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みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、なんとびっくり!生物を生きたまま透明化することに成功した、というニュースだよ!安全性の高い「タートラジン」を塗るだけであり、除去も簡単なんだよね!
しかも、成功した物質は身近にあり、しかも理論的なヒントは100年近く前にあったのに、今まで誰も気づいていなかったんだよね。こう考えるとびっくりだよね。
今のところ、マウスでしか成功していないものの、外科手術や特別な機器なしに透明化ができると言うのは、応用の幅が広そうだよね!これは期待できる研究だと思うんだよね。
なお、今回は研究の性質上、説明の途中でマウスの内臓組織が見える写真が掲載されているので、そういったものが苦手な方は閲覧注意だよ。
肝臓に赤血球を集めて透明化!「ガラスガエル」の透明化の原理が判明
CONTENTS
私たちが物体を視認できるのは、その物体から放たれた光を見ているからだよ。物体の中には、水やガラスのように色が付いていないものもある訳だけど、私たちはこれも見ることができるよね?その理由の1つは屈折率の違いだよ。
光は密度の異なる物質を通過すると、光の経路が曲げられる屈折が発生するよ。光の経路が何もない状態から変化し、光の屈折・反射・散乱が起きることが、私たちが水やガラスのような物体を視認できる理由の1つだよ。
屈折率は、物質の密度の違いによって決まるので、密度が近い同士ではあまり屈折が起きなくなるので、まるでそこに何もないかのように透明となってしまうよ。なので水中にあるガラスは、空気中にあるガラスよりも見えにくくなるよ。
この性質を利用したのが、クラゲやレプトケファルス (透明な魚の幼体) なんだよね。身体のほとんどが水分でできており、あまり不透明な物質を身体に持たないようにすることで、水中での透明化を実現しているんだよね。
ただ、生物の身体を作っている物質で、この組み合わせが実現するのはめったにないよ。また、普通の生体組織はガラスのように均一ではなく、様々な複雑な構造を持っているので、わずかな屈折率でも光の反射や散乱を引き起こすよ。
なので、大半の生物は透明じゃないんだよね。皮膚や筋肉が透明じゃないのは、色が付いている物質があるという理由の他に、根本的には分厚くて複雑な組織構造を持っており、それぞれ屈折率が違うから、というのが関係してくるよ。
では、仮に何らかの方法で、各組織の屈折率を近づけたらどうなるのか?それならば確かに組織が透明化し、向こう側まで見通せる可能性があるんだよね。実はこれ、相当古いSF小説に、そのような示唆があるよ。
H. G. ウェルズ (1866 - 1946) が1897年に記した有名なSF小説『透明人間』では、生物の細胞の屈折率を、空気の屈折率と一致させる特殊な血清を打つことで自身の身体を透明化した、優生思想を持つ科学者が起こす事件を描いているよ。
まぁ密度が固体よりはるかに低い空気と屈折率を一致させる物質はこの世に存在しないので、これはあくまでSFなんだよね。ただ、生体組織の透明化自体が部分的にも不可能かと言えば、実はそうでもなかったのが、127年後に証明されたよ!
身近な食品添加物である「タートラジン」の水溶液を塗ると、濃いほど透明化することがわかったよ!例えば鶏肉に塗れば、濃いほど後ろ側に書かれたStanfordの文字が透けて見えるよ! (画像引用元番号: ②③⑨⑩)
スタンフォード大学のZihao Ou氏らの研究チームは、『透明人間』から127年経った2024年になって、驚きの研究結果を発表したよ。食品添加物にも使われる一般的な物質を使って、なんと生きたマウスの皮膚を透明化することに成功したと発表したんだよね!
透明化に成功したカギとなる物質は「タートラジン」だよ。「黄色4号」[注1]とも呼ばれるこの物質は、名前の通り黄色い色素で、カレーやスナック菓子などにも使われるくらい安全性の高い物質だよ。
まずは実験内容を説明するね。やっていることは簡単で、ある程度の濃度にしたタートラジン水溶液を生体組織に塗り、十分に染み込むまで待つだけなんだよね。十分な浸透には数分かかるよ。
最初の実験では、薄切りにした鶏肉をタートラジン水溶液に浸したよ。すると、タートラジンの濃度が高いほど、オレンジ色に染まるものの、透明感は強くなり、後ろに置いた文字が見えるほどになったんだよね!
これが成功したので、次は生きたマウスで実験を行ったよ。毛を剃って皮膚をむき出しにした部分に、タートラジンを塗ってみたよ。すると驚くべきことに、皮膚を透かしてその下の組織が容易に観察できたんだよね!
例えば頭部に塗れば、脳に走る血管が見えるよ。腹部に塗れば内臓が見え、盲腸の蠕動運動や、呼吸や脈拍の動きが観察できたよ。脚に塗れば、筋肉組織の細かい構造を容易に観察できたよ!
これらの生体組織の透明化を戻すのは簡単で、単に洗い流すだけで元に戻せるよ。染み込んだタートラジンは少し残ってしまう場合もあるけど、残存したタートラジンも、48時間以内に通常の排泄プロセスでちゃんと外に出てくるよ。
このタートラジンを使った生体組織の透明化は、今までの方法では不可能だった課題をいくつもクリアしているスゴい方法なんだけど、そのスゴさについては後で詳しく説明するね。
さて、ここまで実験結果を見てきたわけだけど、なぜこんな生体組織の透明化ができたんだろうね?タートラジンは黄色の着色料として使われる以上、当然ながら不透明な物質であり、直観的には矛盾しているよね?
ところが、ちょっと難しいながらもこの理由はちゃんと説明ができるよ。これは1926年と1927年にそれぞれ独立して導かれた「クラマース・クローニッヒの関係式」という、光学に関連した数学的法則が関係しているよ。
数学的な背景は複素数の絡む複雑な計算なので割愛するけど、その物質がどの波長の光を吸収しやすいかによって、別の波長の光はどのような屈折率を取るのか、という関係性を、この関係式は表しているんだよね。
タートラジンは黄色なことからも分かる通り、その水溶液は黄色の反対色である青色 (428nm) の光を吸収しやすいよ。その一方で、オレンジ色や赤色 (約600nm以上) の光はほとんど吸収しないんだよね。
この性質をクラマース・クローニッヒの関係式に当てはめると、濃度の高いタートラジン水溶液であるほど、赤色の光の屈折率は全ての組織で同じ値になる、ということが示せるんだよね!これは、異なる組織同士でバラバラの屈折率だったのが、赤色の光に対して一致するようになるからだよ。
水中のガラスが見えにくいように、屈折率が似ている物質同士では光の散乱が抑えられ透明化する。これが、タートラジンによって生きたマウスの皮膚が透明化し、その下側の内臓などが見えるようになった理由なんだよね!
タネが分かればそこまでSFでも魔法でもない話なんだけど、ほぼ100年間、誰もこれに気づかなかったんだよね。光学に関するガチガチの数学が、医学や生物学と結びつくなんて思いもしなかった、というところだと思うんだよ。
実は、タートラジンによる今回の発見以前にも、生体組織の透明化自体は実現していたんだよね。例えば有名な方法だと、グリセロール、糖、酢酸などの水溶液を使うと、生体組織は透明化するよ。
ただ、これらの物質はかなり高濃度でないと生体組織を透明化しないのよね。そんなのを生きた生物に使えば、細胞の脱水や炎症など、明らかに有害な作用が生じちゃうんだよね。
あるいは、光の散乱の一番の原因である脂質などを取り除けば、やはり生体組織は透明化するけど、それをするなら最初から解剖すればいいじゃないという話で、これもいい方法とは言えないんだよね。
結局のところ、これまでに発見されていた生体組織の透明化は、生きた生物の組織ではできず、死んだ生物の組織でのみできる話だったんだよね。死んでいるならそんな方法をしなくても解剖すれば済む話なので、ニーズが無かったんだよね。
しかし今回のタートラジンを使う方法は、今までの問題をいくつも解決しているよ。今回使ったタートラジン水溶液は、かなり低濃度でも屈折率を生体組織に近づけられるので、有害な作用が出てくるリスクは低いと予測できるんだよね。
今回試した水溶液の最大濃度 (0.78M) は、害が出ないと推定される濃度で設定した、かなり安全側に倒した判断なんだけど、それでも十分に透明化することを示したんだよね。これはグリセロールなどによる方法では決してできないよ。
食品添加物として多用されているので、タートラジンの調達は容易だし、水溶液を作って浸透するまで数分待つというのも、かなり方法としては簡単だね。そして、洗い流せば直ちに透明感が無くなるという処理の簡単さも利点になるよ。
さすがに、一度の洗浄で完全には落ちきらない場合もあるけど、それも身体の代謝プロセスで速やかに排出されるので、永続的に残るものでもないんだよね。安全な物質で可逆的に組織の透明化ができるので、生きた生物に使っても問題がない。これが今回の発見のスゴい所なんだよね。
今回の方法は人体には試していないし、安全に実行できるかどうかも未知数だけど、恐らく前向きに研究されるんじゃないかな?また仮に人体に仕えたとしても、残念ながら『透明人間』は難しいと思うよ。 (画像引用元番号: ④⑤)
今のところ、生きたマウスで透明化が実現したんだけど、ヒトでも同じ生体組織の透明化ができるのかは分からないよ。まず、ヒトの皮膚はマウスの10倍くらい厚いので、タートラジン水溶液が十分に染み込むかは分からないんだよね。
また、タートラジンが安全と言っても、それは食べたりする場合の話。皮膚を透明化するために水溶液を染み込ませても安全かどうかは検証されてないので、実験自体が行われていないんだよね。
アメリカ国立科学財団は鶏肉で今回の実験を試す方法を紹介しているけど、安全性が未知な以上、今は素人判断でヒトの実験をしてはダメなんだよね。これは研究者の続報を待ちたいところだよ。
とはいえ、この方法がヒトでも使える可能性があるかないかで言えば、あると私は考えているよ。もしタートラジンによってヒトの皮膚も透明化できるなら、これは医療分野において革新的とも言えるよ!
例えば注射や採血をする時に、人によっては血管が見えづらいけど、皮膚が透明化すれば、血管を容易に透かして見ることができるので、狙いやすくなるということが考えられるよ。
また、生きたまま生体組織を見られるので、筋肉・血管・神経・内臓などの動きをリアルタイムで動画撮影し、顕微鏡観察をすることができるというわけで、生物学の研究で非常に役に立つはずだよ。
さらに、今回の実験では表面への塗布だけど、鶏肉を通じて筋肉にも使えることが分かっているので、例えば注射によって皮膚よりかなり下にある組織まで透明化することも期待できるよ。
そのような深部への注射がリスクなしにできるかは分からないけど、狩りにできるならば、奥深くにある内臓を直接的に観察できる。そんなこともできる可能性は十分にあるんだよね。
従来これを行うには外科的に切り開くか、副作用のあるX線、高価な機材であるMRI、不鮮明な超音波を使うか……のように、必ずしもメリットばかりではない方法で行っていた、ということと比較すれば、そのスゴいがわかるよね。
なのでこの方法は、私自身かなり期待を寄せているよ!ヒトでも使えるとなれば、医学や生物学においてこの方法を使った研究や医療現場での応用が楽しみになってくるんだよね!
オスカー・ワイルド (1854-1900) は1899年に記した随筆で「life imitating art」と述べたと言われているよ。ちゃんとした訳は「人生は芸術を模倣する」という言葉だけど、ではあえて「life」を「生命」と訳したらどうだろう?
「生命は芸術を模倣する」なんてことがあるのだろうか?ところが今回のタートラジンによる透明化は、H. G. ウェルズの『透明人間』で出てきた、屈折率を調整する特殊な血清とかなり似ているよね?
まさに、「生命は芸術を模倣する」、そんなことが起きたと思えるような内容なんだよね。あるいは「事実は小説より奇なり」という別の言葉が浮かぶね。
なおついでに言えば、タートラジンを使って『透明マウス』ができるかと言えば、ちょっとそれはムリかな。タートラジンによる透明化はオレンジ色を帯びるという意味もあるけど、何より試したのが皮膚や筋肉などの軟組織なんだよね。
仮に身体の中まで透明化することができたとしても、骨という浸透しにくい硬組織まで透明化するのかは未知数なんだよね。残念ながら全身の完全な透明化は、もう少し先になりそうだよ。
[注1] 黄色4号
ややこしいですが、黄色4号は英語では「Yellow No.5」と呼ばれています。 本文に戻る
<原著論文>
<参考文献>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)