損傷し失われた脳の機能を回復!?ラットにヒト脳オルガネラを移植

2023.02.10

みなさんこんにちは!サイエンス妖精の彩恵りりだよ!

 

今回の解説は、ヒト幹細胞から作った脳オルガネラをラットに移植し、失われた脳の機能を回復することに成功した、という研究についてだよ!

 

脳は重要な臓器だけど、損傷を回復できないという問題があるよね?脳組織の移植により回復する可能性はあるけど、従来の実験は倫理的問題から実用化が難しそうだったよ。

 

今回、より倫理的問題の少ない、いわば人造のミニ脳を移植することで、脳の機能が回復することを突き止めた、という研究だよ!

 

ヒト脳オルガネラをラットに移植 サムネ

(画像引用元: 原著論文Fig1 / Live Science / 原著論文 Graphical abstract)

 

損傷した脳への組織移植の可能性

」は私たちにとって重要な臓器の1つで、かつ損傷に対して弱いことが知られているよ。脳に損傷を受けるような怪我や病気は、長期または永続的な神経障害と関連しているよ。

 

この理由は、脳組織、特に大脳皮質[注1]の修復機能が、成人において限定的であるという点が1つあるよ。これは人間に限らず、哺乳類一般にみられる特徴だよ。

 

そこで、脳組織を自力で修復できないなら、外科手術で脳組織を移植することで修復できないか、という研究が進められているよ。

 

成人と比べると、胎児の脳は修復能力が高くて、実際に齧歯類での実験では、成体に移植した胎児の脳組織が結合し、新たなニューロンを成長させ、実際に機能するという実験があるよ!

 

これは齧歯類に限らず一般的な動物に応用できそうだけど、胎児からの脳組織移植という倫理的な問題があり、ヒトでの実験や実用化を大きく阻んでいる、という問題があるよ。

 

ミニ人工臓器「オルガノイド」の可能性

脳オルガネラの移植は脳機能を回復させるか?

成人の脳は損傷を自力で回復できないよ。このため、脳の組織を移植することで脳の機能を回復できないか?という研究が進められているよ。胎児の脳は修復機能が高いために移植には適しているけど、胎児の組織を使うことは倫理的な問題があるよ。そこで、人工的に作った脳オルガノイドを移植することで、同じようなことができないかを探っているよ。 (画像引用元: いらすとや / 原著論文Fig1)

 

そこで、胎児の脳ではなく、幹細胞から作った人工的な脳組織である「脳オルガノイド」を移植するというアプローチの研究が進められているよ。

 

オルガノイドとは、単に細胞を増殖させた塊ではなく、実際の臓器の構造に近いような細胞の配列をしている組織の塊、いわば人工的に作った小さな臓器だよ。

 

そして幹細胞から作っているので、脳オルガノイドは倫理的な問題が少なく、胎児の脳と同じように修復能力が高い、分かりやすく言えば "若い脳組織" なはずだよ。

 

また、異なる生物ゆえに免疫抑制剤の投与が必要なものの、例えばラットにヒトの脳オルガノイドを移植するといった方法で、倫理的な問題の少ない実験方法が可能となっているよ。

 

移植した脳オルガノイドは、齧歯類とヒトという異なる生物間でも問題なく神経組織を結合させているのも実際に観察されているよ!

 

一方で、個々の細胞を機能する種類や位置に配置するというのは極めて難しいから、一般にオルガノイドは本物の臓器の機能や構造を完全再現しているとまでは言えないよ。

 

今回の脳オルガノイドに関しては、大脳皮質の一部分しか再現されていないという問題があるから、ホンモノのように機能するのか、という点には未知な部分が多いよ。

 

よって、脳組織がある程度再現しており、移植と組織結合がなされているといっても、機能しているかどうかの点はまだまだ未知の部分が多いんだよ。

 

ヒトの脳オルガノイドをラットに移植!?

ペンシルベニア大学などの研究チームは、ヒトの脳オルガノイドをラットに移植し、実際に高度な処理を行うほどの機能を得るのかどうかを調べるよ。

 

今回、高度な機能を持っているのかを調べるために、二次視覚野[注2]と呼ばれる機能が失われた成体のラットを用意し、これを実験モデルとしたよ。

 

視覚野に関する詳しい説明は割愛するけど、簡単に言えば、目に入った光の情報を視覚情報として脳が認識するのに必要な、いくつかの段階を経る処理機能の1つ、と考えてくれればいいよ。

 

二次視覚野は高度な処理を行っているため、これが正常に機能しなければ基本的に物の認識に支障をきたすよ。逆に今回の実験の上では、機能が回復するのかどうかを調べるのに最適な対象だよ。

 

ラットの脳にヒト脳オルガネラを移植

今回の実験では、ヒト幹細胞から脳オルガネラを80日かけて作り出し、ラットの損傷した二次視覚野に移植したよ。移植後、脳オルガネラは少しずつ成長したよ。 (画像引用元: 原著論文Fig1 / Live Science)

 

実験で用意した脳オルガノイドはヒトの幹細胞由来で、80日間の培養後にラットに移植されたよ。この期間は、この種の研究としてはかなり長い培養期間だよ。

 

作成できた脳オルガノイドは、すべてではないものの、大脳皮質の6層構造を再現した構造だよ。これを、ラットの機能が失われた部分の大脳皮質に移植したよ。

 

そして、拒絶反応を起こさないように免疫抑制剤のシクロスポリンを投与しながら、脳オルガノイドがどう発達するのか、どう機能するのかを、3ヶ月に渡って調べたよ。

 

その結果、まずラットの脳とヒトの脳オルガノイドはお互いに接続されたことが確認されたよ。ラットの血管がヒトの脳オルガノイドの周りに成長し、脳オルガノイドはわずかに大きくなったよ。

 

そしてお互いのニューロンやシナプスは結合し、互いに信号をやり取りしていることも確認されたよ。次は、この信号のやり取りが機能しているのかを調べたよ。

 

移植したラットに、点滅する光や白黒の縞模様など、光の有無に相当する刺激を与えるよ。そして脳オルガノイドに送られる信号を測定し、正常なマウスと比較したよ。

 

移植した脳オルガネラは機能する

点滅する光や縞模様を見せた時の、二次視覚野の損傷後にヒト脳オルガネラを移植したラットの脳の反応を、正常なラットと比較したよ。反応は正常なラットとそっくりであり、失われた視覚機能が回復している可能性があるよ!この結果は更に検証が必要だよ。 (画像引用元: 原著論文 Fig6 & Graphical abstract)

 

その結果、刺激の反応は正常なラットとほぼ同じであることが分かったよ。つまり、ヒトの脳オルガノイドは、きちんと視覚が機能する形でラットの脳と結合した、ということになるよ!

 

今回の研究は、移植した脳オルガノイドが機能した点もすごいけれども、実験期間の3ヶ月間で結合した、という点も研究者を驚かせたよ。

 

3ヶ月というのは免疫抑制剤を使っている関係の問題で、ヒトの脳オルガノイドは9~10ヶ月でもまだ完全に成熟しないという遅さを考えると、3ヶ月はまだまだ未熟な状態と考えられるよ。

 

未熟な状態でも機能するということは、実験期間を長くして成熟した状態の脳オルガノイドで機能を調べることで、更に高度な結合と機能が得られると期待できるよ!

 

研究はまだ始まったばかり

この研究は、脳オルガノイドの移植で脳の損傷を治療できるという、医療への新たな道を提供する研究結果だけど、あくまでいろいろと制約がある実験であることに注意しないといけないよ。

 

まず、視覚が機能していることを実験では示していたけど、これは刺激に対する反応だけを観ているだけで、本当の意味での視覚の確認をしているわけではないよ。

 

例えば、手術後の視覚は手術前と同等に機能しているのかを調べるには、別の試験が必要だよ。これには研究チームが次の段階として取り組む予定だよ。

 

また、拒絶反応を抑えるための免疫抑制剤の影響も考えられるし、これを使用している限りはヒトへの応用にも自ずから限界があるよ。この点も調査が必要だよ。

 

そして、脳オルガノイドはまだまだ不完全な部分も多く、その不完全さが悪影響をもたらすのかも未知数だよ。これにはより完全な脳オルガノイドの作成技術を成熟させる必要があるよ。

 

逆に、この研究が進めば、例えば運動野のような、脳の他の機能でも実験を行うことで、本当に機能が回復しているのかを調べたり、他の機能を治療できるかどうかの可能性も広げることができるよ!

 

実用はまだまだ先だけど、損傷した脳の機能の修復というすごく夢と期待のある将来に繋がる研究として、これから先も注目していきたい内容だね!

 

文献情報

[原著論文]

  • Dennis Jgamadze, et.al. "Structural and functional integration of human forebrain organoids with the injured adult rat visual system". Cell Stem Cell, 2023; 30 (2) 137. DOI: 10.1016/j.stem.2023.01.004

 

[参考文献]

注釈

[注1]大脳皮質 ↩︎
脳の表面を構成する、外観的にシワシワな部分。知覚・思考・記憶・運動など、脳の高次機能を司る部分であり、場所によって機能が大まかに分かれる。このため大脳皮質の特定の部位の損傷は、その部分が担う機能を失う可能性がある。

[注2]二次視覚野 ↩︎
網膜で受け取った光は、電気信号として神経細胞を通じて脳へと送られるが、視覚情報が私たちの認識しているような情報に変換するには何段階かの処理が必要である。一次視覚野は、大雑把な明暗や輪郭などの情報を処理し、二次視覚野へと伝達する。二次視覚野はこれを更に高度な情報へと変換し、更に後の段階に送る。これらの細かい段階や役割は、現在でも詳細が不明な点がいくつかある。

 

彩恵 りり(さいえ りり)

「バーチャルサイエンスライター」として、世界中の科学系の最新研究成果やその他の話題をTwitterで解説したり、時々YouTubeで科学的なトピックスについての解説動画を作ったり、他の方のチャンネルにお邪魔して科学的な話題を語ったりしています。 得意なのは天文学。でも基本的にその他の分野も含め、なるべく幅広く解説しています。
本サイトにて、毎週金曜日に最新の科学研究や成果などを解説する「彩恵りりの科学ニュース解説!」連載中。

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