マンボウ類の売られている値段を調べてみた

2023.03.28

 マンボウ類は知る人ぞ知る食材である。しかし、マンボウ類がどのくらいの値段で売買されているのか?という価格的な情報は、インターネットで調べてみても相場がよくわからない。そこで今回、マンボウ類の値段に関する知見をいろいろ調べてみた。

 

 

売られている「マンボウ」の定義

 日本で漁獲されるマンボウ科魚類は、マンボウ、ウシマンボウ、ヤリマンボウ、クサビフグの4種である。このうち、解体されてスーパーなどで一般的に売られているのは、マンボウ、ウシマンボウ、ヤリマンボウの3種。これら3種は種を識別されず総称的に「マンボウ」として売られている。クサビフグもごく稀に売られることもあるようだが、さすがに一般的なマンボウ型とは形態が異なるので「マンボウ」としては売られないのではないかと思う。切り身にされていたら、マンボウ科の分類が専門の私もDNA解析しなければ種は特定できない。なので、ここでは魚屋で「マンボウ」として売られているものも、科レベルで扱うものとする。

 

マンボウ科の年間水揚金額

 私は岩手県と徳島県において、定置網で漁獲されたマンボウ科の年間水揚金額(価格)について論文を出したことがある。水揚金額というのは、漁師が漁獲した漁獲物が漁協などの市場に並び入札など取引された時(例えば、魚屋が漁師から買った時)に発生する金額で、私達がスーパーで魚を買った時の金額(労力がかかっているので水揚金額より高くなっている)とは違うことに注意が必要だ。

 徳島県からは断片的な 2003 ~ 2004 年、 2006 ~ 2013 年、2017 ~ 2018 年の年間水揚金額データが得られ、その範囲は 100 ~ 13,789 円、平均 2,842 円であった。データが断片的なのは、徳島県ではあまりマンボウ科が獲れないことが大きな要因である。

 一方、日本で一番マンボウ科が漁獲されている岩手県は、岩手県水産技術センターの「いわて大漁ナビ」から澤井  (2021) よりデータを増やした 2000 ~ 2022 年のデータが得られ、マンボウ科の年間水揚金額の範囲は 8,538,160 ~ 35,971,396 円、平均 22,218,046 円であった。毎年平均 2,200 万円以上の売り上げが岩手県の定置網漁師達(漁師全体)に入っているので、マンボウ科も収入としては悪くはないのではないだろうか。

 次に、岩手県における1kgあたりの年間単価(年間水揚金額を年間漁獲量で割ったもの)を求めると、その範囲は 204 ~ 642 円/kg,平均 387 円/kgであった。年間単価は年によって大きく異なるが、年間漁獲量が多いと年間単価は低くなり、年間漁獲量が少ないと年間単価は高くなる傾向が示された。サンマがたくさん獲れると安くなるのと同じだ。また長期的に見ると、緩やかに年間単価は上昇しているようだ。魚の単価は時期、場所、体の大きさなどの要因で大きく変動するが、岩手県でのマンボウ科の平均年間単価 387 円/kg(1gあたりにすると 0.387 円)に近い他の水産物を調べると、生カツオ( 307 ~ 341 円/kg)が該当した。

 

マンボウ科の市場価格を調べてみた

 ここまでは漁業関係者による年間水揚金額の話だったが、ここからは私達に関係する実際のスーパーで売られていたマンボウ科の値段の話に入る。全国でどのような値段でマンボウ科が売られているのかは前々から気にはなっていたが、今まで調べたことがなかったのでこの機会に調査してみた。今回は、Twitter 上でマンボウ科の値段が写されている 2022 年漁獲の画像を検索して情報を収集した。見逃しもあるだろうが、Twitter 上からは75個のデータを取得することができた。

 

販売されていた地域と時期

 

都道府県別に売られていた月を北から示すと以下のようになった。

  • 青森県(6~7月、12月)
  • 岩手県(5~6月、10~12月)
  • 宮城県(6~7月、9~12月)
  • 千葉県(1月、4月)
  • 神奈川県(3月、5月、10~12月)
  • 静岡県(1~2月、4~5月、12月)
  • 京都府(1月、12月)
  • 和歌山(1月)
  • 三重県(1月、4月、12月)
  • 高知県(2月、4~6月)
  • 長崎(1月)

 

 一年中日本のどこかでマンボウ科が売買されているのがここからでも知ることができた。大まかに見ると、従来から言われている夏は北に分布、冬は南に分布の傾向がここにも示されているように思う。しかし、ここに示されているのは科レベルであるので、種によって獲れる時期が異なる可能性があることに注意が必要だ。

 

食材の組み合わせタイプ

 

 売られていた食材の組み合わせタイプは、75 件中、魚体丸ごと(ヤリマンボウだった)が1件、料理済みが2件、残り 72 件は解体された魚体のパーツとして生で売られていた。 72 件の内訳は以下の通りであった。

 

  • 肝臓+肉が 35 件
  • 肉のみが 18 件
  • 腸のみが 13 件
  • 肝臓のみが2件
  • 肝臓+腸が2件
  • 腸+肉が1件
  • 卵巣単体が1件

 

卵巣が売られていたのはかなり珍しい。おそらく漁獲現場が近い魚屋でしか手に入らないのではないだろうか。肝和えで食べられる肝臓と肉のセットで売られているパターンが一番多かった。1件だけ肝臓と肉のセットにネギも入ってパック詰めされているものがあった。親切である。

 

 

価格

 

 スーパーや鮮魚店で売られていたマンボウ科の価格(税抜き)は、ヤリマンボウ魚体単体で売られていたものは1万円だった。目視的に推定帯前体長 70  cm以上はありそうだったので、安い? かもしれない。卵巣は大きさによりけりだが、卵巣丸ごと1つあたり 1,990 円のものと 3,990 円のものがあった。一般的にスーパーで売られている1パックまたは鮮魚店で売られている1皿あたりの値段が記されているもの(写真に複数写されているものは最低価格と最高価格を利用。食材の組み合わせを分けず)に絞ると、108 ~ 1,128 円の範囲で、平均 412 円だった (n = 86) 。しかし、1パック単位だと g あたりの値段がわからないので、100 gあたりの値段が表記されているものに焦点を当てると、100 円 / 100 g ~ 330 円 / 100g の範囲、平均 147 円 / 100g(1gあたりにすると 1.47円 )であった (n = 51)。

 食材の組み合わせタイプ別で、100 gあたりの値段が表記されているものに焦点を当てると、腸のみは平均 207 円 / 100g(n = 10)、肝臓+筋肉は平均 142 円 / 100g(n = 24)、肝臓のみは平均 128 円 / 100g(n = 2)、肉のみは平均 118 円 / 100g(n = 14)、肝臓+腸は 100 円 / 100g(n = 2)となった。マンボウ科の体の中で腸が一番人気が高く、値段も高いという話は一般的に言われているが、本調査の結果もそれを支持する形になった。

 

結論。マンボウっていくらくらいで売っているの?

 もっと本格的に広範囲に調べれば結果は大きく変わる可能性があるが、様々な制約があるものの、この記事で示したマンボウ科の価格は大まかな指標としては使えるものと自負する。

 結論として、「マンボウっていくらくらいで売っているの?」と聞かれたら、

「だいたい1パック400円くらいだよ」*

というのがこの記事の回答である。

*2023年3月時点

 

~今日の一首~
 スーパーや
  魚屋で買える
   マンボウは
    一パックおよそ
     400円也

参考文献

西潟正人.2017.魚っ食いのための珍魚食べ方図鑑.緑書房,東京,221pp.

澤井悦郎.2021.2000-2020年の12県における定置網によるマンボウ科魚類の漁獲データ.Ichthy, Natural History of Fishes of Japan, 10: 49-59.

 

【著者情報】澤井 悦郎

海とくらしの史料館の「特任マンボウ研究員」である牛マンボウ博士。この連載は、マンボウ類だけを研究し続けていつまで生きられるかを問うた男の、マンボウへの愛を綴る科学エッセイである。

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