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透明標本(透明骨格二重染色標本)は、魚類を中心とした小型動物を対象に、系統分類学、解剖学、発生学等の様々な分野で活用されている。
近年は小型動物の骨格を見ることができる美術作品としての需要も高まり、水族館の企画展で見ることができたり、デパートで販売されていたりする。赤色と青色に染められた動物の骨格を見たことがある人は多いのではないだろうか?
今回はそんな透明標本をカラカラに乾燥させてみたという記事だ。
CONTENTS
透明標本は必要な薬品を揃えることができれば誰でも作ることができ、透明標本を生業にしている人もいる。(私が博物ふぇすてぃばるに参加した時も、いくつかのサークルが透明標本を販売していた。)
しかし、薬品は高価で毒性があるものもあり、またそれなりに制作に時間がかかる場合(1ヶ月以上)もあるので、透明標本を作るのは簡単なようで簡単ではない。私は学生時代に所属していた研究室が、結構透明標本を作るところだったので、何回か作らせてもらったことがある。
透明標本は今やインターネット検索で作り方を知ることができ、改良されて様々な方法が掲載されている。
一般的には、
標本をホルマリンで固定
↓
鱗や内臓を取り除きホルマリンを抜くために水洗(内臓を観察したい場合は残す)
↓
過酸化水素水で脱色(漂白)&水洗
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アルシアンブルー溶液で軟骨を青色に染色
↓
エタノールで脱水
↓
水酸化カリウム溶液やトリプシン混合液などで筋肉を透明化
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アリザリンレッドS溶液で硬骨を赤色に染色
↓
水酸化カリウム溶液で余分な染色液を落としエタノールでさらに脱水
↓
キシレンで脱脂
↓
エタノールでキシレンを除去
↓
グリセリン置換を数回行い、防腐剤としてチモールを加える
↓
瓶詰めして完成!
という流れになる。
透明標本はホルマリン固定や透明化の過程で数週間~と結構時間がかかるのだが、基本的に浸す溶液を移し替えていくだけなので、肉を剥いで漂白してバラバラにしてから組み立てる通常の骨格標本のことを思うと、より自然な骨格を観察しやすいという利点がある。
一方、透明標本自体は結構ふにゃふにゃになってしまっているので、グリセリンの中に入れた状態で観察する必要がある(樹脂に封入すればグリセリンに入れなくても観察できると思う)。
透明標本がどのくらいふにゃふにゃしているのかについては、私のアップロードしたYouTube動画を見て欲しい。
透明標本は大型の標本は透明化の処理が難しいので、小型標本に限られる。うーむ、骨格を観察するのに、透明標本か骨格標本かは一長一短だ。
マンボウ類の稚魚を透明標本にして骨格を観察した研究例はいくつかあるが、水族館などで泳いでいる、いわゆるTheマンボウ型の形態になった状態での透明標本は見たことが無い。マンボウ型の小型個体が入手しづらいのもある。
ちなみに、私はマンボウの鰭の軟条を透明標本化したことがある。マンボウの体は水分が多く、本当に硬骨魚類か?と疑うこともあったが、二重染色を行うと、ちゃんと硬骨に反応するアリザリンレッドSで赤色に染まってくれたので、ちゃんとした硬骨魚類だ。
さて、私が学生の頃に作った透明標本。長らく持ち歩いて来たのだが、大学を卒業するタイミングでもういらないかなと思うようになり、破棄しようと考えた。
そのままでは捨てられないので、天日干ししてカラカラにしてから破棄しようと思い、キムワイプの上に置いた。確かモツゴの透明標本だったように思う。グリセリンから出した時点では、先述の動画のように標本は結構ぷるぷるしている。私はこの透明標本が乾燥すると、透明感が失われ、白濁するものと思っていた。
しかし、1週間天日干しした結果、衝撃の姿になっていた。
なんと私の予想に反して白濁することもなく、筋肉は透明なまま干乾びていたのである! セロファンみたいにペラペラ。ビックリした。乾燥後の動画も撮っていたので是非見て頂きたい。
これはちょっとしたトリビアである。透明標本は乾燥しても筋肉は透明なままでペラペラになるのだ。しかし、乾燥した状態では透明感が薄れているので、骨格の観察にはあまり適さないと思われる。透明標本は数種の魚類で作り、カワハギなども乾燥させたのだが、同じようにセロファンみたいにペラペラになっていた。
苦労して作った透明標本をわざわざ乾燥させる人はいないみたいで、インターネットでも透明標本の乾燥した姿は画像として出てこなかった。と言うことは、私が初めての実験者になるのだろうか……?
手間かかる
透明標本
天日干し
透明なまま
ペラペラになるや