大学生が知っておくべき、勉強の仕方とは?【教授が紹介するシリーズ】

2023.03.08

皆さんこんにちは。福岡工業大学の赤木紀之です。皆さんは、大学は何をするところだと思いますか?「大学は青春を謳歌して遊ぶところ」なんて認識していませんか?もちろん、青春を謳歌して友達と遊ぶ時間は大切です。でもそれが全てだと思ってはいけません。大学の使命は「研究」と「教育」そして「社会貢献」です。高校卒業後、さらに勉強するために大学に進学したのです。この記事の前半では私が考える勉強の意義などを、後半では私が考える勉強の仕方などを紹介したいと思います。この方法は大学生のみならず、「学びたい」と強く思っている人にも役立つ情報が入っています。ぜひご覧ください。

 

今の大学生は勉強が大変 -予習復習に4時間は必要!-

大学生の皆さん、普段どれくらい勉強していますか? 大学生ではない皆さん、今の大学生はどれくらい勉強していると思いますか? 実は今の大学生は、かなり多くの時間を勉強に費やす必要があります。私を含め40代・50代の皆さんが大学生の頃は、講義が休講になれば大喜びでした。今は休講になったら、必ず補講が設けられます。補講日が土曜日になってしまうと、教員も学生も土曜日に大学に来る必要があります。

 

また大学生は「単位」を取ることが進級や卒業に必須です。文科省は1単位あたりの学修時間を示しており、その計算に従うと2単位の講義1コマ(90分)に対し、講義外にさらに4時間の学修(つまり予習や復習など)が必要になる計算になります(詳しくは文科省 大学設置基 を参照下さい)。従って週に6コマ講義があれば、毎週24時間の講義以外の学修が必要なのです。通学時間やバイト・サークルの時間を考えると、週24時間の講義外学修は結構な勉強時間ですよね。

 

高校時代は各科目の問題集を解いたり、週末の模擬試験を受験したりすることで勉強ができたと思います。大学生になるとそういった勉強法はほとんどありません。大学生になった瞬間に、自分で自由に好きなように勉強したらいいのです。その「自由に好きなように勉強」の仕方がわからない、という声をよく聞きます。そもそも、私たちはなんのために勉強するのでしょうか。

 

なんのために勉強するのか -「知らないこと」に「気づいていない」ことの怖さ-

「知らないことに、気づいていない」-ちょっと難しい表現を使ってみました。これはどういうことでしょうか。

「○○というアプリを使えば、この作業は5秒で終わる。でもAさんはこのアプリを使わず、手作業で丸1日かけている。実はAさんはこのアプリの存在すら知らない。」

これはAさんが「知らないことに、気づいていない」状態です。もしAさんがこのアプリのことを少しでも見聞きしたことがあれば、「もしかしたらあのアプリが使えるかも」と思えるでしょう。この状態は「(やり方などを)知らないことに、気づいている」状態です。

私たちが人生で最も損をする瞬間は「知らないことに、気づいていない」場面です。そもそも「別の選択肢がある」こと自体に気づいていないのですから、その選択肢を検討することはありえません。「知らないことに気づいて」いれば、少なくとも別の選択肢を検討する機会には恵まれます。

これは研究を遂行する上では極めて重要な点です。「〇〇と××を反応させたら、新たに△△が生み出せた!新発見だ!」というような場面を想像して下さい。それは本当に新発見でしょうか?実はそんな知見は本人が知らないだけで、もう何十年も前に報告されているかもしれません。過去の報告を知らなかったがために、多くの時間や研究費を費やしただけだったかもしれません。

当然、私も皆さんも「知らないことに、気づいていない」ことの方が圧倒的に多いと思います。でも1つでも2つでも「知らないことに、気づいている」状態にしておくだけで、人生が随分変わると思いませんか? ちょっと勉強しておくだけで、その経験が自分の人生を豊かにするかもしれないのです。では何を勉強しておけばよいのでしょうか。この疑問にはなかなか正解にはたどり着けません。約80年の人生で全てを学ぶことはできません。これまでの人生で、何かのご縁で巡り合った目の前の学問からコツコツ学び始めるのが一番ではないでしょうか。

 

「そんなこと先生は教えてくれなかった」はいつまで言える?

あなたが「そんなこと、先生は教えてくれなかった!」と最後に感じたのはいつですか?例えば、レポート提出日や試験日を教えてくれなかった場合は教員側に責任があります。そうではなく、授業の内容に関連する知識や最新知見について、「先生は教えてくれなかった」と言っていいのはいつまででしょうか。少なくとも大学生は、そういうセリフは言ってはいけないと私は考えています。

教員側もなるべく多くの知見を盛り込んだ講義運営を意識しています。しかし膨大になり過ぎても学生の理解が追いつきません。また、後で詳しく述べますが、大学の講義ではその学問の入り口を分かりやすく端的に紹介しています。学問の全てを教えることは不可能です。大学の講義は、学生の知的好奇心を刺激して、自ら学ぶきっかけを与えているにしか過ぎません。

自分が勉強している中で「こんなこと講義で触れてないな」と気づくことは、とても大きな成長だと思います。それがきっかけで、自ら深く学び始めてくれる学生さんが生まれれば、その講義は大成功だと思います。

見方を変えれば「ここは講義で触れなかったな」と気づいた時が勝負です。「じゃ、これはもういいや」と思うか、「せっかくだから自分で勉強してみようと」と思うか、運命の分かれ道です。どちらを選ぶかは自分次第であることは言うまでもありません。大学は「学び方を学ぶ場」だと捉えても良いでしょう。それでは次の項目から、私が考える勉強方法を紹介してゆきたいと思います。

90分の講義をA4サイズ1枚にまとめてみる -「最高の1枚」と「極みの1枚」を目指す-

まず手始めにこういう勉強方法はどうでしょうか。90分の講義を1枚のレポート用紙にまとめてみましょう。1枚のレポート用紙にまとめる―――やってみると分かりますが、これが意外と難しいのです。しかもこの作業は、多くの皆さんが苦手としている「思考の言語化」の訓練にもなります。どうやれば1枚にまとめられるでしょうか。例えばこんな状況を思い浮かべてみてください。

 

先生 「来週は今日の内容の小テストを実施します。」
学生 「…(えーーー。うんざり...)」
先生 「ただし、『A4・片面のみ・手書き』の資料であれば、1枚だけ持ち込んで構いません。」
学生 「!?(マジ!?やった!)」

 

こういう状況であれば、みんな全力でA4サイズ1枚にまとめる努力をするでしょう。サイズが限られているので、自分にとって本当に分からない点や、大切な点を書いた「最高の1枚」が完成するのではないでしょうか。これを15コマ全ての講義で作成したのを想像してみて下さい。この15枚でオリジナルの「レポート」の完成です。そして試験前には、その15枚の内容をさらにA4サイズ1枚にまとめてみましょう。すると全てが凝縮された「極みの1枚」が完成します。

 

「極みの1枚」の作成例

 

これです。この作業こそが、受講した講義の内容を自分でまとめて、頭の中を整理するのに一番の方法なのです。そして「最高の1枚」と「極みの1枚」を日々読み返せば、かなり理解が深まります。こんな勉強方法、想像しただけでワクワクしてきませんか?

 

予想問題を作成してみる -作問者になって良問を考えよう-

勉強とは自分の知的好奇心を満たすための活動です。試験で高い点を取るのが目的ではありません。一方で、何か目標がないと身が入らないのも事実です。試験で合格点に達していないと、その講義の単位が取れないという現実的な問題もあります。自分の理解がどこまで深められたかの客観的な指標として、試験による評価は有効かもしれません。

 

試験対策として私が大学生の皆さんにお勧めしているのは、予想問題と模範解答の作成です。各回の講義ごとに、先生になったつもりで何問か予想問題を作成する作業はとても頭を使います。簡単すぎても、難しすぎてもいけません。闇雲に「タンパク質を構成するアミノ酸20種類の構造式を全部書きなさい」などは良問とは言えません。学生の知識を確認できる問題や、ちょっと頭をひねれば答えを導き出せる問題が良問です。それを配点と合わせて模範解答まで作成してみましょう。

 

さらに、その予想問題を友人同士でシェアするととても勉強になります。「作問者が違うと、こうも視点が違うのか」とビックリすることでしょう。10人の友達とシェアすれば10通りの予想問題が完成します。これだけあれば、自分の理解を確認するには十分です。もう先輩たちから過去問を入手する必要もありません。

 

試験前日に予想問題と模範解答を人からもらって、単語だけ丸暗記するのは最も悪いやり方です。これは意味がありません。そういう人には自分の大切な予想問題を渡してはいけません。

 

友達同士で輪読会をする -講義で全ては語れない-

大学の講義はとても多様性に満ちていると思っています。同じ「生化学」という科目であっても、担当する教員のバックグラウンドや、講義への思い入れによって随分と内容が変わります。

 

ただし共通して言えることは、どの講義もあくまでその学問の入り口を紹介しているに過ぎない、という点です。千年以上に渡って人類が積み重ねてきた叡智を、1コマ90分、計15回の講義で紹介しきれるはずがありません。様々な講義を通して広く学び、その中で興味の湧いた領域を自分で深掘りしてゆくのが、大学生の本来あるべき勉強方法だと思います。

 

深掘りして勉強するのに、友達同士で輪読会をするのがとても効果的で能動的な勉強方法だと思います。私は生物学科出身なのですが、大学の講義には「免疫学」がありませんでした。分子生物学を学んでいる過程で免疫学に興味を持ち、その分野の基礎知識を学びたいと思いました。確か大学2、3年生の頃だったと思います。幸い、同級生の中にもそう感じる人が何人かいました。そこで、講談社ブルーバックスの中から免疫学関連の書籍を一冊選定し、みんなで輪読会を始めました。具体的には、各章ごとに担当を決めて、担当箇所を分かりやすくまとめた資料を作成して、それぞれが資料をもとに発表する、というスタイルです。当時はまだ個人のノートパソコンもなければ、Power Pointもなかった時代です。紙媒体で手書きの資料を作成しコピーして配布しました。

 

これが本当に勉強になりました。いきなり難しい専門書を読むのではなく、一般向けのブルーバックスを採用したのも良かったのかもしれません。皆さんもぜひ同級生や先輩・後輩に声をかけて、興味のある人を探してみて下さい。口には出していなくても、実はそういう活動に興味のある人は意外と多いと思います。なんだったら、そういう活動が好きそうな先生を見つけて、先生も巻き込んで輪読会を行っても良いでしょう。

 

 

おわりに

学生さんの勉強方法を見ていると「暗記することが勉強」だと思っている節があります。実際、私もそうでした。もちろん、資格試験などはどうしても暗記が必要です。でも本当に大切なのは、いろいろなことに興味を示して、その学問に触れておくことだと思います。せっかく大学で勉強する機会に恵まれたわけです。就職活動の過程で「ガクチカ」を語れるように、部活・サークルやアルバイトに精を出すのも大切です。でも不思議なもので「学生時代にもっと勉強しておけば良かった」と思う社会人が数多くいるのも事実です。「知の探究」は人類に与えられた特権です。その特権を最大限に行使する大学生活は最高にカッコイイと私は思います。この記事を参考にして、ぜひ皆さんもオリジナル勉強法を見つけて下さい。

 

さぁ、勉強だ!


【合わせて読みたい記事】
「大学生が知っておくべき英語論文の読み方」についても、記事にしました。ぜひご覧ください。

【著者紹介】赤木 紀之(あかぎ ただゆき)

1998年横浜市立大学生物学課程卒業。2004年東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。
日本学術振興会特別研究員DC1、UCLA医学部/シーダス・サイナイ医療センター血液学腫瘍学部門ポスドク、金沢大学医薬保健研究域医学系助教、同上准教授を経て、2020年4月より福岡工業大学工学部生命環境化学科教授。
海外日本人研究者ネットワーク(UJA)理事を兼任。

【主な活動場所】
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