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みなさんこんにちは! サイエンスライターな妖精の時々VTuber彩恵りりだよ!
今回の解説の主題は、トウガラシから辛味を抑える物質が見つかったというお話だよ!トウガラシと言えば、「🌶」の絵文字で辛さの指数とされるくらい、辛味の象徴的な存在だけど、そんなものから辛味を抑える物質が見つかったというのは、ちょっと面白いよね。
元々は「いくつかのトウガラシの品種が予想より辛くない」がきっかけで始まった研究だけど、これは食品だけでなく医療分野でも応用される可能性という、発展性が面白い研究となるよ!
CONTENTS
辛味を感じることは分子レベルで特定されているので、辛味の強さは理論的に計算できるはずだよ。ところが一部のトウガラシの品種は、理論的な辛味の強さと実際の辛味の強さに大きなズレがあることが知られているんだよね。 (画像引用元番号④⑤⑥)
辛い食べ物の代表例と言えば「トウガラシ (Capsicum spp.)」だよね。このトウガラシの辛さは、カプサイシンやジヒドロカプサイシンなどの「カプサイシノイド」と呼ばれるアルカロイド[注1]が受容体と結合、刺激することによって引き起こされる痛みなんだよね!実はあれ、味覚受容体で感じる味とは違うものになるよ。
カプサイシノイドと受容体との結合は、2021年にノーベル生理学・医学賞の対象となるくらいのスゴい研究[注2]にも繋がるんだけど、今回は割愛するね。とにかく、カプサイシノイドが受容体との結合で辛味を感じさせるという関係から、食品に含まれるカプサイシノイドの濃度から辛味を数値化して推定できる、ということに繋がるよ。
実際、トウガラシの辛味の指標としては「スコヴィル値」というものが知られているよ。これは官能検査の1つとも言え、トウガラシ抽出物を砂糖水で何倍に薄めると辛さを感じなくなるのか?というのを人間の舌で検査するんだよね。カプサイシノイドによってわずかに辛さが異なるので、スコヴィル値はカプサイシン換算で測るよ。
時々、トウガラシの品種で「普通のトウガラシよりも○○倍辛い!」みたいな宣伝がされているのを見るかもしれないけど、これはスコヴィル値に基づくということだね。ただ、このスコヴィル値は時々違うんじゃないかと言われることがあるんだよね。
典型的には、抽出したカプサイシノイドから推定されるスコヴィル値と比べて、実際の官能検査で示されたスコヴィル値が低いという問題があるよ。もちろん、官能検査である以上は多少の個人差はあるけれども、それを考慮したとしても埋められない誤差があるんだよね。
考えられることとしては、トウガラシに含まれる別の成分が、カプサイシノイドによって感じる辛味を軽減している可能性があるよ。ただ、植物に含まれる成分は実に多種多様なカクテルなので、それを突き止めるのは中々に難題であり、大きな謎となっていたよ。
カプサイシノイド化合物を正確に抽出した上で官能検査を行った結果、やっぱり理論的な辛味の強さと実際の辛味の強さにズレがあることが分かったよ。このことから示唆されるのは、トウガラシに含まれる辛味を抑える物質の存在だよ。 (画像引用元番号⑦)
オハイオ州立大学のJoel Borcherding氏、Edisson Tello氏、そしてDevin G. Peterson氏の研究チームは、この謎を解決する研究を行ったよ。この研究自体、Peterson氏がスコッチ・ボネットと呼ばれる辛いトウガラシを齧った際に、予想よりも低い辛さしか感じなかった疑問がきっかけで始まったよ。
今回の研究では、先ほどのスコッチ・ボネットに加え、アルボル、セラーノ、バードアイ、ファタリイなどのトウガラシ10品種を研究対象としたよ。これらのトウガラシに含まれるカプサイシンとジヒドロカプサイシンの量を液体クロマトグラフィー質量分析法によって正確に測定し、理論上の辛さを算出したよ。
次に、これらのトウガラシの粉末をトマトジュースに入れ、官能検査の訓練を受けた人に飲んでもらい、辛味の評価を行ったよ。トウガラシ粉末を混ぜる量は、理論的にはスコヴィル値が800SHU[注3]と、多くの人が辛さを感じるものの、同時に許容できる範囲とされる量に調整したよ。
その結果、理論的には同じ辛さを感じるはずなのに、実際に感じる辛さは品種によって大きな差があることが分かったんだよね!辛味の源となるカプサイシンとジヒドロカプサイシンの量は正確に判明していることから、これは辛味を抑える何か別の物質が含まれていることを示唆しているんだよね。
そこで、追加の液体クロマトグラフィーと質量分析を行い、トウガラシに含まれる物質を一通り調べたよ。そしてOPLS (潜在構造に対する直交射影) という数学的手法を使って、無数の候補の中からカプサイシノイドの作用を抑えるとみられる化合物の候補を抜き出し、最終的に5種類の候補に絞ったよ。
この候補物質が実際にカプサイシノイドの刺激を抑えるのか、さらに追加で試験を行ったところ、このうちの「カプシアノシドI (Capsianoside I)」「ロセオシド (Roseoside)」「ショウガ糖脂質A (Gingerglycolipid A)」と呼ばれる3種類が、実際に辛味を抑える作用があることが分かったんだよね!
どうしてこれらの化合物が辛味を抑えるのか、そして辛いトウガラシに辛味を抑える物質があるのか、その理由は分かってないよ。ただ、刺激を抑える部分に関しては、辛さを感じる受容体にこれらの化合物が結合することで、脳へ送られる信号が変化するためではないか、と研究チームは推定しているよ。
少なくとも、これらの3種類の化合物は単独でも有効であり、また複数が組み合わさったとしても効果が大きくなるわけではないことも、今回の研究で示されているよ。
今回の研究結果からすると、単にカプサイシノイド化合物の量だけで測定したスコヴィル値は信用できないかもしれず、実際に官能検査をした方が、より正確な辛味の強さが分かることを示唆しているのかもしれないね。
辛味を抑える物質そのものには味がないことから、料理の味を損なわずに辛味を抑える調味料ができるかもしれないよ。また、辛味は痛覚なので、新たな鎮痛薬の開発に繋がるかもしれないよ。 (画像引用元番号①②③⑥⑧)
ところで、今回の研究で分かった辛味を抑える成分は、それ単独だと特に味がないんだよね。この性質から、例えば辛味を抑える調味料としての応用が考えられるよ。つまり、料理の味を損なわずに辛味を抑えられる食品由来の天然化合物として、辛味の苦手な人向けに販売される可能性が考えられるよ。
ただ、それ以上の応用も考えられるよ。思い出してほしいのは、辛味というのは痛みと同じで、痛みを感じる受容体の刺激で感じるものだということ。そして辛味を抑える化合物があるということは、それは痛みを感じる受容体に働きかけ、痛みを抑える鎮痛剤として働く可能性があることになるんだよね!
この話は、「辛味の象徴的な存在であるトウガラシから、辛味を抑える物質が見つかった」という面白さのみならず、新たな非オピオイド鎮痛薬の開発に繋がる可能性があるという点で、とても夢のあるお話だよ!
[注1] アルカロイド
窒素原子を含み、多くの場合塩基性を示す天然有機化合物の総称。 本文に戻る
[注2] 2021年にノーベル生理学・医学賞
デヴィッド・ジュリアス氏の研究チームは1997年に、TRPV1と呼ばれる受容体がカプサイシンに反応することを発見。これは辛味を感じるだけでなく、熱を感じる受容体でもあることを突き止めました。この発見をきっかけに、温度や圧力など生物の感覚機能が分子レベルで次々に明らかにされるようになり、圧力の受容体を発見したアーデム・パタプティアン氏と共に2021年にノーベル生理学・医学賞が贈られました。 本文に戻る
[注3] SHU
SHUはスコヴィル値の単位である「スコヴィル辛味単位 (Scoville Heat Units)」。 本文に戻る
<原著論文>
<参考文献>
<画像引用元の情報> (必要に応じてトリミングを行ったり、文字や図表を書き加えている場合がある)