体が透け透け!? レントゲンの仕組みに迫る!

2023.11.06

 皆さんはレントゲン写真を撮影したことがあるだろうか? この季節、スポーツやレジャーでドジを踏んでしまって……という方も多いかもしれない。

 レントゲン写真は、主に体内の骨や異物の状態を確認するための写真だ。レントゲンという装置の名前は、1895年11月8日にX線を発見したレントゲン氏に由来する。そのため、毎年11月2日〜8日はレントゲン週間だ。

 

 骨折や誤飲の際にはなくてはならないレントゲンだが、一体どのように像を映し出しているのだろうか? メスを入れたわけでもないのに、切り開いたかのように骨格や異物の像が映し出されるのはなかなかに不思議だ。

 

 そこで今回は、レントゲンがどのように透け透けの写真を撮影しているのかについて解説していく。

 

少し詳しく 〜X線を撮る〜

 そもそも何かが透けて見えるとはどういう事なのだろう?

 

 こんな事をして考えてみよう。まず用意してほしいのは箱だ。それからおはじきをいくつかと、箱の底面にピッタリとハマる発泡スチロールの板も必要だ。最後に箱より大きい布と、針も準備してほしい。


 まずは箱の底にスチロール板を敷き、さらにおはじきをいくつか入れる。その上から布を被せれば、当然おはじきがどこにあるかはわからなくなる。さて、布の上からプスプスといろんな場所に針を刺してみよう。どうなるだろう?

 運良くおはじきのない場所に針が刺されば、スチロール板に穴が開く。運悪くおはじきのある場所に針が刺されば、針はおはじきに止められてしまう。おはじきの有無がスチロール板に転写されるという訳だ。これを箱全面に対して行えば、スチロール板を取り出すだけでおはじきの配置がわかる。

 

 これと同じことがレントゲンでも行われている。どういうことだろう?

 

 レントゲンを撮影された事のある方ならご存知かも知れないが、撮影の際にはおよそ快適性とか配慮とか優しさなどからは程遠い、硬くて真っ平らな撮影台に通される。そしてカメラのようなものが患部の真上になるように動かされ、放射線技師の方がいくつか操作すると写真が出来上がる。

 これを先の実験に当てはめてみよう。すなわち、撮影台はスチロール板、カメラのようなものは針、そして箱やおはじきは患部だ。

 しかしながら、私たちの体に針を刺すわけにはいかない。そのためレントゲンでは、X線というものを利用している。X線は体組織や水などは透過してしまうが、骨などでは遮蔽されるという性質を持つ放射線だ。つまりレントゲンとは、患部のどこがX線を透過あるいは遮蔽したのかを可視化する装置なのだ[注1] [注2]

 レントゲンが、X線の透過性を利用して撮像しているということがわかった。しかしながら、そもそもなぜX線は物質を透過したり遮蔽されたりするのだろう?

 

 続いて、X線の透過性について解説していく。

 

さらに掘り下げ 〜X線が透過する〜

 突然だが、人混みの中を進むことを考えてほしい。人々が思い思いに進む中を、線を引いたようにまっすぐに歩くのは普通かなり難しい。どこかで必ずぶつかるのは、皆さんご想像の通りだ。それでもまっすぐに進みたい場合、取れる方法として考えられるのは2つだ。すなわち、立ち止まりながら進むか、人をかき分けながら進むかだ。

 

 X線は意思を持たない放射線だ。私たちのように少し進んでは立ち止まり、という事は出来ない。従って、私たちの体内を通る時、X線は必然的に体を構成する無数の原子をかき分けて進むことになる。

 こうして、私たちの体を構成する原子をかき分けたX線が透過され、写真では黒色で表現される。

 

 体を構成する原子をかき分けて透過するX線、と聞いて恐ろしくなった方もいるかもしれない。確かにX線は高いエネルギーをもつ放射線で、不安に思うのも無理はない。だが安心してほしい。


 そもそもレントゲンの基本は透過と遮蔽。すべての原子をかき分けるような高すぎるエネルギーがあっては、レントゲンとして機能しないのだ。何より、X線から見れば私たちの体はスカスカかつフワフワで、時折原子に当たるにすぎない[注3]

 

 だが、軽くて低密度の原子間を透過したとして、重くて高密度の原子間も透過できるかは別問題だ。ご存知の通り、骨や歯はカルシウムを多量に含んだ重い組織だ。いかにX線といえど、透過するのはエネルギーが足りない。ゆえに骨や歯でX線は遮蔽されるというわけだ[注4]


 

 原子の密度や重さがX線の透過と遮蔽の差別化を生み出していることがわかった。しかしながら、根本的な疑問が残る。そもそもX線はどのように発生させているのだろうか?


 続いて、X線を発生させる仕組みについて解説していく。

 

もっと専門的に 〜X線を発生させる〜

 あなたが全力疾走している時、もしも目の前に突然緩衝材でできた壁がそびえ立ったらどうなるだろう? X線の発生原理はこんな疑問から開始してみよう。バラエティ番組のドッキリ企画のような内容だが、これが割と重要になる。


 もちろんあなたは壁に衝突し、そのまま走りを止めてしまうだろう。あなたを全力疾走に駆り立てていたエネルギーは、壁という障害に阻まれて霧散してしまうからだ。

 

 それではエネルギーの霧散という現象を、もっとミクロに考えてみよう。X線を発生させるに当たって、まずは電源と導線だけのシンプルな回路を作る。当然、電子はその中をグルグルと回り続けることになる。この時はまだ、X線は発生していない。


 続いて、導線の一部を切断する。電圧が低い時、回路は機能しない。しかしながら、徐々に電圧を高めていくと、やがて切断面から切断面に向かって電流が流れ回路として機能するようになる[注5]。この時点で、X線は恐らく発生している。とはいえ、装置として利用できるほどではない。

 

 実はこの時、電子は猛スピードで全力疾走している状態だ。もしもこの電子の動きを阻害したら、電子を突き動かしていたエネルギーはどうなるだろう? 続きを見ながら考えてみよう。

 

 陽極側に金属板を取り付け、陰極と陽極を中身を真空にしたガラス管で覆ってやる。すると、陰極から発生した電子が、超高速で陽極に衝突する事になる。電子の衝突を受けて、陽極の原子は瞬間的にエネルギーの高い励起れいき状態になるが、すぐさまエネルギーを放出して、元の基底きてい状態に戻る。

 この時エネルギーとして放出される電磁波こそが、すなわちX線だ[注6]

 なお、励起とか基底の話は、花火の話題の時にも説明したことがあるので、「れいき?きてい・・?」となっている方はこちらも読んでいただくと理解の助けになるかもしれない。

夏を飾る夜の彩! 花火はなぜ美しく輝く?

 

 

 ここまで、レントゲン装置の仕組みについて解説してきたが、いかがだっただろうか? X線の発見により、レントゲン氏は1901年、第1回ノーベル物理学賞を獲得している。発見からわずか6年後というのだから、どれだけ衝撃的な発見だったか明らかだろう。

 

 最後に、記事の趣旨からは少し外れるが放射線に関した研究について2つ紹介して、記事を締めさせていただく。

 

ちょっとはみ出し 〜放射線を知る〜

放射線を見る

 東日本大地震に端を発する福島第一原子力発電所の事故は、私たちにとって忘れがたく、また伝えていくべき事故だ。しかしながら、この事故によってめざましく飛躍した技術がある。すなわち放射線の可視化技術だ。安全な廃炉を実現するという必要に迫られて生まれた技術だが、この技術がいま世界を大きくリードしつつある。

 

 ガンマ線と呼ばれる放射線は、放射線の中でも最もエネルギーが大きいことが知られている。このエネルギーの大きさを利用して、がん治療に活かせないかという議論が進められていたが、これまで正確に照射されているかを可視化する技術がなかった。しかし技術革新により、手のひらサイズのカメラでガンマ線を可視化することが可能になり、新たな治療法に繋がることが期待されている。

 

宇宙で耐える

 皆さんは「宇宙線」という言葉をご存知だろうか? 「スペースシップ(宇宙船)」でもなければ「スターウォーズ(宇宙戦)」でもなく「宇宙線」だ。ざっくりと言ってしまえば、宇宙線とは宇宙空間を飛び交っている放射線のことだ。宇宙という空間は、恒星という莫大なエネルギー源を無数にたたえており、熱とともに無数の放射線が放出されている。もちろん、我らが太陽からもだ。

 

 この宇宙線、地球にいる私たちにとってはあまり大きな影響がないが、一度宇宙空間に出ると驚異的な存在となる。宇宙線が原因で機器や装置の故障に繋がる場合もある程だ。中でも太陽電池は、その用途から常に露出している。そのため、発電効率を落とす事なく宇宙線に耐えられる物が求められる。

 現在、ペロブスカイト太陽電池と呼ばれる日本発の次世代太陽電池が、宇宙線にも耐えられるかの試験が行われている。

参考文献

日本診療放射線技師会
・小松 賢志. 『現代人のための放射線生物学』. 京都大学学術出版会.
・上坂 充, 石川 顕一. 『東京大学教程 原子力工学 放射線生物学』. 丸善出版.
・数研出版編集部. 『新課程 視覚でとらえるフォトサイエンス 物理図録』. 数研出版.
・アダム・ハート=デイヴィス 総監修、日暮雅道 監訳. 『サイエンス大図鑑【コンパクト版】』. 河出書房新社.
環境省HP
首相官邸HP
・片岡 淳. 『 ガンマ線イメージングがつなぐ医療と宇宙 超小型コンプトンカメラの挑戦』. 応用物理 2019年 88 巻 11 号 730-734.
・佐伯 昭紀. 『宇宙利用を想定したペロブスカイト太陽電池の放射線照射効果』. 旭硝子財団助成研究成果報告 2021年 90 巻 論文ID: 2021_032.

脚注

[注1] このため、英語ではレントゲン装置のことを「X-Ray(X線)」という。発明者の名前そのままの日本名も安直だと思うけど、原理そのままの英名も大概安直だと思う。本文に戻る

[注2] 論文の執筆にあたってレントゲン氏が選んだ被写体は、妻の手だった。実験目的や内容を説明し、同意を得た上での撮影だったが、それでも自身の手の骨の写真を見て夫人は恐怖したそうだ。当時は自分の骨を見ることなどあり得ない時代だ。気持ちはわからないでもない。本文に戻る

[注3] 私たちの体を構成する主な元素は水素H、炭素C、酸素Oなどの軽い元素だ。組織によって組成比に違いはあれど、骨や歯を除いて基本的にこれは変わらない。それではX線では骨や歯以外撮影出来ないのだろうか? 組成比が同じせいで撮れないのなら、組成比を変えてやればいい。例えば硫酸バリウムを飲むことで胃の組成比を筋肉などと差別化し、撮影可能にしている。こうした薬品を造影剤という。本文に戻る

[注4] 体組織を透過したX線は患部の下に敷かれた感光用のプレートに当たる。それでは骨や歯に遮蔽されたX線はどうなるのだろう? 実は骨や歯に当たったX線は、エネルギーとして骨や歯に吸収されている。金属などでも同様で、大怪我で骨をボトルで繋いだ時はハッキリと写し出される。本文に戻る

[注5] つまりは雷ないしは静電気の発生原理なのだが、そこに触れ始めると面倒臭くなるので今回は割愛させていただく。いずれ雷や静電気についても解説記事を書きたいね。本文に戻る

[注6] このようにしてX線を発生させる装置をX線管という。解説したのは現在主流のクーリッジ管というX線管だが、X線を発見したレントゲンが使っていたのはクルックス管というX線管だった。これは電子からエネルギーを取り出すのに、封入したガスを使用していた。なお、間違っても「X戦艦」ではないので注意されたし。本文に戻る

 

【著者紹介】葉月 弐斗一

「サイエンスライター」兼「サイエンスイラストレーター」を自称する理科オタクのカッパ。「身近な疑問を科学で解き明かす」をモットーに、日々の生活の「ちょっと不思議」をすこしずつ深掘りしながら解説していきます。

【主な活動場所】 Twitter Pixiv

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