病原性細菌の進化(7月5日号 Science 掲載論文)

2024.07.24

コレラやペストのように、細菌性感染症がパンデミックとして人類に立ちはだかってきた歴史はよく知っていても、例えば現在最も重要な細菌感染症といえる肺炎球菌感染、嚢胞性線維症や気管支拡張症患者さんの緑膿菌感染などは、人から人へと伝染する伝染病のイメージは少ない。

基本的には感染のための条件が多く、感染性が低い結果と考えられるが、間違いなく感染症であることを示す論文が2報 Nature と Science に報告されていた。

Nature に報告されたケンブリッジ大学の論文は、南アフリカで患者さんから分離された肺炎球菌6910ゲノム解析から、感染の広がりを調べた研究で、新しく発生した細菌がゆっくりと広がり、50年ほどかけて南アフリカ全土に広まること、そして肺炎球菌ワクチンが使われるようになり、ワクチンに含まれない肺炎球菌が広がり始め、治療を通して抗生物質耐性を獲得することが示され、肺炎球菌も感染症であることを実感させてくれる論文だ。

 

本日紹介する論文

今日紹介したい論文はやはりケンブリッジ大学から7月5日号 Science に発表された論文で、世界各地の患者さんから100年近くにわたって分離された9829の緑膿菌ゲノムを解析した研究だ。

 

タイトルは「Evolution and host-specific adaptation of Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌のホストへの適応と進化)」だ。

 

解説と考察

この研究では、機能的実験も行って緑膿菌の進化を示してくれる。

 

まず、ゲノム解析から特定の菌が伝搬した経緯をたどることができる。これにより、例えば南米で発生し、北米を通ってヨーロッパへ伝搬し、その後アジア、アフリカへと広がった系統を特定し、緑膿菌も人間の移動で広がることがわかる。また、この進化では水平遺伝子伝搬が進化の強いドライバーとなっている。

 

緑膿菌感染で最も重要なポイントは、ホストに完全に適応していることで、嚢胞性線維症患者さんに感染する緑膿菌は、嚢胞性患者さんだけに感染し、気管支炎や気管支拡張症患者さんの緑膿菌は同じ病気の患者さんにしか伝搬しない。

 

これは緑膿菌がマクロファージの中に侵入して増殖するときの環境を反映しており、嚢胞性線維症患者さん由来の緑膿菌は、嚢胞性線維症の患者さんのマクロファージでよく増殖し、これには緑膿菌の Dsk1 発現が関わることを、遺伝子ノックアウトしたバクテリア感染実験で示している。

 

このような適応を決める遺伝子は、ホストの自然免疫系をすり抜けるための機構に関わる遺伝子などで、ホストの環境に適応するため変化した数多くの遺伝子変異を特定している。

 

胸部内科医なら誰でも経験すると思うが、慢性閉塞性呼吸器疾患で緑膿菌は最大の敵だ。ホストの環境に合わせた進化の道筋を探ることで、今後緑膿菌のようなやっかいな感染症に新しい治療法が見つかることを期待したい。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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