「アカシュモクザメ」は深海へのダイビング中に息を止める! エラ呼吸の動物が行う理由とは?

2023.05.19

みなさんこんにちは! サイエンス妖精の彩恵りりだよ!

 

今回の解説は、エラ呼吸のアカシュモクザメが深海へのダイビング中に息を止めることを明らかにした研究についてだよ!

 

肺呼吸なクジラやアザラシと違い、アカシュモクザメはエラ呼吸なんだから普通なら息を止める必要はないよね?ところが今回、息を止めているらしいことが明らかになったよ!その理由は何か、というのを解説するね!

 

暖かい海にいるアカシュモクザメ、冷たい深海に潜って平気なの?

アカシュモクザメ (Sphryna lewini)」というサメがいるよ。シュモクザメの仲間は英語でハンマーヘッドシャークと呼ぶように、目のある部分がハンマー状になっている特徴的な外観をしているよ。

 

アカシュモクザメは世界中に分布しているけど、基本的に分布域は熱帯や温帯の暖かい海に限られるよ。そして大体は浅い水深にいるんだけど、たまに600mから800m、時にそれ以上の冷たい深海に潜ることがあるよ。

 

恐らくはイカなどの獲物を捕らえるために潜ると考えられているけど、浅い海で26℃もある海水温が、水深800mでは5℃と急激に低下するよ。アカシュモクザメは、そんな冷たい海水で平気なのかな?

 

アカシュモクザメは深海で狩りを行う

アカシュモクザメは世界中の暖かい海に生息するサメであり、体温を維持する特別な機能のない変温動物だよ。ところが、時々水深約800mの深海へと潜って狩りを行うよ。20℃も違う冷たい海水に触れて、アカシュモクザメは平気なのかな?

 

アカシュモクザメは、多くの魚類と同じく変温動物だよ。つまり、体温を常に一定に保つ機能がないので、冷たい海水に触れれば体温が下がってもおかしくないね。

 

体温が下がれば筋肉の動きも鈍くなるので、泳ぐための運動能力が低下してしまうよ。最も困るのは心臓であり、心臓の動きの低下で血流が減少すれば、身体に酸素を行きわたらせることができなくなるよ。

 

よって、暖かい海水に慣れているアカシュモクザメが、普段より20℃も低い深海の海水にどのように対応しているのか、その戦略面は不明なままだったよ。

 

アカシュモクザメに温度計を付けてみると…?

そこでハワイ大学マノア校のMark Royer氏らの研究チームは、アカシュモクザメがどのように深海の冷たい環境に適応しているのかを調査する研究を行ったよ。

 

アカシュモクザメの身体に身体の向き、水深、海水温、体温、活動率を記録する各種装置を取り付け、水深400m以上に潜ったものを対象に、数値の変化について調べることにしたよ。

 

アカシュモクザメの体温変化を測ってみると、冷たい海水に触れる深海にいる時でも体温がほとんど下がらない一方で、浮上開始後の水深約290mで体温が急激に低下し始めたことが分かったよ! (画像引用元: 原著論文Fig3)

 

その結果、思いがけないデータが得られたよ。アカシュモクザメが深海へと潜り、再び浅い場所に浮上するまでの約1時間のダイビング中、一部を除いてほとんど体温が下がらなかったことが分かったよ!

 

ダイビング中で体温が下がるスピードが一番早かったのは、深海から再び上昇し、比較的浅い水深290mまで浮上したあたりで、この時の体温低下スピードは深海の約10倍も速かったよ!

 

もしダイビング中にアカシュモクザメの生態に関する条件面が一切変更されていない場合、体温が最も下がるのは、冷たい海水に触れている深海のはずなので、これはおかしいよね!?

 

例えば同じ変温動物であるマグロやネズミザメの仲間は、体温をある程度維持するため、体内深部から血管を通じて熱を運ぶ身体構造の工夫があるけど、アカシュモクザメにはそれは見つかっていないよ。

 

また、アカマンボウは上記の機能を発展させ、魚類では唯一恒温動物と言えるくらいの体温維持機能を持つことが知られているけど、もちろんこれもアカシュモクザメには当てはまらないよ。

 

アカシュモクザメは潜水中に息を止めている!

では、アカシュモクザメはどうやって体温を維持しているのか? Royer氏らは、アカシュモクザメが深海へと潜っている間は息を止めているから体温が下がりにくかった、と考えているよ!

 

肺呼吸であるクジラやアザラシなどと違い、エラ呼吸であるアカシュモクザメは本来ダイビング中に息を止める必要はないはずだよ。それどころか、筋肉を動かすのに必要な酸素が供給されないデメリットすらあるよ。

 

しかし、エラは酸素を取り込むために毛細血管がびっしり詰まっている場所。冷たい海水に晒されればそこから体温が逃げてしまう、と考えると、呼吸を止めるのは理にかなった行動であるともいえるよ。

 

実際、今回とは別の研究で、水深1043mで出会ったアカシュモクザメはエラを閉じているのが撮影された一方で、浅い海ではずっとエラを開きっぱなしで泳いでいることが観察されていたよ。

 

非常に少数の事例しか撮影できない深海のビデオ撮影だけでは決め手に欠けるけど、今回の研究を合わせれば、深海では体温維持のためにエラを閉じて息を止めていると考えるのは全く矛盾しないことになるよ!

 

アカシュモクザメは潜水時に息を止めていると判明

今回の測定により、深海への潜水開始から浮上の途中までの約17分間、アカシュモクザメは息を止めているらしいことが明らかにされたよ!最後は普段より深い水深でエラ呼吸を再開することが、体温の急速な低下として現れると推定されるよ。 (画像引用元: いらすとや )

 

Royer氏らは体温のデータと熱の逃げ方のモデル計算から、約1時間のダイビングの中で平均17分間息を止めていると推定しているよ。これは最も深い場所で留まる4分間を含んでいるよ。

 

この考えが正しい場合、アカシュモクザメが再び呼吸を再開する、つまりエラを開くのは、体温低下のスピードが最も速くなった水深290m付近であると推定されるよ。

 

アカシュモクザメの体温低下に対する対策は、アカシュモクザメが深海で捕食するという行動の詳細を考える上でも重要であると言えるよ。

 

これは、息を止めていることで潜水時間が限られることに加え、捕食時には身体構造の関係から、口と共にエラも開いてしまうことも考慮しないといけないからだよ。

 

恐らく、アカシュモクザメの深海での捕食行動、つまりエラが開いている時間はほんの一瞬で済んでいる、ということが今回の研究から推定されるよ。これなら、体温低下は最小限で済むからね。

 

深海の捕食行動でほとんど体温が下がらないことは、別の魚類であるヨシキリザメやマンボウでも観察されていることから、この推定は正しいと思われるよ。

 

肺呼吸ではなくエラ呼吸である魚類が潜水時に息を止めている、というのは予想外の発見であり、恐らくは初めての事例だよ!他にもいるかもしれないね!

 

今回の研究から考える深海保護の重要性

さて、そもそも論として、暖かい海にいるアカシュモクザメが深海で狩りを行うのは、深海の獲物に食料を依存している、というとても重大な示唆を含んでいるよ。

 

深海に潜るには、息を止めるくらいの工夫とリスクを抱えているわけだけど、わざわざ危険なことをするくらいには深海の餌に依存している、という可能性があるということだよ。

 

近年、アカシュモクザメが潜る程度の深海にも漁業が届いているけど、深海であるほど調査が進んでいないことから、どの程度の規模の漁業が生態系に影響を及ぼすのかはよくわかっていないよ。

 

深海にいる生物の乱獲は、これを捕食する浅い海の生物にも影響を及ぼす可能性があることから、これは影響をよく考えないといけないわけだね。

文献情報

[原著論文]

  • Mark Royer, et.al. "“Breath holding” as a thermoregulation strategy in the deep-diving scalloped hammerhead shark". Science, 2023; 380 (6645) 651-655. DOI: 10.1126/science.add4445

 

[参考文献]

 

彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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