女性にSLEなどの全身性自己免疫病が多い原因を究明する、ユニークなアイデア(2月1日号 Cell 掲載論文)

2024.02.21

SLE などの全身性自己免疫病は明らかに女性の方が多い。この原因について、これまで性ホルモンの関与や、X染色体不活化の不全などが指摘されているが、この結果として男女間の免疫反応調節が異なる結果だと考えられている。

 

本日紹介する論文

これに対して今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、自己抗原の量と質の差がこの男女差の原因ではないかと着想し追求した研究で、2月1日号 Cell に掲載された。

 

タイトルは「Xist ribonucleoproteins promote female sex-biased autoimmunity(Xistリボ核酸/蛋白質複合体は女性バイアスが高い自己免疫を高める)」だ。

 

解説と考察

女性では2本あるX染色体の片方を不活化するため Xist と呼ばれる long noncoding RNA を発現している。Xist はX染色体全体をエピジェネティックに変化させるため、様々な蛋白質と結合し、閉じたクロマチン構造を維持している。当然この Xist / 核蛋白質は女性特異的で、これが抗原として働くのではと着想した。

 

事実 SLE で検出される自己抗体にには RNA結合タンパク質に反応する抗体が多く、また XXY型男性では、ホルモン環境は男性であるにもかかわらず自己免疫発症頻度が高いことから、この着想は納得できる。

 

そこで、オスマウスに Xist を発現させて自己免疫発症がメスレベルになるか調べる実験を行っている。ただ、Xist をオスで発現させると、細胞には致死的になる。そこで、Xist のサイレンシングドメインと呼ばれる部位を欠損させた Xist を発現させ、様々な RNA結合タンパク質をくわえ込んだ Xist が自己抗体を誘導し、自己免疫病発症につながるかを調べている。

 

まず、自己免疫病の起こりにくいB6マウスでは Xist を発現させても自己免疫病は起こらない。一方、自己免疫が起こりやすい SJLマウスを用いると、病気発症や自己抗体レベルが、Xist を発現させたオスで、メスレベルに達する。従って、自己免疫が発症しやすい遺伝的バックグラウンドであれば、Xist の発現がオスとメスの違いを決めていることがわかる。

 

ただ、Atak-seq を用いたクロマチンテストで、記憶CD4T細胞が増えるので、免疫細胞自体のエピジェネティック変化を誘導する可能性がある。そこで Atak-seq や single cell RNA sequencing を用いて反応側の細胞レベルのエピジェネティックな変化を追求し、異常なB細胞の出現などを特定しているが、これが自己免疫反応の原因なのか、あるいは自己免疫反応の結果なのかははっきりさせていない。

 

しかし、人間の SLE の患者さん、SJLメス、及び Xist を発現させた SJLオス、それぞれで、共通の79種類のRNA結合タンパク質に反応する自己抗体が検出され、そのうちのなんと53種類が Xist 結合タンパク質であることを示して、Xist が自己抗原の供給源になっていると結論している。

 

自己に存在する蛋白質でも強いアジュバント効果を持つ RNA とともに提供されると、免疫反応を誘導する可能性は十分ある。従って、何らかの遺伝的バックグラウンドにより、細胞死が起こりやすくなると、当然強い抗原性をもつ自己抗原が排出され、自己抗体誘導が起こるというシナリオは、十分納得できる。

 

ただ、今回は説明できても、治療法が浮かんでくるわけではないのが残念だ。

著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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