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他個体からの輸血や骨髄移植は安全に行えるようになっているが、移植する細胞の中に機能的 T 細胞が残っていると、Graft-versus-Host 反応 (GvH) と呼ばれる移植した細胞がホストの臓器をアタックするという、恐ろしい状況が生まれる。いったん起こってしまうと、現在最も有効とされている JAK 阻害剤を組み合わせた方法でも18ヶ月目の生存が38%という状況だ。
この状況を改善する方法として2004年から試みられているのが、間質ストローマ細胞株(MSC)の移植で、明らかに GvH 反応を抑える証拠があるのだが、有効な MSC の安定供給が難しいという最大の問題があった。
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今日紹介するオーストラリア Cynata Therapeutics 社からの論文は、一人の個人から調整した iPS 細胞ストックから MSC を誘導し、安定供給を可能にした細胞治療製品 CYP-001 を、ステロイド抵抗性の GvH 治療に用いた観察治験研究で、5月22日 Nature Medicine にオンライン掲載された。
タイトルは「Two-year safety outcomes of iPS cell-derived mesenchymal stromal cells in acute steroid-resistant graft-versus-host disease( iPS 細胞由来間質ストローマ細胞を用いたステロイド抵抗性 GvH 病の2年目の成績)」だ。
前もって治験登録を行ったiPS細胞由来細胞を用いた移植治療治験は、我が国も含めて数多く進行していると思うが、2020年同じ Nature Medicine に、論文として結果報告までに至った最初の iPS 細胞利用製品として報告されたのが CYP-001 で(Nature Medicine 26:1720−1725、2020)、今日紹介する論文は同じ患者さんの2年目の経過になる。
2020年の論文では、一人のドナーから100万個の iPS 細胞が入ったバイアルを9万本調整、それぞれの iPS 細胞バイアルからほぼ100人分に当たる MSC 治療用ストックを作成できることが示されている。そして、GvH が発生して標準のステロイド治療に反応しなかった15人について、1週間間隔で2回、100万個/Kgあるいは200万個/Kg CYP-001 を投与して、安全性を確認するとともに、100日目で86%の患者さんが治療に反応したことを報告している。
このとき調整された iPS 細胞及び MSC は計算上ほぼ3000万回の治療に使えるということで、ほぼ世界中の需要を長期間まかなえることになる。
そして今回の報告では、9例の患者さんが2年目も存命だが、そのうち3名は慢性の GvH 症状が続いていることを示している。そして、生存曲線から死亡例は最初の6ヶ月までで4例、12ヶ月で新たに2名発生している。
結果は以上で、GvH 治療として最も期待できるとされる18ヶ月目で38%生存を明らかに凌駕する画期的な成績といえる。今後、急性期を乗り越えた後半年ぐらいで発生する慢性 GvH に CYP-001 を再投与する、あるいはこれまでで最も効果が見られた JAK 阻害剤や、さらに強い T 細胞抑制などを組み合わせることで、GvH を完全に克服できるようになるのではと期待される。
MSCをiPS細胞から作って製品にするとは、現役時代予想しなかったが、iPS細胞段階ではほぼ無限に細胞を増やすことができることを利用して、細胞治療では実現が難しかった全世界で使える一種類の細胞製品を完成させたことが最も重要なポイントだと思う。おそらく FDA の認可も近いと思うので、ついに万国共通に使えるiPS細胞由来細胞製品が生まれたと喜んで良さそうだ。