大学生が知っておくべき、研究室の選び方とは?【教授が紹介するシリーズ】

2023.05.12

皆さんこんにちは。福岡工業大学の赤木紀之です。

「研究室で実験をする!」というのはとてもカッコイイ響きですよね。大学生は卒業研究で本格的に研究に携わります。卒業研究は学生実習とは異なり、各教員が主宰する研究室に数名ごとに学生が配属され、研究室で指導が行われます。

本学では、仮配属は3年後期に決定され、4年生に進級できれば本配属となります。皆さんは、研究室をどのように選びますか?ここでは、卒論生・修論生に向けた「研究室選び」のポイントを紹介したいと思います。最後に、博士課程やポスドク先の研究室選びにも少し触れたいと思います。

研究室はどういうところ? -研究室も小さな組織-

多くの理系の大学生の場合、4年生(大学によっては3年生)になると研究室に配属され、卒業研究に取り組むことになります。学生の皆さんにとっては学生実習の延長で、実験する部屋が共通の学生実習室から教員の研究室に移っただけ、と思うかもしれません。まずその先入観は払拭しましょう。

規模の大小はあるにしろ、研究室は小さな「組織」で、研究室に所属するからには、学生さんも組織の一員です。学生さんにとっては「学校」でも、研究室の運営メンバーにとっては「職場」です。「組織」とは大きな目標を達成させるために、全員が協力して自分の仕事を遂行する集団です。組織には組織を維持させ発展させるためのルールや文化があるように、研究室にもルールや文化があります。

そしてまた全ての研究室には、独自の研究課題が設定されており、その課題を解決するために、研究室メンバーが一丸となって研究活動を遂行しています。学生は学生ができること、ポスドクはポスドクができることに精一杯取り組みます。必要に応じて、年齢や立場を超えて互いに助け合います。これが研究室の運営であり、組織運営です。

大学を卒業した後、多くの学生さんは就職することになるでしょう。「就職する」というのは「組織運営に携わる」ということです。組織に所属し、組織の目指す方向を理解し、今の自分で出来ることに全力で取り組む姿勢は、大学生も社会人も同じだと思います。研究室に配属される上で、まずはこの点をしっかり捉える必要があります。

教員の講義内容と研究内容は違う 

学生のみなさんが最初に教員と接点を持つ場は講義でしょう。講義を通してその教員の持つ学術的背景や専門分野を知ることができそうです。ただし、ぜひ注意して頂きたいのが、必ずしも講義内容がそのままその教員の研究内容ではないという点です。以前の私の記事である「大学生が知っておくべき勉強の仕方」でも紹介したのですが、多くの場合、大学の講義はその学問の入り口を分かりやすく端的に紹介しているに過ぎません。実際に研究室で遂行している研究活動は、そう言った基礎的な知見をもとに、まだ誰も解明したことのない課題の解決に取り組んでいます。講義を通してその教員の専門分野の基礎知識を蓄え、その上でどのような研究をしているのか、しっかり知る必要があります。

学生のみなさんが最初にその「違い」を実感するのは、研究室ごとに行われる「ゼミ」だと思います。大学によっては講義の一つとして「ゼミ」が用意されていて、学部生が研究室ごとに行われる「ゼミ」に講義として出席するのではないでしょうか?

恐らくそのゼミでは、いきなり何の前触れもなく専門用語が飛び出し、先輩たちはその専門用語で先生と議論を進めます。とても普段の講義では考えられない光景でしょう。いきなり教員は「その段階でウエスタンやるのはいいけど、ちゃんとポジコンある?その前に先にリアルタイムでmRNAの発現みた方がいいんじゃないの?」と言われて分かります?分かりませんよね。これは次に述べる大学教員の「教育者」と「研究者」の二面性に由来します。

私の研究室の様子を撮影したものです。学生達は互いにコミュニケーションを取りながら、実験に勤しんでいます。

大学教員の教育者の一面と研究者の一面

大学教員は研究者としての側面がとても強い職業です。高校までの先生は、「学校の先生になりたかった人」が、教員になるために教育方法のトレーニングを受けてきています。つまり学生時代から教員になるための勉強をして、教育実習を経験し、教員免許を取った上で着任しています。

一方、大学教員は、元々は研究に携わっていた人たちです。日々、研究室で研究に没頭し実験と論文執筆に時間を費やしてきた人たちです。自身のキャリアアップの過程で大学教員という職を得て、研究と教育に携わるようになったのです。従って、「教育」というよりは「研究」に重きを置く大学教員が多いのは自然な流れです。

そうすると、大学教員間によって学生向けの講義の質にかなりばらつきが生まれます。大学生なら「あるある」だと思うのですが、「あの先生は何を言っているのかさっぱり分からない」という講義が1つや2つはあるものです。今となってはどの大学でも教員向けのFD(Faculty Development ※1)研修会が実施され、大学教員の教育手法の質を上げるよう色々な工夫を凝らしています。でも大学教員の根底には研究者魂が残っているので、高校の先生のような授業のレベルまではなかなか到達しないのでしょう。
※1:Faculty Development:大学教員の教育能力を高めるための実践的方法

従って学生の皆さんが研究室に配属されると、大学教員が「教育者」から「研究者」に変わった(戻った?)姿を見ることができます。そして皆さんは「学校の先生」というより「研究者」と議論を交わし研究を進めることになるでしょう。その辺りの違いもぜひ楽しみにしながら研究室に入ると良いと思います。これらを踏まえた上で、私が考える研究室の選定基準を3つ紹介したいと思います。

選定基準1 研究テーマ

何と言っても「研究テーマ」。これは絶対に外せません。自分が興味を持って取り組めるテーマを選ぶことは、充実した卒論生活を送るのにとても重要な要素です。大学の学部学科を選んだ時点で、研究分野はかなり絞られていると思います。大学入学後、2-3年間で様々な教員の講義を聞いて、各教員の研究内容がぼんやりと見えてきていることでしょう。タイミング的に合うのであれば、先輩たちの卒業論文発表会や修士論文発表会にもぜひ参加したら良いと思います。

もしその教員が一般向けに書籍や総説を執筆しているのであれば、それを読むのも大切です。可能であれば、その研究室から発表された学術論文を読んでみましょう。学部生の段階で学術論文を読むのはとても苦労があります。英語で書かれている上に、専門用語や複雑な表現が多く、初心者には大きな壁があるかもしれません。私の以前の記事「大学生が知っておくべき英語論文の読み方」なども参考にし、まずは一報読破してみてはどうでしょうか。最近では研究室ごとにHPやSNSで活発に情報発信をしています。教員のプロフィールや研究内容、研究室の活動や実績などが掲載されています。そういった媒体からも思わぬ情報が入手できるかもしれません。

選定基準2 卒業生達の進路

研究室の卒業生たちがどのような進路を歩んでいるかは、その研究室の特徴や強みを知る上で注目すべき点です。例えば、ほとんどの卒論生たちが大学院に進学している研究室は、研究第一主義である可能性が高いといえます。大学院進学を考えている学生さんは、大学院生がいる研究室を選ぶことも重要です。先輩の大学院生から、研究推進に関する情報やアドバイスを得やすく、研究プロセスをより深く理解することができるといったメリットがあるためです。

卒業生たちの就職先も確認しておきましょう。卒業生たちの就職先が自分の進みたい業界や職種に多く集中していれば、もしかすると自分もそういう業界に就職できるかもしれません。最近では、「リファラル採用」を取り入れている企業も増えています。この方式は、自社の社員から友人や知人などを紹介してもらうスタイルです。研究室の先輩が自分の希望する業界に在籍していれば、もしかすると、その先輩を通じて就職先を紹介してもらうことができるかもしれません。こういった点からも、卒業生たちの進路の確認は研究室選びにおいて重要なポイントだと言えます。

選定基準3 指導教員との相性

研究の本質と離れていると感じるかもしれませんが、実はこの視点が一番大切なのではないかと感じています。どんなに興味深い研究で、どんなに就職先が魅力的でも、自分と指導教員との相性が合わないと、何も上手く進みません。コミュニケーションがうまくとれず、疑問があってもすぐに質問できなかったり、適切な助言やフィードバックが得られなかったりするかもしれません。これはどちらが「良い悪い」という議論ではなく、「合う合わない」の議論です。どんなに評判が良く学生から人気のある教員だったとしても、その人と自分が合うかどうかは別問題です。相性を見極める上でも、事前に研究室を訪れその教員からいろいろ話を聞いてみることが大切です。できれば、その研究室に所属する先輩とも接点をもって、研究室の様子を少し聞くのもよいでしょう。

「優しい先生」と「厳しい先生」のどちらが自分に合っているのかも考えてみてください。多くの学生さんが「優しい先生」を選びがちですが、優しい先生こそ、自分がしっかりしていないと危険だと思います。優しい先生は、学生が傷つかないように優しくそっと指摘してくれます。その指摘に気づかず、いつまでも放置しておくと「あ、指摘したのに修正する気はないのだな。これ以上言ってもしょうがないな」と判断されてしまいます。厳しい先生は強い口調になったとしても「なんで指摘してるのに修正しないんだ!早くなおせ!」と𠮟ってくれるかもしれません。自分に合った先生を選ぶためには、両方のメリットとデメリットを考える必要があります。なお「厳しい先生」と「理不尽な先生」は似ているようで全く別物です。後者については「研究室で困ったら」の項目で少し言及します。

ところで、学校の先生に「勉強しろ」と言われたことありますよね。きっと研究室に入ると指導教員から「実験しろ」と言われると思います。なぜだと思いますか?それは「勉強すること」や「実験すること」は、私たちにとって知的好奇心を刺激するとても面白い活動だということを知っているからです。ちょっときた大人たちからのアドバイスなので是非耳を傾けて下さい。


研究室選びは人生最後の恩師選び!?

私も含めほとんどの人が小学校入学以来、様々な先生に出会い指導を受けてきました。多くの場合、その先生は事前に学校側が決めて、学校側が指定する先生に私たちは習ってきました。これは先生と生徒や学生の「奇跡的な出会い」に基づいた学びの提供のスタイルです。見方を変えれば、生徒や学生にしてみれば、「自分が選んだわけではない」と捉えることができ、極めて受動的な学びの状態です。

しかし大学の研究室選びは違います。教員の研究テーマや性格、研究室の運営形式を事前に知ったうえで、自ら大学教員を選ぶことになります。大学院進学を視野に入れている人は、なおさらです。「この先生のもとで、自分の卒業研究を遂行しよう!」という極めて能動的な活動です。自分で自分の「上司」を選べる機会は、これからの人生でもそうそうありません。会社に入れば、業務命令で各部署に配属され、その部署の上司の元で働くことになるでしょう。

さらに言うと、卒業研究の指導教員はあなたの人生最後の恩師になるかもしれないのです。人生最後の恩師を自分で選べるのです。友達と一緒に研究室に入ること自体は悪いことではありません。友達と一緒に過ごすことで、励まし合いながら研究に取り組むことができます。ただし、「友達がその研究室に行くから」とか「なんとなく楽そうだから」といった理由で選ぶのはあまりにもったいないと思いませんか?自分の興味や将来の目標に合わせて、慎重に研究室選びをすることが重要です。

博士課程やポスドク先の研究室選び

博士課程やポスドク先を選ぶ場合には、もう少し視点が異なります。詳細は別の機会に設けたいと思いますが、私が思うポイントは「研究費が十分あるか」「研究施設は充実しているか」「研究を進める上で研究室主宰者と議論する時間が十分あるか(出張や学会ばかりで不在が多くないか)」「研究成果がどうのような雑誌に掲載されているか」「その研究室の出身者がどのようなキャリアパスを歩んでいるか」など、研究を進める上でより本質的な点を見極めてゆかなくてはなりません。

そしてなにより、将来の自分のビジョンを持った上で選ぶことが大切です。研究室での数年間の経験は、自分の将来に大きく影響します。少なくとも修士課程の延長や学生気分で過ごすことを避け、研究者としての素養を身に付ける大切な期間である点を意識した上で、研究室を選びましょう。

研究室で困ったら

研究室に限らず全ての組織で生じうることですが、組織に属すると必ず「困りごと」に直面します。そんな時は、一人で悩まず必ず先輩や先生に相談して下さい。あなたが困っているということは、同じ理由で他の人も困っているかもしれません。あるいは、それは誰もが直面する「困りごと」で、相談するだけで案外簡単に解決するかもしれません。

また組織運営で避けて通れない議論はハラスメント対策です。どの組織でもハラスメントは起こりうるのですが、「教員」と「学生」というパワーバランスがあることで、よりハラスメントが起こりやすい側面があります。”Toxic PI (principal investigator)”という言葉があるように、日本だけでなく海外でもハラスメント体質の教員が存在するのも事実です。こういった教員は「厳しい先生」ではなく「理不尽な先生」に分類されます。大学にはハラスメントに対する相談窓口が設けられています。相談窓口では個人情報が保護されます。理不尽な扱いを受けた場合は、相談窓口で相談して下さい。これは皆さんが就職して社会に出ても同じです。大切なことですので覚えておいて下さい。

おわりに

みなさん友人同士で「食べ放題・飲み放題」のお店に行くことありますよね。私もよく行きました。しかも「何が何でも元を取ってやろう」と意気込み、昼食を抜いてそれに備えたりします。そんな中、食べ放題・飲み放題のお店を自分で希望して参加したのに、いざ来ると全く飲み食いしない人がいたらどう思いますか?なんだか、とてももったいないですよね。健康増進のためフィットネスクラブに来ているのに、体を動かそうとせず、声をかけても「いや今日はやめておく」という人がいたらどう思いますか?トレーナーさんも困ってしまいますよね。

とてもラッキーなことに、みなさんがこれから行くであろう場所は「研究し放題・論文読み放題」の研究室です。授業料を払っている分、しっかり元を取りましょう!

研究室にきているのに研究をしない人が出てくると、研究室全体の雰囲気が悪くなったり、仲間との信頼関係が揺らいでしまうことがあります。卒業までたった数か月間です。このチャンスを最大限に活かし研究に取り組みましょう。

さぁ、研究室の門をくぐろう!

【著者紹介】赤木 紀之(あかぎ ただゆき)

1998年横浜市立大学生物学課程卒業。2004年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。
日本学術振興会特別研究員DC1、UCLA医学部/シーダス・サイナイ医療センター血液学腫瘍学部門ポスドク、金沢大学医薬保健研究域医学系助教、同上准教授を経て、2020年4月より福岡工業大学工学部生命環境化学科教授。
海外日本人研究者ネットワーク(UJA)理事を兼任。

【主な活動場所】
Akagi Lab HPTwitterInstagramLinkedIn

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