竜脚類では初めて“胃の中身の化石”を発見!身体の化石だけでは分からない情報も!

2025.06.13

竜脚類のコロライト サムネ

(画像引用元①②)

 

みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の時々VTuber彩恵りりだよ!

 

今回の解説の主題は、巨大な恐竜「竜脚類」の胃の中身の化石「コロライト」の発見という驚きのニュースだよ!若い「ディアマンティナサウルス (Diamantinasaurus matilda)」の化石の腹部から見つかったもので、竜脚類のコロライトが見つかったのは歴史上初めてのことなんだよね!

 

はるか昔に絶滅した動物の、胃の内容物を直接分析できる貴重な機会になった今回の発見は、竜脚類が草食だというある意味で当然な結果と共に、いくつかの新しい発見があったんだよね。新しい発見の中には、身体の化石を見ていただけでは分からないような情報も含まれていたよ!

 

この貴重な発見は、竜脚類はなぜ中生代の7割以上にも渡って繁栄し続けたのかという疑問に対しても、大きな答えを提供しているよ!

 

「竜脚類は草食」なのはどこまで確かなこと?

竜脚類は草食恐竜か?

恐竜の中でもその巨大さで有名な竜脚類は、様々な角度の分析から草食恐竜であると推定されてきたよ。ただ、直接的な証拠は無かったんだよね。胃や腸の内容物の化石「コロライト」は、竜脚類では未発見であり、恐竜全体でもとても珍しいよ! (画像引用元番号③)

 

古生物の中でも抜群の知名度を誇る「恐竜」の中でも、特に「竜脚類 (竜脚下目 / Sauropoda)」は史上最大の陸棲動物を含んでいることで有名かもしれないね。竜脚類は全ての大陸で化石が見つかっている事、中生代の7割以上にあたる1億3000万年以上に渡って存在していた事など、最も生息域を広げていたグループとしても注目されるよ。

 

巨大な身体は捕食者を寄せ付けないだけでなく、他の恐竜には手が届かない高い場所の葉を食べることができるよね。そして櫛のような歯には植物によって摩耗したような跡もあることや、他のいくつかの観点から[注1]「竜脚類はほぼ草食に特化した動物である」というのがこれまでの伝統的な見方だったよ。

 

ただまぁ、古生物においてはよくある話だけど、竜脚類の食性は化石の観察による解剖学的な推定であり、これまで食べていた事を示す直接的な証拠は存在しなかったんだよね。逆に直接的な証拠は何だという話になるけど、化石の中でも特に珍しい「コロライト (Cololite)」が証拠に該当するよ。

 

コロライトは、胃や腸などの消化管の内容物が化石化したもので、数ある化石の中でもすごいレアものの化石だよ。消化物関連だと、うんちの化石である糞石 (Coprolites) が知られているけど、これよりもさらにレアであり、竜脚類では確実なコロライトはこれまで1つも見つかっていないんだよね[注2]

 

コロライトは恐竜全般でもレアであり、鳥類の系統ではなく、かつ草食の恐竜だと、確実に見つかった例はハドロサウルス科の鳥脚類に属する恐竜化石から見つかったもので、竜脚類からはだいぶ系統が離れているので、残念ながらこれで推定するのがムリがあるよ。

 

糞には消化しきれなかった物質が含まれていることから、糞石を調べることでも食べたものの推定は可能だけど、竜脚類については糞石の確実な発見例も無くて、もしかするとそれかもしれない候補が1個見つかっているんだけど、確実に竜脚類に属するかは分かっておらず議論中なんだよね。

 

そういうわけで、竜脚類が植物専門の草食恐竜であったという推定は、ほぼ確実にそうだろうということは言えても、決定的な証拠に欠けていたというのがあるんだよね。仮に草食であるにせよ、正確には何を食べていたのかは、ほとんど想像の域になっちゃうんだよね。

 

竜脚類では初となる胃の内容物化石を発見!

愛称ジュディの発掘現場とコロライトの発見

2017年に発見されたディアマンティナサウルスの化石 (愛称ジュディ) を分析したところ、腹部の位置から植物の塊が見つかったよ!コロライトの発見は竜脚類では初めてだよ。 (画像引用元番号①②③)

 

しかしカーティン大学のStephen F. Poropatステファン・F・ポロパット氏などの研究チームはこのほど、竜脚類では史上初となるコロライトの発見を報告したよ!このコロライトは、2017年にオーストラリアはクイーンズランド州のウィントン近郊で発見された「ディアマンティナサウルス (Diamantinasaurus matilda)」の腹部から見つかったものだよ。

 

“ジュディ (Judy)”という愛称が付けられたこの化石は、中生代に形成されたエロマンガ盆地の1億年前から9500万年前の地層 (ウィントン層) から見つかっていて、全長11mという大きさと、いくつかの骨格的な構造から、生まれたばかりではないけど成熟もしていない亜成体、分かりやすく言えば若者の個体であると断定されているよ。

 

“ジュディ”は元々、骨格が比較的揃っている点で注目されていたけど、その発掘の過程で、腹部の化石化した皮膚の下に、植物を豊富に含む層が見つかったんだよね!他の部分に植物はほとんどなく、他の動物の骨も見つからなかったことから、これは“ジュディ”の胃の中身の化石、つまりコロライトだと判断されたよ!

 

コロライトの分析の結果はかなり興味深かったよ。まず、植物の破片は植物の種が同定可能なほど状態がよく、嚙み砕いた跡がほとんど見られなかったんだよね。これは現代の草食の爬虫類や鳥類と同じように、食物をほとんど噛まずに飲み込む動物 (バルクフィーダー / bulk-feeder) であることを示しているんだよね。

 

一部の草食恐竜は、消化管に胃石を持ち、この石で植物をすり潰していたとされているけど、竜脚類は胃石を持たないとされており、実際に“ジュディ”の化石からも胃石は見つからなかったよ。このことから、ディアマンティナサウルスは食べた植物の消化を、発酵や腸内細菌による分解に任せていたことが推測できるんだよね。

 

竜脚類のコロライトの分析結果

コロライトに含まれる植物片はほとんど損傷がなかったよ。化石の同定と化学分析の両方から、ディアマンティナサウルスは裸子植物と被子植物の両方を食べていたことが分かったんだよね。 (画像引用元番号④⑤)

 

見つかった植物は、大部分がアウストロセクオイア・ウィントネンシス (Austrosequoia wintonensis) というヒノキ科の針葉樹 (裸子植物) だと同定されたんだけど、シダ種子類の種子鞘や新芽、被子植物など、実に多種多様な植物の破片が見つかったよ。裸子植物と被子植物の両方の存在は、化石に含まれる分子でも証明されたよ。

 

特に被子植物を食べていたことについては、化石から「ルパン (Lupane)」という有機分子が見つかったことでも裏付けられているよ。ルパンは、ほぼ被子植物のみが作る分子の分解物として化石に残るものだから、ルパンの発見はディアマンティナサウルスが被子植物を食べていた強い証拠になるよ。

 

これらのことから、ディアマンティナサウルスはえり好みをせず、手の届く (頭の届く?) 範囲の植物を手当たり次第 (頭当たり次第?) に食べていた恐竜である、ということが推測できたんだよね。食物のえり好みをしないことは環境の変化に強いため、竜脚類が全ての大陸と1億3000万年以上に渡って繁栄した理由かもしれないよ。

 

一点モノの限界はあるけど重要な発見!

竜脚類初のコロライトから分かったこと

背の低い被子植物を食べていたなど、コロライトから分かった情報には身体の化石の分析では分からないものも含まれていたよ!食べる植物をえり好みしないことが、時代と地域の両方で繁栄した理由かもしれないね。 (画像引用元番号①②)

 

一応この研究は、あくまでたった1頭の若者ディアマンティナサウルスの分析によるものであることに注意しないといけないよ。化石化している以上、このコロライトは“ジュディ”1頭の“最後の晩餐”か、あるいは遡って数回の食事しか教えてくれない、ということに注意しないといけないね。

 

例えば、コロライトから示唆されるメニューが竜脚類にとって一般的だったのか、それとも病気やストレスを受けて普段とは違う食事を採っていたのかは定かではないよ。またこれは亜成体の分析結果なので、幼体や成体の食事内容をどの程度反映しているのかも分からないし、季節によってどのように変化するのかも不明だよ。

 

ただし、全くゼロの状態だった時と比べると、たった1つとはいえ直接的な証拠が見つかったことで、色々分かった部分もあるんだよね。最も驚きだったのは、裸子植物に混ざって被子植物が結構な量で見つかったことなんだよね。この発見がなぜ驚きなのかと言うと、植物の進化を考慮しないといけないよ。

 

中生代はちょうど、被子植物が生まれて徐々に勢力を拡大していたころで、“ジュディ”が生きていた時代は、被子植物の最古の化石からたった4000万年しか経ってないんだよね。この頃の被子植物はある程度多様化が進んでいたと言えど、裸子植物と比べればまだまだ背が低かったと考えられているんだよね。

 

これまでの化石の分析では、背の高い裸子植物は食べていただろうと推定されても、背の低い被子植物を食べていたことは、成体の化石を使ってたこともあり、あまり推定されていなかったのよね。コロライトが見つかったことは、成体や幼体の化石の分析では分からない生態を明らかにしたという点で、注目すべき発見なんだよね!

 

また、植物の破片には新芽、苞葉、鞘といった、柔らかくて消化しやすい部位がたくさん含まれていたよ。背の低い被子植物が含まれていた事を合わせると、幼体や亜成体の頃は消化しやすい背の低い植物を利用しつつ、成体になるにつれて背が高く他の動物が届かない植物を狙うように食性が変化したことが推測できるんだよね。

 

また、最古の被子植物の化石から4000万年しか経っていないというのは、竜脚類全体からみても被子植物を食べるのはかなり新しい挑戦だったはずなんだよね。ディアマンティナサウルスがそういった新しい植物でも積極的に食べていたことは、竜脚類全体の環境変化に対する強さを裏付ける証拠にもなっているはずだよ。

 

今回のディアマンティナサウルスの胃の中身の化石の発見は、ある程度当たり前のように感じていたことのみならず、身体の化石だけでは見逃される生態を浮かび上がらせている、という点でとても大きな発見なんだよね!今後新たなコロライトの発見があると良いよね!

脚注

[注1] 竜脚類が草食恐竜であるという証拠
竜脚類が草食恐竜であったとする理由となった研究の例として、食べたと推定される植物と竜脚類双方の高さ、歯に残る摩耗の跡、歯の生え変わり、歯のエナメル質の炭素同位体分析、顎の形、首の柔軟性、身体の大きさと植物の消化率の評価が挙げられています。  本文に戻る

[注2] 竜脚類のコロライトは未発見
竜脚類のコロライトであるとする主張は、1964年に出版された論文で言及された化石標本が唯一ですが、この記録は現在では信頼性がないとされています。  本文に戻る

文献情報

<原著論文>

  • Stephen F. Poropat, et al.“Fossilized gut contents elucidate the feeding habits of sauropod dinosaurs”. Current Biology, 2025; 35 (11) 2597-2613.E7. DOI: 10.1016/j.cub.2025.04.053

     

    <参考文献>

       

      <画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)

      1. ディアマンティナサウルスの亜成体“ジュディ”の復元想像図: カーティン大学のプレスリリースより (Author: Travis Tischler)
      2. コロライトの断面: 原著論文Fig. 2Eよりトリミング
      3. ブラキオサウルスのイラスト: いらすとやより
      4. コロライトの葉の痕跡: 原著論文Fig. 4B'D'F'よりトリミング
      5. コロライトのバイオマーカー分析結果: 原著論文Fig. 5EGよりトリミング

         

        彩恵 りり(さいえ りり)

        「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
        本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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