甘くてトロトロ……♡ チョコレートを科学せよ!

2024.02.14

 突然だが、2月14日と言えば何の日だろうか? 煮干しの日。ふんどしの日。予防接種の日など様々だ。だが、もっともメジャーなものといえば、何をおいてもバレンタインデーだろう。聖ヴァレンティヌスが若い男女の愛を尊重して命を落とした日だ。これを祈念して毎年2月14日が、世界中で様々な形で愛を伝え合うバレンタインデーであることは、今更言うまでもないだろう。

 日本でのバレンタインデーといえば、チョコレートだ。大切な人に思いを届けるためのチョコレートがスーパーやコンビニ、デパートなど至るところで販売されている。甘いもの好きの葉月には嬉しい時期だ。中には自分だけの想いを込めようと手作りに挑戦している方もおられるかもしれない。しかしながら実際にチョコレートを手作りすると何となくベタっとして白っぽいチョコレートになってしまう。これはなぜだろう?

 そこで今回は、おいしいチョコレートがどのように出来るのかを科学の視点で解説していく。

 

 

少し詳しく 〜チョコレートとテンパリング

 私たちが家庭でチョコレートを作る際、最も一般的な方法は湯煎ゆせんして融かしたチョコレートを、型に流し込んで冷やし固める方法だろう。

 しかしこれでは、なんだかベタっとした、あまり舌触りのよくないチョコレートになってしまう。しかしながら、プロのショコラティエや企業の販売しているチョコレートだって、人の作っているものだ。何かの工程が違うから、違う出来上がりになると考えるのが妥当だろう。

 それではプロのショコラティエや企業は、どのようにチョコレートを作っているのだろうか?

 工場で生産されているチョコレートの製造工程を見ながら考えてみよう。

 

 チョコレートの原料は、カカオの実から取り出した種子、いわゆるカカオ豆だ。カカオ豆は鮮度が重要なためカカオの実を収穫後、直ちに取り出される。これを発酵、乾燥させ──これ多分、農園とか卸売りの人がやる作業だな……。

 少し早送り!!

 カカオ豆は炒って香り引き出された後、砕かれ、り潰されることで粘り気のあるドロドロの状態になる。カカオ豆の半分以上は脂肪分だからだ。このドロドロになった状態をカカオマスという[注1][注2]

 カカオマスに砂糖やミルク、脂肪分などを加えて、よく練るとチョコレート特有の香りが際立つ。実は、これを冷やして固めるだけでも、チョコレートしては完成だ。しかしながら、これでは家で作ったベタっとしたチョコレートと同じである。

 そこで工場では、より完成度を上げるため、冷やし固める前にある工程を行なっている。

 30 ℃程度の温度を保ちながら、長い時間かけてゆっくりと攪拌かくはんするのだ。この操作をテンパリングという。

 このテンパリングこそ、家で作ったチョコレートと、プロの技術が作ったチョコレートの違いだ。テンパリングを行なうことで、チョコレートは舌触りの良い美味しいチョコレートになる。

 プロのショコラティエや企業の製品製造の工程には、テンパリングという段階が含まれているということが分かった。しかしながら、融かして冷やし固めただけのチョコレートとテンパリングを行なったチョコレートで一体何が違うのだろうか?

 続いてテンパリング中に起きる反応について解説していく。

 

 

さらに掘り下げ 〜テンパリングと結晶

 実はテンパリング中に何が起きているのかについては、明らかになっていない部分が多い。

 しかしながら、テンパリングの目的についてはハッキリとしている。結晶の均一化だ。

 どういうことだろう?

 

 結晶とは同じ原子や分子が、規則的に並んで出来た固体だ[注3]。しかしながら、その並べ方は必ずしも一つに決まっているわけではない。同じ大きさの立方体を並べていく場合を例に考えてみよう。

 

 まずは一つ目の立方体を置く。この立方体に、上下左右前後の面同士がピタッと密着するよう立方体を配置していく。これを続けていくと、さいの目切りのような状態になる。「立方体を規則的に並べてください」と頼んで、多くの人が最初に想像するのはおそらくこの形だろう。

 しかしながらこんな配置の仕方だってある。密着した面を一定の長さだけ上下左右にずらすのだ。全体としてはガタガタした見た目になってしまい、一見すると規則的に並んでいるようには見えない。しかしながら内部の立方体に注目すると、どの立方体も同じように隣接する立方体とくっついているのが分かる。

 

 このように同じ物質でありながら、違う構造の結晶を形成することを結晶多型という。結晶多型は、物体の性質を決める重要な要素であり、結晶の融点や密度などの性質は多型ごとに変化する[注4]

 チョコレートの場合、結晶化はカカオマスに含まれる脂質に由来する。チョコレートに含まれる脂質は、IいちVIろく型の6種類の結晶多型が確認されており、美味しいチョコレートに求められる結晶はV型の結晶だけだ。

 そのため、プロのショコラティエや企業はテンパリングによって、V型結晶を作ろうとしているというわけだ。

 

 テンパリングを通じて、美味しいチョコレートに必要なV型結晶が均一に形成されることが分かった。だが、V型結晶があるとなぜ美味しく感じるのだろうか?

 続いて、V型結晶が味の感じ方に与える影響について解説していく。

 

 

もっと専門的に 〜結晶とおいしさ

 そもそも美味しさとは何を感じているのだろうか?

「そんなの味に決まってるだろ?」と思われるかもしれない。しかし本当にそれだけだろうか?

 見た目や香り、食感や音など、美味しさを決める要素は多岐にわたる。それらの要素のうち、チョコレートの結晶が影響を与える要素は香り、そして食感だ。

 詳しく見ていこう。

 チョコレートは砂糖や牛乳などの味成分、カカオや添加物などの香気成分が、脂質の結晶に包まれた構造をしている。そのため、チョコレートの味や香りを味わうには、脂質の結晶が口腔内で融けている必要がある[注5]

 私たちの体温は36 ℃前後なので、脂質の結晶が融けるには融点が30 ℃程度より低い必要がある。VI型結晶以外の結晶の融点はいずれも体温よりも低いため、V型結晶があると味や香りを味わえるというわけだ。

 しかしながら、融点さえクリアすれば良いのであればV型結晶にこだわる必要もない気がする。実はV型結晶にこだわるもう一つの理由が、食感だ。

 チョコレートの食感といえばどんな感じを想像するだろう?

 嚙んだ時は適度な固さがあり、口の中に入れると飲むように溶けていく。そんなチョコレートが理想的だろう。

 これを実現するには、外気よりは高い融点かつ体温よりも低い融点という条件を満たしたうえで、結晶の粒子が小さい必要がある。これらの条件をすべて満たす結晶がV型結晶というわけだ[注6]

 

 ここまで、おいしいチョコレートがどのように出来るのかについて解説してきたが、いかがだっただろうか? 現在では甘いお菓子の定番となっているチョコレートだが、元々は料理に使うスパイスとして使われてきたという歴史があるらしい。チョコレートを使用した、メキシコ料理や様々なソースのレシピも見つかるので作ってみるのも良いかもしれない。

 最後に、記事の趣旨からは少し外れるが脂質に関する研究について2つ紹介して、記事を締めさせていただく。

 

 

ちょっとはみ出し 〜健康もおいしさも脂質から

良い脂質? 悪い脂質?

 脂質と聞くとどんなイメージだろうか? 健康に悪そう。あんまり摂りたくない。そんなイメージがあるかも知れない。しかしながら脂質は、タンパク質・炭水化物と並んで、私たちの体が問題なく働くために積極的に摂る必要のある三大栄養素の一つだ。一方で、哺乳類は脂質を生合成することが出来る。合成できる物質でありながら、栄養素、すなわち外部から取り込む必要があるとはどういうことだろう?

 脂質を構成する脂肪酸のうち、私たちが合成可能なのは実は一部の脂肪酸だけだ。外部から吸収しないといけない脂肪酸というものも存在する。それでは色んな脂肪酸を手当たり次第に摂れば良いのかというとそういうわけでもない。体に良い働きをする脂肪酸、逆に悪い働きをする脂肪酸というのが見つかっている。現在、脂肪酸の良し悪しがどのように決まるか研究されている最中だ。

おいしい脂質を作る……だけじゃない!

 トーストを焼いた際、皆さんは何を塗って食べるだろうか? ジャムやバター・マーガリンなどが一般的だろう。もしもこのバターやマーガリンがいつまで経っても融けずに固いままだったとしたら、どれだけ美味しいとしても使い続けたいと思えないだろう。バターやマーガリンには美味しさはもちろん、ある程度の熱で柔らかく塗りやすい形に変形するという特性が求められるのだ。

 求められる特性に応じた脂質をデザインして、作り出そうという研究がある。塗りやすいマーガリンや、形をしっかり維持出来るホイップクリームなど、食品用の脂質に限っても求められる特性は様々だ。そうした特性を備えた脂質は、どのような手法を使えば作り出す事ができるのかという試みだ。日々の食卓も、知らないうちに少しずつ華やかに快適になっていっているようだ。

参考文献

  • 中濱 信子ら. 『改定新版 おいしさのレオロジー』. アイ・ケイ コーポレーション.

  • 榊原 隆三ら. 『分子栄養学』. 建帛社.
  • 日本チョコレート工業協同組合
  • 佐藤 清隆. 『チョコレートのおいしさは何で決まるか?』. 熱帯農業研究 2022年 15 巻 2 号 122-123.
  • 本同 宏成. 『チョコレート油脂の結晶科学』. 日本調理科学会誌 2020年 53 巻 3 号 216-219.
  • 渡邊 慎平ら. 『チョコレートにおけるファットブルームの評価とその制御』. オレオサイエンス 2021年 21 巻 7 号 275-282.
  • 本同 宏成. 『脂質の物理的性質』. オレオサイエンス 2023年 23 巻 2 号 95-98.
  • 大学共同利用機関法人 高エネルギー加速器研究機構KEK
  • 菱川 大介. 『体に “良い ”脂質と “悪い ”脂質 ?』. 日本医科大学医学会雑誌 2023年 19 巻 4 号 343-344.

  • 山下 敦史. 『油脂加工技術』. オレオサイエンス 2023年 23 巻 6 号 334-337.

脚注

[注1] カカオマス以外にも私たちは、脂肪分を磨り潰して見える形にした食品をよく知っている。ごま油や菜種油などの植物油だ。植物油は磨り潰した材料を、圧搾機という機械を使ってギュッと押しつぶす事で油を搾り取る。通販サイトで調べたところ、手動の奴なら2万円しないくらいで買えるようだ。ご検討してはいかがだろうか? 葉月はいらない。 (本文へ戻る)

[注2] ココアはお好きだろうか? 葉月は大好きだ。実はココアを作るためのココアパウダーも、カカオマスから作られる。ココアケーキという、脂肪分を絞ったカカオマスを粉砕したものがココアパウダーだ。 (本文へ戻る)

[注3] 規則的に並んで出来た固体が結晶なら、規則的に並ばずに出来た固体も存在する。その状態の固体を、ガラスという。そう、私たちの身の回りにあるガラスは、液体や気体のように分子が好き勝手な向きを向いているのだ。それが日常生活にどう影響するかと言われると、多分何も影響しない。 (本文へ戻る)

[注4] 最もよく知られた結晶多型の例は、炭素Cの作る結晶だろう。黒鉛は導電性のある脆い物質だが、同じ炭素Cの単結晶であるダイヤモンドは、絶縁体であり同時に世界最硬の物質として知られる。 (本文へ戻る)

[注5] 目は光を受容する器官だ。それでは鼻や舌が何を受容する器官かちゃんと説明できるだろうか? 実は鼻や舌はどちらも化学物質を受容する器官だ。気化した化学物質の感覚を私たちは「匂い」といい、液状の化学物質の感覚を「味」と言っているのだ。 (本文へ戻る)

[注6] しかしながらV型結晶は、安定な結晶ではない。放置していたチョコレートが白い粉を吹いているのを見たことはないだろうか? 実はV型結晶を放置していると時間の経過とともに、安定なVI型結晶に転移してしまう。そのため、白くなったチョコレートはあまり美味しくないのだ。 (本文へ戻る)

 

【著者紹介】葉月 弐斗一

「サイエンスライター」兼「サイエンスイラストレーター」を自称する理科オタクのカッパ。「身近な疑問を科学で解き明かす」をモットーに、日々の生活の「ちょっと不思議」をすこしずつ深掘りしながら解説していきます。

【主な活動場所】 Twitter Pixiv

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