LINE公式アカウントから最新記事の情報を受け取ろう!
この世界の生物は人が想像している以上に多様な他種の生物との関係を持ちながら生きている。食う・食われるの関係に代表されるように、一つの生物が他の生物に何らかの影響を与え・与えられる関係を「相互関係」といい、その働きかけを「相互作用」という。
マンボウ類がどんな生物を食べ・食べられ、どんな生物に助けられ、また助けているのかはいくらか知見があるが、「マンボウ類と相互関係がある生物を挙げて」と言われると、実はあまり思い浮かばない。マンボウ類の生態は不明な点が多く、どんな生物と関わりを持っているのかを示す知見はまだまだ少ないのだ。
今回はそんな中でも、マンボウ類と相互関係があることが知られている魚の1種、シラコダイに焦点を当てて紹介したいと思う。
CONTENTS
シラコダイは○○ダイと名が付くものの、タイ類の仲間ではなく、スズキ目チョウチョウウオ科チョウチョウウオ属に属する温帯種の魚だ。標準体長13cmほどで、国内では伊豆諸島、小笠原諸島、千葉県外房~九州南岸の太平洋沿岸、屋久島から報告があり、海外では韓国南部、台湾、フィリピン諸島北部からの報告がある。
学名は Chaetodon nippon Steindachner & Döderlein, 1883 で、ニッポンの名を持つが、上述した分布域のとおり、日本固有種ではない。
体が全体的に淡い黄色で後部に褐色域があること、眼上部に暗色横帯がない(幼魚にはある)ことで同属他種と識別される。幼魚は浅場で見られるが、成魚はやや潜った水深10~20mの岩場に群れで生息している。
水族館で飼育していた個体が夕方から夜にかけて産卵・放精し、繁殖に成功した事例がある。繁殖は1個体のメスと最も優位なオスのペアで行われるが、産卵直後に複数のオスが一斉に侵入して放精することが確認されている。
ちなみに、シラコダイは食べることができる魚だ。
このシラコダイ、マンボウ類とどう相互関係があるのかというと、マンボウをクリーニングする魚として有名なのだ。クリーニングとは、そのままの意味で、掃除することを意味する。魚類の体表に付いている外部寄生虫を食べる行動は「掃除行動」と呼ばれ、この行動を行う魚類は「掃除魚」と呼ばれる。
掃除行動をする魚類は数が少ないが、ベラ科、チョウチョウウオ科、ハゼ科、カワスズメ科などが有名で、世界で100種以上が知られている。最も有名な掃除魚はホンソメワケベラだ。ホンソメワケベラの名前は一度くらいは聞いたことがあるのではないかと思う。
掃除魚がいる場所は「クリーニングステーション」と呼ばれ、様々な魚類が外部寄生虫を除去してもらうために集まって来る。掃除をしてもらう魚類がクリーニングステーションにやって来ると、
体の色を変えたり、
体の動きをゆっくりにして鰓や口を開いたり、
上を向くなど、掃除請求姿勢を取ったりする。掃除魚は自分で餌を探さなくともやって来る魚類から餌を食べられるメリットがあり、やって来た魚は迷惑な外部寄生虫を取ってもらうメリットがあり、双方にとって有益な関係になっている。このような関係を「掃除共生」という。
静岡県沼津市の末端にある大瀬崎はダイビングのメジャースポットで、野生のマンボウが出現する日本でも数少ないエリアとしても有名である。しかし、マンボウの出現期間はだいたい決まっていて、5月が多いそうだ。
この動画の個体は、最初は横を向いて泳いでいたが、シラコダイがたくさんやって来ると、頭を上にした上向きポーズになり、泳ぎもほぼ止めてしまう。これはマンボウの掃除請求姿勢と推測される。シラコダイはマンボウの体表に口を伸ばして突いており、外部寄生虫を食べているものと思われる。
マンボウがこの上向きポーズをしている時は非常に大人しいので、ダイバーがかなり接近してもカメラのライトを当てても逃げない。クリーニングされるのに夢中になってほとんど気にしていないようである。
マンボウが可愛く見える。
シラコダイは水槽で飼育できるし、普段は岩などを突いているので、他の餌を食べていると思われるが、マンボウがやって来ると群がって近付いていく。非常に興味深い。シラコダイとマンボウの掃除共生関係もちゃんと研究されていないようなので、動画からわかる範囲だけでも研究していけたらと考えている。
シラコダイ
餌を求めて
マンボウの
体表つつく
掃除共生
白鳥岳朋.2008.海洋の太陽―マンボウ 丸い大きな体で水中をただよう.Newton,28: 94-101.
安延尚文.2011.君の知らないマンボウ物語.月刊ダイバー6月号,(360):116-117.
島田和彦.2013.チョウチョウウオ科.In: pp. 990-1004, 2022-2025.中坊徹次(編) 日本産魚類検索 全種の同定 第三版.東海大学出版会,神奈川.
桑村哲生.2018.掃除行動.In: pp. 300-301.日本魚類学会(編) 魚類学の百科事典.丸善出版,東京.
小枝圭太.2018.シラコダイ.In: p. 346.小枝圭太・畑晴陵・山田守彦・本村浩之(編) 黒潮あたる鹿児島の海 内之浦漁港に水揚げされる魚たち.鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島.
Thys TM, Nyegaard M & Kubicek L. 2020. Ocean sunfishes and society, pp. 263-279. In Thys, T. M., G. C. Hays and J. D. R. Houghton (eds.) The ocean sunfishes: evolution, biology and conservation. CRC Press, Boca Raton.