京都大学のワークショップで優秀賞を獲得した、バイオミメティクステーマの内容を公開!

2023.10.30

2023年9月19~21日に「京都大学サマーデザインスクール2023」というワークショップが京都大学にて開催されました。

京都大学サマーデザインスクールは、様々な分野からテーマを募り、集中型のワークショップを参加者と共に各チームで行うイベントです。「デザイン」と名づけられているように、デザイン思考に基づいてアイデアを発想していくワークショップとなっています。

僕は『バイオミメティクスを体験しよう 〜生物からモノづくりのヒントを得る技術の理解と習得〜』というテーマを実施代表者として企画し、ワークショップを実施しました。3日間でバイオミメティクスのインプットからグループワーク、ポスター発表によるアウトプットをチームで行いました。
今回はその内容や実施して感じたことをお話したいと思います!

 

ワークショップの内容

バイオミメティクスを学び、「今後の研究や仕事でバイオミメティクスを発想できること」を目標に内容を組みました。

ポスター発表を除くと実質ワークは2日間ですが、どうしたら楽しくバイオミメティクスを学べるかを考えに考え、共同実施者である株式会社奥村組の協力も得ながら準備してきました。

参加者は大学2回生から修士1回生までの6名。英語の教科書などで「バイオミメティクス」という名前は既に知っていた参加者たちでした。遠方から参加してくれた学生もいて、本当に感謝しかないです。

時間は十分あったので、以下の流れでがっつりワークショップを行いました。
1.バイオミメティクスの基礎的なレクチャー
2.関連する生物の観察
3.実際に活用された製品や技術の紹介
4.解決策提案型ワーク「生物から能力を見つけ、活かす課題を探す」
5.課題解決型ワーク「技術課題から解決策になりそうな生物を探す」

生物の観察では、若干恒例になりつつある「ハスの葉 撥水実験」を行いました。時期がぴったりなので丸々1枚の新鮮なハスの葉を人数分用意し、想像以上に水滴をきれいに弾くのを楽しんでもらいました。

他にも、マツボックリが閉じる挙動や、キンメダイの眼、ワタリガニの遊泳脚などを観察しました。

その後は、実際にバイオミメティクスで開発された製品や技術を紹介しました。やはり実物を見るのは楽しいですね!

今回のイベントで貴重なサンプルを提供頂いた、
富士フイルム株式会社 様 『構造色インクジェット技術』 
帝人フロンティア株式会社 様 『MINOTECH』
三菱ケミカル株式会社 様 『モスマイト』
シャープ株式会社 様 『トンボの羽根の断面形応用 空気清浄機シロッコファン』他2点
本当にありがとうございました。これからも応援しております。

発想プロセスのグループワーク

このイベントでは、自身でバイオミメティクスを発想してもらうワークを1日かけて行いました。

イベントの趣旨でもある「デザインワークショップ」の考え方は、バイオミメティクスの発想プロセスととても相性が良かったです。特に、アイデアを生み出していく際の『ダブルダイヤモンド』の発散フェーズと収束フェーズという概念が役立ちました。

小さくてわかりづらいかもしれませんが、画面右奥のモニターにある2つの◇が「ダブルダイヤモンド」

 

A.解決策提案型:生物から能力を見つけ、活かす課題を探す

生物からアイデアを得て活用していくこのプロセスでは、以下の流れでワークを行いました。
1.凄いと感じる生物を決める
2.生物の能力を見つける[①予想](発散フェーズ)
3.生物の能力を見つける[②詳細](収束フェーズ)
4.何に活かすか考える(発散フェーズ)

参加者は、自分で挙げた生物の凄いところを発見し、どのような技術アイデアになるかを考えていきました。
およそ2時間ほどで行いましたが、とても盛り上がりました。僕も思いつかないアイデアが多く、聞いてるだけでも面白かったです。人の数だけアイデアは生まれるんだと感じました。

 

B.課題解決型:技術課題から解決策になりそうな生物を探す

生物を探していくこのプロセスでは、前回の記事("バイオミメティクスを導き出す方法")と同様の、以下の流れでワークを行いました。

1.課題の理解
2.生物に尋ねる用語に置き換える(発散フェーズ)
3.生物の探索(発散フェーズ)
4.生物の絞り込み、詳細調査(収束フェーズ)

参考になりそうな生物がすぐに見つかれば万々歳ですが、思いつくのを待つというのはひらめきや偶然に頼ることになります。それは現実的ではないので、順序立てて生物を探す手法を採用しました。

各参加者は、自分の知っている生物や詳しい分野からアプローチし、独自のバイオミメティクス案を提案していました。中には複数の生物を掛け合わせたアイデアもあり、かなり自由に発想できていました。

ただ、やはりこのプロセスでは生物をどれだけ知っているかが、アイデアの出やすさに影響しているようでした。また、バイオミメティクス専門サイトである『Ask nature』も使ってもらいましたが、英語なのが少し大変だったようです。

 

バイオミメティクスチームが優秀賞を獲得

3日目はポスター発表でした。ポスターと言いつつ、製品の展示など結構自由にブースを作ることができ、素晴らしいものになりました。

1分間スピーチも、上手くまとめてバイオミメティクスの面白さをアピールしてくれました。
参加者が持ち回りでポスター前に立ち、見学者に紹介していたのですが、興味をもってくれる方が結構多い印象でした。嬉しいです。

研究分野の縛りがないイベントなので、他のチームのポスター発表を聞くのもとても勉強になりました。


さいごに

3日間の短期集中のワークショップでしたが、様々な人達のサポートのおかげでバイオミメティクスチームは全12チーム中3位の『優秀賞』を頂きました!

本当に頑張って良かったです。参加してくれた人達も積極的に発言してくれて、とても話しやすい雰囲気でした。感謝しかないです。

生物とモノづくりが関わる特殊なプロセスには難しい部分もあると思いますが、今回のワークショップを実施してみて、生物の専門家でなくてもバイオミメティクスの提案はできると改めて実感しました。

実施者としての反省点も多々あるので、それは次回に活かして、もっと楽しく充実したワークをできるようにしていきます。

おまけ

そして、私事ですが実はこのイベント前にバイオミメティクスで起業しました。

『バイオミメティクスワーククリエイト』(個人事業主)として、研究は続けつつ(希望)、手法論に詳しいことを活かした技術指導やコンサルタント、外部セミナーなどをこれからも実施していきます。

ロゴやHPはこれから作ります...!

その会社で、今回のようなワークショップの主催も積極的に行っていきたいと考えています。

その際はXで告知しますので、バイオミメティクスに興味がある人は、ぜひフォローをお願いします。

 

参考文献

京都大学サマーデザインスクール2023 「F-04 バイオミメティクスを体験しよう 〜生物からモノづくりのヒントを得る技術の理解と習得〜」

Helms M et al. (2009) Biologically inspired design: process and products. Design Studies 30(5): 606–622.

Biomimicry ToolBox

S Tachibana et al. (2023) Evaluation methods of biomimetic development: how can topics be compared and selected?. Bioinspired, Biomimetic and Nanobiomaterials, 12(2), 41-51.

富士フイルム株式会社 『構造色インクジェット技術』

帝人フロンティア株式会社『MINOTECH』

三菱ケミカル株式会社 『モスマイト』

シャープ株式会社 『トンボの羽根の断面形応用 空気清浄機シロッコファン』

シャープ株式会社 『洗濯乾燥機の排水フィルターにマンタのエラ構造を応用』

シャープ株式会社 『ネコの舌応用 ゴミ圧縮ブレード』

バイオミメティクス専門サイト 『Ask nature』

【著者紹介】橘 悟(たちばな さとる)

京都大学大学院 地球環境学堂 研究員
バイオミメティクスワーククリエイト 代表   

X(Twitter)では記事公開や研究成果の報告などバイオミメティクス関連情報を呟きます。
パナソニック株式会社の開発研究職を経て、2024年京都大学大学院人間・環境学研究科 博士課程修了。博士(人間・環境学)。高校への出前授業といった教育活動や執筆活動なども積極的に行い、バイオミメティクス関連テーマを多角的に推進する。
※参考「学びコーディネーターによる出前授業」
研究知のシェアリングサービスA-Co-Laboにてパートナー研究者としても活動中。バイオミメティクスの紹介や生物提案など相談可能。

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