吸血鬼ドラキュラの元ネタ「ヴラド3世」は呼吸器疾患持ちで血の涙を流していた? 手紙に残るタンパク質分析で判明!

2023.09.01

みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の彩恵りりだよ!

 

今回の解説は、手紙に付着したタンパク質から、ドラキュラ伯爵のモデルとされる「ヴラド3世」の遺伝的特徴を調べてみた、という研究だよ。

 

ちょっとこれだけを読んでもピンとは来ないかもだけど、貴重な古い手紙を傷つけずに、手紙を書いた人に由来する500年前のタンパク質を抽出する、と書くとちょっとはスゴさが分かるかな?

 

今回の分析結果からすると、ヴラド3世は先天的な呼吸器の疾患を抱えているだけでなく、もしかすると「ヴラド3世は血の涙を流していた」という伝説も案外嘘っぱちでもないかも、という可能性が出てきたんだよ!

 

ヴラド3世のタンパク質を分析 サムネ

(画像引用元番号①②③④)

“ドラキュラ” と呼ばれたヴラド3世

「ヴラド3世 (1431-1476)」 と言えば、現在のルーマニア南部にあったワラキア公国の君主で、オスマン帝国と対立したことで知られている……え?知らないって?まぁ歴史が苦手な私もどちらかといえばそっち派だね!

 

でも「ドラキュラのモデル」と言えばピンと来る人もいるんじゃないかな?1897年に発刊されたブラム・ストーカーの小説『吸血鬼ドラキュラ』に登場するドラキュラ伯爵のモデルの1人がヴラド3世と言われているよ。

 

ヴラド3世とは?

異名をドラキュラ公と呼ぶ「ヴラド3世」はワラキア公国を治めていた人で、当時の大国であるオスマン帝国と何度も戦火を交えたよ。国内統治や戦争の過程で8万人もの死に関与し、多くが串刺し刑だったともされる逸話があることから、後にドラキュラ伯爵のモデルになったとも言われているよ。 (画像引用元番号①⑤⑥⑦⑧)

 

というか、ヴラド3世の異名として「ドラキュラ公」がある時点で、元ネタである事は確実だといえるね!ただし名前だけでなく、ヴラド3世の人物像もドラキュラ伯爵の元ネタになったとされているよ。

 

なにしろ、ヴラド3世には数々の血生臭い逸話にあると言われているからね。例えば、当時のワラキア公国は複数の貴族による連合国家だったのを中央集権化しようとし、逆らった貴族は串刺し刑にしたとか!

 

また、オスマン帝国との戦いでは苛烈な焦土作戦やゲリラ戦を行い、相手の戦意を削ぐため敵兵を串刺しにして作った "林" の中で食事をとる挑発を行ったとか。人数を2万3844人ときっちり数えたという徹底ぶりだよ!

 

敵にも味方にもこんな感じで、ヴラド3世が関与した人の死は8万人を数えるとも言われ、しかもその多くが串刺し刑だったと言われるほどだったよ!

 

「串刺し公」なんて異名がつくのも当然とは思うけれども、一方で歴史ではよくある話として、ヴラド3世は幽閉された時期があり、この時にプロパガンダ的に誇張された "悪行" が現在でも定着している節があるよ[注1]。

 

また、ヴラド3世の「ドラキュラ公」という異名についても、これ自体に特に吸血鬼という意味がないのに、小説が有名になってそういうイメージがついたように、当時と後世の両方で逸話が変化した部分もあるよ[注2]。

 

実際、その残虐な行為自体は支持できないけど、当時の大国であるオスマン帝国から祖国であるワラキア公国を守った点については一定の評価がされており、ルーマニアでは護国の象徴や英雄としての評価があるよ。

 

なので、ヴラド3世が実際にはどんな人物であったのか、正確に読み解くのは現在の歴史かも苦労しており、その証拠を求めて当時の手紙などが分析されているよ。

 

手紙に500年前の人物のタンパク質が残されているかも!?

ところで、パソコンもタイプライターもない時代、手紙というのは文字通り手書きで書くものだよね。特にヴラド3世のような偉い人の署名付きの手紙の場合、それは本人が書いた可能性が高いと考えられるよ。

 

ということは、手紙には書いた人に由来するタンパク質が染み込んでおり、500年経った現在でも残っている可能性があるよ!つまり署名付きの手紙には、ヴラド3世のタンパク質が残っている可能性があるよ!

 

手紙にヴラド3世のタンパク質がある可能性

署名付きの手紙は、ヴラド3世本人が書いた可能性が高いので、手紙の表面にヴラド3世本人のタンパク質が残っている可能性があるよ!これを調べれば、ヴラド3世の遺伝的特徴を割り出せる可能性があるよ! (画像引用元番号①②③④)

 

もちろん、その分析はものすごく難しいよ。量がものすごく少ない上に、染み込んでいるということはそこから取り出すのも大変だね。実際、貴重な史料を傷つけなければ取り出せないということでこれまでできなかったよ。

 

しかし、ここ10年くらいの間に、数µgというめちゃくちゃ少ない量のタンパク質も分析・同定する技術が開発された上に、こういう貴重な歴史的史料を破壊せずにタンパク質を取り出す画期的な方法が開発されたよ。

 

それは「エチレン酢酸ビニル (EVA)」という物質のシートを使う方法だよ。EVAのシートを被せると、文書の紙や文字を損傷することなく、タンパク質だけがEVAに染み込むよ。

 

なので、汚染のない環境でEVAによるタンパク質の抽出と取り出しを行えれば、それは手紙に触れたことのある人に由来するタンパク質を、貴重な歴史的史料の損傷なしに取り出すことができる、ということになるよ!

 

EVAでタンパク質を抽出

EVAシートによる抽出は、貴重な歴史的史料を壊さずにタンパク質を取り出せる方法だよ! (画像引用元番号⑨)

 

もちろん、手紙という性質上、手紙には他の人のタンパク質が付着しているはずだよ。手紙を受け取る人や手紙を運んだ人、後世の収集家や研究者なんかは、手紙に直接触れた可能性があるからね。

 

また、人以外の生物のタンパク質も出てくるよ。紙やインクの原料である植物が代表例だし、空気中を漂う細菌や真菌、あるいは昆虫なども、タンパク質が付着し、確実に検出されるはずだよ。

 

まず、人以外のタンパク質については、タンパク質の種類を同定することによって区別ができるよ。そして人由来のタンパク質の場合には、タンパク質の分解の度合いを調べることにしたよ。

 

タンパク質は時間経過と共に少しずつ分解され、それは「脱アミド化」[注3]と呼ばれるよく知られた化学反応のルートを辿るよ。よって脱アミド化の度合いを調べることは、タンパク質の古さを知る指標となるよ。

 

もちろん、タンパク質の分解は時間経過以外の理由でも起こるし、その度合いも環境条件によって様々だよ。でも古い試料のタンパク質は、より脱アミド化が進行しているのは、過去の研究でも一貫して示されてるよ。

 

なので、同じ試料の中から見つかる、最も分解が進行したタンパク質は、手紙に最初に触れた人、つまりヴラド3世本人に由来する可能性が高いと言えるよ。複数の手紙の比較で、それがよりはっきりするよ。

 

ヴラド3世は呼吸器疾患持ちだったかも?

カターリナ大学のMaria Gaetana Giovanna Pittalà氏などの研究チームは、EVAを使ったタンパク質抽出と分析を行って、ヴラド3世の遺伝学的な "人となり" を割り出す研究を行ったよ。

 

使われた試料は全部で3通の手紙で、1457年のものが1通、1475年のものが2通だよ。特に1475年の手紙2通は、すぐにシビウにある文書館に保管され、近現代で修復されたことがないので、非常に状態が良いよ[注4]。

 

研究では、抽出と分析をなるべく確実にし、史料に触れる時間や面積を最小にするために、紫外線を一瞬当ててタンパク質濃度が高い領域を割り出し、その領域へのEVAの配置をクリーンルーム内で実施したよ。

 

また、さっき書いた通り手紙は本人以外のタンパク質で汚染されている状況なので、それを考慮した一定の水準でタンパク質の種類を同定し、ヴラド3世のものと思われるタンパク質を割り出したよ。

 

その結果、哺乳類、ウイルス、細菌、真菌、昆虫、植物に由来するタンパク質が多数見つかり、その中の分析で、最低でも16種類のタンパク質がヒト由来である可能性がとても高いと同定されたよ。

 

この16種類のタンパク質は少なくとも2ヶ所のペプチド[注5]で同定されており、他のタンパク質と比べてヒト由来である可能性が極めて高いものであると断定されたよ。

 

そして、これらのタンパク質はとても古いこと、そのほとんどが3通の手紙全てで見つかるなど、違いがほとんどないことから、絶対確実とは言えないけど、これはヴラド3世本人に由来する可能性が高いとみられるよ。

 

しかも、ほとんどが皮膚由来のタンパク質であることは予想通りだけど、呼吸器系や血液に由来するタンパク質が複数見つかり、しかもそれに特徴があった点はかなり興味深いよ。

 

一応 "由来" という言葉には注意が必要だよ。例えば「DCD」という血液由来タンパク質は、手紙に血液が付着しているのではなく、実際には汗に由来する可能性が高いよ。

 

他のタンパク質についても、正確な起源の追跡が難しい場合もあれば、逆にある程度絞られるものがあったりするので、そこら辺は個々に見ていく必要があるよ。

 

ただしそれでも、タンパク質の変異について調べ、そこからヴラド3世の "人となり" を推定することは可能だよ。タンパク質を作るのは遺伝子なので、タンパク質の変異から遺伝子の変異を逆算するのは可能だからね!

 

例えば、興味深いものとして「DNAH5」と「DNAH11」が挙げられるよ。これらの遺伝子の変異は、呼吸器を覆う「繊毛」という構造に先天的な運動機能障害が発生する可能性があるからだよ。

 

繊毛は細胞表面に細かく生えた毛のような構造で、呼吸器の場合は粘液を動かして病原菌を外に追い出す役割を果たしているよ。しかしここに運動機能障害があると、粘液と病原菌の排出がうまく行かなくなるよ。

 

つまり、検出された変異タンパク質がヴラド3世の物である場合、必ずではないものの、ヴラド3世は呼吸器に先天的な障害を持っており、呼吸器由来の疾患や感染症に罹りやすかった可能性があるということだよ。

 

少なくとも2ヶ所のペプチドで同定されたヒト関連タンパク質のコード遺伝子の一覧
コード遺伝子名 特に多い組織 含まれるか? 検出された手紙
血液 涙 1457年 1475年
TTN 筋肉組織、皮膚 (少ない) Yes ✓ ✓
TRANK1 多くの組織にある (主に呼吸器系) ✓ ✓
CENPF 多くの組織にある ✓ ✓
DCD 皮膚 (特にエクリン腺の分泌細胞) Yes Yes ✓ ✓
ETV1 不明 ✓
AHNAK 特にない (皮膚にも含まれる) Yes ✓ ✓
GOLDA4 特にない (皮膚にも含まれる) ✓
MGAM2 消化管 ✓
GPRC6A 不明 ✓ ✓
WDR74 筋肉組織、皮膚 (少ない) ✓
ZNF572 特にない (皮膚にも含まれる) ✓ ✓
KTN1 特にない (皮膚にも含まれる) Yes ✓
ABCA13 不明 ✓ ✓
DNAH5 呼吸器系 Yes ✓ ✓
DNAH11 呼吸器系 ✓ ✓
MDN1 特にない (皮膚にも含まれる) ✓ ✓

 

「血の涙を流した」は比喩表現ではなかったかもしれない

更に面白いのは、タンパク質をペプチドの特徴で観た場合だよ。これは先の16種類と比べると同定精度は劣るけど、タンパク質が500年も前の古いもので、分解が進んでいることを考慮したものだよ。

 

すると、調べられた515種類中、少なくとも117種類が確実にヒト由来であると同定され、特に31種類が体質に関連する何らかの変異を持つ興味深いタンパク質だと同定されたよ。

 

その中には、先ほど挙げた繊毛の先天的障害に関連した変異を持つ遺伝子も見つかったけど、それ以外に網膜や涙に含まれるタンパク質が見つかり、炎症や網膜の疾患に関連する変異を持つことが判明したよ!

 

手紙からヴラド3世のものと見られるタンパク質を発見

ヒト由来であることが確実なタンパク質の分析から、ヴラド3世は先天的な呼吸器疾患を患っていた可能性があるよ。また「血の涙を流した」という伝説も本当かもしれない証拠も見つかったよ!その他、当時のワラキア公国の環境を推定できる他の生物のタンパク質も見つかったよ! (画像引用元番号①⑨⑩⑪)

 

実は、「ヴラド3世は血の涙を流した」と言及する記述があったんだけど、そのような症状は稀なので、本当に流したのか、それともヴラド3世の血生臭いエピソードに基づく誇張表現だったのかはっきりしなかったんだよね。

 

ところが今回のタンパク質による分析結果が正しく、タンパク質がヴラド3世本人に由来する場合、ヴラド3世は比喩表現ではなく、本当に血の涙を流す稀な疾患を抱えていた可能性があるよ!

 

ただし、この結果は精度が低いタンパク質の分析によるものだし、ヴラド3世に由来するかどうかも確実ではないよ。仮に本人がそのような遺伝子の変異を持ってたとしても、必ず血の涙を流していたわけでもないよ。

 

また、この変異を示すタンパク質は1475年の2通の手紙のみで見つかり、1457年の1通からは見つからなかったよ。これは保存状態の違いによるものか、それとも症状が変化したのか、それは分からないよ。

 

ただし、いくつかのタンパク質が似たような疾患の傾向を示しており、何より "火のない所に煙は立たぬ" を考えると、ヴラド3世が呼吸器と涙腺を患っていた、というのは全くのデマカセというわけでもなさそうだよ。

 

なんにしても、今回の研究がヴラド3世の体調を決定づけるものではないけれども、よもや予想外な方向からヴラド3世とドラキュラに関する関連性が見つかったかもしれず、ちょっと面白いよね。

 

ヒト関連ペプチドで同定された、炎症、繊毛、網膜の疾患に関連するタンパク質のコード遺伝子の一覧
コード遺伝子名 特に多い組織 含まれるか? 検出された手紙
血液 涙や網膜 1457年 1475年
ADAMTS13 呼吸器系 Yes ✓
ADGRG2 男性の組織 Yes ✓ ✓
ALPI 消化管 Yes ✓ ✓
ASNS 特にない Yes ✓
CMPK1 特にない Yes ✓
CPLANE1 特にない ✓
DNAAF8 呼吸器系 ✓
ELAC2 特にない Yes ✓
ENDOU 口腔粘膜、皮膚 Yes ✓
GPR179 網膜 (視覚関係) Yes ✓
IL17RE 特にない ✓
IQCG 呼吸器系 ✓
KIAA2012 呼吸器系 ✓
KLKB1 不明 Yes ✓
LPR2 主に腎臓 Yes ✓
MAN2B2 不明 Yes ✓
NMP12 不明 Yes ✓
MUC6 消化管 Yes ✓
PALLD 特にない Yes ✓
PCARE 網膜 (視覚関係) Yes ✓
PLIN1 男女の組織、脂肪組織 Yes ✓
PLVAP 女性の組織 Yes ✓
PPA2 特にない Yes ✓
RNF213 特にない Yes ✓
ROBO4 脂肪組織 Yes ✓
ROPN1L 男女の組織、呼吸器系 ✓
SAAL1 特にない ✓
SAG 網膜 Yes ✓
SCG2 主に内分泌系、消化管 Yes ✓
SMPDL3A 特にない Yes ✓
STMND1 呼吸器系 ✓

 

当時の国の環境を知る手がかりも残されている!

また、ヒト以外のタンパク質についても調べてみると、特にユニークなものとして、細菌の中にペスト菌に由来するものが含まれていること、および昆虫のほとんどがショウジョウバエ属に由来するということが分かったよ。

 

15世紀のワラキア公国は、ヨーロッパと中東を結ぶ交易路の間にあるという地理的な位置の関係上、兵士、商人、奴隷などの人々と、それに伴う様々な交易品が行き来していたはずだよ。

 

そしてそれらは必ずしもプラスばかりじゃなく、ペストのような危険な感染症を運んだり、腐った食べ物からハエが湧いているようなマイナスの物事も一緒に運んでいたとしてもおかしくないよね。

 

ヴラド3世がペストやハエに悩まされていたかは分からないけど、手紙に残されたタンパク質は、手紙が書かれた当時のルーマニア南部の環境を、文字以外の視点から垣間見ることができる貴重な史料とも言えるよ!

 

そう考えると、今回の研究を他の古い手紙などの史料に適用すれば、手紙に書かれていない情報をタンパク質を通じて読み取れる可能性があるとも言えるから、これからの発展が楽しみでもあるね!

注釈

[注1] ヴラド3世の "悪行" ↩︎
ハンガリー王のマーチャーシュ1世は、オスマン帝国に協力したという罪状でヴラド3世を捕らえている。現代の歴史家は、カトリック王としてオスマン帝国に対立しなければならないという表向きの理由と、強大な敵国であるオスマン帝国と戦いたくないという実情とのギャップがあるため、両方のメンツを取るためにわざとヴラド3世を悪者にしたと考えている。幽閉期間中はヴラド3世の悪行を積極的に宣伝したため、この頃に誇張や捏造された悪行があったとも考えられる。

[注2] 「ドラキュラ公」の意味 ↩︎
英語の「ドラキュラ (Dracula)」はルーマニア語の「ドラクレア (Drăculea)」に由来し、直訳すれば「ドラゴンの息子」になる。この意味を説明するには父親のヴラド2世の代から説明しないといけない。1408年、ハンガリー王ジグモンドと妃のバルバラ・ツェリスカは、ワラキアをオスマン帝国から防衛するための計画の一環として「ドラゴン騎士団」を設立した。カトリック教会からの政治的な支持を受けていたヴラド2世は騎士団に叙任されたために、ドラゴン公や竜公の意味となる「ドラクル (Drăcul)」と呼ばれるようになった。ルーマニア語では語尾に "a" を付ければ「○○に属する / ○○の子」という意味となるため、Drăculeaにはドラゴン公と呼ばれたヴラド2世の息子という意味でしかない。従って吸血鬼のようなイメージは、小説による後付けということになる。
なお、現在のルーマニア語ではDrăculを「悪魔」と訳すため、ヴラド2世も「悪魔公」と呼ばれることがあるが、これもヴラド3世の評判が関わっている。ヴラド3世の血生臭いエピソードと、新約聖書では悪魔サタンがドラゴンとして描かれることが結びつき、ドラゴンを意味する言葉が悪魔と結びついたのである。つまりヴラド2世からすれば、息子の悪魔的所業によって「Drăculea=悪魔の子」と解釈され、その飛び火で「Drăcul=悪魔」という不名誉な称号がついてしまった、と考えられるのである。

[注3] 脱アミド化 ↩︎
タンパク質の構成部品であるアミノ酸は、アミドと呼ばれる部分が分子に含まれており、この部分は化学的に分離しやすい。これはタンパク質の構造や安定性を変化させるため、タンパク質全体の分解を引き起こす可能性がある重要な化学反応となる。脱アミド化の進行度合いは、タンパク質が長期間環境に晒されるほど進行し、これは安定した環境では経過した時間に大体比例することが知られている。

[注4] 手紙の保存状態 ↩︎
1475年の2通の手紙は修復された記録がないものの、保存状態は非常に良い。保管されていたシビウの文書館の建設は1465年であるため、恐らくすぐに保管されたと考えられ、ヴラド3世以外に触れた人数は最小限であると考えられる。一方で1457年の手紙は20世紀にブカレストで修復作業が行われている。

[注5] ペプチド ↩︎
タンパク質は構成部品であるアミノ酸の結合でできているが、このいくつかのアミノ酸がペプチド結合と呼ばれる脱水反応で結合し、短い分子となっている状態をペプチドと呼ぶ。ペプチドが更に多数繋がればタンパク質である。タンパク質がペプチドの集合体であるため、ペプチドでタンパク質を同定することは原理的には可能である。

 

文献情報

<原著論文>

  • Maria Gaetana Giovanna Pittalà, et al. "Count Dracula Resurrected: Proteomic Analysis of Vlad III the Impaler’s Documents by EVA Technology and Mass Spectrometry". Analytical Chemistry, 2023; 95 (34) 12732–12744. DOI: 10.1021/acs.analchem.3c01461

 

<参考文献>

 

<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)

  1. ヴラド3世の肖像画: 作者不明『ヴラド3世の肖像画』 (c. 1560) アンブラス城所蔵 (Public Domain) / Kunsthistorisches Museum Wien
  2. 手紙1: 1475年8月4日付の手紙 (資料番号II 365) / 原著論文Fig S1
  3. 手紙2: 1475年付の手紙 (資料番号III 32 N 484) / 原著論文Fig S2
  4. 手紙3: 1457年付の手紙 (資料番号V 1658) / 原著論文Fig S3
  5. メフメト2世の肖像画: ジェンティーレ・ベッリーニ『スルタン メフメト2世』 (1480) ヴィクトリア&アルバート博物館所蔵 (Public Domain) / WikiMedia Commons
  6. たいまつの戦い: テオドール・アマン『たいまつの戦い』 (1866) Proveniență Pinacoteca București所蔵 (Public Domain) / WikiMedia Commons
  7. 串刺しに関する木版画: Chronicle Brodocに掲載 (1499) / WikiMedia Commons
  8. 吸血鬼ドラキュラ: ブラム・ストーカー『吸血鬼ドラキュラ』 第1版 (1897) (Public Domain) / WikiMedia Commons
  9. 手紙1の分析: 原著論文 Fig1
  10. ペスト菌の蛍光画像: CDC ID #1918 (Public Domain) / Centers for Disease Control and Prevention
  11. ショウジョウバエ属の画像: CDC ID #13387 (Public Domain) / Centers for Disease Control and Prevention

 

彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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