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アカマンボウは名前や丸い形が似ていることで、たまにマンボウの仲間と思われることがある。しかし、アカマンボウはアカマンボウ目に属し、マンボウはフグ目に属するため、系統的に結構離れている魚類である。私はアカマンボウについては全然詳しくないのだが、アカマンボウがマンボウの仲間ではないと言うためには、アカマンボウのことも多少は知っておかねばならないとは思っていた。調べてみると、最近までアカマンボウ類は世界に2種とされていたが、現在は6種に増えたらしい。こ、これは気になる……そこで、アカマンボウの分類について今回調べてみた。少し古くなるが、Underkoffler et al. (2018)の研究を紹介しよう。
アカマンボウ科のアカマンボウ属Lamprisには、これまで世界中の熱帯、温帯、亜極地の海域に分布するアカマンボウLampris guttatus (Brünnich, 1788)と、亜南極海域に分布するミナミマンダイLampris immaculatus Gilchrist, 1905(日本にはいない)の1属2種が存在するとされてきた。ミナミマンダイ(正式な標準和名か通称名は不明)とアカマンボウの成魚の識別点は、体の斑点の有無、体の細長さ、鰭条数であった。
しかし、ある時、魚のバイヤーをしているGarrett Kitazaki氏が、アカマンボウとされてきた魚の中に、形態的に何か違うと感じる個体がいることが分かり、これをUnderkoffler et al. (2018)の著者達に伝え、調べてみると……確かに一般的にアカマンボウとされているものと形態的に異なる個体がいることが判明した。そこで、アカマンボウ複数個体のDNAサンプルを各地から集めて解析をしたところ、1種と思われていたアカマンボウの中に5つのクレードがあることが分かった。Underkoffler et al. (2018)は、この5つのクレードについて形態調査を行い、アカマンボウ科の分類学的再検討を行ったのである。
アカマンボウ類はそれなりに高価で、体が大きいため、博物館で保存しているところはやや稀。傷付いていない個体を調査するのはやはり簡単ではなかったようだ。地理的分離の傾向もみられたが、少ない情報であるため、各種の詳細な分布はさらに研究する必要がある。大きな標本を調査のために輸送するのは、膨大な輸送費がかかるため、現地の研究者に依頼して形態調査してもらったデータも含んでいるとのことだ。アカマンボウ類もマンボウ類と同じような研究上の困難性があることを知った。
Underkoffler et al. (2018)の研究結果を先に示すと、1属2種だったアカマンボウ科が、1属6種になった。3つの新種が加わり、1種の学名がシノニムから復活した。これまでアカマンボウの学名にはLampris guttatus (Brünnich, 1788)が当てられていたが、Lampris guttatus は日本近海に分布していないことが判明したため、標準和名アカマンボウに対応する学名は現在、日本近海にも分布する新種Lampris megalopsis Underkoffler, Luers, Hyde & Craig, 2018が当てられることになった。それでは私が論文から読み取ったアカマンボウ属各種の特徴を見ていこう(ミナミマンダイについては検索表以外に詳しい情報が書かれていなかった)。なお、私の描いたイラストはイメージなので、体の比率は正確ではないことに注意されたい。
★ Lampris immaculatus Gilchrist, 1905 ミナミマンダイ
本種は亜南極海域に分布する。本種は次の形態的特徴の組み合わせによって同属の他種と識別できる:頭と体に斑紋が無い、体は高さよりも遙かに長い(体の最大体高:標準体長=1:≥ 1.8)、臀鰭鰭条数が38より少ない。
★ Lampris guttatus (Brünnich, 1788)
本種の英名はNorth Atlantic Opah(今まで一般的にOpahと呼ばれてきたが新英名に変えることを提唱)。本種の分布はアイリッシュ海、北海、地中海を含む北大西洋東部で確認されている。本種は次の形態的特徴の組み合わせによって同属の他種と識別できる:背鰭鰭条数I, 47。 臀鰭鰭条数40。胸鰭鰭条数23。腹鰭鰭条数14。腹鰭の起点は背鰭の短縮部の下、最後部の伸長した背鰭鰭条のかなり後方にある。 背鰭は短く、背鰭の高さ:標準体長=1:4.5。体の最大体高:標準体長=1:1.8。 体はスチールグレーで、2つの異なるサイズの卵形の白い斑紋が等間隔にあり、より大きな斑紋は体の中央線に沿って集中する。すべての斑紋は鰓蓋の後方に集中し、頭部、鰓蓋、胸部にはほとんど無い。
★ Lampris lauta Lowe, 1860 学名の復活
本種の英名はEast Atlantic Opah。種小名は、「優雅な」を意味するラテン語の lauta から取られた。本種の分布はカナリア諸島、アゾレス諸島、地中海で確認されている。本種は次の形態的特徴の組み合わせによって同属の他種と識別できる:背鰭鰭条数 I, 54。臀鰭鰭条数I, 42。胸鰭鰭条数25。腹鰭鰭条数25。吻長:標準体長=1:7.8。頭長:標準体長=1:> 2.5。体は均一に銀色で、体全体に楕円形で不規則な白い斑点があり、臀鰭まで伸びている。
★ Lampris australensis Underkoffler, Luers, Hyde & Craig, 2018 新種
本種の英名はSouthern Spotted Opah。種小名は、南半球における本種の既知の範囲にちなんで、「南」を意味するラテン語のaustralisから取られている。本種の分布は南半球のみで記録され、オーストラリア(タスマニア含む)、チリ、南アフリカ近海で確認されている。本種は次の形態的特徴の組み合わせによって同属の他種と識別できる:背鰭鰭条数 I, 52。臀鰭鰭条数40。胸鰭鰭条数23。腹鰭鰭条数13。体の最大体高:標準体長=1:1.3。頭長:標準体長=1:2.7。眼径:頭長=1:5.2。腹鰭の起点は背鰭伸長部の中央部~後部の下。 頭部背側の輪郭は明らかにアーチ型(凸状)。 体はスチールブルー色で、白色から銀色の斑点(多くは円形)が多数あり、しばしば背鰭の遠位端まで伸びている。尾鰭の縁辺は広く黄色。背鰭と臀鰭の縁辺は狭い黄色。
★ Lampris incognitus Underkoffler, Luers, Hyde & Craig, 2018 新種
本種の英名はSmalleye Pacific Opah。種小名は、「未知の、奇妙な」を意味するラテン語の incognitus に由来する。本種の分布は北太平洋の中部および東部で確認されている。本種は次の形態的特徴の組み合わせによって同属の他種と識別できる:背鰭鰭条数 I, 50。臀鰭鰭条数I, 39。胸鰭鰭条数22。腹鰭鰭条数15。腹鰭の起点は背鰭伸長部の前部~中央部の下。水平眼径は頭長の30%より短い。背鰭の高さは尾叉長の平均21.3%。腹鰭の長さは尾叉長の平均24.5%。舌は全体的にピンク色。小さく円形の2 つの異なるサイズの斑紋が、頭部、胸部、鰓蓋を含む体全体に密集している。尾鰭の縁は半透明。本種はアカマンボウと形態がよく似ており、分布域も一部被っているが、アカマンボウより眼が小さい。
★ Lampris megalopsis Underkoffler, Luers, Hyde & Craig, 2018 新種 アカマンボウ
本種の英名はBigeye Pacific Opah。種小名は、ギリシャ語で「大きい」を意味するmegaと、比較的大きな目を参考に「目」を意味するopsから取られている。本種は国際的な種で、分布は中央北太平洋西部(※日本が含まれる)からアメリカ領サモア、オーストラリア、インドネシア、南アフリカ (インド洋)、メキシコ湾、チリの海岸線に沿って確認されている。本種は次の形態的特徴の組み合わせによって同属の他種と識別できる:背鰭鰭条数 I, 50。臀鰭鰭条数38。胸鰭鰭条数23。腹鰭鰭条数15。舌は全体的に紫色。水平眼径は頭長の30%より長い。背鰭の高さは尾叉長の平均26.3%。腹鰭の長さは尾叉長の平均33.6%。尾鰭は均一に着色されている。
私の誤読がなければ、アカマンボウ属6種の種の検索表は以下のようになる。
1a・・・体は高さよりも遙かに長い(体の最大体高:標準体長=1:≥ 1.8);臀鰭鰭条数は38より少ない;頭と体に斑紋が無い・・・ Lampris immaculatusミナミマンダイ
1b・・・体は円形に近く、体の最大体高:標準体長=1:≤ 1.5(Lampris guttatusを除く); 臀鰭鰭条数は38以上;頭や体に斑点がある→2
2a ・・・腹鰭の起点は背鰭の伸長部分の後方から中央の下;体の最大体高:標準体長=1:1.5~1.8;臀鰭基底長:標準体長=1:> 3.0;背鰭は短く、背鰭の高さ:標準体長=1:2.5;体に白い斑点があり、楕円形で斑点同士の間隔が広く、小さい斑点は瞳孔径の約1/4;胸、頭、鰓蓋に斑点がほとんどないか、まったくない・・・Lampris guttatus
2b・・・腹鰭の起点は背鰭の伸長部分の前方から中央の下;体の最大体高:標準体長=1:≤ 1.5;臀鰭基底長:標準体長=1:< 3.0;背鰭の高さ:標準体長=1:< 4.0;体に白い斑点があり、不規則またはほぼ円形;胸、頭、鰓蓋に斑点がある→3
3a・・・背鰭鰭条数は53より多い;頭高:標準体長=1:> 2.5;体の斑点は大きく、卵形で、不規則で、しばしば臀鰭まで伸びている・・・Lampris lauta
3b・・・背鰭鰭条数は53以下;頭高:標準体長=1:< 2.5;身体上の斑点が上記と異なる→4
4a・・・頭部の背側の輪郭は明らかにアーチ型(凸状);体の斑点はほぼ円形で、最大は瞳孔程度の大きさ;正中鰭の後縁はしばしば黄色を帯びる・・・Lampris australensis
4b・・・頭部の背側の側面は平ら;体の斑点はほぼ円形、最大のものは瞳孔より明らかに小さく、密に集中している→5
5a・・・水平眼径は頭長の30%より短い;背鰭の高さは尾叉長の平均21.3%;腹鰭の長さは尾叉長の平均24.5%・・・Lampris incognitus
5b・・・水平眼径は頭長の30%より長い;背鰭の高さは尾叉長の平均26.3%;腹鰭の長さは尾叉長の平均33.6%・・・Lampris megalopsisアカマンボウ
一見すると似ているアカマンボウ類も上記の種の特徴に従って各種を見てみれば、確かに違うことが分かる。各種の正確な分布域は今後の研究でより明確になっていくことと思うが、現時点では、日本近海に出現するアカマンボウ属はLampris megalopsis 1種だけのようだ。以前の記事でも紹介した魚類の学名検索に特化したサイト「Eschmeyer's Catalog of Fishes」で、2018年以降、アカマンボウ類の種が増えていないかどうか確認したところ、2025年4月中旬までは増えておらず、アカマンボウ科は全6種のままだった。5種が1種に混同されていたアカマンボウ類もまた生態的な知見は研究し直しになるだろう。なかなか大変だが、今後の研究に期待だ。
アカマンボウ
1種が5種に
分かれたら
日本の個体
新種だった
【参考文献】
Underkoffler KE, Luers MA, Hyde JR, Craig MT. 2018. A taxonomic review of Lampris guttatus (Brünnich 1788) Lampridiformes; Lampridae) with descriptions of three new species. Zootaxa 4413 (3): 551-565.