腐った "化石" の正体はハチの巣!?インド亜大陸の歴史再考へ

2023.02.17

みなさんこんにちは!サイエンス妖精の彩恵りりだよ!

 

今回の解説は、2020年にインド亜大陸の歴史を考察する上で重要な手掛かりとなった "化石" の正体が判明した、というお話だよ。

 

多くの謎があるインド亜大陸の形成年代について、これを特定する重要な手掛かりとなるディッキンソニアの化石が2020年に発見されたよ。

 

ところが、2年後の2022年12月に再訪すると、その化石は腐っていたんだよ!何か普通でないことが起こっているよね?

 

今回の解説では、いったい何が起こったのか、化石と思われていたものの正体、そして科学世界の大事なことについて解説していくよ。

 

腐った化石 サムネ

(画像引用元: University of Florida)

 

科学世界の大事なこと「反証可能性」

科学の世界で大事なことの1つは、誰でも科学理論や発見、事実を検証し、内容の誤りがあればそれを指摘することのできる「反証可能性」だよ。

 

研究者は何らかの新しい発見や事実を探求し、論文にまとめて発表するよ。この時普通は、科学的に妥当で正しいと思われる結論を研究結果として発表するよ。

 

ただ、研究者も人間なので、時には間違いを犯すよ。意図的に捏造するといった悪意がなかったとしても、観察記録や測定結果、推論や考察など、様々な点で誤りを犯す恐れがいつでもあるよ。

 

論文で発表するというプロセスは、研究者が成果を世界中に広めるのを目的としているけれども、それと同時に、第三者が内容の正しさを検証するためでもあると言えるんだよ。

 

ほとんどの論文でそのような間違いが起こることはないけれども、全知全能な研究者はいないので、絶対ないとも言えないよ。このために反証可能性があるよ。

 

ある意味、科学研究というのは、理論や発見の中で筋の通らない誤りを見つける作業の繰り返しであり、その時にこそ、更に大きな発展が望める大きな成果があがる、という感覚すらあるよ。

 

インド亜大陸で見つかった重要な “化石”

今回取り上げる、インドで見つかった "化石" のお話では、そのような反証可能性が働いた、分かりやすい事例の1つともいえるよ。この化石は、インド亜大陸[注1]の形成に関わる重大な発見だったよ。

 

というのは、インド亜大陸の大部分を構成する岩石は、いつ岩石が生成されたのか、という年代の部分に大きな謎が残っているという問題があったからだよ。

 

前後の時代を含む様々な岩石の分析により、これらはどんなに古くても12億1000万年前、もしくは10億7300万年前、あるいは9億年前から8億5000万年前に形成した、と推定されているよ。

 

ただ、この数値は分析方法や背景事情の問題で決め手に欠けており、他の年代もありうるという、非常にフワフワした状況に置かれている、という状況にあったよ。

 

インド亜大陸の形成年代を知りたいのは、「ゴンドワナ大陸[注2]」というもっと大きな大陸の形成や移動の過程を推定するための重要なピースでもあるからだよ。

 

5億5000万年前に形成されたと推定されるゴンドワナ大陸は、現在のインド亜大陸の他にもオーストラリア大陸やアフリカ大陸など、多くの大陸を含んでいると推定されているよ。

 

ただ、ゴンドワナ大陸の形成やその後の分裂など、移動に関わる要素には謎が多いよ。インド亜大陸の形成年代は、当時の大陸分布を知るためのとても重要な手掛かりになるんだよ。

 

COVID-19が大規模流行した当時、インドに現地入りしていたオレゴン大学のGregory J. Retallack氏などの研究チームは、開催予定だった科学会議が中止され、時間を持て余していたよ。

 

そこで研究チームは、ボパール近郊にある世界遺産「ビームベートカーの岩陰遺跡」を訪れたよ。ここは、旧石器時代の洞窟壁画が多数存在する考古学上の象徴的な場所だよ。

 

だけど研究者が着目したのは、先述した大きな謎が残っているインド亜大陸を構成する岩石だよ。この遺跡に見える地層は、まさに対象の岩石が見えている場所だよ。

 

ディッキンソニアの化石発見?

ディッキンソニアの化石は、インド亜大陸の大部分を構成する地層の年代を知ることのできる強力な証拠だよ。だからこの発見はインパクトが大きかったよ! (画像引用元: University of Florida)

 

そこで研究チームが発見したのは、まさに驚くべき発見だったよ。手の届かないかなり高い場所に、マイハル砂岩では初めての化石を発見したからだよ!

 

研究チームが発見したのは「ディッキンソニア (Dickinsonia)」とみられる化石だよ。ディッキンソニアは、エディアカラ紀[注3]に生息していたとみられる生物だよ。

 

数mmから1m以上と大きなばらつきのある、かなり平べったい楕円形のような外観と、中心線から放射状に延びる多数の溝があり、動物とも植物ともつかない謎の形をしているよ。

 

肉眼的に見える世界最古の生物の1つと推定されるディッキンソニアは世界中で発見されており、この化石が見つかることは年代を絞り込む重要な要素となるよ。

 

岩石に関する別の研究を合わせることにより、研究チームはマイハル砂岩の形成年代を6億3700万年前から5億4100万年前と推定したよ。

 

ディッキンソニアの発見はマイハル砂岩、ひいてはインド亜大陸の形成年代を絞り込むとても強い証拠であり、当時は大きな発見として認められたよ。

 

この発見はNatureや地元インドの各紙など、色んな報道機関がインパクトをもって伝えたよ。当時の報道は、それだけ重要な発見であったことを裏付けているね。

 

古代生物の “化石” が腐った!正体はハチの巣?

もちろん、この発見は最初から諸手を挙げての賛同を受けていたわけじゃないよ。問題の1つは、極めて高い場所にあったことから、実物を採集できずに研究した点だよ。

 

このため、論文は写真を元に分析された結果を書いたもので、化石ではない可能性も排除できなかったよ。例えば、周りにいくらでもある洞窟壁画の可能性もあったよ。

 

ただ、洞窟壁画に描かれているテーマから推測すると、抽象的すぎる図案であることか、その可能性はだいぶ低いこともわかっていたよ。

 

また、大きさや溝の幅が、オーストラリアで見つかっているディッキンソニア・テヌイス (Dickinsonia tenuis) とよく似ていることも、この化石が本物であるとみられる強い証拠となったよ。

 

2年間で化石が腐った?

高すぎる位置にあったので現地に残された化石を2年後に訪れると、化石は大きく劣化していた上に一部は明らかに腐っていたよ!化石に普通は起こらない現象が起きたことで、この化石自体に疑問符が付いたよ。 (画像引用元: University of Florida)

 

ただ、幸か不幸か、現地に化石を残したことが、この議論に全く予想外の決着をつけることになったよ。それは2022年12月に別の研究者がこの化石を再訪した時に起きたよ。

 

フロリダ大学のJoseph G. Meert氏がこの化石を見た時に、この化石が著しく劣化していること、そして一部が腐っていたことに気づいたんだよ。

 

石と化したと書く通り、化石は生物の構造を残して鉱物に完全に置換されている点から、化石が腐敗しているという時点で、普通ではないことが起こっていることが分かるよ。

 

風化は化石を劣化させるけど、現場は洞窟の天井で風化作用はほとんど起きないし、もちろん有機的な腐敗は別問題だよ。

 

そしてよくよく見れば、当時の写真と再訪時の両方で、他のディッキンソニアの化石には見られないハニカム構造 (六角形の並んだ構造) が見られることも分かったよ。

 

自然界に見られるハニカム構造という点でピンとくる人もいると思うけど、まさにその通り!現地には「オオミツバチ (Apis dorsata)」が生息しているよ。

 

この地域のオオミツバチは、洞窟の壁面に巨大な巣を作るよ。そして使われなくなり古くなった巣は、やがて腐敗して脆くなり、貼りついた岩石から剥がれ落ちるよ。

 

Meert氏は、腐敗して脱落した巣の痕跡が、ディッキンソニアの化石とされた構造ととてもよく似ていることを突き止めたよ。つまり、これは古代生物の化石ではなかったんだよ!

 

実際、  "化石" は岩石表面にワックスのように貼りついていること、岩石の地層に対して水平ではなくではなくほぼ垂直方向に存在した点も、オオミツバチの巣であることの有力な根拠になったよ。

 

“化石” の正体が判明して起きたこと

ディッキンソニアの化石の正体はハチの巣

"化石" に存在する構造や外観、そして何より腐っているという事実から、この "化石" はディッキンソニアではなく、オオミツバチの巣の残骸であると判明したよ! (画像引用元: 原著論文Graphical abstract / University of Florida)

 

結局のところ、これはディッキンソニアの "化石" ではなく、オオミツバチの巣が腐敗し、貼りついていた根元を残して脱落した跡を化石と勘違いしていた、ということになるよ。

 

Meert氏は「Stinging News[注4]と、ある種のユーモアや皮肉を感じるタイトルで、元の論文が掲載されたのと同じ科学誌に結果を投稿したよ。

 

"化石" の発見者であるRetallack氏も、正体は腐ったハチの巣であるという結論に賛同したよ。これにより、元の論文が展開した残りの主張も全て否定されることになってしまったよ。

 

今回の発見により、ディッキンソニアの化石を根拠とした、マイハル砂岩の形成年代の推定である6億3700万年前から5億4100万年前という数値は使えなくなったよ。

 

一応、別の研究では、マイハル砂岩の形成年代は6億年前から5億5000万年前、あるいは5億4800万年前という推定もあるにはあるよ。

 

ただ、これらの推定は弱い根拠に基づいていたよ。化石という重大な発見により、この年代に関する強力な証拠を得たと思ったけど、今回の研究により再び弱い根拠となってしまったよ。

 

結局のところ、マイハル砂岩を含む地層は約10億年前に形成されたのかもしれないという、より古い年代の推定の方が正しそうだ、という以前の雰囲気に逆戻りしてしまったよ。

 

これは同時に、インド亜大陸やゴンドワナ大陸の形成や移動に関する様々な謎が、再び未解決の状態に戻ってしまったことを意味しているよ。

 

この時代の大陸移動は、現在の大陸の配置だけでなく、当時の大陸配置による地球環境にも大きな影響をもたらすよ。これは、生物の進化の推定にも重要な影響を与えるよ。

 

ディッキンソニアがそうであるように、当時の地球は目に見える大きさの生物が地球で初めて誕生したころで、生物の進化に何か重大な局面があったことを示唆しているよ。

 

大陸の存在や分布は、生物の生息地として大陸棚という浅瀬を大量に提供する意味で、生物の進化にも重大な影響を与えた可能性があるよ。

 

誤りを素直に認めるのは発見以上に大事

オリジナル論文と訂正論文

"化石" の正体を伝える論文は、元の論文が掲載されたのと同じ論文誌に、ある種の皮肉やユーモアを感じるタイトルと共に掲載されたよ。 (画像引用元: 元の論文 / 原著論文)

 

ゴンドワナ大陸の形成過程は地球の歴史を探る上で重要視されていて、だからこそこの発見が大きく関心を持たれた、ともいえるんだよ。

 

今回の結果はとても残念ではあるけれども、反証可能性という科学の原則が守られた分かりやすい事例でもある点で、この結果は別の意味で重要ともいえるよ。

 

そして著者自身の意見として、自らの重大な発見に対する誤りをすぐに認めた、元の論文の著者であるRetallack氏の態度はとても潔く、そして正しいことをしたと私は思うんだよ。

 

文献情報

[原著論文]

  • Joseph G. Meert, Manoj K. Pandit, Samuel Kwafo & Ananya Singha. "Stinging News: ‘Dickinsonia’ discovered in the Upper Vindhyan of India not worth the buzz". Gondwana Research, 2023; 117, 1-7. DOI: 10.1016/j.gr.2023.01.003

 

[元の論文]

  • Gregory J. Retallack, Neffra A. Matthews, Sharad Master, Ranjit G. Khangar & Merajuddin Khan. "Dickinsonia discovered in India and late Ediacaran biogeography". Gondwana Research, 2021; 90, 165-170. DOI: 10.1016/j.gr.2020.11.008

 

[参考文献]

注釈

[注1] インド亜大陸 ↩︎
インドと周辺国を含む陸地の塊のこと。白亜紀にゴンドワナ大陸から分裂し、約5500万年前にユーラシア大陸と衝突、ヒマラヤ山脈を形成した。

[注2] ゴンドワナ大陸 ↩︎
ゴンドワナ超大陸とも。細かい年代については議論があるものの、約5億5000万年前の新原生代後期に形成され、1億8400万年前のジュラ紀から徐々に分裂し始めたと推定されている。分裂後の姿は、今日のアフリカ大陸、南アメリカ大陸、南極大陸、オーストラリア大陸、インド亜大陸、アラビア半島、マダガスカル島、ジーランディア (ニュージーランドやニューカレドニアなどを除いて9割が水没した陸塊) である。

[注3] エディアカラ紀 ↩︎
6億3500万年前から5億3880万年前までの、先カンブリア時代最後の時代区分。肉眼的に見え、複雑な身体の構造を持つ生物化石が見つかる最古の時代でもあり、エディアカラ紀の直後には生物の種類や数が爆発的に増えるカンブリア紀が控えていることから、生物の進化の歴史を探る上で重要な時代区分でもある。

[注4]Stinging News ↩︎
"Stinging" は直訳すれば「刺すよう」となるが、転じて「苦痛を与える、苦しめる」という意味にもなる。ハチという刺す昆虫の巣が正体であったことに加え、この論文が関連分野に与えたインパクトや影響を考えると、まさにStingingなことが起きていると言えるだろう。

 

彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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