アドリア海2例目のウシマンボウ

2026.07.08

もし私の望みが叶うなら、地球上のすべてのマンボウ類の情報を知りたい……しかし、そんなことは到底できるはずもなく、私が住むこの日本でさえ、まだまだ把握できていないことだらけだ。日本でこんな状態なら、海外のマンボウ類の情報なんて尚更である。海外の情報は、海外の研究者が書いた論文から情報を仕入れるのが、一番精度が高い。そこで今回はアドリア海2例目のウシマンボウの記録についてご紹介したい。この記録を報告したのはInsacco et al. (2023)である。ありがたいことに、私のこれまでの研究成果をよく読んで頂いていたようで、私の研究によく関係する情報が書かれていて、とても参考になった。

1999年の発見と標本の記録

時は少し遡ること、1999年3月24日、イタリア、ラヴェンナのチェルヴィア(アドリア海北西部)の海岸に、巨大なマンボウ属魚類が打ち上げられているのが発見された。場所をGoogle地図で確認すると地中海のど真ん中だ。the Museo Civico di Scienze Naturali di Faenza(ファエンツァ市立自然科学博物館)のスタッフは、すぐに調査に向かった。打ち上げられた大型個体は写真を撮られ、体重を計量された(実物の写真は末尾の参考論文のリンク先を参照)。その後、専門の剥製師によって、この個体は体全体を型取りされ、ファイバーグラスの模型が作られた。剥製や模型は作り手の精度が問われるが、この個体を作った業者はかなり正確に作ったようだ。オリジナル個体の体形、サイズ、色、細部を忠実に再現したと論文に書かれている。一方、個体の方は処分する前に解剖され、片目、えらの一部、心臓、脳が標本として保存された。この個体の模型は、最初ファエンツァ市立自然科学博物館で展示されていたが、2019年からはイタリア、ラグーザのthe Museo Civico di Storia Naturale di Comiso(コーミゾ市立自然史博物館)に移され、一般展示されている。解剖時の標本も今はコーミゾ市立自然史博物館で保存されている。

個体の計測とウシマンボウの同定

本個体は私関連の先行研究に従って調査された。本個体は生鮮時に実際に計量され、900 kgであった。キリの良い数字なのでちょっと不安なところもあるが、ジャストの数字の個体も確かに存在するし、計量中の写真も載っているので正確な数値と信じるしかない。本個体は解剖時にオスであることが確認された(写真は載っていない)。一方、計測や鰭条の計数は生鮮時ではなく、模型からデータが取られた。模型は全長226 cm、全高269 cmで全高の全長比は119%。胸鰭鰭条は10~11、背鰭鰭条は16、臀鰭鰭条は15、舵鰭鰭条は16であった。模型から鰭条を計数したので過小評価されている気もするが……舵鰭鰭条数は一般的なウシマンボウの範囲に入った。また、生鮮時の写真や模型から、本個体は頭部や下顎下部が隆起すること、舵鰭縁辺部が波打たないことが確認され、これらもウシマンボウの特徴と一致するので、ウシマンボウと同定された。私がInsacco et al. (2023)の写真を確認してもこの個体はウシマンボウで間違いない。模型だから、他の分類形質である骨板数や鱗の形状は分からなかったようだ。

アドリア海における記録の意義

アドリア海は地中海の中でも北部が大陸に閉じられ、閉鎖的な海域であるが、マンボウ類の漁獲報告はいくつかある。ウシマンボウの存在が知られていなかった時代に、本個体はマンボウMola molaと同定されていたが、Insacco et al. (2023)の研究で改めてウシマンボウであると再同定された。アドリア海からウシマンボウが初報告されたのは、まさにこの種のタイプ標本であり、記載された1834年である(正確な漁獲年は不明)。本個体が打ち上げられたのは1999年なので、アドリア海から2例目が確認されたのは、少なくとも165年ぶりということになる。これは貴重な情報だ! しかしながら、Insacco et al. (2023)はアドリア海や地中海の過去のマンボウ類の記録を調査し直すと、もっとウシマンボウの記録が出てくるのではないかと指摘している。これは非常に良い指摘だ。私も激しく同意する。

ウシマンボウの世界最長オス個体の更新

Insacco et al. (2023)は本個体が全長226 cm、体重900 kgだったことに関して、私がSawai and Nyegaard (2022)で報告したウシマンボウの全長体重関係式「BW (kg) =1.1×10-5×TL (cm)3.3248で推定した結果との比較も載せていて、推定値よりやや重かったことを言及していた。ウシマンボウの全長体重関係式はまだまだサンプル数が少ないので、今後もっとデータを増やして精度を上げる必要がある。本個体は全長と体重のデータが示されているので、今後のウシマンボウの全長体重関係式の精度向上にも役立つだろう。 また、論文では触れられていなかったが、私が知る限り、ウシマンボウの最大(最長)のオス個体は、Nyegaard et al. (2023)で示されている全長197 cmの個体で、全長2 mを超えなかった。しかし、本個体は全長226 cmのオス個体と示されているので、ウシマンボウの世界最長のオス個体を更新することになる。ウシマンボウの全長2 m以上のオス個体も、メスと同様に頭部や下顎下が明瞭に隆起することが分かった。ますます外部形態でウシマンボウの雌雄を判別することは困難であることが示唆される。以上のように、この個体は論文に書かれている以上に様々な情報を私に提供してくれた。今後も海外研究者によるマンボウ類の情報に期待だ!

 

アドリア海

  2例目となる

   ウシマンボウ

    オス最大で

     900キロや