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みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の時々VTuber彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、ヒトが自然に見ることができない色「olo」の実現についてだよ。と言ってもこの研究のメインは“不自然”な色の実現ではなく、これを実現するために開発された技術「オズ」なんだよね。これは目の特定の細胞をリアルタイムで追跡し、適切にレーザーを照射するという、かなりスゴい技術だよ!
オズによる色覚の拡張は、ヒトに新しい色を見せるだけに留まらず、例えば1色の光でフルカラーを見せるとか、あるいは色覚異常の人に本来の色を見せるとか、かなり夢のある応用が考えられるんだよね!まだまだプロトタイプの技術なのでいささか時期尚早かもしれないけど、まさに“魔法”の技術と言えると思うんだよね!
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ヒトが周りの景色を認識するには、まずは光を目の細胞で受け止めないといけないよね。光を受け止める視細胞には「桿体細胞」と「錐体細胞」の2種類があって、特に色を見るためには錐体細胞が活躍するよ。そして錐体細胞は、最も敏感に感じる波長の違いから、さらに3種類に分けることができるよ。
3種類の錐体細胞は、最も敏感に感じる波長によって分類されていて、短い (short) ものを「S錐体」、中間 (middle) なものを「M錐体」、長い (long) ものを「L錐体」と呼んでいるよ。とはいえ、最も敏感に感じる波長の前後でも錐体細胞は反応するので、可視光線で1種類の錐体細胞のみが反応する波長というのは存在しないよ。
特に、3種類の中間であるM錐体が感じ取ることのできる光の波長は、S錐体やL錐体が感じ取ることのできる光の波長と完全に重複しているよ。なので、M錐体が感じることのできる光を受け取った場合、必然的にS錐体かL錐体のどちらか、またはその両方も、同時に感じ取っていることになるよ。
この反応する波長の重複の結果、例えばどんなに緑色の波長に光を調整したとしても、M錐体だけでなくS錐体やL錐体も反応してしまうことから、青色や赤色の反応がわずかに混ざってしまうことになるよ。この結果を端的に表現したものとして、“私たちは純粋な緑色を見ることができない”という表現があるんだよね。
ただ、純粋な緑色を見ることができないのは、あくまで自然な状態での話。もしM錐体だけを刺激できれば、理屈的には純粋な緑色が見えるはずなんだよね。とはいえ、3種類の錐体細胞はバラバラに密集しているので、ピンポイントで特定の種類の錐体細胞だけを刺激するのは、まぁ普通ならばムリと思えるよね。
でもこのムリに挑戦したのが、カリフォルニア大学バークレー校のJames Fong氏などの研究チームだよ。今回の実験では5人の被験者を対象に、後述する特定の錐体細胞だけにレーザーを照射する技術のプロトタイプを開発し、M錐体のみに特定波長のレーザー光を照射したんだよね。
照射した光は、全ての錐体細胞を刺激する488nmの光、及びS錐体をあまり刺激しない543nmで、1秒間に10万回程度の刺激を与えたよ。すると被験者は「ティール色」「緑色」「青緑色」「青を帯びた緑色」など表現方法こそ様々だけど、これまで経験したことがないほど彩度の高い緑色を感じたことを報告したんだよね!
彩度が高い緑色だとする根拠は、この色を見せる技術なしに近い色を出そうとすると、白色光を混ぜて彩度を下げないといけない、というところから確かめられたんだよね。また、わざとM錐体への照射を外すように設定するとこの色が見えなくなったことから、M錐体のみの刺激でこの色が見えていることが分かったんだよね!
Fong氏らは、このM錐体の刺激のみで見える色のことを「olo」と名付けたよ。L錐体・M錐体・S錐体のそれぞれが反応している強度が0・1・0であることを表してこう命名したんだよね。また、自然には見ることができない“純粋な緑色”を見せる技術であることから、この技術を「オズ」と名付けたんだよね。
おそらくピンとくる人もいるだろうけど、オズの名前の由来はもちろん『オズの魔法使い』から。そしてオズの魔法使いの作中には、文字通り緑色であるエメラルドの都が登場するよ。架空の緑色の世界を、自然には存在しない緑色であるoloに引っかけたのが、オズという技術の名前なんだよね。
今回のオズを開発した研究は、もちろんoloという自然には見られない緑色を見せたというわけじゃないよ。私から見ると、oloに関する話はデモンストレーションという意味合いが強い印象で、実際にはプロトタイプとはいえ、オズの技術そのものがスゴいと思うんだよね!
まず、錐体細胞の位置と種類を知らなければ話が始まらないので、補償光学光干渉断層計 (AO-OCT) で被験者1人あたり約1000個の錐体細胞の位置と種類を特定したよ。次に補償光学走査型レーザ検眼鏡 (AO-SLO) によって、錐体細胞を含む網膜を赤外線で画像化したんだよね。
これらはどちらも比較的新しい技術で、天文学において大気の揺らぎによる星の光のブレを補正する技術を、目の水晶体などで歪む光の補正に応用しているよ。こうすることで、比較的スピードが速く、かつ解像度の高い網膜の観察が可能になっているんだよね。
ただ、今回のオズに使われたAO-SLOは結構すごくて、1秒間に60回のレートで視細胞をリアルタイム追跡しているんだよね。これにより、M錐体だけを狙って1秒間に10万回レーザーを当てたいという状況に対し、眼球の非常に微妙な動きでも追跡できるようにしたんだよね!
これにより、間違いなくM錐体のみを刺激している状況が生まれ、自然には見ることのできないoloという色に繋がったわけ!
さて、Fong氏らはなぜこのような不思議な技術を作ったんだろう?実はoloの実験を行う前段階として行った実験では、特定の錐体細胞を刺激することで、本来なら緑色に感じる543nmのレーザーによって、オレンジ色や黄色、青緑色などを感じさせることができることを確かめているんだよね!
そもそも、錐体細胞は敏感に感じる波長があるにしても、それ以外の波長の光もある程度は感じるんだよね。ということは、全く同じ波長の光であっても、錐体細胞の種類によって感じる色が異なるというのは、ある意味で当然なんだけど、ここから面白い応用が思いつくよ。
現在の様々なディスプレイはフルカラーで物を表示するけど、細かく見ればこれは赤・緑・青の光を適度に混ぜて表現しているんだよね。しかし今回のオズの技術を使えば、例えば緑1色であってもフルカラーに感じるディスプレイを、少なくとも原理的には作れるんだよね。
ただ、これはもっと発展させることができるよ。oloのように本来なら認識できないはずの色を実際に見れているということは、錐体細胞が受ける“不自然な”刺激にも脳は上手く対応できているということなんだよね。ということは、自然には決して存在しない方向へと色覚を広げられる可能性があるよ。
例えば、普通の人は錐体細胞が3種類なので3色型色覚と呼ばれるけど、他の生物には4色型色覚や5色型色覚の生物がいるんだよね。オズの技術を使えば、遺伝子治療などのような他の方法に頼ることなしに、人の色覚が4色型や5色型に拡張する可能性すらもあるよ!
あるいは、L錐体またはM錐体に異常があり、赤と緑の区別が困難である赤緑色覚異常の人に対してオズの技術を使えば、正常な錐体細胞を刺激することで3色型色覚とかなり近い、あるいは全く同じ色を見られるようになる可能性すらもあるよ!できると証明されたわけではないけど、夢のあるお話だよね![注1]
ただ、今のところオズはプロトタイプであり、すぐに応用できるわけじゃないことに注意が必要だよ。今回のoloを見せる実験では、目線を固定した上で、視野の中心ではなく周辺、しかも狭い範囲で見せるようにしたんだよね。また、どうしても時々狙った錐体細胞に光が当たらないこともあり、結果が不安定な場面もあったよ。
錐体細胞が最も分布しており、モノがはっきり見えるのは目の中心、つまり視野の中心なので、できればそちらに応用されればいいんだけど、現在ではまだできてないよ。また、錐体細胞の分布は個人差が大きいので予め撮影が必要であり、これをリアルタイムで追跡する必要もあるなど、色々複雑な手順を踏んでいるよ。
現時点では、必要な技術的課題が大きすぎるので、オズの技術を応用したディスプレイやメガネを作るのはまだ難しいし、まして色覚を広げることや色覚異常の補助に使えるかは未知数だよ。ただ、技術的課題が多いと言えども、実現すればスゴい“魔法”の技術には違いないから、是非期待して見守りたい内容ではあるよね!
[注1] 色覚異常とオズ
論文本文では「赤緑色覚異常の人 (red-green colorblind person)」という表現が使用されているため、本記事ではこのように表現しました。筆者としては、錐体細胞を刺激する技術であるオズの場合、錐体細胞が1種類だけでもあればどのタイプの色覚異常でも対応可能であると推定できますが、明言されていないため本記事では注釈での私見に留めます。 本文に戻る
<原著論文>
<参考文献>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)