著者紹介:西川 伸一
京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。
【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。
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免疫反応の抗原から増殖まで、完全にコントロール可能なガン免疫治療として大きな期待が集まっているCART治療だが、なかなか使用が拡大しない。すなわち、抗原刺激の入り口だけをコントロールできても、まだまだ多くの道の要因が存在してT細胞をコントロールしきれないことを意味している。
CONTENTS
本日紹介する論文
今日紹介する米国ペンシルバニア大学からの論文は、CARTが抗原に出会って最初に分裂したときに発生する細胞運命の非対称性に注目した研究で、8月28日 Nature にオンライン掲載された。
タイトルは「Fate induction in CD8 CAR T cells through asymmetric cell division(CD8CART細胞は非対称分裂により運命が決定される)」だ。
解説と考察
この研究以前も細胞分裂時の娘細胞の観察からT細胞が刺激されたとき、例えば Mycタンパク質の非対称分布が起こることが知られていた。この研究ではこのような単一細胞レベルの研究を、細胞集団レベルに引き上げる目的で、LIPSTC と呼ばれるロックフェラー大学で開発されたシステムを利用している。
LIPSTIC は標的分子に結合させた酵素を用いて、標的と結合した分子を標識するシステムで、CART の場合ガン細胞抗原に酵素を結合させ、それと結合したキメラ抗原受容体に蛍光標識を結合させている。このガン細胞による刺激(免疫シナプスと呼ばれ、このシナプスを起点に非対称分裂が起こる)のあと細胞が分裂すると、ガン細胞と結合した側と反対側の細胞を、蛍光標識の分布で区別することができる。
この方法で、ガン側、反対側の細胞の機能や分子発現を調べ、
メモリーへの運命決定を左右する分子として IKZF1 が特定され、IKZF1 をノックアウトすることで反対側細胞への運命決定が可能であることを示している。
免疫シナプス、非対称分裂という意味で特に新しいわけではないが、CARTを用い、しかも集団レベルの解析に引き上げたことで、CARTを完全にするための重要な方法として、今後役立つと期待できる。