LINE公式アカウントから最新記事の情報を受け取ろう!

みなさんこんにちは!サイエンス妖精の彩恵りりだよ!
今回の解説は、固体と液体を遠隔で切り替えられる低融点金属と磁性物質の混合物「MPTM」の開発についてだよ!
柔らかい素材でできたロボットの開発は、強度や使い勝手の問題など、色々な難点によって妨げられているよ。
今回、とある生物にインスパイアされ作ったMPTMは、そのようないくつかの弱点を克服している、とても面白い物質だよ!
CONTENTS
「ロボット」という単語を聞いてイメージされるのは、それが金属であれプラスチックであれ硬い身体や骨格を持っていて、関節以外では曲がらない、というものだよね?
変形が制限されることによる不便、特に狭い場所での活動の幅を広げるため、柔らかい材料のみでできていて、かなりの変形ができる「ソフトロボット」の研究も進んでいるよ。
特に注目されているのは、磁性物体を含ませることで磁気で動きを制御するタイプのソフトロボットだよ。磁気を細かく制御することで、かなり自由な移動を可能としているよ。
磁性物体の粉末は、1つ1つが小さな磁石なので、自分自身がN極とS極を持つよ。そこに磁石を近づければ、異なる極同士なら引き合い、同じ極同士なら反発するよ。
普通の磁石同士でも極を切り替えることで近づけたり反発させることができるように、磁性物体を含ませた液体は磁場に合わせて様々な移動が可能になるんだよ!
ただ、磁性物体を含ませる材料の部分が、これまで中々良い材料がなかったよ。これまでの研究の場合、ソフトポリマーと液体金属が候補となっていたよ。
ソフトポリマーはゴムやヒドロゲルのような柔らかい固体で、これに磁性物体を含ませれば、磁気に反応してグニョグニョ動くことになるよ。
ただし、ソフトポリマーはいくら柔らかいと言っても固体なので、変形には限界があるよ。だから、自分自身より小さな穴は原則として通れないなど、どうしても制約があるよ。
液体金属の場合、この問題は解消するよ。何しろ液体だから、原則としてどんなに狭い穴でも通り抜けられるからね!まるでどこかのSF映画の暗殺ロボットのように!
ただし液体である以上、強度が期待できず、重いものを支えられないという根本的な弱点があるよ。また、移動速度がとても遅いので、広い場所で使うことに制限があるよ。

ナマコの生態をヒントとして開発されたのがMPTMだよ。低融点の金属であるガリウムに磁性物体を混ぜたものだよ。室温では固体だけど、交流磁場による誘導加熱で簡単に液体になり、空冷で再び固体になるよ。つまり遠隔で固体と液体を切り替えられるのがMPTMだよ。 (画像引用元: 原著論文Fig 1/Fig S9; 日本語化は著者による)
ところで、自然界にはソフトロボットのような動きをする生物がいるよ。それはナマコだよ!ナマコは海に生息している、太く短いきゅうりのような外観をした生物だよ。食用にもなるよね。
ナマコの身体に骨はないけど、身体の硬さを変えられるという特徴があるよ。これにより、外からの圧力を受け流す柔らかさと、移動に適した硬さを自由に切り替えられるという特徴があるよ。
ナマコの例に倣えば、必要に応じて固体と液体を切り替えることで、移動や機械強度と、どこにでも入れる柔軟性を両方実現できる可能性があるよ!
中山大学、浙江大学、カーネギー・メロン大学の研究チームは、ナマコに触発されたソフトロボットの開発に取り組んだよ。そのためには、固体と液体を切り替えるシステムが必要だよ。
初めは、レーザーによる加熱でガラス状の液体になるポリマーの複合シートでソフトロボットを作ろうとしたけど、固体と液体の相性が悪くてうまく行かなかったよ。
そこで方針を変更し、室温付近で融ける低融点の金属に磁性物体を含ませ、交流磁場 (周期的に向きが変わる磁場) による誘導加熱で全体を液体にしてしまうというアプローチが検討されたよ!
今回の研究では、低融点の金属に純粋なガリウム[注1] (融点29.8℃) 、磁性物体に強磁性のネオジム-鉄-ホウ素合金の微粒子を採用し、これらを混ぜた材料を作ったよ。
磁性物体を含ませたことで、約30.6℃と純粋なガリウムよりわずかながら融ける温度が上がったけど、引き続きほとんどの場合、室温で固体という条件を満たしているよ。
そして、交流磁場によって磁性物体は誘導加熱されることから、磁場が届きさえすれば物体越しでも加熱して液体に、そのまま空冷すれば固体に、と自由に切り替えをすることができるよ!
このように、磁場で反応して固体と液体の間を相転移する物体を「MPTM (磁気活性相遷移物質 / Magnetoactive Phase Transitional Matter) 」と呼んでいるよ!

MPTMは永久磁石によっていろいろと操ることができるけど、その動きは固体と液体で全く違うよ。簡単にまとめると、固体は移動に優れ、液体は変形に優れているよ。 (画像引用元: 原著論文Fig S12; 日本語化は著者による)
MPTMは磁性物体の性質から、移動や向きの変更に永久磁石の (直流) 磁場を、誘導加熱用に交流磁場を使うことによって、次のような自在な操作が可能になるよ!
なお、これは一部を除いて、MPTMを平面 (ほとんどは紙、一部の複雑な形状のみ樹脂) に配置し、その下側から永久磁石や交流磁場を当てる、という方法で実験されているよ。
【MPTMが固体の場合】
【MPTMが液体の場合】

MPTMは、固体と液体を切り替えつつ、様々なタスクを実行できるよ。 (画像引用元: 原著論文Fig 3; 日本語化は著者による)
これらを使うことによって、例えば以下のようなタスクを実行することができるよ!

①MPTMでできたロボットは、そのままでは檻から脱出できない。②誘導加熱によりロボットを融かす。③液体となったMPTMは容易に檻から脱出できる。④ロボットの形に戻るため、手前側にある鋳型に入り込む。⑤固めるために冷やす。⑥磁石の力で立ち上げることで、ロボットの形に戻ったことが分かる。 (画像引用元: 原著論文Video S2よりキャプチャ)
結構色んなことができるよね?これを使えば、狭い檻を抜けるロボットなんていう、どこかで見たようなシーンも再現できるよ! (形を戻すための鋳型は必要だけどね)
ただしこれは以下にもデモンストレーション的。論文ではMPTMを使った便利な使い方として、応用例をいくつか提示しているよ!

MPTMは低融点金属なので、電子回路のはんだ付けに使えるよ!また、電子部品を自ら定位置に動かしたり、固体を載せることでスイッチになる事もできるよ。 (画像引用元: 原著論文Fig4; 日本語化は著者による)
MPTMは低融点の金属を使っているから、当然ながら電気を通すよ。つまりMPTMは、低融点の金属の主要な用途、電子基板のはんだ付けに使うことができるよ。
はんだ付けに必要な金属の量は少ないから、かなり狭い隙間でも小粒のMPTMを送り込むことができるよ。つまり基盤同士の間隔が狭くても、解体せずに製造や修理ができることになるよ!
MPTMはかなりの強度を示していて、位置取りさえ正確なら、従来のはんだより少し弱い程度の、実用上は十分なはんだ付けの強度が期待できるんだよ!
また、はんだ付けする部品そのものを押して移動させて定位置に置く、自らが回路間を結び付けるスイッチになる、という芸当もできるから、これも制作や修理に使えるね!

MPTMは液体になればどんな形にも変形できるので、どんな形のネジ穴にも隙間なく埋まることができるよ。しかも結構頑丈で、太さ6mmのMPTMのネジ2本で10kgの錘を容易につるすことができるよ! (画像引用元: 原著論文Fig5; 日本語化は著者による)
次に考えられるのは、MPTMによるネジの用途だよ。ただMPTMの特性上、ネジ穴が開いてさえいればよく、ネジなのにネジ回しは不要だよ!
まず、ネジ穴の上に固体のMPTMを移動し、そこで誘導加熱を行って融かすよ。液体となったMPTMは隙間なくネジ穴を埋めるから、ネジ山を切っていればそこにも入り込むよ。
実験では、6×6×2mmのMPTMを2つ用意してそれぞれのネジ穴に埋めると、直径6mmの2本のネジで10kgもの錘をつるすことができるくらいの強度を示していたよ!
ネジを回すことが不要で、ネジの正確な寸法が求められないから緩みによる部品の脱落もないという点は、ネジ絡みの安全上のリスクを回避できる策として使えるはずだよ!

MPTMは体温でも融けない程度の融点にすることもできるよ。そして人体に対する毒性が引くと考えられている金属でできているから、体内に入れても安全性が高いよ。そして磁気は身体の外からも届くよ。これを組み合わせれば、体内の異物除去や薬剤の運搬にMPTMを使えるよ! (画像引用元: 原著論文Fig6; 日本語化は著者による)
ガリウムを始めとした低融点の金属元素には、毒性が低いものもいくつかあるよ。この点を踏まえれば、MPTMを体内に取り込んでも安全性が高いことになるよ。
純粋なガリウムは体温で融けてしまうけど、ガリウムに加えてインジウム、ビスマス、スズと言った金属と合金にすれば、体温より少し高い温度で融け、かつ安全性の高いMPTMを設計できるよ。
また、体内に器具を入れるのは困難だけど、MPTMは小さくできるし、内部での操作や加熱は磁力で行えるから、取り込んだ人の負担は最小限で済むよ。
この性質を使い、模擬的に作った胃の中にMPTMを入れ、各種操作を行えるかどうかと、その操作で達成する目的である、異物を包み込んでの除去と、薬剤の放出の実験を行ったよ。
まず異物を包み込むには、ある程度のサイズのMPTMを入れ、異物に接した状態で液体にすることで異物を包み込んだよ。こうすれば、MPTMごと異物を磁石で移動することができるよ!
また、薬剤の放出実験では、固体状態では薬剤を出さず、液体となって初めて薬剤を放出したよ。これにより、胃に限らず特定の臓器に薬剤を届けるなんてことができるよ!
また、固体となったMPTMを回転させれば、その場で薬剤を拡散する撹拌子として使うこともできるから、速やかな薬剤の伝達も可能にするよ。
臓器の内部は濡れており、水が熱を奪うことから、MPTMはある程度のサイズでないと熱を奪われる一方で融けてくれず、また空気中より加熱に時間がかかる、ということも模擬実験で分かったよ。
今回の実験では、強度が高く移動にも優れた固体と、柔軟な変形を可能にする液体を、外部からの磁場で切り替えられる、MPTMの優れた性質が色々と明らかにされたよね。
もちろん、MPTMも万能ではないよ。例えばMPTMは室温より少し高い温度で融けてしまうため、高温になり得る場所では使えないよ。
また、ガリウムは他の金属と合金を作りやすく、例えばアルミニウムや鉄に触れると一部を合金化することでボロボロにしてしまうなど、使えない場所もあるはずだよ。
それに、ガリウムなどは毒性が低いと言っても、それを証明するには実験が必要だし、胃なら胃酸など、酸や塩基に対する安定性や性質の変化なども検討しないといけないよ。
こういった欠点はあるものの、それは使う場所を工夫したり、あるいは別の合金を探索することによって改善できる余地があるよ!
何より、今回はMPTMの優れた特性を示す初期段階の実験と言えるから、今回の成果を元に更に研究を進めれば、これらの欠点を克服したり、更に優れた性能を持つMPTMが見つかるかもしれないよ!
[原著論文]
[参考文献]
[注1] ガリウム ↩︎
原子番号31番の元素。アルミニウムに似た性質を持つ。融点が約29.8℃と室温付近にあり、体温で融けてしまう珍しい性質を持つ。毒性が低いと考えられており、インジウムやスズとの合金は-19℃の融点を持つ液体金属となることから、毒性の高い水銀の代替としての用途がある。他にもいくつかの用途があるが、代表的な物として、青色発光ダイオードはヒ素との化合物であるヒ化ガリウムが使用されている。