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みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の時々VTuber彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、クジラの糞に含まれる鉄や銅の化学形態に着目した研究だよ。どういうことかと言えば、これはクジラの糞に無機質が含まれているかどうかだけでなく、生物にとって利用しやすいかどうかを分析した研究なんだよね。糞に含まれる有機物の研究は数あれど、無機質の化学形態に着目した研究は前例がないよ。
ただそもそもとして、クジラの糞がどのようにして生物に利用されるのか分からん、って感想もあるかもね。なので今までの記事と同じように、今回も前提条件から話していくのよ。
CONTENTS
クジラの糞は、栄養素の乏しい外洋における貴重な栄養源であることが明らかにされつつあるよ。ただ、これまでの研究は主に有機物が主体で、無機質に着目し、しかもその化学形態に言及したものは前例がなかったよ。 (画像引用元番号①②③)
海は様々な生物が豊富に生息している場所ではあるけど、どれくらいの豊かさを持っているのかは、海の場所によって変わってくるんだよね。特に陸地から遠く離れた外洋は、陸地から流れ込んでくる栄養素が少ないので、生き物も少ない傾向にあり、“海の砂漠”とすら呼ばれるんだよね。
外洋の海水が透き通っているのは、濁りの元である栄養素の少なさが理由でもあるんだよね。ではそんな外洋に生息する生き物は、どこから栄養素を得ていることになるんだろう?という疑問が出てくるよね。その答えの1つであると考えられているのがクジラだよ。
クジラはオキアミなどのプランクトンを大量に食べ、当然ながら糞も大量にするよ。外洋を泳いでいるクジラは、糞を通じて窒素や炭素など、外洋では不足しがちな物質を供給してくれる、というのが少しずつ明らかにされているんだよね。
ただ、どんな生き物もそうだけど、窒素や炭素のような有機物だけで生きているわけじゃないよ。鉄や銅などの無機質も、微量ながら生きるのに欠かせないんだよね。むしろ外洋では、こうした無機質の方が、有機物と比べても不足しやすいと考えられているんだよね。
例えば、クジラは南極海にいるイメージが強いと思うけど、その南極海では鉄分の不足を主な理由として、植物プランクトンの増殖が抑えられているんだよね。植物プランクトンをオキアミが食べ、そのオキアミをクジラが食べる、という食物繊維を考えれば、南極海の鉄分の不足は、間接的にクジラの個体数も制限していることになるよ。
実際、捕鯨が盛んでクジラが大きく数を減らしていたころ、オキアミなどのプランクトンの数も減少していたんだよね。食べる側が減ったのに食べられる側も増えるどころか減っているのは、クジラの糞という栄養源が無くなったのが原因だとも考えることができるよね。
もちろんその観点からの研究も行われていて、糞の中にはかなりの量の鉄や銅が含まれていることが明らかにされているんだよね。ただ、無機質は単純に濃度が高ければいいのではなく、生物が利用可能な化学形態を持っているかが重要、という点が問題になってくるよ。
それこそ、銅は生物に必須の微量元素として知られている一方、その化学形態によっては猛毒にもなり得る物質なのよね。これほど極端ではないにしろ、鉄でも似たような事情があるよ。なので、糞の中に単純に無機質が含まれていればいいというわけでなく、その化学形態がどのような形であるのかも重要になってくるんだよね。
ワシントン大学のPatrick J. Monreal氏などの研究チームは、この余り調べられていない謎を調査することにしたよ。研究にはもちろんクジラの糞をが必要なので、南極海のザトウクジラ由来の糞を2サンプル、太平洋・カリフォルニア沖のシロナガスクジラ由来の糞から3サンプルを採集したんだよね。
余談だけど、クジラの糞をどう採集したのかと言うと、瓶状の容器で掬ったんだよね。糞は海水に対して浮いてくるので、海水と混ざってドロドロの状態だけど、近づいて掬い取ることができるんだよね。とはいえもちろんクジラを追いつつ採集しなければならないので、今回は南極海以外のサンプルも加わっている感じだよ。
まずは単純に鉄と銅の濃度を調べて見ると、過去の研究と同じく、海水よりずっと高濃度の鉄や銅が検出されたんだよね。特に銅は、潜在的に有毒になり得るほど高濃度だったんだよね。「なんてこった、クジラの糞は本当は有毒なのか? (oh, no, is the whale poop actually toxic?)」とは研究者の1人のRandie Bundy氏の弁だよ。
では肝心の化学形態はどうなのか?簡易的に調べて見ると、鉄と銅はそれぞれ水に対してかなり溶けやすく、かつ強酸で簡単に分解するような、不安定な有機物と結合していることが示唆されたんだよね。そこでもう少し詳細な化学組成を調べて見ると、面白いことが分かったんだよね。
鉄や銅と結合する有機物は、金属原子を囲うような構造である「リガンド」を形成していたんだよね。リガンドを構成する有機物は、渦鞭毛藻のルシフェリンやシアノバクテリアの色素に関連するもの、あるいはクロロフィルやヘムの分解物である胆汁色素やフィロビリンに関連するものが多く見つかったんだよね。
クロロフィルは葉緑素、ヘムは血液のヘモグロビンに関連しているけど、これ以外の物質もクジラ由来の老廃物か、クジラが食べたものの中にいた微生物、ないしクジラの腸内にいる細菌に関連している物質になってくるんだよね。まだ特定には至ってないけど、これらのいずれかがリガンドの有機物の起源だと考えられるよ。
重要なのは、今回見つかった鉄や銅のリガンドは、細菌やプランクトンなどの生物が利用しやすい化学形態をしていることなんだよね。つまりクジラの糞は、外洋に不足しがちな無機質を、生物に有毒ではない形で提供する、という仮説がどうやら正しいらしいというのが見えてくるんだよね。
今のところ、今回見つかった鉄や銅のリガンドがどのように生成されるのかについては不明で、これは次の研究課題となるよ。1つの仮説として、銅に関しては、クジラが食料としているオキアミなどに含まれているものが、腸内細菌叢の作用によって変化し、それが今回の分析結果として現れていると研究者は考えているんだよね。
クジラが主な食糧源としているオキアミは、キチン質の外骨格にそれなりの濃度の銅を含んでいることが分かっているんだよね。キチン質は比較的分解が難しいので、腸内細菌叢がその分解を手助けする中で、有毒な銅を無害化する過程でリガンドが形成された可能性が考えられるんだよね。
この説が正しいかどうかを調べるには、もっと研究が必要になってくるよ。特に、クジラの腸内細菌叢はほとんど理解が進んでいないので、本当にそのような化学反応が起きているのかを検証する必要があるからね。それを調べるための手がかりは、やはりクジラの糞になってくると思うんだよ。
いずれにしてもこの研究は、生物同士の繋がりがいかに複雑であるかを示す、ちょっとアプローチは変わっているけど変わっているけど重要な研究だと私は思うんだよね。
<原著論文>
<参考文献>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)