サバクアリは帰巣の目印にランドマークを建てる!?

2023.06.05

 唐突ですがアリってかわいいですよね!

 働きもの、力持ち、群れ、甘いもの好き……いろいろなイメージを持たれている身近な動物で、世界一有名な昆虫のひとつといっても過言ではないと思います!


 そんな彼らは世界中の様々な場所に生息していて、非常に過酷な砂漠にも存在しています。総称としてサバクアリと呼ぶのですが……

 今回はそんな彼らの新たに明らかになったことをご紹介したいと思います!

 サバクアリの一種Cataglyphis fortisというアリの非常に優れた帰巣能力に関するお話になります!

 

 ……紙の地図も読めない僕には少し羨ましいお話ですね!


そもそもサバクアリとは!

サバクアリの仲間Cataglyphis bicolor。かわいい

 

 サバクアリはその名前の示す通り砂漠に生息するアリの仲間です。砂漠の地面の上を太陽の熱にも負けじとエサを探して歩き回る生き方をしているんですよ。働きものですね!


 そんな彼らは過酷な砂漠での生活に適応するために体温が50度になっても活動できる脅威の熱耐性を持っており、陸上の動物でも随一のものなんです!


 彼らは他の生き物がいないような太陽がギラギラと輝いている時間帯に遠征し、昆虫の死体などを見つけると巣に持ち帰るという生活をしています。


 そこで一番に問題になるのがそんな暑い時間帯の中で「どれだけ素早く帰れるか」ということです。


 そんなわけでサバクアリのもうひとつの特筆するべき能力は彼らの帰巣能力、ひいてはナビゲーション能力です!

 彼らの住んでいる場所は非常に広い砂漠であり、遠くまで遠征する彼らは帰巣するための能力が発達したんですね!


 例として太陽からの偏光のパターンの目印と歩数カウンターのように歩行した距離を計測することによる「経路統合」によって、それらを補うような嗅覚も持っています。また地磁気も利用していることが示唆されています!


 また過去の研究でもサバクアリの眼は光の強度を感知しやすく、Optical orientation(光を使った方向決定)や風景をランドマーク(目印)としたエサの探索を行うことがわかっています!


 アリは地下に暮らす動物で眼は優れているわけではないんですが、サバクアリは風景を記憶することで広い砂漠で生き残っているのです!


 一般的なアリが使うような「道しるべフェロモン」は使用しません。砂漠の暑さは道しるべフェロモンをすぐに変性させて使い物にならなくなってしまうのと、砂漠では安定した食べ物がないために使う必要もないからです。つまりサバクアリの行列は見られないんですね!


 彼らの生息する砂漠で迷ってしまえばその一分一秒が命取りになってしまいます。そのため非常に効率的に最短のルートを通って家に帰る能力が発達……むしろ、その能力がなかった個体は生き残れずに淘汰されたとも考えられますね!


今回の研究!

代表的なチュニジアの塩原であるジェリド湖。世界でも有数の広さなんです!

 

 今回研究されたのはサバクアリの一種であるCataglyphis fortisです。

 

 彼らはチュニジアの塩原(塩の平原)などの平坦な地形に生息しています!


 そんな彼らが住む場所によって巣の一部であるアリ塚の形を変えるということに科学者らは気が付きました。


 塩原の中央などに住むアリたちは40センチほどの高さのアリ塚を建てるのですが、低木などの目印がある塩原の端に近い巣ではほとんど目立たないのです。


 生き物の研究では、その動物の行動が意図的なものなのか、偶然の産物なのかの判断は難しいんですよね。


 科学者らはまずいくつかのアリ塚を崩して捕獲したアリを巣から少し離れた場所で放してみました。

 

 端側に巣を持つアリには帰巣に大きな影響は見られなかったのですが、中央付近に住むアリでは帰巣することができたアリの数が減少することが確認されました。


 また中央のアリは壊されたアリ塚をいち早く修復し始めたのです!

せっせと直します。当然ながら、画像はイメージです。

 

 さらに科学者らが壊したアリ塚に代わりの目印となるような黒い円柱を置いたところ、そのアリ塚の修復が抑制されることがわかりました!

 

 すなわち、彼らは探索に出かけたアリのランドマーク(目印)となる高いアリ塚を意図的に設置しており、他にランドマークとなるものがあれば大きなアリ塚は必要ないと判断するのです!


 前記したように彼らがランドマークを使用して餌場を探したりすることは知られていたのですが、自身の手でランドマークとなるアリ塚を建築するとは驚きですね!

 

まとめ

サバクアリの仲間Cataglyphis bicolor。広い砂漠と比べると小さいけど力強く生きてるのです

 

 今回の研究ではサバクアリの一種であるCataglyphis fortisがランドマーク(目印)を意図的に作るということが明らかになりました!


 彼らは巣から1キロ以上の離れた場所に遠征することもあり、帰巣するための目印になるのでしょう!


 しかし、Cataglyphis fortisがどのようにアリ塚を作るか否かを決定している方法はまだ詳しくわかっていません。


 探索に行くアリは経験豊富なアリであり、若いアリは巣作りに従事していること……つまり、しっかりとした分業があることから、ふたつのグループの間で情報共有があるとは考えられます。


 科学者のひとりは「巣に帰ってくるアリの数が少なくなってきた場合、アリ塚を大きく建築するのではないか」という仮説を立てましたが、あくまでひとつの可能性です。


 またアリ塚は捕食者にとっても目立つものであり、そのリスクについても疑問が生じます。リスクを取ってでもランドマークとなるアリ塚を建築するほうが全体としての利益につながったのでしょうか?


 そう、サバクアリの生態は独特でまだまだ謎の多い動物なんです!


 この研究は昆虫の認知能力やナビゲーションや方向感覚を理解する上でも有用な研究です!


 小さなアリの研究で大きな発見を産む可能性があるのがこういう研究の面白いところですね!


 最後に雑学!
「サバクアリの一種サハラギンアリCataglyphis bombycinaは体長の100倍の距離を1秒で移動できる」

 それではまた!

参考文献

<メインの論文>
Marilia Freire, Antonio Bollig, Markus Knaden. Absence of visual cues motivates desert ants to build their own landmarks. Current Biology. (2023). https://doi.org/10.1016/j.cub.2023.05.019.

<その他、参考文献>

Rüdiger Wehner. The significance of direct sunlight and polarized skylight in the ant’s celestial system of navigation. (2006). 

W J Gehring, R Wehner. Heat shock protein synthesis and thermotolerance in Cataglyphis, an ant from the Sahara desert. (1995). 

Steck, K., Hansson, B.S. & Knaden, M. Smells like home. Desert ants, Cataglyphis fortis, use olfactory landmarks to pinpoint the nest. Front Zool 6, 5. (2009). 

Collett, T.S., Dillmann, E., Giger, A. et al. Visual landmarks and route following in desert ants. J Comp Physiol A 170, 435–442 (1992). 

Bolek, S., Wolf, H. Food searches and guiding structures in North African desert ants, Cataglyphis . J Comp Physiol A 201, 631–644 (2015). 

Brunnert A, Wehner R. Fine structure of light- and dark-adapted eyes of desert ants, Cataglyphis bicolor (Formicidae, Hymenoptera). J Morphol. (1973). 140(1):15-29. 

Max Planck Institute for Chemical Ecology. (2023). Desert ants increase the visibility of their nest entrances in the absence of landmarks.

National geographic. (2023). World’s fastest ants found racing across the Sahara.

 

【著者紹介】三日月 あかり(みかげ あかり)

生き物大好きなあかり君。生き物の情報を求めて日夜ネットの海を漂っている人。動物の研究について紹介して、みんなが少しでも興味を持ってくれるといいな。

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