自己免疫性のエナメル質形成障害(11月22日 Nature オンライン掲載論文)

2023.12.04

永久歯のエナメル質は我々の持つ最も硬い組織で、歯が残る限りいつまでも機能してくれる。

エナメル質はアメロブラストと呼ばれる特殊な細胞により形成され、この細胞が分泌する様々なマトリックスタンパク質にカルシウムとリン酸を取り込み、ハイドロオキシアパタイトを形成することで完成する。この様に数多くの分子や過程が関わるため、それぞれの分子に応じて多くの遺伝的エナメル質形成異常が存在する。

 

本日紹介する論文

ただ、今日紹介するイスラエル・ワイズマン研究所からの論文は、アメロブラストに発現が見られない遺伝子変異に起因するエナメル質形成異常に注目し、アメロブラストが発現する分子に対する自己抗体が形成されることでもエナメル質形成異常が発生することを明らかにした研究で、11月22日 Nature にオンライン掲載された。

 

このグループが注目した遺伝子異常は、胸腺上皮で自己分子を発現させ、免疫トレランスを誘導する胸腺動物園に関わる分子AIRE遺伝子で、この分子の機能不全は自己免疫が多発する多臓器自己免疫症(autoimmune polyglandular syndrome:APS)を引き起こす。AIRE の詳しい機能については昨年のブログ(https://aasj.jp/news/watch/19920)を参照してほしい。

 

解説と考察

APSの患者さんの半分ほどがエナメル質形成不全を合併するので、エナメル質形成異常も他の自己免疫症状と同じ様に胸腺での免疫トレランス成立不全に起因するのではと着想し、マウス胸腺上皮の遺伝子発現を調べると、期待通りアメロブラストが分泌する様々なタンパク質が胸腺上皮で発現し、AIRE がノックアウトされるとこの発現が消失することを明らかにする。

 

すなわち、AIRE遺伝子異常により胸腺動物園でのアメロブラスト分子へのトレランスが成立せず、この結果自己免疫反応がアメロブラスト分子に対しておこることがわかった。

 

次にマウスモデルで関与する免疫反応の型をしらべると、T細胞免疫型より、アメロブラストが発現する分子に対する自己抗体による自己免疫病であることがわかる。また IgA 型の自己抗体が存在することを突き止める。また、エナメル質形成異常を発生したマウスの血清を注射することで、正常マウスにも一定程度のエナメル質形成異常を誘導できることを明らかにしている。

 

以上のことから、エナメル質形成異常がアメロブラストの分泌するマトリックス分子に対する自己抗体で起こりうることが明らかになった。

 

とすると、APS 以外にも自己免疫性のエナメル質形成不全が存在する可能性があり、その例として取り上げたのが腸に対する自己免疫反応を基盤とするセリアック病で、これまでほぼ半数に一定程度のエナメル質形成異常が起こることが知られている。

 

そこで、セリアック病の患者血清を調べると、数種類のマトリックス分子に対する自己抗体を患者さんで検出できる。また、セリアック病の自己抗原として知られているトランスグルタミナーゼ2がアメロブラストでも発生初期に発現しており、セリアック病で発生した自己抗体が腸上皮だけでなく、アメロブラストとも反応してエナメル質形成異常につながる可能性を示唆している。

 

最後に、やはりセリアック病の抗原として有名は牛乳のカゼインに対する抗体も、エナメル質を形成する分子と交差反応を示し、エナメル質形成不全の原因になることを明らかにしている。

 

以上、自己抗体も遺伝的発生異常と同じ作用を示す場合があることが示された。

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著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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