夏を飾る夜の彩! 花火はなぜ美しく輝く?

2023.08.07

 夏の暑さが本格化すると、花開くものがある。朝顔やひまわり……も、そうだが、夜に咲く花、すなわち花火だ。花火大会はもちろんのこと、縁日のクライマックスやお盆の庭先など、日本の各地で夜を彩っている。打ち上げ花火に手持ち花火、噴出花火に仕掛け花火など規模もバリエーションも様々だ。ちなみに葉月は「シュゴー」と音を立てながら色を変えていく、ススキ花火が好きだ。

 それにしても、花火というのは不思議な存在だ。私たちが日常生活で出会う炎は赤や青のまま、ゆらゆらと揺れるだけだ。それに比べ、花火はキラキラ、パチパチと変幻自在に姿を変え、赤や青のみならず、緑や黄、ピンクなど色まで変えて、私たちを楽しませてくれる。これは一体どういうわけだろう? そこで今回は、花火がなぜ鮮やかに輝くのかについて解説していく。

 キーワードは『エネルギー』だ。

 

少し詳しく 〜エネルギーと熱放射〜

 そもそも花火の火薬はどのように作られているのだろうか? 改めて聞かれるとよくわからない。

 実は花火の火薬は異なる4つの役割を持った薬品の組み合わせから出来ている。その4つとは「可燃剤」「酸化剤」「結合剤」そして「効果剤」だ。

 

 この中で火薬、すなわち火を点けるという点で、中心的な役割を担っているのが、可燃剤と酸化剤だ。可燃剤はその名の通り、燃えるのが仕事だ。だが、安定的に燃えるためには、気候の条件で変動する空気中の酸素を使うのは不安定だ。これを解消するため、酸化剤が酸素を作って供給する[注1]

 とはいえ、このままではただの安定燃料だ[注2]。それでは花火特有の鮮やかな炎はどのように作られているのだろう?

 花火を花火たらしめる鮮やかな炎は、効果剤によるものだ。効果剤とはその名の通り、燃え方や色で花火に効果をもたらすものだ。例えば、キラキラ、パチパチと変幻自在に光る炎は、金属粉末が効果剤となっている。

 

 TVなどで、熱した金属を様々な物に加工する様子を見たことはないだろうか? 金属を高温の炎で熱すると光を発する。それではこの金属が、細かな粉末だったらどうだろう。金属の粉末を熱しながらパラパラと撒けば、あたかも火花が噴出されているように見えるというわけだ[注3]


 このように温度に応じて物質がエネルギーと電磁波(ここでは光)を発する現象を、熱放射という。熱放射によって発せられる光の大きさは、物体の温度が高いほど明るくなる。

 変幻自在に姿を変える炎は、火薬に含まれる金属粉末によることがわかった。

 しかしながら、花火といえば、もう一つとても重要な要素がある。すなわち炎の色だ。花火の炎は、どのように色を変えているのだろう?続いては炎の色を変える効果剤について見てみよう。

さらに掘り下げ 〜エネルギーと炎色反応〜

 突然だが、皆さんは料理中に吹きこぼしたことはあるだろうか? スパゲティやそうめんを経口の小さい鍋で湯がくと、葉月はまれにやらかす[注4]

 もし、コンロがガスコンロの場合、この時少し変わったものが見られる。コンロから燃える青い炎が黄色く変わるのだ。もし次回吹きこぼした際には、くれぐれも安全に留意した上で炎の様子を観察して見ても良いかもしれない。くれぐれも安全に留意して[注5]!!

 

 それにしてもなぜ、炎は黄色く変化したのだろう? 実は花火の色と鍋の吹きこぼれにはとても深い共通点がある。

 

 花火の炎の色を変える効果剤を「炎色剤(あるいは色火剤)」という。炎色剤は主に紅色(炭酸ストロンチウム等)、青色(酸化銅等)、緑色(硝酸バリウム等)、黄色(シュウ酸ナトリウム等)の4色が使われている。紫やピンクの炎は、4色を組み合わせて作り出したものだ。

 一方、私たちの生活を支える水道水には、殺菌のため次亜塩素酸ナトリウムが添加されている。お気づきだろうか。黄色い炎を作るシュウ酸ナトリウムと次亜塩素酸ナトリウムには、ナトリウムが共通している。

 

 金属塩を炎に入れると、炎の色が変化する。この炎の色の変化を、炎色反応という[注6]。炎色反応による色の変化は含まれる金属元素の種類に応じており、黄色ならナトリウム、緑ならバリウムという具合に炎の色から金属の種類を推定することもできる。

 

 すなわち、花火も吹きこぼれもナトリウムの炎色反応によって炎の色を変えたものだったのだ。

 金属塩が燃えると色を発することがわかった。しかしながら、なぜ金属塩が燃えると色が出るのだろうか?続いては金属元素で起きる反応について見てみよう。

 

もっと専門的に 〜エネルギーと励起〜

 炎色材で起きる反応について解説する前に、一つ考えてみてほしいことがある。袋いっぱいに入れた蒸気を冷却すると、袋の中はどうなるだろう?

 当然、袋の中には水滴が現れる。それでおしまいだろうか。いや、なおも冷却を続けていると、水は凝固し氷に変わる。

 

 水が凍ることと炎に色がつくことに何の関係があるのだろうとお思いだろう。ところがどっこい、大ありだ。蒸気が水になり氷になったのは、水分子の持つエネルギーが小さくなったためだ。この例ではエネルギーは空気分子に奪われている。しかしエネルギーの変化はなにも物体から物体に限らない。物体から光という例ももちろんある。

 そう、炎色剤によって炎が色を発するのは、炎によってエネルギーを与えられた金属原子が、エネルギーを放出する際に光として発するからだ。このように原子が高いエネルギーの状態になることを励起れいき、元の低いエネルギーの状態を基底きてい状態という[注7]。エネルギーの大きさと光の色は相関関係があるため、放出するエネルギーの大きさに応じて様々な色が現れるというわけだ。

 

 しかしながらこれでは、炎の色は炎色剤の種類に限らず炎の温度によって決定してしまいそうにも思えてしまう。なぜ炎色剤の種類によって炎は固有の色を出すのだろう?


 そもそも、原子が基底状態に戻るとき、全てのエネルギーを放出するわけではない。原子を維持するだけのエネルギーは残しておく必要がある。このエネルギーの大きさは元素によって固有だ。

 また、原子はエネルギーを与えたら与えた分だけ無尽蔵に吸収するわけではない。励起状態のエネルギーの大きさも元素ごとに決まっている。

 つまり、2つの固有値の差が光として放出されるため、炎色剤の種類によって炎の色が決まるというわけだ。

 ここまで、花火の輝きについて解説してきたが、いかがだっただろうか? 科学の輝きに想いを馳せるか、感性のままに風雅に身を委ねるか、どちらの楽しみ方を選んでも良いだろう。是非とも安全に注意しながら、夏の夜を楽しんでほしい。

 

 最後に、記事の趣旨からは少し外れるが炎を対象にした研究について2つ紹介して、記事を締めさせていただく。

 

ちょっとはみ出し 〜炎を調べる〜

温度を計る

 炎を扱う上で温度のコントロールはとても重要な要素だ。だがしかし、温度をコントロールするためにはそもそも炎の温度を知る必要がある。とはいえ実は、あらゆる炎の温度を一律に計る方法というのは、現在のところ開発されていない。数百度の低温から高温になると数千度以上と、温度の幅が広いからである。しかしながら、広く普及している方法は存在する。それが、2種類の金属線と電圧計を用いた計測方法である。

 まず金属線の両端をつなぎ、環状にする。一方の接合点を既知温度、もう一方を温度未知の炎の中に入れるとどうなるか。熱起電力、すなわち電圧が生じるのだ。この電圧は温度差の大きさに相関して大きくなるため、電圧を測ることで炎の温度を推測することができるというわけだ。これが熱電対温度計ねつでんついおんどけいという方法だ。

燃焼の様子を調べる

 残念なことに炎は私たちの生活を彩るばかりではない。消防庁の統計によれば令和4年の1年間に1,400名以上もの方が火災の犠牲になっている。この数字を0に近づけるためには、私たちが普段から火災を起こさないことを心がけて、火を取り扱うのが大切なのは言うまでもない。しかしながら火災が起きてしまったとき、根本的に火がどのように燃え広がるのかを知ることも同じくらい重要だ。

 燃焼学という分野がある。その名の通り、物がどのように燃えるのかを研究する分野で、本来はエンジンなど炎を扱う工業製品に展開されている。この燃焼学の知見を活かして、火災拡大のメカニズム解明に役立てようという取り組みが進んでいる。いずれ、火災犠牲者0の街づくりが実現するかもしれない。

 

【著者紹介】葉月 弐斗一

「サイエンスライター」兼「サイエンスイラストレーター」を自称する理科オタクのカッパ。「身近な疑問を科学で解き明かす」をモットーに、日々の生活の「ちょっと不思議」をすこしずつ深掘りしながら解説していきます。

【主な活動場所】 Twitter Pixiv

このライターの記事一覧

参考文献

・数研出版編集部. 『改訂版 視覚でとらえるフォトサイエンス 化学図録』. 数研出版.

・数研出版編集部. 『新課程 視覚でとらえるフォトサイエンス 化学図録』. 数研出版.

・松永 猛裕. 『花火の原理・安全・データベース』. 日本燃焼学会誌 2018年 60 巻 193 号 173-180.

・畑中 修二, 薄葉 州. 『閃光組成物 (Flash Composition) とアルミニウム含有花火組成物』. 日本燃焼学会誌 2018年 60 巻 193 号 181-190.

・松永 猛裕. 『花火の燃焼』. 日本燃焼学会誌 2008年 50 巻 152 号 100-106.

・Chihiro Inoue, et al. “Direct Self-Sustained Fragmentation Cascade of Reactive Droplets”. Phys. Rev. Lett. 118, 074502.

・高橋 周平.『熱電対や赤外ふく射を用いた燃焼ガスの温度測定法』. 日本燃焼学会誌 2021年 63 巻 206 号 331-340.

消防庁ホームページ

・鈴木 佐夜香. 『燃焼研究をどのように大規模火災解明に役立てているのか』. 日本燃焼学会誌 2019年 61 巻 196 号 93-95.

脚注

[注1] 空気中の酸素ではなく、酸化剤が作った酸素によって燃えるため、手持ち花火を静かに水に入れると、水中で燃える炎が見られる。水に入れても酸素の供給が止まらないためだ。 本文に戻る

[注2] 可燃剤も酸化剤も、基本的にはサラサラの粉末だ。そのため、手持ち花火に火薬を塗ろうとしても上手くつかない。それを解消するのが結合剤だ。結合剤を混ぜることで、火薬は固形状に整形することができる。また、結合剤は可燃剤の役目も担っている。 本文に戻る

[注3] とはいえ全ての花火に効果剤が含まれているわけではない。例えば、線香花火の火薬は可燃剤と酸化剤だけからなる。線香花火のパチパチは、熱で液状になった火薬の内部にガスがたまり、そのガスを含んだ泡が弾けた時に生じるものだ。理屈としては炭酸飲料で液面がパチパチしているのに近い。 本文に戻る

[注4] 個人的な吹きこぼれ防止策は、フライパンで湯がくのが良いと思う。水を張らないといけないのでそこそこの深さは必要になるが。……今回のテーマなんだっけ? 本文に戻る

[注5] 通常、この炎の色の変化は数秒で収まり、元の青い炎に戻る。吹きこぼれていないのに、5秒以上も黄色い状態が続くようなら、不完全燃焼が疑われる。その時は火を消し、充分に換気をしてほしい。 本文に戻る

[注6] 青色の炎色剤には酸化銅が使われるが、銅元素の炎色反応の色は実際には青みがかった緑だ。入手しやすさとかを考慮してだろうか? 本文に戻る

[注7] 励起した原子では電子の軌道が普段より外側を回るようになる。これは原子核に近い内側の軌道の電子ほど、エネルギーのレベル(エネルギー準位)が低いためだ。低レベルのキャラクターほど、少ない経験値で簡単にレベルアップするようなものだと考えてほしい。 本文に戻る