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「魚類を研究する」と一口で言っても、分類、生態、行動等々……細かく分ければ分けるほど多様な分野があることに気付く。魚類についてこれまでにどういうことが分かっていて、どういう研究ができるのか?という基礎的な知見を得られる本が、2017年に発売された矢部衞・桑村哲生・都木靖彰(編)の『魚類学』という本である。この本はこれから魚類学を学びたい人、あるいは研究者でも基礎を振り返る時に読み返すことができる教科書的な良本だ。今回、ふと魚類の卵巣に関する知見を振り返りたくなり、改めて読み直してみたので、その知見を簡単に紹介したい。
マンボウ類が属する条鰭類(硬骨魚類のうち、シーラカンス類やハイギョ類を除いた魚類)の卵巣は一般的に左右一対で、背部の体腔壁と卵巣間膜を通して繋がっている。しかし、アユなど一対の卵巣の大きさが左右で異なるものや、ミナミメダカなど卵巣形成過程で左右が融合し単一の卵巣になるものもある。「魚類 卵巣」でインターネット検索して頂ければ、卵巣がどういう状態で魚類の体内にあるのかがお分かり頂けると思う。
条鰭類の卵巣の形態は裸状型と嚢状型に大きく分けられる。裸状型はウナギ類やサケ類などでみられるタイプの卵巣で、卵巣腔を形成しない。Youtubeにサケ類を捌いて卵巣を取り出す動画があったのでご覧頂きたい。取り出した卵巣の中には卵がぎっちり詰まっているが、卵巣の真ん中に空洞が無いことがお分かり頂けると思う。裸状型の成熟した卵は体腔(内臓の隙間)に排卵される。こちらもYoutubeに分かりやすい動画があり、サケ類のお腹に包丁を入れると、体腔からぽろぽろと成熟した卵がこぼれてくるのが見て取れる。ぽろぽろと成熟した卵がこぼれてくるのは卵巣腔が無く、直接体腔に排卵されるからだ。
一方、多くの魚類で見られる嚢状型は、卵巣の中に卵巣腔を形成する。Youtubeにクロマグロの卵巣を輪切りにした動画があったのでご覧頂きたい。動画の中でも卵巣の真ん中に割れ目があると解説されているその空洞が卵巣腔である(※キンギョ類やドジョウ類の卵巣腔は少し異なり、卵巣の真ん中ではなく、卵巣の一部が体腔壁に付着し、卵巣と体腔壁の間に卵巣腔ができる)。嚢状型の成熟した卵は卵巣腔に排卵され、産卵する時まで保持される。私が観察した感覚だと、マンボウの卵巣も一般的な嚢状型だ。

研究者によって用語や定義は多少異なるが、条鰭類の卵形成過程(卵原細胞から卵に至るまでの生殖細胞の発達過程)にはいくつかの段階がある。まず卵の大元になる細胞は、卵原細胞と呼ばれる(この段階は増殖期という)。
卵原細胞は体細胞分裂を終え、減数分裂を開始した段階で卵母細胞と呼ばれる。卵母細胞の第一次減数分裂は一旦停止するが、卵母細胞自体はその後も成長を続け大きくなる。
卵母細胞の細胞質が乏しく、核(核内には仁が分布する)が大部分を占める時期は染色仁期と呼ばれ、卵母細胞は直径10~20μmである。
その後、卵母細胞の細胞質は増大し、ヘマトキシリンという薬品で青紫色に濃染されるようになると、周辺仁期と呼ばれる。核も巨大化し(卵核胞と呼ぶ)、卵核胞内では核膜周辺に多数の仁(核小体)が分布する。染色仁期と周辺仁期を合わせて、第一次成長期という。種によってこの時期の卵母細胞の大きさは異なるが、一例として、二ホンウナギでは直径50~150μmである。
卵母細胞が大きくなり細胞質に卵黄胞が出現すると、卵黄胞期と呼ぶ。魚種によってはこの時期に脂質成分が卵母細胞に取り込まれ、細胞質に油球が形成され始めることから油球期とも呼ぶ。この時期の卵母細胞の大きさは種によってかなり異なるが、一例として、二ホンウナギでは直径170~270μmである。
卵母細胞に卵黄前駆物質が取り込まれると、細胞質の周辺部に卵黄球が出現することから、卵黄形成期と呼ばれる。卵黄形成は春機発動(初回成熟)によって引き起こされると考えられ(※自然下の二ホンウナギでは春機発動までに7~10年かかる)、この段階以降排卵までを性成熟期とも呼ぶ(※「成熟期」は卵母細胞の第一減数分裂が再開~完熟卵になるまでの時期を指し、「性成熟期」とは意味が異なる)。卵黄形成期は、卵黄球が細胞質の周辺部に見られる時期[第一次卵黄球期(卵黄形成初期)]、卵黄球の蓄積が核の周辺部まで広がる時期[第二次卵黄球期(卵黄形成中期)]、卵黄蓄積がほぼ完了する時期[第三次卵黄球期(卵黄形成後期)]の3つに分ける場合もある。卵黄形成期の特徴として、卵細胞膜と顆粒膜細胞の間に卵膜(放射帯とも呼ぶ)が形成される。また、卵膜には受精時に精子が通る用の卵門が1つ形成される。卵黄胞期と卵黄形成期を合わせて、第二次成長期という。また、卵母細胞の第一次減数分裂が一旦停止してから卵黄形成が完了するまでの過程を卵成長と呼ぶ。卵黄形成期の卵母細胞の大きさも種によってかなり異なるが、一例として、二ホンウナギでは直径800μm程度である。
卵成長が終ると、卵成熟が始まる。卵核胞が動物極側に移動するとともに、第一次減数分裂が再開する。油球が一つに融合し、卵核胞に隣接する。この時期を核移動期と呼ぶ。
続いて、核膜が消失する(卵核胞崩壊という)。卵母細胞の細胞質は、卵黄球が融合することで透明性が増し、吸水が起きて卵径が一気に増す(例えば、二ホンウナギでは直径800→1000μmになる)。卵母細胞は第一次減数分裂から第二次減数分裂中期まで進み、再び減数分裂が停止して完熟卵(吸水卵:入路・松山,2011)となる。この時期を完熟期と言い、核移動期と完熟期を合わせて成熟期(最終成熟期)と呼ぶ。
完熟卵は濾胞細胞層に包まれているが、やがてその一部が破れ、卵巣腔もしくは体腔に離脱する……この過程を排卵という。卵巣腔もしくは体腔に排卵された卵(排卵卵)はやがて体外へ放卵される。ちなみに、産卵と放卵はほぼ同義であるが、排卵とは意味が異なる。ひゃー、ややこしい! これらをまとめると以下の図になる。

専門用語が多いが、これはこういうものとして覚えるしかない。マンボウの卵形成過程はまだ完全には解明されていないが、おそらく上述と同じような段階に分けられるものと推測される。卵の細胞が成長して成熟するまでは、いくつかの段階があるということを覚えて頂けたら嬉しい限りである。
魚類学
卵原細胞
卵母細胞
卵細胞経て
放卵される
【参考文献】
土居内龍・吉本洋.2009.生殖腺の組織学的観察による紀伊半島南西岸におけるイサキの成熟年齢,産卵期,産卵頻度の推定.日本水産学会誌,75(5): 819-827.
入路光雄・松山倫也.2011.ホルマリン固定したマサバ卵巣標本における核移動期卵の簡易識別法.水産海洋研究,75(4): 227-232.
井尻成保.2017.第14章 生殖.In: 矢部衞・桑村哲生・都木靖彰(編)魚類学.恒星社厚生閣,東京,pp. 155-178.