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(画像引用元番号①②③)
みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、 "足場" を組んで大きな軟骨の塊を人工的に作る研究だよ!
細胞を培養して臓器を新たに作る「再生医療」の分野において、難題の1つとして挙げられているのは、大きな細胞の塊を安定して作成し、機能を持たせることだよ。
今回の研究では、細胞が増殖して立体的な形状を作るのにあたって、その補助となる足場を3Dプリンターで作成し、融合させる研究を行ったよ!
結果として、これまでうまくくっつかなかった細胞同士の塊が、隙間や仕切りが生じずにくっつくようになったよ!
今回の研究は、機能する細胞の塊である人工的な臓器を作るという、長年の課題について大きなステップを踏んだと言える研究だよ!
CONTENTS
人間の臓器のほとんどは、小さな損傷なら再生するけど、大きな損傷は再生できないよ。これまでその損傷を回復するすべは、自分や他の人の臓器を移植する以外に方法はなかったよ。
これは数が限られるうえに拒絶反応などのリスクがあるよね。そこで最近は「再生医療」という、臓器を直接合成して移植するという手段の実用化が研究されているよ。
人工的に臓器を作るには、細胞を培養して適切な形へと成形し、それを移植するという方法になるよ。この方法の実用化には、作りたい細胞を作る方法や立体的な形状にするなど、複数の困難な点があるよ。
作りたい細胞を作るには、別の細胞に変化する能力を持つ幹細胞から作る必要があるよ。この分野の研究では、ノーベル賞にもなった「iPS細胞 (人工多能性幹細胞)」[注1]がよく知られているよね。
iPS細胞は自分自身の体細胞から作れるので、受精卵を使う時のような倫理的問題が少なく、拒絶反応のリスクも最小限に抑えられるよ。その作成方法や、作りたい細胞に誘導する方法もどんどん洗練されているよ。
また、変化する種類が限定される幹細胞ならば、限定的な代わりに採集や培養が容易だったりするので、こちらの幹細胞から培養して作成する、という研究も良く行われているよ。
なので、作りたい細胞を作り出し、それを培養することはかなり研究が進んでおり、この部分については実用化を阻む問題は年々減りつつあるよ。
一方で、作りたい臓器を作るという部分、これがめっちゃ難題なんだよね。一般的に、細胞を取り出して培養しても、単に丸っこい塊「スフェロイド」ができるだけで、それは臓器として機能しないし、かなり小さいよ。
臓器としての機能を持たせるには、そして何よりカスタマイズされた形で移植するには、細胞の立体的な配置が適切、かつ大きな塊になってくれることが大事になってくるわけだよ。
狙った形にすると言ってもどう誘導するのか?がものすごく難題で、培養する過程で狙った形状以外に変化したり、大きさが縮小したりするなどが起きたりするのよね。だからこそ実用化がまだまだ先なんだよね。
ウィーン工科大学のOliver Kopinski-Grünwald氏などの研究チームは、再生しない臓器の1つである「軟骨」について、その立体形状をどのように制御するのかの研究を行っているよ。
軟骨も、立体形状を作り出すのに難題を書かれている臓器の1つだよ。先述した通り、単に軟骨細胞を培養しても、スフェロイドを作るだけで、大きな軟骨の塊になってくれないんだよね。
スフェロイドをくっつけられれば、理屈上は自由な形状の軟骨を作れるわけだけど、実際にはスフェロイドの外側にしきりとなる境界面 (細胞外マトリックス) が形成されて、お互いがくっつかなくなってしまうよ。
よって、これらをくっつけるような工夫が必要な訳。Kopinski-Grünwald氏らは、軟骨細胞が好きな形にまとまるように、まずは "足場" を組むことにしたよ。
この足場は中身のないサッカーボールのような形状[注2]で、直径は3分の1mmほどだよ。その中に軟骨細胞へと変化する幹細胞を入れると、中で増殖して足場の中を満たすよ。
足場は「PCL (ポリカプロラクトン)」というプラスチックでできているよ。これは人体になじむだけでなく、生分解性を持つので、体内に入れると徐々に分解して無くなるよ。
つまり、PCL製の足場を好きな形に並べ、中に幹細胞を入れることで、足場の形に合わせた軟骨組織ができるというわけ!では、本当にこのアイデアは実現できるのかな?
Kopinski-Grünwald氏らは以前、こういう足場の中で細胞を培養すると、足場と融合したスフェロイドを作れることを示しているよ。なので今回は、こういうスフェロイドが安定して融合するかどうかを調べることにしたよ。
今回の研究では、光に反応するPCLを使って、3Dプリンターで足場を作成し、その中に軟骨細胞へと変化する幹細胞を入れたよ。変化を見やすくするため、幹細胞には緑色に蛍光するタンパク質[注3]が入れられているよ。
通常のスフェロイドは、隣り合っていてもうまく融合しない場合もあるけど、足場スフェロイドはきちんと融合したよ。その違いは、足場スフェロイドでは細胞の移動があるからと考えられるよ。 (画像引用元番号①⑩⑪)
培養実験を行った結果、異なる足場の中で形成された、軟骨細胞によるスフェロイド同士がきちんと融合したよ!これはこれまで境界面ができていたのとは異なる状態だよ!
実験ではウィーン工科大学を意味する「TU」の形状に組んだ足場を試したけど、自然環境ではおよそあり得ない形状であっても、軟骨細胞は一塊となってくれたんだよね!
どうしてお互いがくっつくのかを調べてみると、どうやら接触したスフェロイド同士で細胞の行き来があった絡みたいだよ。さらに、スフェロイドの融合は、細胞の成熟度とは関係なく起こっていることも分かったよ。
細胞がある程度成熟するとくっつかなくなる、という問題は、軟骨組織を組み立てる時だけでなく、移植する段階でも問題となることから、追加の課題解決はかなり大きいよね!
Kopinski-Grünwald氏らは、細胞の培養で組織を作るこれまでの研究と比べると性質が異なることから、今回作り出されたスフェロイドを「足場スフェロイド (scaffolded spheroid)」と呼ぶことを提案しているよ。
今のところ、この研究は再生医療の実用化に関する大きなステップを踏んだと言えるけど、実用化にはまだまだ課題があるよ。例えば、今回合成できた軟骨組織は小さなサイズである、という点だよ。
より大きな損傷に対応するには、軟骨組織もそれだけ大きくなるわけだから、じゃあそれに見合ったサイズを作れるのか、は大きな課題になってくるよね。
また、軟骨以外の骨組織や、あるいは一般的な臓器を作り出すには、相変わらず課題があるよ。大きな違いの1つとして、これらの組織には血管があるので、適切な配置が必要になってくるからね。
いずれにしても今回の研究は、損傷した軟骨に培養した軟骨を挿入し、融合させるという再生医療に大きなステップを踏んだのが今回の研究と言えるよ!
[注1] iPS細胞 本文に戻る
iPS細胞 (人工多能性幹細胞) は皮膚などの体細胞から作り出せ、あらゆる種類の細胞へと変化できる分化万能性を持つ幹細胞です。従来の分化万能性幹細胞は、ES細胞 (胚性幹細胞) のように受精卵を原料としており、母体から採集するという方法のリスクや、 "いずれ1人のヒトとなり得る可能性を持つ生命の源を潰している" という意味で倫理的な問題を抱えていましたが、iPS細胞はどの細胞からも作れるために、これらの問題が解決します。iPS細胞の作製にまつわる研究で、山中伸弥 (1962 - ) は2012年にノーベル生理学・医学賞を授与されています。
[注2] 中身のないサッカーボールのような形状 本文に戻る
数学的に言えば「切頂二十面体」の辺だけで構成された立体のことを指します。化学におけるフラーレンのような構造でもあります。
[注3] 緑色に蛍光するタンパク質 本文に戻る
オワンクラゲから単離された「緑色蛍光タンパク質」は、細胞やタンパク質、遺伝子などを追跡するために生物学で良く使われるタンパク質です。これの発見に関わった下村脩 (1928 - 2018) は2008年にノーベル化学賞を授与されています。
<原著論文>
<参考文献>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)
足場スフェロイドの1つの球: プレスリリースより
TUの形になった足場スフェロイド: プレスリリースより
3Dプリンターで作成されたPCL製の足場: プレスリリースより
iPS細胞のイラスト: いらすとやより
体細胞のイラスト: いらすとやより
細胞の塊のイラスト: いらすとやより
心臓のイラスト: いらすとやより
骨のイラスト: いらすとやより
通常のスフェロイドと足場スフェロイドの融合の様子: 原著論文Fig 5 D&Fより
蛍光によって追跡された足場スフェロイドの細胞の移動: 原著論文Fig 4 Aより