LINE公式アカウントから最新記事の情報を受け取ろう!
バイオ系研究所で働くテクニシャン(技術員)でありながら漫画家として活躍するAyaneさんによる「ラボりだな日々」(※ラボりだ…ラボから離脱すること。ラボから帰ることの意を持つ造語)
第3回目は、危険な「液体窒素」に関しての注意喚起マンガ。約-196℃という低温のため凍傷などの症状を引き起こす可能性がある液体窒素ですが、その危険性は「冷たい」以外にもあります。
液体窒素とは、液体の状態にある窒素のことで、液化窒素とも呼ばれています(liquid nitrogen)。常圧での沸点が-196℃という極低温の無色透明の液体で、安価で比較的取り扱いやすい寒剤として様々な用途で使用されています。
バイオ系の研究でも培養細胞株や生体試料などの生物学的サンプルの凍結保存に使用されており、個人的にもとても身近な実験材料の1つです。
医療現場でのいぼ治療や食品の輸送・保存など生活に根付いた部分で使用されている一方、最近は科学館などで開催されているサイエンスショーなどエンターテイメントの現場でもよく取り上げられています。
手軽に極低温が得られる便利で面白い寒剤…ではあるのですが、液体窒素は決して安全なものではなく、取り扱いには注意が必要です。
第1のリスクは「極低温」です。温度が非常に低いので、生体組織に付着すると凍傷を引き起こす危険性があります。液体窒素をタンクから容器に移すときなどは、皮手袋を装着し、直接液体窒素へ触れてはいけません。
第2のリスクは、実は凍傷よりも恐ろしいと言われている液体窒素による「酸欠・窒息」です。液体窒素は簡単に気化し、体積が約700倍に膨張するとされています。窒素の比重は空気に近いため、気化した窒素が充満することにより、周囲の酸素濃度が低下し、酸欠・窒息を招くリスクがあります。特に密閉された室内では非常に危険であるため、酸素濃度計を設置し、換気扇を稼働させて換気を意識しながら作業する必要があります。
日本語の「窒素」という名前はドイツ語のStickstoff(窒息させる物質)に由来するのですが、名が体を表していますよね。
研究施設において実験で液体窒素を取り扱う場合は、液体窒素取り扱い講習会の受講が義務付けられています。私も当然受講していますし、異動などで別の実験施設へ移るだけの場合でも、施設ごとに講習会を受けなおさないといけない場合が多いです。過去に死亡者が出る事故が起こったことがあるため、液体窒素の取り扱いについてはかなり厳しく管理されています。
毎日身近に使用していると危険性を忘れて、粗雑に扱ってしまいがちになりますが、そういう時に限って大きな事故が起こるので、気を引き締めていかねばなりません。
研究は面白い!けれど、実験は時に本当に「危険」と隣り合わせなので、気を付けていきましょうね!