“宇宙最初の化学分子”は、これまで以上に恒星誕生に重要と判明!

2025.08.08

初期宇宙における水素化ヘリウムイオンの役割 サムネ

(画像引用元番号①)

 

みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の時々VTuber彩恵りりだよ!

今回の解説の主題は、宇宙最初の化学分子「水素化ヘリウムイオン」が最初の恒星の誕生に関与した役割に関する研究だよ。この化学分子が果たす役割は元から重視されていたけど、最近になって従来とは異なる理論的予測が出され、正確な関与の度合いが議論になっていたんだよね。

今回の研究では、初期宇宙の低温・低密度のガスを直接的に再現可能な実験装置「極低温貯蔵リング (CSR)」で実験を行った結果、水素化ヘリウムイオンの役割は、これまで以上に重要なことが分かってきたんだよね!何が分かったのかをこれから解説するよ。

 

今回の研究のポイント
  • 宇宙最初の化学分子「水素化ヘリウムイオン」は、ガスを冷やすために重要な役割を果たしていたと言われているよ。
  • 今回の研究では、初期宇宙のガスを直接的に再現し、分解反応の速度を直接測定したよ。
  • その結果、水素化ヘリウムイオンは、これまで考えられていた以上に最初の恒星の誕生に重要なことが分かったよ!

 

    最初の恒星はどのように誕生した?

    温度が下がらないとガスが収縮できない

    誕生数億年後の宇宙では、ガスがあつまって最初の恒星ができたと考えられているよ。しかし、ガスは高温なままでは凝集して恒星になることができないので、冷却するプロセスが必要になるよ。 (画像引用元番号①)

     

    宇宙最初の恒星はいつどのように作られたのか?これはその後の宇宙の進化を知るための重要な情報になると同時に、天文学における大きな謎の1つなんだよね。なぜなら、恒星ができるための最低条件である「ガスが集まってひとかたまりとなる」というプロセスに、未解決の謎が転がっているからだよ。

     

    大雑把に言えば、恒星とは、水素やヘリウムなどのガスが、重力で集まってひとかたまりとなったものなんだよね。しかし、ガスというのは原子の動きが激しいので、しばしば重力を振り切ってどっかに行っちゃうんだよね。なので宇宙最初の恒星ができた現場では、ガスの中の原子の動きが十分に遅い必要があるよ。

     

    原子の動きが遅いというのは、原子が持つエネルギーが低い、あるいは原子の温度が低いと言い換えることができるよ。つまり原子の動きを遅くするには、原子が持つエネルギーを放出させて、温度を下げるというプロセスが必要になってくるよ。このプロセスが面白いと同時に、ここに未解決の謎があるんだよね。

     

    初期宇宙の元素合成

    誕生から数億年後、恒星が生まれる前の宇宙には、実質的に水素とヘリウムしかなかったんだよね。なので初期宇宙での化学反応は、水素とヘリウムとの化学反応が重要になってくるよ。

    初期宇宙で起きる化学反応

    「水素化ヘリウムイオン」は、宇宙で最初に作られた化学分子なんだよね。水素化ヘリウムイオンが分解する反応はガスを低温まで冷やすのに重要なんだけど、その反応速度に謎があったんだよね。

     

    原子を冷やすには、光の形でエネルギーを外に捨てるプロセスを起こさせるのが手っ取り早いのよね。そのためには、原子同士が化学反応して分子を作るというプロセスが必要になるよ。初期の宇宙にある元素と言えば、実質的に水素とヘリウムしかなかったんだけど[注1]、それでもいくつかの重要な化学反応が起きていたんだよね。

     

    特に重要なのは、電子を持たない水素イオンと、電子を持つ中性のヘリウム原子がくっついた「水素化ヘリウムイオン (HeH+)」という分子[注2]。これは宇宙で最初に作られた化学分子という重要なマイルストーンに位置するんだけど、水素化ヘリウムイオンはあくまで原子を冷やすための途中経過でしかないんだよね。

     

    水素化ヘリウムイオンは、電子を持つ水素原子と出会うと、ヘリウム原子を手放す分解反応が起きて、「水素分子イオン (H2+)」を作るよ。ちなみに、この水素分子イオンがさらに別の水素原子と出会うことで、ようやくなじみのある中性の「水素分子 (H2)」ができるんだよね。

     

    このような化学反応を経ることで、何万℃もあるような高温のガスを、最終的には絶対零度 (-273.15℃) からほんの数℃だけ高いくらいというヒエッヒエな状態に持ってこうとするよ。しかしこの冷却プロセスでは、1万℃より低い状態での化学反応に大きな謎があったんだよね。

     

    シミュレーションをしてみると、1万℃より低い温度では、水素化ヘリウムイオンの分解反応以外はほとんど役に立たないみたいなんだよね。しかしこの分解反応は、温度が下がると極端に遅くなる、ということが理論的に予想されているのよね。ということは、冷却効率が相当落ちると考えられるよ。

     

    冷却効率が落ちるということは、ガスが寄り集まるのも遅くなり、恒星の誕生も遅くなる……ということだから、この場合考えられるのは「恒星の誕生は思ったより遅い」とか「水素化ヘリウムイオン以外の冷却プロセスがある」みたいなことが考えられるんだよね。

     

    初期宇宙の環境を直接再現して研究!

    CSRによる水素化ヘリウムイオンの分解反応実験

    マックス・プランク物理学研究所にある極低温貯蔵リングは、宇宙最初の化学反応を調べることが可能な唯一の実験装置となるよ。 (画像引用元番号②)

     

    ただ、そもそもとして「水素化ヘリウムイオンの分解反応は、温度が下がると極端に遅くなる」という理論的予想が正しいのかどうか?という問題もあるよね。これは2019年頃までに出された理論モデルは正しいと見られていたんだけど、2024年にどうも違うんじゃないかという反論的な理論モデルを示す研究も出てたんだよね。

     

    そこでMPIK (マックス・プランク物理学研究所) のFlorian Grussieフロリアーン・グルーシー氏などの研究チームは、理論ではなく実際に化学反応をやってみよう!という実験を行ってみたよ。この実験は高真空と極低温の両立・維持という難しい課題があるんだけど、MPIKにはそれが可能な実験装置「極低温貯蔵リング (CSR)」があるんだよね。

     

    CSRは、円周35mのリングの中で、高い真空と約-267℃ (6K) の極低温環境を実現できるので、この種の実験が行える世界唯一の装置なんだよね。今回の研究では、リングの中で水素化ヘリウムイオンを回しながら、水素のお仲間である重水素原子のビームを当て、分解反応の進む速度を温度ごとに細かく検証してみたよ。

     

    水素化ヘリウムイオンの分解反応は低温でも遅くならない

    実験の結果、水素化ヘリウムイオンの分解反応は極低温でもほとんど遅くならないことが分かったよ。これはこれまでの理論による予測とは一致しない一方で、新しい理論による予測とはよく一致するよ。 (画像引用元番号③)

     

    実験の結果、水素化ヘリウムイオンの分解反応の速度は、温度が下がってもあまり低下せず、ほぼ一定の値を保つことが分かったんだよね!これは2019年頃までの理論モデルとは一致しない一方、2024年で示された新しい理論モデルと良く一致するので、2024年の理論モデルが正しいことを示している、となるよ。

     

    だから、やってみなくちゃ分からない

    この結果を踏まえると、水素化ヘリウムイオンの分解反応は、ガスの温度がかなり下がっても相変わらず重要らしいことが示される、と研究チームは考えているよ。宇宙で最初にできた化学分子は、これまで考えているよりもさらにずっと、恒星の誕生において重要な役割を果たしていることになるんだね。

     

    また、今回は実際に合成実験を行ったことで、これまでの理論モデルのどこら辺が間違っているのかが分かったんだよね。この誤りの指摘は、この研究だけに留まらず、宇宙で起こる様々な化学反応の理論モデルを構築する上で重要な役割を発揮することが期待されるよ!

     

    そしてこの研究は、天文学における長年の謎を解決するのみならず、実際に実験を行ってみることは、知見を深める上で重要だという、もっと基本的だけど重要な観点を私たちに示していると言えるかもしれないよ。

    注釈

    [注1] 初期宇宙の元素構成
    宇宙誕生から数分間に起きた核反応は、恒星誕生前に生じた唯一の元素合成反応です。この時に生じた元素は約75%が水素、約25%がヘリウムです。次に多いリチウムでも全体の数十億分の1しかなく、重い元素の存在量は無視できるほど小さいです。  本文に戻る

    [注2] 分子イオンの恒星と図
    分子の形態を持つイオンは、正確には分子全体で1つのイオンです。ただし今回は、イオンが絡む化学反応の分かりやすさを優先し、片方の原子がイオン化しているように図示しています。  本文に戻る

    文献情報

    <原著論文>

    • Florian Grussie, et al.“Experimental confirmation of barrierless reactions between HeH+ and deuterium atoms suggests a lower abundance of the first molecules at very high redshifts”. Astronomy and Astrophysics, 2025; 699 (L12) 7. DOI: 10.1051/0004-6361/202555316

       

      <参考文献>

         

        <画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)

        1. 原始星の想像図: NASAより (Credit: NASA, JPL-Caltech & R. Hurt (SSC) )
        2. CSRの写真: Max-Planck-Institut für Kernphysikより。
        3. 水素化ヘリウムイオンの分解反応の速度の実測値と理論値: 原著論文Fig.3より

           

          彩恵 りり(さいえ りり)

          「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
          本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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