VTuberと博物館のコラボイベント事例~海とくらしの史料館マンボウ祭2023~

2023.06.13

 海とくらしの史料館(海くら)で開催されていた企画展イベント「マンボウ祭」は無事、2023 年5月 22 日に幕を下ろした。私は 2018 年から毎年1回、この海くらで開催されるマンボウ祭関連のイベントで講演をしたり、展示に協力している。どこの観光施設もそうであると思われるが、コロナ禍に入ってから来館者数が低迷している。しかし、そろそろ来館者数をコロナ禍以前にまで戻したいところである。

そこで今回は初めての試みとして、マンボウをモチーフにした VTuber である ChumuNote さん(メイン活動は音楽系)とのコラボを行った。前回、マンボウ祭が始まる前に書いた記事で、博物館とVtuberがコラボした結果、果たして地方博物館の来館者数は増えるのか? という議題を投げかけた。

この件に関して、海くらから早速データを頂いたので、赤裸々に生データを公表し、考察を行ってみたいと思う。先駆的な博物館とVTuberとのコラボの事例として、今後のコラボの参考になればいいと思う。

 

本題の前の、おさらい

 本題に入る間に VTuber に関する情報を少し調べてみた。VTuber もといバーチャル YouTuber という名称は、2016年に活動を始めたバーチャルアバターを活用した YouTuber であるキズナアイさんを発端としており、最初はキズナアイさんのみを指す名称だったが、現在は同様のスタイルで活動する YouTuber の総称として用いられている。2022 年 11 月 28 日時点で日本の VTuber の総数は2万人に達したとあり(企業勢と個人勢の合計)、現在はさらに増えていると予想され、また海外も含むとその倍近くの人数が世界に存在するものと思われる。

 

 最近はメディアでもよく取り上げられ、その影響力に期待して企業コラボも活発になってきた VTuber であるが、博物館(水族館も含む)と VTuber がコラボした事例はまだ非常に少ないようである。

 

  • 2021 年9月に AI VTuber の紡ネン(Pictoria運営)が新江ノ島水族館で一日展示イベント
  • 2022 年9月にサンシャイン水族館と雪花ラミィさん(ホロライブ所属)のコラボイベント
  • 2022 年 12 月頃に岐阜県瑞浪市化石博物館と白亜マウルさん(個人勢)のコラボ配信
  • 2023 年4月にマクセルアクアパーク品川と沙花叉クロヱさん(ホロライブ所属)のコラボイベント

 

 私がインターネット検索で調べた限りでは、上記のような事例を見つけることができた。他にも事例はあるかもしれないが、実際のところ、個人勢の Vtuber が博物館とコラボイベントを行うのは、博物館側にそれ相応の収益が見込められないとかなり困難であると思われる。これを考えると、今回、個人勢の ChumuNote さんが海くらと約一ヶ月もコラボイベントが開催できたのは、極めて異例であると言えるだろう。

 

 

マンボウ祭の来館者推移

 海くらのマンボウ祭はその年によって呼び名が多少異なるが、ここでは一貫して「マンボウ祭」と称することにする。2018 年 ~ 2023 年までのマンボウ祭期間中の総来館者数の推移を見てみると、コロナ禍で低迷し、今年は去年より 200 人ほど増えたものの、まだコロナ禍前までは来館者数が回復していないことが見て取れる。

 

 総来館者数は当然ながら開催期間が長いほど増えるので、真の意味で今年の来館者数が増えたかどうかを知るには、マンボウ祭の来館者数を開催日数で割って、一日当たりの平均来館者数を求める必要がある。一日当たりの平均来館者数を求めた結果、やはりコロナ禍前までには回復しておらず、今年は去年とあまり変わらなかった。残念ながら、これらの図を見ても Vtuber コラボ効果があったかどうかは、イマイチよく分からない結果となった。

 

 

成功事例と、結果に対する考察

 Vtuberコラボの効果が著しくあった事例としては、2023 年2~4月に行われた志摩スペイン村と周央サンゴさん(にじさんじ所属)のコラボイベントが非常にインパクトがあり、世間的にも記憶に新しいところだろう。形式としてコラボイベントを開催したというだけでなく、周央サンゴさん自身が積極的に志摩スペイン村の魅力を伝え続けた結果、皆さんも知る通り、大きな話題を集める結果となった。

このコラボは実験的な試みもあり、どう転ぶか分からなかったとされているものの、大手企業に所属する人気 Vtuberと大手企業のコラボであるので、見ている人の数が桁違いに多かった。また、テレビやニュースに取り上げられたことも大きく成功した要因の一つと考えられる。ご本人の手腕に加え、広報手段が多ければ多いほど、興味を持ってくれる人も比例して多くなるのは、感覚としても理解ができると思う。

 

 今回の海くらコラボはtwitterを中心に広報が行われたが、テレビなどで話題になるところまでは至らなかった。来館者数を増やすためには、もっと他の媒体での広報も必要だったと思われる。Vtuber とのコラボは注目度が高いが、当然ながらコラボをしたというだけでイベントを大成功に導くものではない。

とはいえ、今回コラボ効果がなかったのかと言われるとそうではない。(今回来館者に向けての詳細なアンケートを用意していなかったので、来館者のうちどのくらいの人が ChumuNote さんと海くらのコラボを見る目的でやって来たのかは不明であるが)来館者が書く記念ノートを見てみると、ChumuNote さんのファンはこれまでにない異色のコラボを楽しんで、館内を見て回ってくれたようだ。こういう声は企画した者として嬉しい限りである。

 

 海くらは鳥取県の境港市の先端の方にあるのだが、東京、石川県、岡山県、広島県、島根県など全国各地からこのコラボを目的に足を運んで来てくれていたことが記念ノートからうかがい知ることができた。人々に新たな学びを与えることが博物館の大きな役割であるので、このコラボによって今まで海くらを訪れたことがなかった人達が見に来てくれたことは非常に大きな意味がある。

また、逆のパターンで、海くらを訪れて ChumuNote さんのことを初めて知った人達も少なからずいたことだろう。この点は相互に大きなメリットがあったと思われる。博物館と Vtuber とのコラボ効果は今回数値的に明確には示せなかったものの、来館者の満足度は高かったようで、ノリでやってみたコラボは成功だったと感じている。海くらが先駆的に取り組んだ Vtuber コラボを参考にして、他の博物館でも新たな風が吹けば嬉しい限りである。

 

~今日の一首~
 博物館
  Vtuberコラボ
   まだ希少
    これから増えるか?
     新たな時代

参考文献

西野順二.2022.VTuber文化におけるいくつかのエポック.ファジィシステムシンポジウム講演論文集, 38: 494-497.

岡本健.2023.YouTuber、ゲーム実況者、VTuberなどの複合的で複雑な現代文化を研究する際に有用な研究手法の提案―コロナ禍におけるVTuber「ゾンビ先生」による情報空間のフィールドワーク―.近畿大学総合社会学部紀要:総社る, 11: 15-30.

 

【著者情報】澤井 悦郎

海とくらしの史料館の「特任マンボウ研究員」である牛マンボウ博士。この連載は、マンボウ類だけを研究し続けていつまで生きられるかを問うた男の、マンボウへの愛を綴る科学エッセイである。

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