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みなさんこんにちは!サイエンス妖精の彩恵りりだよ!
今回は、みんな大注目!2022年ノーベル生理学医学賞解説だよ!
まず、今回の受賞者と授賞理由は以下の通りだよ!
2022年10月3日、カロリンスカ研究所ノーベル賞会議は、本日、2022年のノーベル医学生理学賞を以下の者に授与する事を決定しました。
スヴァンテ・ペーボ (Svante Pääbo)
「絶滅した人類のゲノムと人類の進化に関する発見に対して」
Svante Pääbo (スヴァンテ・ペーボ)
スウェーデン王国、ストックホルム出身。1955年4月20日生まれの67歳。ドイツ連邦共和国、マックス・プランク進化人類学研究所、および日本国、沖縄科学技術大学院大学所属。
選考委員: Gunilla Karlsson Hedestam & Anna Wedell
人類の起源と広がりという疑問は多くの人々の興味を引いてきたよ。初期の霊長類が出現したのは、新生代が始まったばかりの5500万年前から6500万年前といわれているよ。
やがてヒトに繋がる大型類人猿が旧世界ザル[注1]から分岐したのは2500万年前で、そしてチンパンジー (Pan troglodytes) [注2]が人類と分岐したのは600万年前と推定されているよ。
そして、180万年前に出現した「ホモ・エレクトス (Homo erectus)」は、確認できる最古のヒト属[注3]であり、最初にアフリカ以外に分布を広げることに成功したヒト属でもあるよ!
ホモ・エレクトス自身は絶滅したものの、一部の子孫は「ネアンデルタール人 (Homo neanderthalensis)」[注4]に進化。40万年前から3万年前までユーラシア大陸の広い地域に分布したよ!
一方で、現生人類 (Homo sapiens) は30万年前にアフリカで出現し、6万年前から7万年前にアフリカから世界中に分布を広げていった、と推定されているよ。
このことから、現生人類とネアンデルタール人は少なくとも2万年間、恐らくはそれ以上の期間、ネアンデルタール人と共存し、相互作用していた可能性があるんだよ!
今までの推定は、全て化石の骨格的な特徴や、一緒に出土する遺物から推定されたものだよ。この点は他の動物と変わらない古生物学的・考古学的な手法だね。
ただ、ことに人類の進化の歴史となると、関心が猛烈に高まるのはもちろんだよね。特に異なる人類同士の相互作用を、化石の特徴や異物だけで推定するのは限界があるよ。
ところで、ゲノム解読技術の進歩によって、1990年からは国際コンソーシアム「ヒトゲノム計画」がスタートし、私たちの "設計図" である遺伝情報を本格的に知る研究がスタートしたよ。
ヒトゲノム計画は2001年の終わりまでにほぼ完了し、ゲノム配列から現生人類の様々な集団の多様性と、それがどう広がっていたかに関する多くの情報が得られたよ。
ただし、これはあくまで現生人類の中での話。ネアンデルタール人のような絶滅した人類が、現生人類とどの程度繋がりがあったのかは、この情報からは分からないよ。
この疑問に答えるには、ネアンデルタール人の遺伝情報を解析し、これをヒトゲノムと比較することで、どの程度の違いや共通点があるのかを探る必要があるよ。
ただ、これは口で言うのは簡単だけど、実際には大問題だよ。ネアンデルタール人は3万年前には絶滅しており、化石は長期間地中に埋まって環境に晒されているよ。
DNAは地中環境で変質してしまうため、そもそも残っている保証がないよ。仮に残っていたとしても、極めてバラバラの断片がわずかに残っているに過ぎないはずだよ。
DNAが1冊の本とするならば、ゲノム配列は文字や文章に相当するよ。仮に本の一部が分解せずに残っていたとしても、文字や文章がバラバラだったら、話の流れを読むことはできないよね?
これと同じように、仮にネアンデルタール人のDNAがわずかに残っていたとしても、意味のある配列を読めるかは全くの別問題で、到達不可能な情報と思われていたよ。
スヴァンテ・ペーボは、幼い頃から古代エジプトへの強い関心があったよ。スウェーデンのウプサラ大学に通っていたころ、ウイルスと免疫に関する研究と並行して、全然違うこともしていたよ。
それは、古代エジプトのミイラからDNAを分離するというもので、実際、2400年前のミイラからDNAを取り出し、それを増幅 (増殖) させることで、ヒトDNAを取り出すことに成功したよ!
ところがすぐに、ペーボはこの種の研究の難題に直面したよ。それらの増幅されたDNAは、細菌や、発掘に携わった現代人由来のヒトDNAに汚染されていることが分かったんだよ。
DNAの増幅には「PCR法」[注5]が使われたんだけど、これはゲノムならば原則何でも増幅しちゃうから、他のDNAが入り込めば、正しい解読を妨げてしまうよ。
つまり、これよりずっと古い絶滅した人類のDNAを取り出すには、DNAの化学的分解と他のDNAによる汚染という、2つの極めて難しい課題をクリアしなければならなかったよ。
1990年、ドイツのミュンヘン大学に採用されたペーボは、この難しい課題がある古代のDNAを読む研究に本格的に取り組み始めたよ。
ペーボは、ドイツのライニッシェ博物館に保管されているネアンデルタール人の化石標本の分析に取り組んだよ。これは、世界で初めて発見されたネアンデルタール人の化石でもあるよ!
化石人類のDNAという、多くの損傷や汚染を受けているであろうものをPCRで増幅しても、そのままでは汚染されたデータしか現れないから、これには工夫が必要だよ。
そこでペーボが着目したのは「ミトコンドリアDNA」だよ。これは「核DNA」[注6]と共に、細胞の中に存在するDNAのセットだけど、その性質が異なるよ。
1つの細胞の中に、核DNAは父親と母親から引き継いだ2本のコピーしかないのに対し、ミトコンドリアDNAは母親のみから引き継いだものが数百本から数千本のコピーが存在するよ!
だから、ミトコンドリアDNAは化石の中でも残る確率が高くなり、例えバラバラになっていても、共通する部分でつなぎ合わせることで1本のDNAとして読める確率が高まるよ!
ペーボはPCR法を使って、4万年前のネアンデルタール人の化石からミトコンドリアDNAのゲノム配列の一部を復元することに世界で初めて成功したよ!これは独立した研究でも証明されたよ!
また、ネアンデルタール人のゲノム配列は、現生人類やチンパンジーとは異なる配列を持つこと、ネアンデルタール人と現生人類の分岐は55万年前から69万年前に起きたことが分かったよ。
従ってこの段階では、ネアンデルタール人は現生人類に遺伝的な影響を与えずに絶滅した可能性が示唆されたよ。これは化石をいくら眺めても分からない発見だよ!
また、ペーボや他の人の研究によりネアンデルタール人の追加のDNA情報が追加された結果、ネアンデルタール人は現生人類と同じく、類人猿と比べ遺伝子多様性が低いことが分かったよ。
これは、現生人類とネアンデルタール人は共に少数の集団が分布を拡大したことを意味し、ネアンデルタール人が現生人類に遺伝的影響を与えた可能性を低くする結果となるよ。
ただし、ミトコンドリアDNAは核DNAの約18万分の1という極めて短い長さしかない上に、必ず母親から引き継がれるという性質があることから、情報は限られてしまうよ。
ネアンデルタール人が本当に現生人類に遺伝的影響を与えていないと証明するには、より情報が豊富な核DNAの復元を行うしかないけど、さっき書いた通りそれは相当難しいことだよ。
ペーボは、この頃登場した新しいゲノム増幅技術を使い、核DNAの復元を試みたよ。細菌のDNAによる汚染を排除しつつ、核DNAを正しい配列で効率的に増幅させることができるよ。
世界中の70を超えるネアンデルタール人の化石サンプルから核DNAを取り出し増幅を試みた結果、2006年には初めてネアンデルタール人の核DNAの配列を読み取ることに成功したよ。
この研究は、更なる追加の標本、クリーンルーム内での慎重な取り出し、専用のアルゴリズム開発、異なる研究者による同様の研究によるクロスチェックなど、様々な面で日進月歩に進んだよ。
その結果、2008年にはネアンデルタール人のミトコンドリアDNA全てのゲノム配列が復元され、2010年には広範な研究が可能なレベルの核DNA復元に成功したんだよ!
ネアンデルタール人の核DNAが本当に汚染を受けていないか、主に3つのアプローチからチェックが行われた結果、汚染率は1%未満という極めて高い精度で解読されていたことが証明されたよ!
核DNAが復元された結果、最初に分かったのは、ネアンデルタール人と現生人類の核DNAの分岐は今から82万5000万年前と、ミトコンドリアDNAよりずっと古い時代になることだったよ。
ただしもっと驚きだったのは、ネアンデルタール人が現生人類に遺伝的影響を与えたかについての研究だよ。これは核DNAの比較で初めて可能になった研究だよ。
興味深いことに、ネアンデルタール人と現生人類を比較した場合、アフリカ人ではない人々は、アフリカ人よりもネアンデルタール人に近い遺伝子を持っていることが分かったんだよ。
このことは、ネアンデルタール人がユーラシア大陸にいたこと、その頃アフリカから進出していたことを合わせると、実にシンプルに説明できるよ。
つまり、アフリカ人以外の現生人類の祖先である初期のホモ・サピエンスが、中東地域にいたネアンデルタール人と交配したと考えれば、最もシンプルに説明できるんだよ!
この研究から、ユーラシア大陸に住む人々には、現在でも1%から4%程度ネアンデルタール人の遺伝子が残っていることが分かったんだよ!
この研究が示す通り、古代のDNAはいろいろなことを明らかにしてくれるけど、これはネアンデルタール人がユーラシア大陸という比較的高緯度の地域にいたことが幸いしているよ。
例えばアフリカのような人類発祥の地と見られる場所は、よりDNAなどを分解する条件が整っており、ここでのDNA復元は成果を挙げていないよ。
ただし裏を返せば、より高緯度地域の人類化石ならばDNAを保存している可能性が高くなるということで、何か新しい発見が眠っているかもしれないよ。
それが証明されたのが2008年、ロシアのアルタイ山脈にあるデニソワ洞窟での発見だよ。4万8000年前から3万年前の地層から、人類の手の小指の先端の骨が見つかったよ。
以前からアルタイ山脈では化石人類が見つかっていたものの、小さな骨ばかりしか見つかっておらず、いったいどの種類に属するのかは全くの不明だったよ。
そこでペーボは、この化石からミトコンドリアDNAを抽出することを試みたよ。そしてこれは首尾よく成功し、現生人類やネアンデルタール人、および類人猿と比較されたよ。
その結果驚くべきことに、この化石のミトコンドリアDNAは現生人類ともネアンデルタール人とも異なる配列を持ち、分岐も約100万年前と倍も古い時代に起こったことが分かったよ!
ペーボは、この化石人類は現生人類ともネアンデルタール人とも異なる新種の人類「デニソワ人 (Denisova hominins)」[注7]として2010年に報告したよ!
デニソワ人の発見は、化石の骨格的な特徴に基づくことなく、遺伝子の分析によって新種であることを示した、化石人類では初めての例だよ!
続いて核DNAの復元にも成功し、ミトコンドリアDNAと共に比較した結果、デニソワ人の分岐と進化が見えてきたよ。
それによれば、デニソワ人はネアンデルタール人の姉妹郡であり、80万4000年前に現在のアフリカ人とネアンデルタール人が分岐した後、64万年前にデニソワ人が更に分岐したことが分かったよ。
また、デニソワ人の遺伝子は現生人類のほとんどと似ていなかったけど、パフアニューギニアのブーゲンビル島の人々と共通する部分があることを突き止めたよ!
このことから、デニソワ人はユーラシア大陸の東部と南部の広い地域にまたがっていたことが推定されたよ!これは化石からDNAが分解しやすい熱帯雨林気候を含んでいるよ。
また、デニソワ人はそこにいた現生人類の祖先と交配した結果、現在のメラネシアの人々には、デニソワ人の遺伝子が4%から6%残っていると分かったよ!
更に後の研究では、デニソワ人の分布はシベリアの高緯度地域にも広がっていたこと、そこにいたアルタイ地域のネアンデルタール人とも交配していたことも判明したんだよ!
これらの結果から、現生人類とネアンデルタール人の分岐は55万年前から76万年前、ネアンデルタール人とデニソワ人の分岐は38万年前から47万年前だと分かったよ!
そして、アフリカから進出した現生人類は、ユーラシア大陸の西側でネアンデルタール人と、東側でデニソワ人と交配し、その遺伝子が現在でも残っていることも合わせて判明したんだよ!
何万年も前に絶滅した化石人類の遺伝情報を見られるのは非常にエキサイティングなことだけど、一方で非常に例外的なことは現在でも変わっていないよ。
例えば、現生人類の起源があるとされるアフリカの化石人類は、現在でもDNA情報を読み取ることには成功しておらず、この部分は当分まだ謎のまま残されるはずだよ。
それでも、人類がどのように移動し進化したかがここまで詳細に分かるだけでなく、遺伝子の比較でより面白いことも分かるようになったんだよ。
例えば「EPAS1」という遺伝子は、高地のような低酸素環境に順応しやすくなる遺伝子だよ。このユニークな遺伝子を含むゲノム領域は現代のチベット人に見られるよ。
ところが、この配列がデニソワ人にも見つかったことで、EPAS1の起源が当時その場所に生息していたデニソワ人にある可能性が示されたんだよ!
また、受容体をコードする遺伝子クラスター「TLR6-TLR1-TLR10」も注目だよ。これは微生物やアレルギー反応に関連していて、様々な病気に抵抗する働きを持つよ。
TLR6-TLR1-TLR10は様々な抗ウイルスシグナル伝達分子に関与していて、直近で興味深いのは、COVID-19での呼吸不全リスクを下げるという研究があるよ。
そして広範な研究の結果、TLR6-TLR1-TLR10は、どうやらネアンデルタール人から継承された可能性が高いことが分かったんだよ!
さて、私たちは現在の地球に幅広く分布しているけれど、ではなぜネアンデルタール人でもデニソワ人でもなく、私たち現生人類たるホモ・サピエンスが拡大に成功したんだろうね?
動物としてのホモ・サピエンスは、高度な社会構造や文化、複雑なコミュニケーション能力、高度な道具や大陸間も移動可能な船の建造など、様々な技術を持っている点で特異だと言えるよ。
例えばネアンデルタール人は、ホモ・サピエンスと同じくらい大きな脳を持ち、高度な道具を製作し、怪我人の介護や死者の埋葬など、高度な社会構造や文化を持っていた点は共通しているよ。
また、ネアンデルタール人は人類より何十万年も先にアフリカを離れて、ユーラシア大陸に広がるだけの時間的なアドバンテージがあったんだよ。
それにも関わらず、ネアンデルタール人は他の大陸に進出しなかったし、道具もほとんど技術的に発展しなかったことが分かっているよ。
なぜホモ・サピエンスはこれほどユニークなのか、ネアンデルタール人やデニソワ人との根本的な違いは何なのか……。まだまだ謎は多く残されているよ。
もしかすると、この違いは遺伝子の違いで説明できるかもしれないけれど、その説明ができるかどうかは、絶滅した人類との比較ができなければ分からないことだよ。
スヴァンテ・ペーボの研究は、我々が何者であるのかという、極めて根源的な問いに答えを与える道筋をつけた古ゲノム学の開拓者だからこそ、ノーベル医学生理学賞が贈られたんだよ!
[注1] 大型類人猿・旧世界ザル ↩︎
今回の話では、大型類人猿が私たちに繋がる系統の霊長類、旧世界ザルはそうではない霊長類、と考えて差し支えない。
[注2] チンパンジー ↩︎
チンパンジーは、ヒトと最も近縁な現生動物であることが知られている。
[注3] ホモ・エレクトスは確認できる最古のヒト属 ↩︎
ヒト属そのものは300万年前に出現したと推定されている。その中で化石記録として確認できるのが、180万年前のものが見つかっているホモ・エレクトスである。
[注4] ネアンデルタール人 ↩︎
その名前は、1856年にドイツのネアンデル渓谷にある石灰岩の洞窟で見つかり、現生人類とは異なる骨格を持っているのに気づかれたことに因む。
[注5] PCR法 ↩︎
ポリメラーゼ連鎖反応を利用したDNAを増やす技術のこと。少量のサンプルからでもDNAのコピーを大量生産することで分析を可能にする技術で、現在ではCOVID-19の診断法として有名。キャリー・マリスによって発明され、1993年のノーベル化学賞に輝いている。
[注6] ミトコンドリアDNAと核DNA ↩︎
細胞にあるDNAには、ミトコンドリアが持つミトコンドリアDNAと、細胞核に含まれる核DNAの2種類がある。ミトコンドリアDNAは短い代わりに1つの細胞に数千本あり、必ず母親からのみ遺伝する。一方で核DNAは父親と母親から受け継いだDNAに由来し、非常に長い代わりに1つの細胞に2本ずつしかない。
[注7] デニソワ人 ↩︎
ホモ・サピエンスやネアンデルタール人と異なり、デニソワ人には現時点で正式な学名はついていない。後述する通り、デニソワ人はネアンデルタール人の姉妹群である可能性があり、現在でも分類学的な位置の決着がついていないためである。
[ノーベル財団の公式資料]
[受賞理由に関わる主要な論文]
[授賞理由と関わりの深い研究論文]