小笠原近海でトロール網調査を行った先行研究では別のイカ類が大量に捕獲されたが、本研究ではそれらは検出されなかった。この食い違いは、本種が選択的にアカイカ科を摂餌していた可能性、またはDNA バーコーディングの誤検出(データベースに適切な種が無かった)だった可能性が考えられた。

オナガミズナギドリの餌組成が季節によって異なったことは、餌生物が季節的に移動した可能性、本種の摂餌行動が変化した可能性(雛のために餌を変える)等が考えられた。

以上のように、海鳥の糞DNA解析を通じて、海鳥の食性についてより詳細な情報が得られるとともに、その海鳥が摂餌を行う海域に餌になった海洋生物が分布していたことが分かる。Komura et al. (2018)の考察では、クサビフグは大型魚とされ、オナガミズナギドリはクサビフグの卵、仔魚もしくは死骸を食べたのではないか?と推察されていた。私が知る限り、小笠原近海でクサビフグの存在が確認されたのは薮田(1953)以外になく、明確にクサビフグが漁獲された記録は見当たらない。また、クサビフグがオナガミズナギドリに捕食されていた知見も今までになかった。まさか海鳥の糞DNA解析からクサビフグの新たな知見が得られるとは思ってもいなかった。様々な海鳥類の糞DNA解析の研究が進めば、もっといろいろな情報が得られる気がする。今後も注目していきたいと思う。

 

 海鳥と

  糞で繋がる

   クサビフグ

    小笠原での

     新たな知見