さよなら、マンボウ型ロボット「キカマンボウ」

2023.03.15

 東海大学海洋学部博物館は、東海大学海洋科学博物館と東海大学自然史博物館の2施設を合わせた総称で、ちびまる子ちゃんで有名な静岡県清水区の、突き出た三保半島のほぼ先端に位置する。東海大学が運営するこの2施設は、2023 年3月 31 日をもって有料入館を終了することになった。今すぐに取り壊される訳ではないようだが、4月以降にこの施設に入るには、いろいろ制限が出てくるので、気になっている方は3月中に足を運ぶことをおススメする。

※5月4日(木)からは、東海大学海洋科学博物館の1階だけは、訪問日の前日までに事前予約した場合に限り、入館できる予定にしているとのこと。

今回はそんな2施設のうち『東海大学海洋科学博物館』に関するお話だ。

 

閉館の理由

 ニュースによると、東海大学海洋科学博物館が有料入館を終了することになった理由は3つある。

 一つは設備の老朽化。特に水槽の水温を調節する機械が古くなり、大規模に修繕する必要があるとのことだ。

 二つ目はコロナ禍の影響による経営の悪化である。コロナウィルス感染症対策として、不要不急の外出自粛要請が出たことにより、入館者数が例年より減少した。仕方のないところもあるが、収入が減ったため施設の改修費用を出すのが難しくなった。水族館は海水を扱うため、施設の老朽化は大きな問題で、定期的に改修工事が行われる。改修が必要になった時にそれに使える予算がなかった場合、閉業するところが多い。コロナ禍に入ってから、これを理由に閉業した水族館はいくつかある。コロナ禍は水族館史に残る大きな災害である。

 三つ目は静岡市の進める海洋文化都市政策の一つである「静岡市海洋・地球総合ミュージアム(仮称)」に東海大学が連携することになったことである。「静岡市海洋・地球総合ミュージアム(仮称)」は、まるで東海大学海洋科学博物館と東海大学自然史博物館を一つの建物にまとめたような、水族館と博物館を兼ね備えた総合施設。国内4番目の大きさとされる 1700 トンの大水槽をつくる予定だ。場所はちびまる子ちゃんランドがあるエスパルスドリームプラザやフェルケール博物館の近くで、三保に行くよりは交通の便も良いので、周辺観光施設との相乗効果を狙ったものと推測される。こちらは 2026 年4月の開館を目指しているとのことだ。

 東海大学海洋科学博物館は 1970 年に開業し、最近では深海魚のセキトリイワシ科魚類最大であるヨコヅナイワシの標本が展示されたことでも話題になった。1階は水族館、2階は科学博物館になっている。2009 年に一番大きな海洋水槽にマンボウを複数個体入れたこともあった(それ以前に飼育したこともある)。しかし、普段はマンボウを飼育しておらず、私が現地に行った時に職員の方に話を聞くと、飼育が大変だったのでそれ以降は入れていないとのことだった。ある時マンボウを飼育して、それ以降入れなくなる水族館は結構多い。

 

マンボウ型ロボット「キカマンボウ」

 マンボウとも縁がある東海大学海洋科学博物館であるが、2階のメクアリウム(機械水族館)のコーナーの棚に、世界でも珍しいマンボウ型ロボットが展示されている。これは4月以降、見ることができなくなってしまう。メクアリウムが作られたのは 1978 年のことで、西・佐藤(1985)の時点で 33 種 65 点のメカニマル(機械生物)が展示されていた。メカニマルとは、メカ(機械)とアニマル(動物)の造語で、そのまま機械生物を意味する。メカニマルは海洋生物の形態、行動、機能を分析し、機械に取り入れることで、将来、海洋調査開発に必要なロボット製作の手助けをすることを目的に作られていた。メカニマルは機能によって「泳ぐ」、「歩く」、「掴む」、「知覚」の4つに大別され、泳ぐメカニマルにはススメダイ、フタヒレイルカ、歩くメカニマルにはタラズガニ、ヒトデフミアシ、ナミアシフナムシ、掴むメカニマルにはマネキガニ、イソノツカミ、知覚メカニマルにはミツメムレツクリ、などがあった。メカニマルは基本的に DC12V の電源でギアードモーターを動力としており、一体の大きさは 50 ~ 70cm、骨組にはアルミニウム材が使用され、東海大学海洋科学博物館の職員が自分達で作っていた。

 



 マンボウ型ロボットが作られることになったきっかけは、マンボウを飼育した際に来館者に強い興味・関心があり、ロボットで泳ぎを再現して解説したらどうかとの意見が出されたことであった。マンボウ型ロボットは和名「キカマンボウ」、英名「Slow-a-head」、学名「Mecha mecha Tomomi」(※実際の生物ではないので正式なものではない)と名付けられ、淡水仕様のメカニマルがほとんどである中、キカマンボウは海水仕様で作られた。誕生日は 1985 年7月6日だ。キカマンボウという名には、「機械のマンボウ」という意味と、「製作時にいうことをきかない(なかなかうまく泳がなかった)マンボウ」という二重の意味が込められている。愛称は一般募集して「クプクプ」になった。キカマンボウの製作は、以前飼育した時に撮影していたビデオで実物のマンボウの動きを観察するところから始められ、ヒレの素材も試行錯誤末、柔軟性があって水に強い天然ゴムシートが採用された。全長 32cm、全高 44cmで、結構メタリックなロボットだ。試作機の骨組みは主にアルミニウム材を使用していたが、海水に入れていたので腐食して半月ほどしかもたなかった。その後、ステンレスとアクリル樹脂を使用したものが作られた。このバージョンはアカククリ2匹と同じ水槽に入れて展示していたが、一ヶ月ほどしてヒレの付け根のステンレスの部分が腐食して動かなくなった。そして、最終的には腐食した部分は亜鉛板に変えて、(*) ステンレスより腐食しやすい亜鉛板を追加して、亜鉛板を3ヶ月に1回交換することで対処することにした。このように、素材選びとマンボウの動きの再現は簡単ではなかったのだ。完成したキカマンボウは電磁波センターによって来館者が水槽に近付くと自動的に動くように工夫されていた。

 数年間は水槽に入れた状態で展示されていたが、私が東海大学海洋科学博物館に訪問した時は既に棚の中に飾られており、動いている姿を見ることは叶わなかった。キカマンボウは私が知る限り、国内のマンボウ型ロボットで最も古いものである。有料入館終了後はもう実物を見ることはできなくなるが……

「静岡市海洋・地球総合ミュージアム(仮称)」に引っ越しされたらいいなと思う。

 

ちなみに、東海大学海洋科学博物館が作ったものではないが、現在、マンボウ型ロボット自体はAFK研究所合同会社で軽量化・改良化されて、5万円ほどで作ることが可能である。

 

* ご指摘をいただき、対処法に関する記述を修正(2023.4.28)

 

~今日の一首~

 マンボウの
  初期のロボット
   キカマンボウ
    東海大学
     三保水族館

参考文献

西源二郎・佐藤猛.1985.泳ぐ機械生物「キカマンボウ」の誕生.博物館研究,20(9): 85-88.

佐藤猛.1985.マンボウ型メカニマルの製作―7月6日,キカマンボウ誕生―.海のはくぶつかん,15(5) : 10.

佐藤猛.1989.メカニマルの製作について.全科協ニュース,19(2): 10-11.

佐藤猛.1991.海の生き物に学ぶ.関西造船協会 らん,(13): 19-23.

 

【著者情報】澤井 悦郎

海とくらしの史料館の「特任マンボウ研究員」である牛マンボウ博士。この連載は、マンボウ類だけを研究し続けていつまで生きられるかを問うた男の、マンボウへの愛を綴る科学エッセイである。

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