著者紹介:西川 伸一
京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。
【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。
このライターの記事一覧
Lipid nanoparticle (LNP) は Covid-19mRNA ワクチンデリバリーカプセルとして一躍有名になった。リポタンパクを感知する TLR4 を適当に刺激して、mRNA とともに自然免疫を誘導できるアジュバント効果を発揮し、強い免疫を誘導するのはまさにワクチン用にできていると思ってもいいベストマッチだった。
ところが遺伝子治療などの目的で使うためには、自然免疫誘導効果は大きな壁になる。このため様々な処方で自然免疫誘導活性を抑え、遺伝子導入効率を高める方法の開発が今も続けられている。
CONTENTS
本日紹介する論文
今日紹介するカナダアルベルタ大学と Entos Pharmaceutical 社からの論文は、 LPN にオルソレオウイルスの細胞侵入機構を併せて、これまでの LPN にはない性質を付与したデリバリーシステムについての研究で、9月10日 Cell にオンライン掲載された。
タイトルは「Safe and effective in vivo delivery of DNA and RNA using proteolipid vehicles( DNA と RNA を安全に効率よくデリバーできるタンパク・脂肪ビークル)」だ。
解説と考察
オルソレオウイルス粒子が細胞内に侵入する際に利用する FAST タンパク質に注目し、これを LPN に実装して細胞侵入を高めることができないかを調べている。
まず2種類の FASTタンパク質を単独、あるいは様々な部位を組み合わせたキメラタンパク質の細胞融合活性を調べ、至適な FASTタンパク質を完成させている。次に、このタンパク質はそのままにして、様々な脂質との組み合わせや、量比をスクリーニングし、最終的に導入効率の高い60nmという比較的大きな粒子を選んでいる。リポフェクタミンやよく使われる LNP と比べると、細胞毒性はほとんどなく、遺伝子導入効率も高い。
オルソレオウイルスの特徴は、細胞側の取り込み機構エンドサイトーシスを介さず、細胞質へ遺伝子を投入できる点で、遺伝子の変性が防げるのと、何よりもエンドゾーム内に発現している様々な TLR自然免疫刺激受容体刺激を避けることができる。この性質を FAST を組み込んだ LPN でも再現できるか調べており、まずエンドゾームに取り込まれる通常の LNP と異なり、6割が細胞質に直接遺伝子を注入できることを示している。
あとは使い勝手で、
オルソレオウイルスを使うというのは面白いし、遺伝子発現ではトップとはいえないが、使い勝手ではすぐれた LNP ができたと思うが、Cell に掲載されているのには少し驚いた。元々カナダは筋肉研究が強く、この研究でも筋肉へのデリバリー実験まで行っていることを考えると、研究のゴールは筋ジストロフィーなどの治療を見据えているような気がする。とすると、結構いいデリバリーシステムが完成したといえる。