グルタミン腫瘍内投与は腫瘍免疫促進効果がある(7月5日 Nature オンライン掲載論文)

2023.07.23

少しガンについての論文紹介が続くが、今日紹介したいメンフィスの St Jude子ども病院からの論文は、腫瘍内ではグルタミンが欠乏する結果、腫瘍免疫を維持する樹状細胞機能不全が起こっており、グルタミンの局所投与でこれを治療できることを示した研究で、7月5日 Nature にオンライン掲載された。


タイトルは「SLC38A2 and glutamine signalling in cDC1s dictate anti-tumour immunity(DC1でのSLC38A2とグルタミンシグナルが抗腫瘍免疫を指示する)」だ。


グルタミンはアミノ酸の中でも多様な効果を持つアミノ酸で、TCAサイクルを介したエネルギー生産、活性酸素合成、さらにはエピジェネティックス調節だけでなく、アミノ酸や核酸合成、そしてリソゾーム形成調節を介したオートファジーにまで関わっている。


従って、グルタミンがガン免疫に関わることは特に不思議はない。


しかし、この研究は、グルタミンをガン局所に投与するとガンの増殖が抑えられるという想像以上の効果がグルタミンにあることをまず示す。


ガン局所にグルタミンを投与するなど、敵に塩を贈るようなものだと考えてしまうが、実際にはガンがグルタミンを取り込む結果、局所でグルタミン欠乏が起こっていること、そしてガン局所にグルタミンを補充してこの欠乏を止めるとガン免疫が高まり、たとえばPD1抗体によるチェックポイント治療効果が高まることを示した。


あとはこのメカニズムを解析し、まずグルタミン欠乏に弱い細胞を探索し、CD8活性に関わる1型樹状細胞(DC1)の機能がグルタミンに強く依存しており、グルタミン投与でDC1が活性化されると、CD8キラー細胞が局所で維持されることを明らかにする。


先に述べたように、グルタミンはさまざまな経路に関わっているので、DC1細胞内のどの経路がこの現象にかかわるかを調べている。詳細を全て省いてまとめてしまうと(実際、この研究過程が極めて複雑)次のようになる。


グルタミンを細胞内に取り込むトランスポーターは複数存在するが、DC1はSLC38A2に完全に依存しており、この分子を通して得られるグルタミン量が細胞内のセンサーに感知されることになる。


おそらくグルタミン欠乏によって他の効果も存在するとは思うが、DC1では栄養欠乏時にリソゾーム膜に結合し細胞内代謝調節の核であるmTOR分子のリソゾームへのリクルートを阻害する分子、folliculinとその結合蛋白FNIP2の結合が低下する。逆にグルタミンを補充すると、folliculin-FLNPが活性化して、リソゾームへのmTORリクルートが阻害される。


mTOR活性が低下すると、TFEBと呼ばれるオートファジーを調節する転写因子のリン酸化が低下し、その結果核内移行によりオートファジーに関わる分子の転写が高まり、その結果DC1が活性化される。


以上がシナリオで、結構複雑な経路がグルタミンで活性化されることがわかる。しかしメカニズムはともかく(これがないと論文がアクセプトされないのだが)、この論文のハイライトは、グルタミンを腫瘍組織に補充するという単純な方法でガン免疫を高められるという発見だろう。


おもしろい。

 

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著者紹介:西川 伸一

京都大学名誉教授。医学博士であり、熊本大学教授、京都大学教授、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長などを歴任した生命科学分野の第一人者である。現在はNPO法人オール・アバウト・サイエンス・ジャパン (AASJ) 代表理事を務めながら、1日1報、最新の専門論文を紹介する「論文ウォッチ」を連載している。

【主な活動場所】 AASJ(オールアバウトサイエンスジャパン)
オールアバウトサイエンスジャパンは医学・医療を中心に科学を考えるNPO法人です。医師であり再生科学総合研究センター副センター長などを歴任された幹細胞や再生医療に関する教育研究の第一人者である西川伸一先生が代表理事を務められております。日々最新の論文を独自の視点でレビュー、発信されておりますのでご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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