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2024年11月中旬、X(旧Twitter)上でマンボウの小型個体の群れの動画を紹介した私のポストがバズった時のことだった。Xユーザーが「東京の恵比寿にマンボウのイタリア料理を食べさせてくれる店があった」と私のポストに引用リポストをした。私は色々マンボウ料理を出す店を知った気になっていたが、日本でマンボウを海外料理に使う店があったことを知らず、衝撃を受けた。しかし、そのXユーザーに教えてもらった店をインターネット上で調べてみても、マンボウ料理を扱っている雰囲気が無かった。どうも今はマンボウ料理を扱っていないようだ。食べてみたいと思ったので、食べられないと分かって少ししょんぼりしたのだが、これに関連して別のXユーザーからマンボウのスペイン料理を食べられる店が銀座にあるとのポストを頂いた。その店を調べてみると……ホームページでもマンボウ料理がメニューに載っているではないか! これは行くしかない! ちょうどナダルとのトークショーで東京に行く直前だったので、私は期待を膨らませて東京に向かった。今回はそのマンボウのスペイン料理を食べた話をしよう。
スペインはヨーロッパに属している。ヨーロッパでは2004年以降、欧州委員会によってマンボウ科魚類の商業的売買は禁止されている。つまり、ヨーロッパの魚屋でマンボウを見ることは基本的にできない。これはマンボウ科がフグ目に属し、フグの仲間は毒を持っているからという理由で禁止されているのだ。しかし、マンボウを人に売ってはいけないだけで、自分で勝手に食べる分には問題無いようで、私がヨーロッパにサンプリング調査に行った時、現地の定置網漁師はたまにマンボウを食べると言っていた。実際のところ、科学的にもマンボウから毒物が検出された事例は今のところ無い。
おそらく売買が禁止される前は、ヨーロッパ人もマンボウが獲れる地域では食べていたはずだ。そうなると、マンボウのスペイン料理があってもおかしくはない。しかし、一体どうやってマンボウのスペイン料理を知ったのだろうか? 色々な疑問を抱えて、私は2024年11月18日に、JR新橋駅の銀座口から徒歩10分程度の場所にあるスペイン料理店「バル デ エスパーニャ ペロ(BAR de ESPANA Pero)」に向かった。

店にはまだ他のお客さんはいなかった。一番乗りだ。早速、お店のメニューにある「マンボウの腸のアヒージョ柚子胡椒風味」とバケット(フランスパンの1種)を注文した。アヒージョという料理をよく知らずに食べに来たのだが、アヒージョは食材をオリーブオイルとニンニクで煮込んだスペイン料理で、バケットに付けて食べるのが一般的とのこと。オリーブオイルで煮込むあたり、海外料理を彷彿させる。
料理が来るまで時間があり、他にお客さんもいなかったので、シェフにこのマンボウ料理について少し話を聞いてみた。何故スペイン料理にマンボウを使ったのか?と聞いたところ、豊洲へと移転する前の築地市場で、仕入れを見ていた時に、偶然マンボウの腸が売られているのを発見して、面白そうな食材だと思ってスペイン料理にアレンジして使ってみたのだという。つまり、スペイン現地にある伝統的なマンボウ料理というわけではなく、ただ単にスペイン料理にマンボウを使ってみただけの話だった。スペイン伝統マンボウ料理ではなかったので、ちょっとがっかり。しかし、スペインでもマンボウを食べる人は食べるので、実際に現地でマンボウのアヒージョが作られていた可能性はあると私は思う。
どこの海域からのマンボウを使っているのか?と聞いたところ、宮城県産のものを仕入れているとのことだった。宮城県は夏から秋にマンボウがよく漁獲され、伝統的に食する地域である。しかし、お店に行った時は11月。そろそろ宮城ではマンボウが獲れなくなるとシェフに言うと、そろそろ追加発注しようと思っていたと言い、私の話を聞いてすぐに発注された。私がマンボウ研究者だと名乗ったら、シェフもマンボウに興味津々で、どういう生態をしているのかと聞いてきた。私はシェフにマンボウは一般的にゼラチン質の動物プランクトンを食べ、1日の中で水面から深海まで移動し、季節的に南北移動していることを伝えた。
シェフの経験的に、マンボウの腸を捌いていると、ニオイが臭いものとそれほどニオイがしないものとがあり、その違いは何なのか?と聞かれた。私はその時、獲れたマンボウの食べていた物が個体によって少し違っていたからではないかと答えたが、後から考えると、漁獲時の腸に入っていた餌の消化具合も関係しているかもしれないなと思った。私もよくマンボウの腸は解剖していたが、餌が残っていると臭いニオイがした。
話を色々しているうちに待望の料理が到着! こちらがその「マンボウの腸のアヒージョ柚子胡椒風味」である。花が添えられてオシャレ、すごく美味しそう。日本で食べられるマンボウ料理ぽくない。

早速、マンボウの腸を探してみると……あった! これがマンボウの腸である。筋肉の部位よりもコリコリした食感で、魚ぽくない。普通に牛のミノを食べているみたいな感じ。よく火が通されているので、若干硬めだが、臭みも無く普通に美味しい。エリンギやアワビタケなどマンボウの腸と似た食感のキノコも入れて合わせているのだという。バケットを千切ってアヒージョに付けて一緒に食べていく……ニンニクとオリーブが効いて美味い! マンボウ料理の可能性を感じた。

東京の
銀座で食べる
マンボウ腸
スペイン料理
挑戦アヒージョ
【参考文献】
澤井悦郎.2017.マンボウのひみつ.岩波書店.東京,208pp.
Thys, T. M., M. Nyegaard, L. Kubicek. 2020b. Ocean sunfishes and society, pp. 263-279. In: Thys, T. M., G. C. Hays and J. D. R. Houghton (eds.) The ocean sunfishes: Evolution, biology and conservation. CRC Press, Boca Raton.