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バイオ系研究所で働くテクニシャン(技術員)でありながら漫画家として活躍するAyaneアヤネさんによる「ラボりだな日々」(※ラボりだ…ラボから離脱すること。ラボから帰ることの意を持つ造語)。
第14回のテーマは「荒ぶる神(液体窒素)の運び方ー液体窒素の取り扱い方についてー」です。
ラボりだな日々、第14回のテーマは「荒ぶる神(液体窒素)の運び方ー液体窒素の取り扱い方についてー」です!
研究室でよく使われる寒剤である液体窒素については、ラボりだな日々第3回「つめたくてこわい」でも、意外な危険性とその注意喚起についてピックアップしました。
今回は液体窒素の実作業における取り扱いの注意点を描いていこうと思います。
液体窒素(LN₂)は、液体の状態にある窒素のことで、私たちの身の回りでは意外と広く利用されています。例えば、食品の急速冷凍、医療分野では皮膚科の凍結療法、さらに物理実験でも使用されています。バイオ系の研究では、培養細胞株や生体試料などの生物学的サンプルの凍結保存に使用されています。
比較的安価で入手しやすい寒剤として、身近な実験材料の1つです。
しかし、「便利」と「危険」は紙一重。研究施設において実験で液体窒素を取り扱う場合は、液体窒素取り扱い講習会の受講が義務付けられていますし、実際に液体窒素を取り扱う際には、いくつかのポイントに注意しなければなりません。
1. 超低温での凍傷
液体窒素は -196℃ という極低温。皮膚に触れると凍傷を引き起こす危険性があります。気を付けなければならないのは、液体窒素に触れた一瞬はライデンフロスト効果で一見問題なくみえても、液体窒素が皮膚に付着することで曝露につながり、凍傷を引き起こす可能性があります。
また、液体窒素は「液体」なので取り扱いの際は、液体がしみ込まない材質の専用の手袋(革手袋など)を使用してください。軍手などの布製の手袋を使用してはいけません。緊急の際に脱ぎにくくなるので、ぴったりフィットしたものも避けてください。そして、意外に盲点なのが、足元です。液体窒素を床にこぼした時、サンダルを履いていたり、床に膝をついていたりすると、靴下やズボンの布地から液体窒素に接触し、長時間曝露に繋がる可能性があります。
2. 気化による酸素欠乏
液体窒素は気化すると約700倍に膨張します。密閉された空間で気化すると、酸素が薄まり、酸素欠乏(酸欠)による窒息を引き起こす可能性があります。酸欠状態になると、頭痛や吐き気、酩酊感や脱力感という症状を感じます。これらを避けるため、液体窒素を使用する際は、換気が良い場所(換気扇を稼働させたり、窓や扉を開放する)で作業し、密閉空間での使用を避けてください。また、顔の近くに液体窒素を入れた容器を置いての作業はできるだけ避けてください。
3. 運搬時の事故
液体窒素を運搬する際は、専用の容器を使用し、転倒に注意して運んでください。液体窒素を密閉すると、気化により内圧が上昇し爆発する危険があるため、開放型容器の場合は密閉できません。それにより、容器が倒れたり、傾いたりすると液体窒素が漏出する危険性や、容器が破損する恐れがあります。台車などに載せて運ぶ際も、ベルトやロープで固定して転倒対策をとる必要があります。
そして、エレベーターを使用して運搬する際にはさらに注意が必要です。エレベーターのような密室空間で万が一液体窒素が漏出すると一瞬で酸欠による窒息を引き起こすため、必ず、容器のみをエレベーターに搬入し、エレベーターへの搬入者、目的階での搬出者など、2名以上で協力して運搬してください。液体窒素が入った容器と人間は絶対に同乗してはいけません。また、途中の階で人が乗ってこないよう、「窒素運搬中、立ち入り禁止」の旨をわかるように明示する必要があります。
漫画の3コマ目では、厳重に封印された液体窒素が「どんっ」と登場しますが、エレベーターに乗ろうとして扉があいた時、台車に固定された液体窒素の容器に遭遇すると結構ぎょっとします。まるで封印された神を運ぶかのような扱いですが、これは決して大げさな話ではありません。
実際、液体窒素の運搬には細心の注意が必要ですし、その「力」を軽視すると事故につながる可能性があります。封印された神のように、「荒ぶらせない」「静かに、慎重に」運ぶことが重要なのです。
液体窒素は身近な寒剤ですが、慎重な取り扱いが求められ、安全ルールを守ることが不可欠です。「知識として知っている」のと、「実際に安全に扱える」のは違います。今回の漫画のように、ふとしたところに潜む「危険の神々」を適切に封じ込めながら、安全に研究を進めていきたいものですね。