専門的な知識と経験が必要な「論文の査読」。重要なお仕事ですがまさかの「無償」?|研究所で働く漫画家兼テクニシャンが送る4コマ『ラボりだな日々』第10話

2024.09.30

バイオ系研究所で働くテクニシャン(技術員)でありながら漫画家として活躍するAyaneアヤネさんによる「ラボりだな日々」(※ラボりだ…ラボから離脱すること。ラボから帰ることの意を持つ造語)。

第10回のテーマは「SADOKUはMUSYOU」です。

論文が世に出るまで

こんにちは!

今回のお話は「SADOKUはMUSYOU」でした。4コマを描くときに、ふっと浮かんできたこのタイトル…どこから来た?と思っていましたが「ノックは無用!」(関西テレビのトーク番組)でした…

 

科学的な新しい発見がなされると、それは「論文」という形にまとめられ、学術誌等に掲載されて発表されます。論文が発表されたこと自体はニュースにも報じられたりしますが、実際、研究者の研究結果が論文になるまでにどのようなプロセスを経るのかは、研究関係者以外にはあまり知られていないのではないでしょうか?私も今の仕事に就くまではよくわかっていなかったこともあり、今回改めて、漫画のテーマとして選んでみました。

 

昨今は様々なタイプの学術誌や掲載方式が増えてきており、査読がなく掲載されるケースもありますが、今回は査読付き論文のプロセスについてお話ししようと思います。私が知る限りのお話ですので、もし雑誌や分野よっては違うところがあった場合はごめんなさい。

 

まず最初に「査読付き論文」とは何なのかを説明します。

学術誌に掲載される前に、同じ分野の専門家たちが内容を精査し、信頼に足るものかどうかを確認した論文のことです。

論文を書くことは、研究者にとって日々の研究成果を発表する手段です。しかし、研究成果を発表するためには、ただ書くだけではなく、学術誌に「論文」という形で掲載されねばなりません。漫画のポスドクさんが言うように、査読の結果、論文に対する修正要求(リバイス)が来ることがあります。この修正要求(リバイス)を受けることは、多くの研究者にとってプレッシャーであり、どのような内容のものが返ってくるかドキドキです。もちろん、それ以上に緊張を与えるのは「不採用(リジェクト)」ですが…

 

次に、論文を学術誌に投稿するというプロセスについて見てみましょう。

研究者は掲載を希望する学術誌に合わせたフォーマットで研究内容を論文形式にまとめ、学術誌へ投稿します。投稿された論文はまず雑誌の編集者のチェックを受け、その後、選定された査読者(レビュワー)である同じ、もしくは近い領域で活躍している研究者によって厳密に審査されます。これが査読です。査読者は、論文が正しいかどうか、実験や解析が正確か、論理に破綻がないかなど、厳しく確認します。査読は学術誌に掲載される論文の科学的な信頼性を保つという意味でも非常に重要なプロセスとなります。そのまま、採用(アクセプト)となることは少なく、多くの論文は査読の結果、その後、修正要求(リバイス)もしくは不採用(リジェクト)のルートへ進みます。

ほとんどが「無償」の驚き

さて、ここで漫画でもAyaneがとても驚いていた事実…査読は、査読者たちが「無償」で行っていることがほとんどなのです。漫画でAyaneが「専門家の知識と経験をフル稼働する査読…さぞかし良いお値段のお仕事なんでしょうなあ」と下世話なことを言っていますが、これは大きな誤解であり、ポスドクさんの「無償だけど?」という一言が全てを物語っています。Ayaneも「嘘やろー?」と驚いていましたが、査読者は自分自身も忙しい研究生活の合間を縫って、査読のために無償で時間を割いているのです。

 

査読が無償で行われている理由は査読の公平性の担保などがいくつかあげられています。何度も言いますが、科学論文の査読プロセスは、研究の信頼性を保つための非常に重要な役割を、論文の行く末を決める非常に重い作業となります(場合によっては投稿者の命運を決めるときもある)。最初、無償だと聞いたときは不思議な気持ちになったものですが、やはり有償化しては?という議論もなされているようです。

 

研究者が自身の研究を論文として発表するために投稿者として学術誌に論文掲載料を支払っていること、そして査読付き論文の科学的な内容の審査を行う査読は研究者が無償で行っていることを知ったとき、一般的な目線からみると、私と同様に少し不思議な気持ちになるのではないでしょうか?(新しい発見をした研究者自身には何もないのか…など)。このような研究者にとっては当たり前だけど、一般の人にはあまり知られていないこともだんだんと知ってもらい、どんな感想を持つかきいてみたいですね!

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【著者紹介】Ayane

サイエンスコミックライター(漫画家、イラストレーター)
日本にある某生命科学研究所でテクニシャンとして勤務しながら、Science X Manga X Kawaiiをテーマに漫画を描くサイエンスコミックライターとして活動させていただいております!