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日本はマンボウ類がたくさん漁獲される環境がある世界的にも珍しい国である。それ故、全国各地の水族館でマンボウが飼育されてきた歴史があり、マンボウ類は我々に身近な存在として親しみがある。マンボウ類がたくさん漁獲されるのならば、博物館などで保存される標本も多いはずなのだが……残念ながらマンボウ類は体サイズが大きくなるために、収蔵スペースが限られる博物館などの施設でも実際のところあまり保存されていない。特に、全長2mを超える大型個体は生態的にも重要になるのだが、丸ごとホルマリンに漬けて標本を保存するとなれば、プールレベルの容器が必要となり、場所もコストもかかってしまう。それ故、マンボウ類の大型個体は一般的に剥製にされて保存されている。国内にどれだけのマンボウ類の剥製が存在しているのかは、私も把握できていない。しかしながら、大型剥製標本の数はそんなに多くないと考え、以前調べて澤井ほか(2015)として論文にまとめたことがあった。今回はその話をお話ししよう。
この論文では、調査対象をマンボウ属に限定し、大型剥製は全長2.5m以上と定めた。日本国内に保存されている全長2.5m以上のマンボウ属の剥製は、4施設で見つかり、各施設1標本ずつ一般向けに展示されていた。つまり、国内にマンボウ属の大型剥製は合計4つあり、それぞれの施設に行けば誰でも大型剥製を観察することができるのだ。これはありがたいことである。何故なら、海外の博物館では、標本として保存することを重視して、マンボウ属の大型剥製は一般人が入ることができない標本部屋にひっそりと保存されていることがあるからだ。
大型剥製の大きな順に各展示施設を並べると、次のようになる:福岡県の北九州市立自然史・歴史博物館(全長325cmの茨城県産ウシマンボウ)、茨城県のアクアワールド茨城県大洗水族館(全長300cmの茨城県産ウシマンボウ)、茨城県のミュージアムパーク茨城県自然博物館(全長280cmの茨城県産ウシマンボウ)、鳥取県の海とくらしの史料館(全長275cmの島根県産マンボウ)。これら4つの大型剥製は、私の先輩も含めた研究チームが調査するまで全部マンボウと考えられていたが……実際は4標本中3標本がウシマンボウだった。この研究結果を受けて、剥製の展示パネルを更新する機会があった施設はマンボウからウシマンボウに更新された。

大型個体は種の形態的特徴が明確に表れているので、剥製になっていても比較的種判別はやりやすい。詳しくは参考文献の澤井ほか(2015)の図を見て欲しいが、ウシマンボウの剥製は頭部と下顎下部が明瞭に隆起し、舵鰭が波打っていないことが確認できる。また後の研究で分かったことだが、マンボウ属の大型個体において、ウシマンボウは胸鰭より後ろの体表に頭尾方向の盛り上がったシワが無いことでもマンボウと識別できる(剥製は乾燥しているため、変形してシワができていることもあるが)。保存されている剥製から見ても、ウシマンボウがマンボウより大型化する傾向があることはお分かり頂けるだろう。ちなみに、2021年9月30日に閉館した神奈川県の京急油壺マリンパークにあったウシマンボウの大型レプリカ(現在は神奈川県の観音崎自然博物館に譲渡・展示されている)は、作り物であるため剥製ではない。
ウシマンボウの大型剥製は奇しくもすべて茨城県で漁獲された個体が全国各地の施設で展示されている状況だが、茨城県でしか大型個体が漁獲されない訳ではない。茨城県は何か漁業者と博物館関係者の間で、標本を提供しやすい協力関係が築かれていたのだろうと個人的には推察している。これら4つの大型剥製の全長はすべて生鮮時に計測されたものであるが、そのままの大きさで剥製化することはほぼ不可能なので、現在展示されている大型剥製は生鮮時より縮んでいる(以前の記事も参照)。表皮も塗料などで多少コーティングされたりしているのだが、この大型剥製標本の調査を通じて、私はマンボウとウシマンボウを比較的簡単に識別できる重要な分類形質を発見した。ウシマンボウとマンボウは鱗の形状(特に胸鰭の後ろあたりの部位)が全然異なることに気付いたのである。ウシマンボウの体表上にある鱗は、真上から見ると線状で細長く、横から見ると長方形の形をしている。一方、マンボウの体表上にある鱗は真上から見るとギザギザした点状で、横から見ると先端がたわしのように枝分かれした円錐形をしている。種の分類形質を調べる時は、種の特徴が明確に表れている出来る限り大きな個体で形態を比較するのが良いという話を聞くが、まさにその通りだった。
このマンボウ属大型剥製4つの中で、世界的にも非常に重要な標本が2つある。それは北九州市立自然史・歴史博物館にあるウシマンボウの剥製と海とくらしの史料館にあるマンボウの剥製だ。この2標本は性別がメスであることが分かっており、さらにDNA解析もされているため、遺伝的にも種が確定している剥製標本なのである。生鮮時の全長が計測され、性別が分かっており、遺伝解析もされている実物大の大きさを維持したマンボウ属の大型剥製標本なんて、私の知る限り他にはない。もちろん、今後そういう標本が見付かる・作られる可能性はあるが、何にせよ、日本が失ってはならないかなり貴重なマンボウ属の剥製であることには変わらない。今後、これらの剥製を見る機会があれば、これらの剥製にまつわるエピソードとして、こういうバックグラウンドがあることを思い出して頂けると私は嬉しい。

ちなみに、大型剥製の基準を全長2.5m→全長2mにまで引き下げると、神奈川県立生命の星・地球博物館で展示されている全長202cmのウシマンボウ、国立科学博物館上野本館で展示されている全長240cmのマンボウも加わってくる。もし他に生鮮時の全長が2m以上のマンボウ類の剥製を保管している施設をご存じの方がいらっしゃれば、X(旧Twitter)などで教えて下さると嬉しい。今回のまとめとして、私が把握している全長2m以上の国内のマンボウ属の剥製一覧の情報を載せておく。
・福岡県の北九州市立自然史・歴史博物館(全長325cmの茨城県産ウシマンボウ)
・茨城県のアクアワールド茨城県大洗水族館(全長300cmの茨城県産ウシマンボウ)
・茨城県のミュージアムパーク茨城県自然博物館(全長280cmの茨城県産ウシマンボウ)
・鳥取県の海とくらしの史料館(全長275cmの島根県産マンボウ)
・東京の国立科学博物館上野本館(全長240cmの茨城県産マンボウ)
・神奈川県の神奈川県立生命の星・地球博物館(全長202cmの神奈川県産ウシマンボウ)
マンボウ類
大型個体
保存難
剥製化して
展示利用や